魔王がやって来たので

もち雪

文字の大きさ
上 下
28 / 164
未来へ向けて

転移(てんい)

しおりを挟む
 彼の印象は、ぱっと見、派手と言う印象を受けた。

 耳に、沢山のピアス、それでも彼の印象をダークサイド側と言うより、明るく社交的に見える。

 いつでも、笑いを浮かべているかのような口角の上がった薄い唇のせいかもしれいない。まぎれもなく、その男は、大学で、フィーナと僕の様子をみていたリアクションのうるさい男だった。僕の様子がおかしいのを感じとった魔王が、僕の視線の先をたどって後ろを振り返る。

「魔物の頂点に立つ魔王が、そんな顔をするものじゃないと思うなぁ」

「今の君の顔を、見て君の大切な部下達が心配すると思うよ」

「そだねぇ……例えば……彼とか?」
 魔王が、椅子を引いて立ち上がり、僕と彼、アポストロフィの間をさえぎる様に立つ。
 
「貴方に対しての警戒は、するに越したことはない」

「どうしてそんな事を言うのかな? 僕は提示して、いつも結局は、君はそれを受け取っている」

「僕が示さなければ歩けなかった道は、1つじゃないはず」

「例えば、彼は……」

「辞めろ!!」
 魔王の声が耳に痛いほど響く。
 
「辞めてくれ頼む……」

 そして魔王は静かに懇願するのだった。僕は言葉を発する事は出来なかった。張り詰めらた糸の上に居る存在の僕と魔王。僕が発した不用意な一言で、その糸はあけっなく切れて……、底の見えない深い穴の中へ落ちてしまうのだろう。

「君は、そんのに大切なの? この子達が」

「君をただの魔物の王と、魔王であるとした――」

 
 僕は、目の前の様子が見ていられなくて……。
 
「すっ、すみません――異世界へ行きたいのですが、何の見返りも無に引き受けてくれませんか?」

「好きな子を助けたいんです!」
 と、手を挙げて宣言していた。ぼくの姿は、滑稽こっけいだった。

 
「君達は、なんでいつもそうなのくふぅぅ」
 
 謎の人物アポストロフィは、笑いをこらえていたが……やかて、手を叩いて爆笑しだした。魔王は、お前は……と言う顔で、僕と彼を見比べて、小さくため息をはく。

「狐の一族はいつでも恋愛、れんあい、してると思ってたけど」

「次元を超えて、恋愛した相手も、恋愛しか頭にないとか、どうなのそれは?」

「幸せになりますが? 」

「そうか、それは見てみたいものだね」
 彼は、さも面白いおもちゃをみつけたかの様に笑う。

「そうだ! ぼくからを祝福あげよう」
 僕はとっさにキッチンのお菓子の詰め合わせボックスに、手を伸ばし限定商品のお菓子掴む。

「あの――これ、限定商品のお菓子です! 美味しいらしいので僕から!」
 その後、彼にそのお菓子がどんなに素晴らしいか感謝しているかの説明をした。

 魔王がそれくらいでいいだろうって言うまで、言い倒した。アポストロフィは、祝福の話をすれば……僕がふたたび違うものを持ち出す事を感じ取ったのか……彼は僕を見ていた。

 彼の目は色彩を変えて変化する……。
 
「目的の場所は、召喚の間でいい?」
 少し吐き捨てる様に彼は言う。

「はい、お願いします」

「ハヤト、我は人間界へはいかぬ」

「魔界へ入ったら使いを差し向けるから頑張る様に」

「はい、フィーナの事よろしくお願いいたします」

「お前に言われるまでもない」

「はい」
 と、アポストロフィが言った。なぜ彼が?と思うと同時に、辺りは厳かな室内だった事に気付いた。

   つづく
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

恐怖体験や殺人事件都市伝説ほかの駄文

高見 梁川
エッセイ・ノンフィクション
管理人自身の恐怖体験や、ネット上や読書で知った大量殺人犯、謎の未解決事件や歴史ミステリーなどをまとめた忘備録。 個人的な記録用のブログが削除されてしまったので、データを転載します。

