魔王がやって来たので

もち雪

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さよなら海の見える街

冬の始まりの海

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冬の始まりの海
 塔の攻略の次の日、僕とフィーナとウンディーネは海岸線の砂浜にいた。

 もちろん、スフィンクスもいる。チビスフの散歩がてらに歩いているのだ。

 しかし街の人々は僕らを見ても、もう驚く事はない。

 この街へ来た当初は、新聞の紙面を騒がせた僕たちだった。

 しかし今でも騒がれているのは、教会の広告塔と言えるルナくらい。

 残りのメンバーに至っては、ルイスとその一族が圧力を新聞社にかけ、必要と彼らが感じた時のみ紙面に登場するようだ。

 そういう面で、彼らに大変感謝しかないが、でも僕は彼にお礼を言えていないし、彼もそれをも望んでいない気がして……彼の望む飲み物を時折、差し入れする程度だったりする。

 と、言うわけチビスフも、彼らの戦略のおかげで、聖女様に会い考えを改めた神獣。

 牛若丸の弁慶的、立ち位置に収まった。さすが聖女様である。
 
そしてルナが、この近くの教会で人々を癒す間に僕らはしばらくここで時を過ごしている。

波打ち際で、水色の長い髪をなびかせ、今日は深窓の令嬢のような出で立ちのウンディーネがチビスフと一緒に歩いている。

「ウンディーネより前に歩かないで、ウンディーネのが偉いから」

「わかった。ねぇ、ウンディーネ、あの雲とどっちが偉いの? ウンディーネは」

「ウンディーネ!」

「へぇー。凄いね」

「ふふふ」
 
 そして僕の彼女は、一生懸命にきれいな貝殻を探している。

「ハヤト、見てください。きれいな貝を見つけましたよ」

 そう言って見せてくれたきれいな貝より、彼女の手の指の細さや色の白さがきれいだった。

 でも、僕は彼女の横で普通に「きれいな桜貝だね。それはお土産にするの?」言った。
 
「あっ、えっと……私はちゃんと魔王様やよしのさんが居なくても、もう独り立ちは出来ていますよ。最近、私が話すとお二人の事を絡めてきますが?」

「そうかな?」

「そうですよ」

「そうか……。ごめん。でも、やっぱり君の家族の事も、大事にした方がいいと思うから……つい、ついね」

「それはわかりますが、ですがやはり私はもう子どもではない……ふふふ」

「どうしたの?」

「思いだしたんです。『そう言うところが、子どもなんだよ』って、私によしのさんがよく言う言葉を……。なんか、私よりハヤトが大人なのかもしれません……。でも、負けませんよ。私はあなたを守れる大人になるんですから……」

「楽しみにしてます」

僕はそう言って、彼女の両手を優しく掴む。

淡い恋のようなその貝を、壊さないように。

そうやって、やってきたばかりの冬を過ごすぼくら。

 そして僕らのもとへ、やって来てまだ新しいチビスフは、僕らの両手の内に収まった。

 そして少し後ろをウンディーネがやってくるのだった。

    つづく
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