猫のお知らせ屋

もち雪

文字の大きさ
上 下
2 / 37

稲穂の日常

しおりを挟む
 次の朝、目が覚めたら一人リビングで、で寝ていた。台所からは、お母さんのごはんを作る音と鼻歌が聞こえる。

「うん、美味しい」

 今日は、焼き魚で美味しい魚の匂いが、僕のまわりをふわふわしてる。思わず台所のお母さんの所へ行って、周りをうろうろし僕は焼き魚をねだる。

「にゃ~にゃ~」

稲穂いなほは、もうご飯につられて来ちゃったの? ご飯を作っている時は、危ないから来ちゃだめよ。めっ!」

「にゃ~」
 僕は、今日も朝からお母さんに怒られて、ちょこんと座って頭を下げて目をつぶる。

「そんなところに座っていたら危ないわよ。それよりも、もうそろそろ起きる時間だから、瑞穂みずほを起こしてきてね」

「にゃっ」
 いつもは、座ったら撫でてくれるのに……、台所のお母さんはいつもこれだ。お母さんたらもう――! 僕は少し怒りながらみずほちゃんの、部屋に行きドアノブをジャンプで開けると、みずほちゃんの薄い掛け布団に、飛び乗った。お布団をモミモミモミモミしながら声をかけてながら起こすと、やっとみずほちゃんが起きる。
 
稲穂いなほ、おはよう」

「にゃ~」
 みずほちゃんを布団の上から見下ろしていると、みずほちゃんの手が僕をナデナデしてくれる。そうすると……まぶたは重くなって……眠くなる。




 ハッ!として起きると、みずほちゃんの用意しただろうご飯は食べ……みずほちゃんを、探すが見つからない。僕に内緒で、小学校へ行ってしまったようだ……みずほちゃんたらも――。

 
 一番涼しい場所を探して歩るいていると、居ないと思っていたお母さんが、洗濯カゴを持って階段を下りて来た。お母さんとたぃさん遊んで……寝る。

 
 ちょっと小腹が空く頃に、いつの間にか帰って来ていた、みずほちゃんに起こされた。彼女は、巫女の白衣はくえとその上から着る千早ちはやを着ていた。

ご神託ごしんたくがくだりました」

「みゃ~」

 巫女の姿のみずほちゃんはちょっと怖い。でも、優しいみずほの匂いは変わらない。

 そんなみずほちゃんに連れられて本殿も中に、立つと 前回と同じ様に誰かの意思、記憶を受け継ぐ事になった。やはり世界は、少し色付き、広がりを増す。そんな世界の中心で僕はまた、人間の男の子になっている。猫耳としっぽはあるけれど……。

 僕は、みずほちゃんの方を向く。男の子になった僕にとって、みずほちゃんはちょと大きなお姉ちゃん。猫の時とはちょっと違う……。その違いは僕には、まだよくわからない。

「みずほちゃん、虫の知らせ屋の仕事に、一緒について来てくれませんか? 」

「だめだよ稲穂いなほ、お仕事はちゃんと一人でしないと――」

 がぁ――ん!? みずほちゃんが、お父さんよりきびしい! 思わずぼくは、しっぽをにぎにぎしちゃう。

「違うの……、虫の知らせに、みずほちゃんが必要なの」

 僕は上目遣いで、みずほちゃんの様子を探る。

「どうして? 私が必要なの? 」

「それは……もっと受取人の、近くへ行かないとわかんない……」

 みずほちゃんは、少し考えたのち、「そっか、じゃ……着替えて来るから待ってね」と、僕の言う事を信じてくれた。

 僕達は一緒に本殿をでて、みずほちゃんは「行ってくるね」と、自宅に行ってしまうと……。二人の時には、あまり気にならなかなかった、外のせみの声がたくさん聞こえて来た。家に居る時は、感じた事のない大嫌いな、バスルームの中の様な、しっとりとした暑さが僕を包み込む。

 鞄の中に入ってる水筒の中の水を飲んでも、飲んでも、すぐに汗となって流れてしい暑さは解消される事なく僕につきまとう。猫の時、涼しい部屋の中では、そんな事は無かったのに――。

