魔王がやって来たので

もち雪

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それでも少しずつ歩む日々

しんどい葡萄狩り

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 馬車揺れが、少しずつひどくなっているのが、わかった。
 
 なんとか、重いまぶたを開けると。外は、どんよりとしてどれくらいの時間かわからない。

 馬車の後ろを覗き込むと湿地帯まで来ているのがわかった。しかしそこにあった道の為の板が、馬車用だろう大きい板と、徒歩で歩く用の細い板、2本伸びていた。湿地やその水の中にあれだけ茂っていた蔓も、蔓から出る葉も、ほぼ無くなってしまっていた。その変わり小さな雑草の芽だろうか? 新しい若葉が、そこらかしこで、出始めている様だ。そして何かしらの魚や鳥などもみる事が出来る様になってその内、新しい生態系が出来るかもしれない。

 その時、肩を叩かれると、「はい」と言ってシルエットから朝ごはんのつつみと飲み物を手渡された。
 クロワッサンにプロセスチーズ、焼かれたウインナーに、オレンジ……なんか朝もお洒落なお弁当に、感心するような、目が丸くなるような。

 クロワッサンを食べていると、ガクンといういう揺れとともに地面に乗り上げ、地面を見る事ができた。しかし道はここで終わり、御者ぎょしゃが現れて降りやすい様に、後ろの板を外してくれると次々飛び降りる。

 その中でオリエラは持ち上げられ、女性陣に、それぞれ手を差し出し手助けをする。

 全員が下りた事を確認すると「こっちだ」と言う、紫龍さんの後ろに続き道なき道を行く。しかし彼の三つ編みの動きを真似する様に、ウンデーネが体を揺らしながら歩いている。

「深い海の底に居た、魚の後ろひれを思い出す。私達はその後ろを泳いだりしたの」

「海は、見た事が無くて、凄く美しいく、そして絵では表せない程素晴らしいって聞いたので是非見てみたいです」

 ウンデーネとフィーナが、仲よさげに歩いている。もともと、僕の中のフィーナの匂いに釣られてやって来た、ふしのあるウンデーネはフィーナもたまらなく好きな様だ。

 しかし突然、紫龍さんが止まると、目の前に、多くの葡萄ぶどうの房を付けた。大きな木が生えていた。

「じゃーいつもの通りに」円陣を組み、静かに僕がそう言うと、ウンデーネが、水の塊を稲妻の様に走らせ葡萄の幹に風穴をいくつも空ける。幹は、ゆらゆらと多くきく揺れ、数多くの魔法を自分の体からそらそうとしている。

 次の出番の僕は、以前、パーティー『黄昏』の黒魔術師も、使っていた魔法を使う事にする。7割の確率でサラマンダーを呼べるようになって来たが、契約はまだだ。……いや、なんか無理そう。

 【禍津神まがつかみを、滅却めっきゃくするいにしえの精霊サラマンダー、すべて燃やし尽くす炎となりて敵にを滅ぼせ!】

 そう詠唱すると、葡萄の体内からサラマンダー跳び出して来て、すべての幹や蔦を焼き切る。そして最後にこちらを向くと、サラマンダーが味方の僕を燃えない程度の追いかけてる。

「なんだよ! サラマンダー!」

 そう言うとサラマンダーは、プイって感じで横を向いて消えるのだ。

「次は、こっちだ」紫龍さんが、駆ける横をオリエラが並走し草木を切り分け進む。

 次に新な葡萄を出現に一同に緊張が走るが、それを紫龍さんの一刀で振ったモーションの見えない中で、切口から斜めに下へ落ちたと思うと今度は横へと倒れ落ちる。その根の部分をオリエラが切り刻み、その上を跳び越え走っていく。

 ミッシェルやウンデーネ、体力の無いものから徐々に、脱落していく。

「ルイス、脱落者を頼む」
 どうやら、シルエットもそこに残ってくれた様だ。

「ハヤト、凄く楽しい。なんか冒険みたい」

「でも、危険な事はしないでね。君は守るべきお客様だから」
 僕と、フィーナの間にはまだ正確には隔たりがある。それを気にして彼女に言ったのだが――。

「ハヤト、魔王城で育った子供は、誰一人、下等で、知能もない魔物には負けないから、見てて」
 
 そう言うと誰よりも早いスピードで、紫龍さんに追いつき、その先の葡萄へ単身で彼女は挑む。その腕から浮かびあがる、いばらが、葡萄を縦横無尽にとらえた瞬間、切り刻まれ地面へドスドスと落ちていく。その時の衝撃でおきた風のいたずらか彼女の髪をしばるものが取る。

 風を受けて彼女の髪は、彼女の顔を隠す。

 そのまま彼女は僕に手を差し出す。

 「お疲れ様いばら姫」と言って僕が、彼女の手にくちづけすると、やっと顔を出して「はい」と笑ってくれた。

 彼女は僕が、彼女の強さに、怖気づいてしまう事が、今だ心配なのだろうか……。


             つづく
 
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