魔王がやって来たので

もち雪

文字の大きさ
上 下
31 / 219
はじめての異世界

ホイルトツェリオ城

しおりを挟む
 転移した空間は、厳かな教会の様で、祭壇には蝋燭ろうそく燭台しょくだいが両脇に置かれその中央には古びた分厚い文庫本、程度大きさの本が一冊無造作に置いてある。ぱっと見は、結婚式CMでよくみるおなじみの風景で、さっきまでの僕の部屋にいたと言う以外には、ぼくの世界でありふれていだろう風景の様に思われた。

 ぼくは、結婚式の招待客が座るだろう、並んでいる1つの椅子に腰を掛け、辺りをよく見まわす。
 椅子は1つ1つ独立した木の椅子、窓は大きいが障子しょうじの鉄製の張り中の障子紙の所に、窓ガラスをはめ込む様になっている。建物自体は長方形だが、先に進むごとに区切られた箇所で、長方形が細くなくなるとともに床が一段高くなりそこに階段が置かれている造りになっている。


 昼だろう今に、この教会内からでると大勢の人間に見つかる恐れがある。見つかるにしても、騒ぎの少ないだろう夜の方がいいのか、泥棒と間違えられない今がいいのか……。
 
 そう考えていると遠くで花火の音がした。外を見ようにも窓は、身長より高い位置にある為、外をのぞき見る事は出来ない。ボァフォと言う花火の音が先ほどより近くでする。その音は不規則であるが、近づいてくるとともに、城内の声があわただしく響く。
 
 その声は、始めは何を言っているかわからなった。しかし徐々に単語からわかり始め、単語と単語の組み合わせからこう話しているのか?と思うところまで来て――。

 窓のから虹色の煙が見えたと、同時に教会の扉が開け放たれた。現れた女性は、おかっぱなブロンドの女性でタイトなミニスカートに、ざっくりとしたファンタジー漫画でよく見るような上着を着てはいる。
 

「初めておめにかかる、勇者様、わたしがカントクノレンだよろしく」

「ぼくは草薙 ハヤトです。よろしくお願いします」
 
 彼女とがっちりかたい握手をする。

「うんうん、ではサロンまで案内しょう」

 教会は別棟になっているようで、僕たちは一度外へ出て、石だたみの道を歩く。小さなトンネル抜けるとそこには西洋にお城があった。
 
 レンガ? もしくは、石で、つくられた白く美しい城。青銅かもくは鉄? で、作られた像が、道を歩くたびに無造作に置かれている。

 その中に明らかに、日本の武士の像があった。

「彼は?」

「彼も、日出ひいずる国から、来た勇者と聞いている」

「現在の魔王、沈黙の魔王ヤーグと、最後の一人となっても戦っていたそうだ。武人として、私もかくありたいものだ」

 そう言う、彼女の腕組みをしている姿でさえ隙がなく、相当腕がたつ武人の様だ。

「彼はどうなったのですか? 」

「それはわからない、彼の死体だけは帰らなったらしい」
 
 魔王と最後に戦った勇者……考えても、どうどう巡りするので、答えは魔王に聞くしかない。


 彼女の後ろについて城の中を行くと、サロンの様な場所に通された。何人かの人々が話をしたり、軽い食事をとっているようだ。

「どうも副大臣のダイジスです」
 
 彼女から紹介された男はそう名乗った。燕尾服えんびふくに近い服を着て痩せている。鼻にひっかける眼鏡の付けた男。彼は少し小刻みにふるえていた。

「あの……大丈夫ですか? 」
 
 と言って手を差し出そうとした時、すべての音や声が止まった。ダイジスは軽く息を飲み。そしてこのサロンの人々は、ただ僕の挙動だけに細心の注意を向けている事がわかった。
 
 彼女だけがバツの悪そうな顔をして笑っていた。

「やぁー失礼、城の兵隊がこんなに殺気を誤魔化すのが、下手だと思わなかったから」

「じゃー皆さんにはご退場願おう、下手な役者はおよびじゃないんでね」

 そうすると一同一斉に敬礼したと思うと、退場して行った。その時、ダイジスも一緒に出て行こうとしたのだが……。
「副大臣は、なかなかの役者だと聞くよ」

「さぁー大臣の舞台はここ」
 
 彼女の隣のソファを叩いて、副大臣を座らせ、そして二人の前の特等席に右手を半円を描き、僕を招き寄せるのだった。

 つづく
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

【書籍化進行中、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない… そんな中、夢の中の本を読むと、、、

処理中です...