 そんな中で、拝殿はいでんから聞こえる、お父さんの唱える祝詞のりとの声に、少し勇気付けられながら静かに待つ。

「稲穂――!、ごめん待った? 」と、言ってTシャツとひらひらしたスカートを着たみずほちゃんが、走ってく来た。

「待った、からびゃうと思った」
 
「それはごめんね。水は飲んだ? 」

「たくさん飲んだよ。だから行こう!」
 そう言うと、僕は、猫になって神社を駆ける。

「稲穂――! 待って――」
 みずほちゃんは、階段をゆっくり降りてやって来る……。

「どうしたの、みずほちゃん?」

「人間は、そんなに早く走れないし――そんなに早く走ると、危ないから駄目」

「そっか……人間も大変だね……」

「でも、私は、人間になった稲穂と話せて、とってもうれしい!」

「僕もうれしい」
 と、みずほちゃんに抱きついた。その時、お知らせの受取人が木の影から、軽く息を弾ませながら、走って来た。

 僕は、みずほちゃんからそっと離れて……。
 
 受取人の前に立つとやっぱり僕に気づいた様でその足を止めた。

駿河するが利光としみつ君に謹んで申し上げまする。君はみずほちゃんに、もうすぐ会います。」

「うん、後ろにいるねぇ」

「えっ!?」

 僕の事をしっかり見えて居るらしい駿河君にも驚いたけど、木の影にいるはずのみずほちゃんが、僕の後ろに居た事にも驚いた……。みずほちゃんも戸惑っている様で、しばらくただ時間だけが過ぎた。

「駿河君……この子、うちの猫です……」

「猫……」
 
「にゃ……猫の稲穂いなほですにゃ……」

 僕は少しでも、猫ぽさを出そうとして失敗した。僕と、みずほちゃんと駿河君の三つ巴の空間を出来てしまった。

 その空気を打ち破ったのは、お父さんだった。
「二人とも何をやってるの? この時間はまだ、日が高いから、暑いから日陰に入りなさい」
 
 拝殿はいでんから出て来たお父さんは、こちらにやって来る。僕は、やって来た、お父さんの後ろに隠れる。

「お父さん、あの男の子知らない子だから、ちょっと怖い……気がする」

「俺は! 俺は怖くないし!、むしろ猫は好きだ」
 そう言って彼は僕の所までやって来て、僕を撫でた。

「なっ? 怖くないだろう」
 彼はそう言って、また僕を優しく撫でた。

「うん……怖くないかも? 」

「だろ?」
 そう言って笑った顔は、太陽みたいに温かった。人間の子供は、太陽の様に笑う時がある。そうすると猫の僕はちょっと敵わないなぁと、思いながら大好きになる。

 でも、そんな彼を見つめる、みずほちゃんを見た時、ちょっとチクリと心が傷んだ。

「じゃ、俺、これから塾があるんでもう行きます。失礼しました」

「うん、気をつけて帰りなさいね」

「はい! じゃあまたな、神代さん、稲穂君」

「またね」

「バイバイ」
 僕達と、別れを告げた駿河君は、階段の横にある坂道を歩いて行く。

「彼なら、きっと稲穂達の事は話さないと思うけれど、人間になった猫は普通なら見えないけれど、私達、神代の者に触れている状態の時は、その効果を打ち破る人間がたまにいるから気をつけない。でも、それは誰かと私達の秘密共有出来るって事だけどね」
 
 そう言ってお父さんはいたずらぽく笑う。

「「はい、わかりました」」僕達は、声を揃えて返事をした。

 その時、夕方を告げる動揺の歌声が、静かに僕を暗い夜へと誘っていった。


     終わり
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ハリネズミのおばあさんとテントウムシ

にこまる 
児童書・童話
耳の聞こえないハリネズミのおばあさんが、自分の針で困った者を助けてあげる。そして・・・テントウムシの正体は・・・。

チーム!

えりっく
児童書・童話
魔法が使えないはずの少年が 魔法使いたちの学校に通うことに。 少年の所属するクラスのチームは問題児揃い。 学校では少年は出身地のことでいじめの標的に。 そして少年は魔法使いたちの戦争にも巻き込まれていく。 しかしそこへ謎の少年少女が現れる。 少年の方はかなり強い魔力の持ち主だ。 だけど、魔法が使える者はすべてこの国で管理されているはず。 様々な勢力がぶつかりあい、少年は仲間と共に困難に立ち向かう。

悪魔さまの言うとおり~わたし、執事になります⁉︎~

橘花やよい
児童書・童話
女子中学生・リリイが、入学することになったのは、お嬢さま学校。でもそこは「悪魔」の学校で、「執事として入学してちょうだい」……って、どういうことなの⁉待ち構えるのは、きれいでいじわるな悪魔たち! 友情と魔法と、胸キュンもありの学園ファンタジー。 第2回きずな児童書大賞参加作です。

守護霊のお仕事なんて出来ません!

