魔王がやって来たので

もち雪

文字の大きさ
上 下
36 / 177
はじめての異世界

魔法の授業(実践編)

しおりを挟む
 そろそろおやつでも食べたくなるだろう時間に馬車は、目的地の山に着いた。しかし山と言っても、小さな川を抜け、丘と谷が織り交ざった様な地形の山のふもとが目的地であった。
 
 山の地肌が見えた斜面のある、空き地に馬車は止まった。

「こっちだ」
 
 丸太そのまま、使えわれた椅子が、円を描いて等間隔に置かれている。そして中央には焚火たきびあとがある。僕達はそこに座った、ぬいぬい曰く魔法使いの定番の配置についた。

 ぬいぬいの魔法の講義が始まり。

「いいか、魔法使いは、イメージを大切にする」

「すべては、イメージ、イメージ、イメージ!」
 
 ぬいぬいは、人差し指を胸の前でちょこん、ちょこん、ちょこんと右に動かす。

「まず、心臓は、ここにある」

 ぬいぬいから見て、中央より少し左の部分を、こぶしで軽く何度か叩く。

「ここにマナはある。真実なんかどうでもいいから、魔法使いはそう信じる」

「そこに暖かい炎をイメージさせろ、そこで手ごたえがあったら……。それを、手に送りこめろ少しづつ確実に入れろ」

「迷うな入れる、通す事だけ考えろ。そうしたら手で凝縮させてるイメージ持つ反応が現れたら、最後まで目的地、敵をイメージする場所に届く様にイメージして飛ばす」

「慣れて来たら、魔法を放ち、目的地に飛ばせるイメージの確信が出来たら、次のモーションに移ってよし」
 
 オリエラは、うんうんと、うなづきつつ聞き入り、レンはにこにこと笑顔を浮かべて聞いている。

「じゃーやれ」
 
 空き地にうまっている木、魔法使いの立ち位置をぬいぬいは指さす。僕が、木の上に立つとぬいぬいとレンさんが、その横に付く。


「心臓のイメージまでは最初は、目をつぶりリラックスする事が大切だら。途中で辞める時は、消すイメージか、空気を排除して押し潰すイメージで、止めろ」

「目標は、あの斜面」
 僕の横で、ぬいぬいが指差す。

「じゃあ気楽にいけ」
 と、肩で手をトントンと弾ませたのちふたたび横に立つ。

 (まず心臓に炎を起こす)

 炎を思い浮かべる……、ガスコンロの炎を思い浮かべる。あの青い火のゆらめきを思い浮かべ、手に通す。両手を並べた手のひらの上に、青い炎が弾んで飛び出すそれを中心として、まるで毛糸の束を作るように炎は加速して大きくなる。

「これもか……」
 ぬいぬいが静かに声を洩らす。

「早く、目的地に飛ばせ! ここままだと俺らも吹っ飛ぶぞ」
 頭をかきながら、ぬいぬいは慌てるように言った。

「そうしたいのですが……炎を安定させるだけで精一杯で……」
 
 僕の目の前で、炎は暴走した馬車の車輪の様の不安定に動く。止めれば、おかしな方向へ飛んでいくだろうし、正しい道へ進む保証がなくなってきていた。

「3数える、お前は前に飛ばす事だけ考えろ」
 レンが、魔法の詠唱えいしょうをする声が聞こえる。
 
「少しでも先に飛ばせ、いいな?」

「3」

「2」

「1」
 青い炎を前に飛ばすと次の瞬間に僕は、ぬいぬいとレンに脇を持ち上げられ後方へ運ばれていた。

「オリエラ!防御壁だ! 防御壁をはれ!」

「はい! 師匠! 」
 手を前にかざす彼女の右横をすり抜け、僕をおろす。僕を下した、レンとぬいぬいが手をかざした、少し後に僕の魔法の爆風が空気と絡まり勢いを上げて走る。

 しかし爆風波は、全面に一枚、その両脇に斜めの壁にはまばれている様にその火の勢いを止めた。……止めたように思われたが、炎がその壁さえかすめ取り勢います。
 しかし新な壁にはばまれてやっと、その勢いは止まった。

「上出来、上出来」
 と、ぬいぬいは、オリエラの肩を叩く。

「えへへ、師匠もっとほへていいよ」
 オリエラは、とてもうれしいのだろう、満面の笑みをうかべている。

「ハヤト、魔力は十分だが、安定性がないのはもちろんなんだが……」

「お前は、世界とつながってない」

(世界との繋がり?)

  つづく
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

私に姉など居ませんが?

山葵
恋愛
「ごめんよ、クリス。僕は君よりお姉さんの方が好きになってしまったんだ。だから婚約を解消して欲しい」 「婚約破棄という事で宜しいですか?では、構いませんよ」 「ありがとう」 私は婚約者スティーブと結婚破棄した。 書類にサインをし、慰謝料も請求した。 「ところでスティーブ様、私には姉はおりませんが、一体誰と婚約をするのですか?」

特技は有効利用しよう。

庭にハニワ
ファンタジー
血の繋がらない義妹が、ボンクラ息子どもとはしゃいでる。 …………。 どうしてくれよう……。 婚約破棄、になるのかイマイチ自信が無いという事実。 この作者に色恋沙汰の話は、どーにもムリっポい。

婚約者の幼馴染?それが何か?

仏白目
恋愛
タバサは学園で婚約者のリカルドと食堂で昼食をとっていた 「あ〜、リカルドここにいたの?もう、待っててっていったのにぃ〜」 目の前にいる私の事はガン無視である 「マリサ・・・これからはタバサと昼食は一緒にとるから、君は遠慮してくれないか?」 リカルドにそう言われたマリサは 「酷いわ!リカルド!私達あんなに愛し合っていたのに、私を捨てるの?」 ん?愛し合っていた?今聞き捨てならない言葉が・・・ 「マリサ!誤解を招くような言い方はやめてくれ!僕たちは幼馴染ってだけだろう?」 「そんな!リカルド酷い!」 マリサはテーブルに突っ伏してワアワア泣き出した、およそ貴族令嬢とは思えない姿を晒している  この騒ぎ自体 とんだ恥晒しだわ タバサは席を立ち 冷めた目でリカルドを見ると、「この事は父に相談します、お先に失礼しますわ」 「まってくれタバサ!誤解なんだ」 リカルドを置いて、タバサは席を立った

処理中です...