2025年何かが起こる!?~予言/伝承/自動書記/社会問題等を取り上げ紹介~

ゆっち
エッセイ・ノンフィクション
2025年に纏わるさまざまな都市伝説、予言、社会問題などを考察を加えて紹介します。 【予言系】 ・私が見た未来 ・ホピ族の予言 ・日月神示の預言 ・インド占星術の予言 など 【経済・社会的課題】 ・2025年問題 ・2025年の崖 ・海外展開行動計画2025 など 【災害予測】 ・大規模太陽フレア ・南海トラフ巨大地震 など ※運営様にカテゴリーや内容について確認して頂きました所、内容に関して特に問題はないが、カテゴリーが違うとの事のでホラー・ミステリーから「エッセイ・ノンフィクション」へカテゴリー変更しました。

伯爵夫人のお気に入り

つくも茄子
ファンタジー
プライド伯爵令嬢、ユースティティアは僅か二歳で大病を患い入院を余儀なくされた。悲しみにくれる伯爵夫人は、遠縁の少女を娘代わりに可愛がっていた。 数年後、全快した娘が屋敷に戻ってきた時。 喜ぶ伯爵夫人。 伯爵夫人を慕う少女。 静観する伯爵。 三者三様の想いが交差する。 歪な家族の形。 「この家族ごっこはいつまで続けるおつもりですか?お父様」 「お人形遊びはいい加減卒業なさってください、お母様」 「家族?いいえ、貴方は他所の子です」 ユースティティアは、そんな家族の形に呆れていた。 「可愛いあの子は、伯爵夫人のお気に入り」から「伯爵夫人のお気に入り」にタイトルを変更します。

拝啓、婚約者様。ごきげんよう。そしてさようなら

みおな
恋愛
 子爵令嬢のクロエ・ルーベンスは今日も《おひとり様》で夜会に参加する。 公爵家を継ぐ予定の婚約者がいながら、だ。  クロエの婚約者、クライヴ・コンラッド公爵令息は、婚約が決まった時から一度も婚約者としての義務を果たしていない。  クライヴは、ずっと義妹のファンティーヌを優先するからだ。 「ファンティーヌが熱を出したから、出かけられない」 「ファンティーヌが行きたいと言っているから、エスコートは出来ない」 「ファンティーヌが」 「ファンティーヌが」  だからクロエは、学園卒業式のパーティーで顔を合わせたクライヴに、にっこりと微笑んで伝える。 「私のことはお気になさらず」

[完結]いらない子と思われていた令嬢は・・・・・・

青空一夏
恋愛
私は両親の目には映らない。それは妹が生まれてから、ずっとだ。弟が生まれてからは、もう私は存在しない。 婚約者は妹を選び、両親は当然のようにそれを喜ぶ。 「取られる方が悪いんじゃないの? 魅力がないほうが負け」 妹の言葉を肯定する家族達。 そうですか・・・・・・私は邪魔者ですよね、だから私はいなくなります。 ※以前投稿していたものを引き下げ、大幅に改稿したものになります。

有能すぎる親友の隣が辛いので、平凡男爵令息の僕は消えたいと思います

緑虫
BL
第三王子の十歳の生誕パーティーで、王子に気に入られないようお城の花園に避難した、貧乏男爵令息のルカ・グリューベル。 知り合った宮廷庭師から、『ネムリバナ』という水に浮かべるとよく寝られる香りを放つ花びらをもらう。 花園からの帰り道、噴水で泣いている少年に遭遇。目の下に酷いクマのある少年を慰めたルカは、もらったばかりの花びらを男の子に渡して立ち去った。 十二歳になり、ルカは寄宿学校に入学する。 寮の同室になった子は、まさかのその時の男の子、アルフレート(アリ)・ユーネル侯爵令息だった。 見目麗しく文武両道のアリ。だが二年前と変わらず睡眠障害を抱えていて、目の下のクマは健在。 宮廷庭師と親交を続けていたルカには、『ネムリバナ』を第三王子の為に学校の温室で育てる役割を与えられていた。アリは花びらを王子の元まで運ぶ役目を負っている。育てる見返りに少量の花びらを入手できるようになったルカは、早速アリに使ってみることに。 やがて問題なく眠れるようになったアリはめきめきと頭角を表し、しがない男爵令息にすぎない平凡なルカには手の届かない存在になっていく。 次第にアリに対する恋心に気づくルカ。だが、男の自分はアリとは不釣り合いだと、卒業を機に離れることを決意する。 アリを見ない為に地方に移ったルカ。実はここは、アリの叔父が経営する領地。そこでたった半年の間に朗らかで輝いていたアリの変わり果てた姿を見かけてしまい――。 ハイスペ不眠攻めxお人好し平凡受けのファンタジーBLです。ハピエン。

