猫のお知らせ屋

もち雪

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稲穂の日常

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 次の朝、目が覚めたら一人リビングで、で寝ていた。台所からは、お母さんのごはんを作る音と鼻歌が聞こえる。

「うん、美味しい」

 今日は、焼き魚で美味しい魚の匂いが、僕のまわりをふわふわしてる。思わず台所のお母さんの所へ行って、周りをうろうろし僕は焼き魚をねだる。

「にゃ~にゃ~」

稲穂いなほは、もうご飯につられて来ちゃったの? ご飯を作っている時は、危ないから来ちゃだめよ。めっ!」

「にゃ~」
 僕は、今日も朝からお母さんに怒られて、ちょこんと座って頭を下げて目をつぶる。

「そんなところに座っていたら危ないわよ。それよりも、もうそろそろ起きる時間だから、瑞穂みずほを起こしてきてね」

「にゃっ」
 いつもは、座ったら撫でてくれるのに……、台所のお母さんはいつもこれだ。お母さんたらもう――! 僕は少し怒りながらみずほちゃんの、部屋に行きドアノブをジャンプで開けると、みずほちゃんの薄い掛け布団に、飛び乗った。お布団をモミモミモミモミしながら声をかけてながら起こすと、やっとみずほちゃんが起きる。
 
稲穂いなほ、おはよう」

「にゃ~」
 みずほちゃんを布団の上から見下ろしていると、みずほちゃんの手が僕をナデナデしてくれる。そうすると……まぶたは重くなって……眠くなる。




 ハッ!として起きると、みずほちゃんの用意しただろうご飯は食べ……みずほちゃんを、探すが見つからない。僕に内緒で、小学校へ行ってしまったようだ……みずほちゃんたらも――。

 
 一番涼しい場所を探して歩るいていると、居ないと思っていたお母さんが、洗濯カゴを持って階段を下りて来た。お母さんとたぃさん遊んで……寝る。

 
 ちょっと小腹が空く頃に、いつの間にか帰って来ていた、みずほちゃんに起こされた。彼女は、巫女の白衣はくえとその上から着る千早ちはやを着ていた。

ご神託ごしんたくがくだりました」

「みゃ~」

 巫女の姿のみずほちゃんはちょっと怖い。でも、優しいみずほの匂いは変わらない。

 そんなみずほちゃんに連れられて本殿も中に、立つと 前回と同じ様に誰かの意思、記憶を受け継ぐ事になった。やはり世界は、少し色付き、広がりを増す。そんな世界の中心で僕はまた、人間の男の子になっている。猫耳としっぽはあるけれど……。

 僕は、みずほちゃんの方を向く。男の子になった僕にとって、みずほちゃんはちょと大きなお姉ちゃん。猫の時とはちょっと違う……。その違いは僕には、まだよくわからない。

「みずほちゃん、虫の知らせ屋の仕事に、一緒について来てくれませんか? 」

「だめだよ稲穂いなほ、お仕事はちゃんと一人でしないと――」

 がぁ――ん!? みずほちゃんが、お父さんよりきびしい! 思わずぼくは、しっぽをにぎにぎしちゃう。

「違うの……、虫の知らせに、みずほちゃんが必要なの」

 僕は上目遣いで、みずほちゃんの様子を探る。

「どうして? 私が必要なの? 」

「それは……もっと受取人の、近くへ行かないとわかんない……」

 みずほちゃんは、少し考えたのち、「そっか、じゃ……着替えて来るから待ってね」と、僕の言う事を信じてくれた。

 僕達は一緒に本殿をでて、みずほちゃんは「行ってくるね」と、自宅に行ってしまうと……。二人の時には、あまり気にならなかなかった、外のせみの声がたくさん聞こえて来た。家に居る時は、感じた事のない大嫌いな、バスルームの中の様な、しっとりとした暑さが僕を包み込む。

