魔王がやって来たので

もち雪

文字の大きさ
上 下
30 / 166
はじめての異世界

ホイルトツェリオ城

しおりを挟む
 転移した空間は、厳かな教会の様で、祭壇には蝋燭ろうそく燭台しょくだいが両脇に置かれその中央には古びた分厚い文庫本、程度大きさの本が一冊無造作に置いてある。ぱっと見は、結婚式CMでよくみるおなじみの風景で、さっきまでの僕の部屋にいたと言う以外には、ぼくの世界でありふれていだろう風景の様に思われた。

 ぼくは、結婚式の招待客が座るだろう、並んでいる1つの椅子に腰を掛け、辺りをよく見まわす。
 椅子は1つ1つ独立した木の椅子、窓は大きいが障子しょうじの鉄製の張り中の障子紙の所に、窓ガラスをはめ込む様になっている。建物自体は長方形だが、先に進むごとに区切られた箇所で、長方形が細くなくなるとともに床が一段高くなりそこに階段が置かれている造りになっている。


 昼だろう今に、この教会内からでると大勢の人間に見つかる恐れがある。見つかるにしても、騒ぎの少ないだろう夜の方がいいのか、泥棒と間違えられない今がいいのか……。
 
 そう考えていると遠くで花火の音がした。外を見ようにも窓は、身長より高い位置にある為、外をのぞき見る事は出来ない。ボァフォと言う花火の音が先ほどより近くでする。その音は不規則であるが、近づいてくるとともに、城内の声があわただしく響く。
 
 その声は、始めは何を言っているかわからなった。しかし徐々に単語からわかり始め、単語と単語の組み合わせからこう話しているのか?と思うところまで来て――。

 窓のから虹色の煙が見えたと、同時に教会の扉が開け放たれた。現れた女性は、おかっぱなブロンドの女性でタイトなミニスカートに、ざっくりとしたファンタジー漫画でよく見るような上着を着てはいる。
 

「初めておめにかかる、勇者様、わたしがカントクノレンだよろしく」

「ぼくは草薙 ハヤトです。よろしくお願いします」
 
 彼女とがっちりかたい握手をする。

「うんうん、ではサロンまで案内しょう」

 教会は別棟になっているようで、僕たちは一度外へ出て、石だたみの道を歩く。小さなトンネル抜けるとそこには西洋にお城があった。
 
 レンガ? もしくは、石で、つくられた白く美しい城。青銅かもくは鉄? で、作られた像が、道を歩くたびに無造作に置かれている。

 その中に明らかに、日本の武士の像があった。

「彼は?」

「彼も、日出ひいずる国から、来た勇者と聞いている」

「現在の魔王、沈黙の魔王ヤーグと、最後の一人となっても戦っていたそうだ。武人として、私もかくありたいものだ」

 そう言う、彼女の腕組みをしている姿でさえ隙がなく、相当腕がたつ武人の様だ。

「彼はどうなったのですか? 」

「それはわからない、彼の死体だけは帰らなったらしい」
 
 魔王と最後に戦った勇者……考えても、どうどう巡りするので、答えは魔王に聞くしかない。


 彼女の後ろについて城の中を行くと、サロンの様な場所に通された。何人かの人々が話をしたり、軽い食事をとっているようだ。

「どうも副大臣のダイジスです」
 
 彼女から紹介された男はそう名乗った。燕尾服えんびふくに近い服を着て痩せている。鼻にひっかける眼鏡の付けた男。彼は少し小刻みにふるえていた。

「あの……大丈夫ですか? 」
 
 と言って手を差し出そうとした時、すべての音や声が止まった。ダイジスは軽く息を飲み。そしてこのサロンの人々は、ただ僕の挙動だけに細心の注意を向けている事がわかった。
 
 彼女だけがバツの悪そうな顔をして笑っていた。

「やぁー失礼、城の兵隊がこんなに殺気を誤魔化すのが、下手だと思わなかったから」

「じゃー皆さんにはご退場願おう、下手な役者はおよびじゃないんでね」

 そうすると一同一斉に敬礼したと思うと、退場して行った。その時、ダイジスも一緒に出て行こうとしたのだが……。
「副大臣は、なかなかの役者だと聞くよ」

「さぁー大臣の舞台はここ」
 
 彼女の隣のソファを叩いて、副大臣を座らせ、そして二人の前の特等席に右手を半円を描き、僕を招き寄せるのだった。

 つづく
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

父が死んだのでようやく邪魔な女とその息子を処分できる

兎屋亀吉
恋愛
伯爵家の当主だった父が亡くなりました。これでようやく、父の愛妾として我が物顔で屋敷内をうろつくばい菌のような女とその息子を処分することができます。父が死ねば息子が当主になれるとでも思ったのかもしれませんが、父がいなくなった今となっては思う通りになることなど何一つありませんよ。今まで父の威を借りてさんざんいびってくれた仕返しといきましょうか。根に持つタイプの陰険女主人公。

【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。 23歳の公爵家当主ジークヴァルト。 年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。 ただの女友達だと彼は言う。 だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。 彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。 また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。 エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。 覆す事は出来ない。 溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。 そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。 二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。 これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。 エルネスティーネは限界だった。 一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。 初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。 だから愛する男の前で死を選ぶ。 永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。 矛盾した想いを抱え彼女は今――――。 長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。 センシティブな所へ触れるかもしれません。 これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。

とある婚約破棄に首を突っ込んだ姉弟の顛末

ひづき
ファンタジー
親族枠で卒業パーティに出席していたリアーナの前で、殿下が公爵令嬢に婚約破棄を突きつけた。 え、なにこの茶番… 呆れつつ、最前列に進んだリアーナの前で、公爵令嬢が腕を捻り上げられる。 リアーナはこれ以上黙っていられなかった。 ※暴力的な表現を含みますのでご注意願います。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

処理中です...