魔王がやって来たので

もち雪

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未来へ向けて

そこへ辿る人々と魔王の不思議

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 魔王は、あれから少し考えこんでいる様に口を閉じていた。彼は少し、いらだっている気もするし、悲しんでいる気もする。複雑にからむ糸の様で、僕には、その真相が見えてこない。
 
「貴様の世界には、偉業を成して消えていったものはいなか?」

 魔王が、突然口を開く、片ひじをつき足を組み窓の外を見ている。それは、僕に何かを知られたくないようであり、そして話にあきて無駄話をするようでもある。
 
 そんな魔王を見ながら彼の質問について考える……。

 ぼくの知っている人間の歴史の中でそんな人間は山ほどいる。何故なら人間の命は短いからだ。
 
「人間の命は短いので、そんな人間は山の様に居ますよ」

「違う、彼らは突然現れ偉業をなして、消えていく……そう……まるでよく仕組まれた物語の様に」

 やはり、魔王は少しいらだっているようで、違うと行った時の手の払いが少しいつもより乱暴の様にみえた。

「例えば偉大な世界を飲み込む様な魔王が現れた時、必ずそれを上回る勇者という存在があらわれる。だが、現れた勇者もこの世界に帰るなり、向こうの人間界で暮すなりすれば、ほぼ異世界の歴史には出てこん」

「物語のその一場面に立つ為、その何か、人間なり、国なりの為だけに生きた人間を知らぬか? と言っている」

「僕の知ってるところだと、ジャンヌダルクや日本で言うと、義経、弁慶などいますが……。それは単に彼らの偉業が素晴らしかったので、そう見えるだけだと思いますよ」

 ぼくは魔王を納得させるため、そう付け加える。

「うむ、まあ……そうかもしれん。まぁ我が、お前たちを引き合わせるだけのただの箱舟だったら……と、考えたら胸くそが悪くなっただけだ」

「それだったら、最高の船に乗ったわけですよね?」

「あぁ――だから我が、沈んだら骨位拾えよ」
 魔王が、少しおちゃらけた様に言う。いつもはそんな弱気な事を、言うような人ではないのに。

「大丈夫、魔王様には勇者がついてますし」
 
 そう言って僕がコーヒーを飲むと「100年早いわ」と魔王が言うのだった。

  ◇◆◇◆◇

 魔王は、また正しく座り直し、コーヒーかお茶か迷った後、コーヒーを少し飲んだ。

「我は、少し感傷に浸り過ぎた」

「フィーナの話をしょう。今日はその為に来たのだから」

 僕も正しく座りなおす。 ぱっと見は、将棋を指したり、カードゲームを始める子供の思い浮かべる格好になった。

「フィーナは、今年の暮れで18となる。さすれば……我の定めた法の中で、強制力を持って執行出来る、保護対処者から外れる事になる。そうすればフィーナは、一旦白銀狐しろがねぎつねの本家に帰る事になるだろう」

「何故!?」

「たぶんあの子がそう望むからだ……。あの子は、あの子の両親の様に狐達を、見捨ててはおけん」

「お前が、止めれば行かんかもしれんが……。たぶん、無理だな」魔王は、それはどうしょうもないと言う顔をするので、僕はわけがわからなくなる。

「何故、無理なのですか?」

「正直わからん。お前が、あの子と祝言をあげて幸せににしてても、無理な気がする」

「祝言があげて、とても幸せになりますが、何故無理か、理由を教えてください」
 
 人間と魔物と言うだけで、僕達に隔たりがあるのだから、魔王特有の疑問を提示して結局わからんでは、不安しか生み出さない。ここは強くでても、不安の原因を取り除くべきだった。

「人間に通じる様に言うと……狐達を置いて幸せになれない、心が納得しないと思うということだ」
 
 それは、あるのかもしれない。小さな悔いは、心に大きく打ち砕く時があるから……。

「魔物風に言うと、深く考えると誰かがあの子を呼んでおる」

「なんです!? いきなりスピリチュアル的な事を、言わないでください」
 
「そうか? 魔界では我がそう言うと、あ――邪眼の効果なんですね? って皆が納得するぞ」

 魔王は、少し不貞腐れて唇をとがらす。そして少し上を向き耳のピアスを触る。何、少し可愛くなっているんだ、この魔王は……という気持ちを隠し。
 
「魔界では、そんな事もあるんですね……」と言って僕は口裏を合わせたのだった。

 つづく
 
 
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