魔王がやって来たので

もち雪

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ホイルトツェリオ魔法学校

学校で、紡がれる思い

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 教室前の廊下を歩いて行くと、大きな窓の広い教室の前を通る。それぞれの扉には、サラダマンダー、シーフと大きな紙に手書きで書かれた個性にあふれた看板が張られていた。
 
 フランツ教頭は、立ち止まると――。
 
「ここは、子供達のプライバシーの為、これ以上、お見せする事は出来ません」
 と言い、次の目的地へと向かった。

 
 次の目的地である大食堂へ来ると、とても大きな空間が広がっていた。外から見た校舎からは、ありえない広さだ。そこに、長机がいくつか、列をなして置かれている。それが6列もある。
 
 その横にソファーのセットの置かれたスペースがいくつかあり、そこに机はないので歓談用のスペースのようだ。
 
「どうやって、これだけの広さが……」
 
 僕の呟きの答えたのは、フランツ教頭だった。

「魔法建築で、空間がゆがめられているのです。魔法の成せる技ですね」
 と、自慢げに語る。

「今月は、ここでは、2階にはハウスホームのあるサラマンダーと、3階にホームのあるウンディーネが食事をとります。残りのシルフとノームは反対の左翼側のランチルームで食事をとっていますな。しかし行事がありますと、給食室に近いこちらで、全ての生徒と教師が食事をとるのでもっと広くなることも可能です。給食室、配膳室、そして大食堂をつなぐ廊下から、寮へ行く事が出来ます」
 教頭の話の後に、ぬいぬいの話がつづく。

「毎月、この大食堂と向こうの食堂のホームチームは順番に入れ替わる。組みは合わせが変われば、ランチルームの雰囲気も変わる。その雰囲気によっては、教師も各食堂を移動することになる。だが、だいたいの揉め事はホームのリーダーとホームの5年生が、乗り出す事によって解決する」

「その後、そのハウス担当教師達によってアドバイスが与えられ生徒は少し成長する、その繰り返しだ」

「そうすれば毎年度、指導力のある生徒が一人は、生まれるという恐ろしい仕組みになっている」
 と、ぬいぬいが締めくくると。
 
「あぁ、レン君はともかく悪たれだった君が、こんな立派になってるのを見ると」
 
「その仕組みも、私の教師人生も、無駄じゃなかったと思えるよ」
 と、フランツ教頭は誇らしげに、後ろに手を組み語たり、元来た道を歩きたした。

 ぬいぬいは、口をへの字にして手の平を上に広げるポーズをした。
 彼は口には出さなかったが、気持ちはなんとなくわかった。

「言ってろ」彼は、たぶんそう言いたかったんだろう……。
 
 それを見たルイスもクスッと笑う。本当にこの二人は、仲が良いのか、悪いのか……。気の置けない間柄て、やっなんだろうとは思う。


 教頭の後をついて三階への階段を登ると、ランチルームの上には、図書館があり広い図書館には、さまざまな書籍が置かれている。
 
 受け付けカウンターの上には、校長室にもあった肖像画が飾られている。
 
 絹の様に美しい栗色の髪の凛とした感じの王女の横に、寄り添う様に横に立つ、精悍な顔つきであるが、優しさを口元にたたえた王。

 僕がその肖像画に目を留めていると……。

「フェイリス王とサラ王妃ですな」
 
「騎士であり、のちに王となられたフェイリス王と、聖女と言われたサラ王妃が、この学校の発案そして創立まで手掛けたと言われています」
 
 騎士と聖女の作った魔法学校、一見いっけん、無関係の様な組み合わせだが、二人は何を思いこの魔法学校を作ったのだろうか。

 そして僕達の進む道に、何を残し、何を残してしまうのか……。
 
 けれど彼女の笑顔を思い出せば、すべてがどうでもよくなってしまう僕は、とんでもなく愚かなのかもしれない。

        つづく
 
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