 鞄の中に入ってる水筒の中の水を飲んでも、飲んでも、すぐに汗となって流れてしい暑さは解消される事なく僕につきまとう。猫の時、涼しい部屋の中では、そんな事は無かったのに――。

 そんな中で、拝殿はいでんから聞こえる、お父さんの唱える祝詞のりとの声に、少し勇気付けられながら静かに待つ。

「稲穂――!、ごめん待った? 」と、言ってTシャツとひらひらしたスカートを着たみずほちゃんが、走ってく来た。

「待った、からびゃうと思った」
 
「それはごめんね。水は飲んだ? 」

「たくさん飲んだよ。だから行こう!」
 そう言うと、僕は、猫になって神社を駆ける。

「稲穂――! 待って――」
 みずほちゃんは、階段をゆっくり降りてやって来る……。

「どうしたの、みずほちゃん?」

「人間は、そんなに早く走れないし――そんなに早く走ると、危ないから駄目」

「そっか……人間も大変だね……」

「でも、私は、人間になった稲穂と話せて、とってもうれしい!」

「僕もうれしい」
 と、みずほちゃんに抱きついた。その時、お知らせの受取人が木の影から、軽く息を弾ませながら、走って来た。

 僕は、みずほちゃんからそっと離れて……。
 
 受取人の前に立つとやっぱり僕に気づいた様でその足を止めた。

駿河するが利光としみつ君に謹んで申し上げまする。君はみずほちゃんに、もうすぐ会います。」

「うん、後ろにいるねぇ」

「えっ!?」

 僕の事をしっかり見えて居るらしい駿河君にも驚いたけど、木の影にいるはずのみずほちゃんが、僕の後ろに居た事にも驚いた……。みずほちゃんも戸惑っている様で、しばらくただ時間だけが過ぎた。

「駿河君……この子、うちの猫です……」

「猫……」
 
「にゃ……猫の稲穂いなほですにゃ……」

 僕は少しでも、猫ぽさを出そうとして失敗した。僕と、みずほちゃんと駿河君の三つ巴の空間を出来てしまった。

 その空気を打ち破ったのは、お父さんだった。
「二人とも何をやってるの? この時間はまだ、日が高いから、暑いから日陰に入りなさい」
 
 拝殿はいでんから出て来たお父さんは、こちらにやって来る。僕は、やって来た、お父さんの後ろに隠れる。

「お父さん、あの男の子知らない子だから、ちょっと怖い……気がする」

「俺は! 俺は怖くないし!、むしろ猫は好きだ」
 そう言って彼は僕の所までやって来て、僕を撫でた。

「なっ? 怖くないだろう」
 彼はそう言って、また僕を優しく撫でた。

「うん……怖くないかも? 」

「だろ?」
 そう言って笑った顔は、太陽みたいに温かった。人間の子供は、太陽の様に笑う時がある。そうすると猫の僕はちょっと敵わないなぁと、思いながら大好きになる。

 でも、そんな彼を見つめる、みずほちゃんを見た時、ちょっとチクリと心が傷んだ。

「じゃ、俺、これから塾があるんでもう行きます。失礼しました」

「うん、気をつけて帰りなさいね」

「はい! じゃあまたな、神代さん、稲穂君」

「またね」

「バイバイ」
 僕達と、別れを告げた駿河君は、階段の横にある坂道を歩いて行く。

「彼なら、きっと稲穂達の事は話さないと思うけれど、人間になった猫は普通なら見えないけれど、私達、神代の者に触れている状態の時は、その効果を打ち破る人間がたまにいるから気をつけない。でも、それは誰かと私達の秘密共有出来るって事だけどね」
 
 そう言ってお父さんはいたずらぽく笑う。

「「はい、わかりました」」僕達は、声を揃えて返事をした。

 その時、夕方を告げる動揺の歌声が、静かに僕を暗い夜へと誘っていった。


     終わり
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