柚月しずく
児童書・童話
事故に遭ってしまった未蘭が目が覚めると……そこは死後の世界だった。 死後の世界には「死亡予定者リスト」が存在するらしい。未蘭はリストに名前がなく「不法侵入者」と責められてしまう。 そんな未蘭を救ってくれたのは、白いスーツを着た少年。柊だった。 助けてもらいホッとしていた未蘭だったが、ある選択を迫られる。 ・守護霊代行の仕事を手伝うか。 ・死亡手続きを進められるか。 究極の選択を迫られた未蘭。 守護霊代行の仕事を引き受けることに。 人には視えない存在「守護霊代行」の任務を、なんとかこなしていたが……。 「視えないはずなのに、どうして私のことがわかるの?」 話しかけてくる男の子が現れて――⁉︎ ちょっと不思議で、信じられないような。だけど心温まるお話。

忠犬ハジッコ

SoftCareer
児童書・童話
もうすぐ天寿を全うするはずだった老犬ハジッコでしたが、飼い主である高校生・澄子の魂が、偶然出会った付喪神(つくもがみ)の「夜桜」に抜き去られてしまいます。 「夜桜」と戦い力尽きたハジッコの魂は、犬の転生神によって、抜け殻になってしまった澄子の身体に転生し、奪われた澄子の魂を取り戻すべく、仲間達の力を借りながら奮闘努力する……というお話です。 ※今まで、オトナ向けの小説ばかり書いておりましたが、  今回は中学生位を読者対象と想定してチャレンジしてみました。  お楽しみいただければうれしいです。

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

【完結】魔法道具の預かり銀行

六畳のえる
児童書・童話
昔は魔法に憧れていた小学5学生の大峰里琴(リンコ)、栗本彰(アッキ)と。二人が輝く光を追って最近閉店した店に入ると、魔女の住む世界へと繋がっていた。驚いた拍子に、二人は世界を繋ぐドアを壊してしまう。 彼らが訪れた「カンテラ」という店は、魔法道具の預り銀行。魔女が魔法道具を預けると、それに見合ったお金を貸してくれる店だ。 その店の店主、大魔女のジュラーネと、魔法で喋れるようになっている口の悪い猫のチャンプス。里琴と彰は、ドアの修理期間の間、修理代を稼ぐために店の手伝いをすることに。 「仕事がなくなったから道具を預けてお金を借りたい」「もう仕事を辞めることにしたから、預けないで売りたい」など、様々な理由から店にやってくる魔女たち。これは、魔法のある世界で働くことになった二人の、不思議なひと夏の物語。

夢の中で人狼ゲーム~負けたら存在消滅するし勝ってもなんかヤバそうなんですが~

世津路 章
児童書・童話
《蒲帆フウキ》は通信簿にも“オオカミ少年”と書かれるほどウソつきな小学生男子。 友達の《東間ホマレ》・《印路ミア》と一緒に、時々担任のこわーい本間先生に怒られつつも、おもしろおかしく暮らしていた。 ある日、駅前で配られていた不思議なカードをもらったフウキたち。それは、夢の中で行われる《バグストマック・ゲーム》への招待状だった。ルールは人狼ゲームだが、勝者はなんでも願いが叶うと聞き、フウキ・ホマレ・ミアは他の参加者と対決することに。 だが、彼らはまだ知らなかった。 ゲームの敗者は、現実から存在が跡形もなく消滅すること――そして勝者ですら、ゲームに潜む呪いから逃れられないことを。 敗退し、この世から消滅した友達を取り戻すため、フウキはゲームマスターに立ち向かう。 果たしてウソつきオオカミ少年は、勝っても負けても詰んでいる人狼ゲームに勝利することができるのだろうか? 8月中、ほぼ毎日更新予定です。 (※他小説サイトに別タイトルで投稿してます)

処理中です...