百姓貴族はお呼びじゃないと言われ婚約破棄をされて追放されたので隣国で農業しながら幸せになります!

ユウ
恋愛
多くの女神が存在する世界で豊穣の加護というマイナーな加護を持つ伯爵令嬢のアンリは理不尽な理由で婚約を破棄されてしまう。 相手は侯爵家の子息で、本人の言い分では… 「百姓貴族はお呼びじゃない!」 …とのことだった。 優れた加護を持たないアンリが唯一使役出るのはゴーレムぐらいだった。 周りからも馬鹿にされ社交界からも事実上追放の身になっただけでなく大事な領地を慰謝料変わりだと奪われてしまう。 王都から離れて辺境地にて新たな一歩をゴーレムと一から出直すことにしたのだが…その荒れ地は精霊の聖地だった。 森の精霊が住まう地で農業を始めたアンリは腹ペコの少年アレクと出会うのだった。 一方、理不尽な理由でアンリを社交界から追放したことで、豊穣の女神を怒らせたことで裁きを受けることになった元婚約者達は――。 アンリから奪った領地は不作になり、実家の領地では災害が続き災難が続いた。 しかもアンリの財産を奪ったことがばれてしまい、第三機関から訴えられることとなり窮地に立たされ、止む終えず、アンリを呼び戻そうとしたが、既にアンリは国にはいなかった。

嫌われオメガが婚約破棄を申し出ました

田中 乃那加
BL
 舞台は現代。これはオメガバースの世界線での物語である。  ――御笠 皇大郎 (みかさ こうたろう)は元アルファのオメガ。  御笠家は数多くの政治家や学者、医学博士などを排出した由緒正しい家系である。  とある事件からアルファからオメガへビッチングして高学歴のエリートで容姿端麗の青年の人生が一転した。  アルファ家系であった中でのオメガ。  肩身が狭いどころではない。    針のむしろ状態で大学を中退させられたあと、小さな家を与えられ無愛想な家政婦と唯一優しかった祖母暮らしていた。  そこで次々と持ち込まれる縁談の話。    すべてを突っぱねていたが、優しかった祖母が倒れてから状況は変わった。    跡取り候補の弟からの脅しで、皇大郎は渋々縁談を受け入れた。  相手は貴島グループ(金融から不動産、他にも様々な業界にて拡大成長した巨大企業グループ)のいわるる御曹司。  貴島 高貴 (きじま こうき)である。  顔こそイケメンだが性格の悪い男で、もちろんアルファ。  見合いの席でとんでもない失礼な発言と乱暴をしようとしたクズ男。  すったもんだで婚約したものの、相手の会社で働くように要求された。  案の定、会社では腫れ物扱い。ヒソヒソされ嫌がらせも続く。    それでも祖母のため家のため必死で耐えた。  しかし婚約者は連絡もなく放置。  たまには食事でもと勇気を出して誘ってみるも素っ気なく断られる。  どこにいても孤独――そんな日々を三ヶ月。  ついに決定的な出来事が起こる。  社内の女性社員たちに呼び出され、婚約者には愛する人がいるから婚約破棄しろと罵倒される。    傷ついた皇大郎に追い打ちをかけるような出来事が。  そしてようやく決意した。  婚約破棄して家出してやろう、と。  クズなアルファ(?)に愛想をつかした生きる力強めなオメガのシリアスありのラブコメディ。  R18もあるよ!!!  

処理中です...