魔王がやって来たので

もち雪

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さよなら海の見える街

サラマンダーの匂い

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 山頂でのサラマンダーとの契約を終えて、みんなの待っている小屋に帰り着く。
 
「やったか?」
 
「やりました!」
 
「おぉよくやった!」

 ぬいぬいの会話は、短いけれど喜んでくれるのが伝わって来てうれしかった。

 そしてみんなに誕生日かってくらい祝って貰い。
 
 僕はフィーナの横に居る。ウンディーネのもとへ行った。

 フィーナの横に僕は座り、ウンディーネに「ただいま」と言った。
 
「もういいの?」と彼女は、フィーナの影に隠れて僕に言う。
 
「うん、おかげでサラマンダーと契約出来たよ」そう伝えるとやっぱりフィーナの横から「主様あるじさまおめでとう」と、少し涙目であるが言ってくれた。
 
「うん、ありがとう」そのままで僕らは、3人で、何も言わず座って居た。

 それを見守っていたぬいぬいが、僕を呼ぶ。
 
「大精霊の召喚の説明をするが、そろそろいいか?」

 そこにはルイスと、手帳を持ったミッシェルが居て……。

「大精霊については知られている事ばかりだから、メモしてもあまり意味がないと思いますよ」と、ミッシェルはルイスに言われている。

「ルイスさん、それは僕も知ってますが……。大精霊について誰が説明して、誰がそれを聞くか、そこが重要なんですよ」

 「兵士練習所の事務員だった僕が、会計の事を話せば信用されるように、勇者パーティーのメンバーの僕が、大魔法使いのぬいぬいと、勇者のハヤトの話をここに記した! の帯だけで、印税ド――ンです!」

 ――ミッシェルさすがだな……。そろそろ商人として、ソロバンを持って戦うレベルである。
 
 僕が彼らのテーブルでそう話していると、ウンディーネもやって来て僕の隣に椅子を持ってきて座った。
 
 すると「ヴッ!」と、ウンディーネが言ったので彼女を見る。彼女はとても顔をしかめている。「これがサラマンダーの匂い!? 主様、早くお風呂入って来て!! 早く!」 そう言ってフィーナの元へと、戻ってしまった。

 そんなウンディーネは、なんか敏感な猫の様だ。
 
 気付くとミッシェルが容赦なく僕の匂いを嗅いでいた。こっちは物怖じしない猫。

 「うーん、硫黄の様な匂いはしますが……それですかね?」

 そうしてミッシェルは、今度は容赦なくルイスの匂いも嗅いだ。
 
「ルイスさんはいい匂いですね? 同じシャンプーですよね? 本当は妖精か何かなのでは?……では、ここで結論を出すためにここはフィーナさんのもとへ、行くべきかもしれません……」

「ミッシェル……」と言いかける前にルイスが、ミッシェルに話しかけた。

「ミッシェル手の甲を見せた状態で、両手を置いてください」
 
「何ですか?」と、言いつつ、訓練されたミッシェルは従った。
 
 そうするとルイスはミッシェルの手の甲の上に水筒のふたを置き、水筒の水を一杯になるまで入れた。

 そして彼は、「召し上がれ」と、言ってクククッと笑う。
 
 楽しそうにミッシェルを見ているルイスと、こぼしていいものか考えあぐねるミッシェルを置いて、ぬいぬいは場所を移動するためだろう席をたった。

 僕もそれに続く。
 
 ミッシェルは、僕たちふたりにむかい「待ってください。このコップを取り除いてから行ってください」と言ったが……。

「お前、フィーナの匂いを嗅いだ事が魔王に知られれば、首がたぶん飛んでたぞ。良かったな」

 それを聞いてすがる様な目で僕をミッシェルは見る。
 
「そんな事ないですよね。ハヤトさん……?」

 僕は考えた末、「僕は、初対面では木とツタで拘束されたりしましたから……最初の印象は出来るだけ良くしておいた方がいいかもしれません……。でも、話せば……、ヴゥ……どうでしょうわかりません。」

 そう言ったら何故かぬいぬいが、僕に「お前は怖い物知らずか?」と、言って来た。
 
 ――何故?

 そんな僕らは、今にも壊れそうな小屋の中の喧噪から離れ、外に出て岩の上に座った。

 ここにもまだ緑のない土地で、かろうじて雲海の下にあるという高さ。風は強く、久しぶりに使われた煙突の煙は、強い風に吹かれて白い雲をどこまでも長く伸ばすようだ。

「サラマンダーの契約で通常の対価でいいのなら、特に心配する事は無い。サラマンダーの火の因子の1パーセントが、お前の中を駆け巡り。サラマンダーにも同じ事が起こる。どちらかが優位であるかだが、それはそれぞれの個体差だな。そうある事ではないが……火の扱いが今までより上手くなればこっちが得だし、変わらなければお互いさまだ。それについてはサラマンダーが損はしない仕組みで、こちらが劣る人間ならば前には出ても来ない。しかし召喚の度に応じて貰えるとなればそれは大きな成果だ。だからその召喚自体に、制限をかけてきたお前のサラマンダーは傲慢であると言っていい。精霊は魔力がすべであるらその傲慢さが強さと古い時を生きた証なのかもしれん」

「うん、まぁ、傲慢は金メダル級の傲慢でしたね……。それだけ強いなら多大な成果って事でウンディーネに我慢して貰っただけありました」

「あぁ、そうだな。後、ひとつ言える事は、召喚する精霊の力が強大であればあるほど、こちらの理由で失敗は起こりうる。だから、詠唱呪文は正しく、雄大に、火の言葉をいれるとなお良しだな」

 「やはり他の魔法使いの召喚呪文をそのまま流用しても?」

「いいが、本当にいいの選べよ。自分で考えたものより人の言葉は案外飲み下せないものだ。微調整を繰り返し、一番を探し出す。それが召喚呪文だが……」

「だが?」

「個体差で飽きやすい、大精霊もいる。シールフなんてすぐ飽きるからしっかり考えるだけ無駄だ。」

「なかなか、難しいものですね……」

「そんなところだな。今のところ」

「ご教授ありがとうございました」

 そうして僕らの召喚の勉強会は終わった。

 小屋に入ったら、まだミッシェルとルイスはやっていたので、通りすがりにコップの水を飲みほし、「ご馳走様でした。」と、言ってルイスにコップを帰した。

「ミッシェルよく僕は考えたのだけど、たぶん君は魔王に首をはねられる事はないが、フィーナには逆さずりにされてたと思う。だから、君はルイスに感謝した方がいい」

 と、言ってフィーナの元まで行き、彼女の横に座り、「僕ってそんなに匂う?」と、聞いたのだった。

        つづく
 
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