魔王がやって来たので

もち雪

文字の大きさ
上 下
148 / 219
旅立った僕達

うるさいスライム

しおりを挟む
 海辺の町に来てしばらく経った。

 こちらには大きな港が無いが、海に面した海岸に小さな砂浜と船着き場はある。

 その小さな砂浜に、この季節にやって来るという海のスライム達の退治が、今回の僕らの選んだギルドクエストになる。

 それにしてもクエストはなかなか減らずに、いつになったら旅立てるのか見通しがまだ立たない、しかし港町と言う事もあって少しだけ狐の里についてわかった事があった。

 どうやらフィーナが去っただろう年の次の春あたりから、狐の里の狐達の一部がこちらの世界の人間界へと移り住んでいるようなのだ。

 魔界へ渡る前に、まず彼らに狐の里について事情を知らなければならない。

 それについて気になる事は、フィーナにこの事を伝えたら、彼女は静かに「そうですか……」と、呟いた。もしかしたら彼女は人間界へとはわからずとも、狐の里の人間が一部、里から出てしまった事自体については知っていて、ただ気に病む事しか出来なかったのかもしれない。

 話は少しそれてしまったが、そろそろその海岸線と着きそうだ。だが、いつもちょうっとお話の多いウンデーネは今回の攻略メンバーに居ない。

 彼女が言うにはだが……。

 「ここの海辺のスライム討伐が、今回のクエスト目標なんだけど何か知っている?」

「赤いの?」彼女は首をかしげる。

「うん、赤いの」僕は彼女の反対に首をかしげた。

「情熱の赤いスライムは、ちょっと好きじゃない。うるさいし、うるさいし、うるさいから」

「なるほど……、じゃ今回はウンデーネはパスで」

「主様もパスした方がいいよ。うるさいし、うるさいし、うるさいから」

「まぁ、うるさいから退治しなければならないって事で、うるさいのは仕方ないよ」

「ウンデーネは、伝えたからね」

 と言う具合に、なんか赤いスライムと聞いただけでウンデーネの機嫌が悪くなったのだ。

 なので、今回のパーティーは、フィーナとぬいぬい、オリエラだ。一緒に来た、シルエットは凄いバカンスルックでパラソルの下で座って居る。

 まず、水辺で体を水につけるか、魔法を使うと来るらしい。

 砂浜は、物理攻撃はやりやすいのだが、ぬいぬいの精霊系の魔法では狭すぎるって事で桟橋を中心としてまずやろうって事になった。

「うんだば、行くぜよ!!」

「真面目にやれ――!」速攻、ぬいぬいに怒られた!?

 仕切り直しで、「では、行きます!」

「「はい!」」

 雷の魔法を作り、投げるモーションをする間に海から飛び出したスライムに抱え込まれた形で、出て来た方とは逆の水面に落とされる。

 ――は!?

 と、思っている間に、僕を中心として海面がどんどん赤くなるのだ。見えるすべてが赤く染まり、めちょねちょばりばり音がうるさい。

 上に見える太陽が、どんどん赤く染まり湾曲して歪む、なんとか片腕を上げるが精一杯だ。

 息が出来ない……。

 右手の薬指が、熱を持っている様に感じ痛い。

 今わの際に見た風景……。

「本当にうるさ――い!!」 「もう黙って! 静かに!」

 ウンデーネのガチギレ…………。

 彼女は僕を羽交い絞めにし、僕らの周りに空気が出来ていた、海の世界はもの凄く赤くグルグルまわっている。
  
 どれくらい回っていたかわからない世界は、今や青く染まり、そしてゆっくりと僕を足元から水につけていく。

 「ウンデーネありがとう……」

「だから言ったでしょう! うるさいって、もう! 主様は、私が居ないと何も出来ないんだから」

 ウンデーネは、最初僕に怒るが、自分の言葉で機嫌が良くなり、僕を砂浜へと連れて行ってくれた。

 しかし彼女は、「私が居ないと何も出来ないんだから」と言う自分の言葉を、大変気に入ったらしく。

 思い出しては言う様になってしまったのだった……。

           つづく
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

東方並行時空 〜Parallel Girls

獣野狐夜
ファンタジー
アナタは、“ドッペルゲンガー”を知っていますか? この世には、自分と全く同じ容姿の人間“ドッペルゲンガー”というものが存在するそう…。 そんな、自分と全く同じ容姿をしている人間に会ってみたい…そう思ってしまった少女達が、幻想入りする話。 〈当作品は、上海アリス幻樂団様の東方Projectシリーズ作品をモチーフとした二次創作作品です。〉

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

【書籍化進行中、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない… そんな中、夢の中の本を読むと、、、

私を裏切った相手とは関わるつもりはありません

みちこ
ファンタジー
幼なじみに嵌められて処刑された主人公、気が付いたら8年前に戻っていた。 未来を変えるために行動をする 1度裏切った相手とは関わらないように過ごす

処理中です...