魔王がやって来たので

もち雪

文字の大きさ
上 下
22 / 164
ふたたび動き出す世界

狐の嫁入り道中

しおりを挟む
 今、机の上には、コーヒーカップが、2つと魔王の湯飲みが1つ並んでいる。

「すまん、コーヒーは後で楽しむとして……やはりお茶を貰えるか?」と言った結果だ。

 そのお茶を少し飲み、ウンウンと頷く魔王。そしてそれを見ながら明日は、魔王用の500ml入りのコーラーのペットボトルを2本買って来ようと考える、僕。

「で、狐の嫁入り行列が始まったわけだが、雨の中、正直眠たいのを我慢しながらみていると」

「まず晴れ着を着た狐の子供が、横を走っているのに気づく」

「その子供は転ぶのだが、そのままクルっと空中を宙返りして青白い月になってそのまま空へ飛んでいくのだ。」

「それを引き車から小雨に、濡れながら顔を出して見ていると……」

「山の高台になっている少しみはらしのいいところに、巫女の妖艶な 白銀しろがねの長い髪の女が、空から落ちて来て衝撃で、地鳴りと土埃が起こしながら地面に落下するのだ!」
 そういう魔王の頬はいつもより血色がよく赤みをおび、子供の様だった。

「でも、普通そこまで詳しく見えるものなのですか?」

「狐のよく使うあれだ、幻術か、もしくは化かされていたのか、どちらかだろう」

「見てみたいものですね」

「貴様は、それ自分とフィーナとの結婚手筈てはずする側になりたいのだろ?」
 ニャリと笑う魔王の顔をみて、彼の真意に気付く。

「なります! 絶対に……規模は小さくなるかもしれませんが、絶対に」

「何を、小さい事を言っておる」
 ふふふんと鼻で笑う魔王に、僕は頭をかくしか今はなかった。

「土煙、土埃は、小さな花火となって消える、そこに狐の耳を付けた男たちが馬に乗り現れる。その中の先頭の男と落ちてきた女が……」

「まぁ……なんだ、そこで手に手を取って、ゴホッゴホッ」
 魔王は、言い及んでいるのか、咳をして誤魔化しているように見える。ここは、あえて言及げんきゅうは、避けよう……。

「まぁ……いろいろあって、祝言の様子」

「白銀狐の赤子を掲げる場面なのあって、最後に、今回の主役の花嫁、花婿の姿が画面に映し出されたところで、本家に着いたわけじゃ」

「傘を差した男が、やって来て初めて、気付いたのだが……他の狐達には水滴1つ付いていなかったのも奴らの能力かもしれん」

「そして本家に入る時、人込みひとごみのもっと後ろの方で少しお腹の大きくなっていた白雪とフィーナの叔父の樹木きづきが仲睦ましく立っていたよ……」
 
 遠い日思いをはせる魔王の声が静かに伸びた。

「我の視線に気づくと、頭を下げて我が家に入るまでその頭は上がらなかった」

「傘をさしていた男は、『本当に仲がよろしい事で、もうこの本家には去年から幸せ続きで本当に喜ばしい事で』と言っておった」

「まぁ――祝言の様子は、体験した方が早いだろうし省く」
 こちらを見る目に何故か圧迫を感じるのは……気のせいだろうか……。

「その空から落ちてきた女性は、こちらの世界の人間なのですよね? 」

「そう言われているが、奇妙な話も聞く。だから、我もそう言ったが詳しくは藪の中だな」

「それから何かとあやつらと関わる事もあったが、だいたい平和だった。フィーナの叔父が、病で亡くなるまでは……」

「我が聞いたのは後の方で、樹月の死が目に見えて白雪に影を落とした時……。本家の家業を手伝っていた白雪を助けると言う名目で、あの男が出入りするようになってからすべては壊れていった」

「白銀狐の血を残す本家側と、商業の未来を歌うあの男とで、本家は2つに割れ。最後には、フィーナの両親は事故で亡くなった、きっとあのふたりの子も暗く、深い、嵐の海の様な渦の中に落ちていくのだろうと思っていた……。事故が、偶然なのか故意なのかは、今もわからぬし、調べる気もない魔界とはそう言うところなのだから……」

「しかし狐の嫁入り道中で見た、あの白銀の髪の巫女姿の女が我の前に現れた時」

「そして『貴方の役目をはたして』そう……あの声が、目が、あの指先が我にそう告げた時、すべてが

「そして今、ここで我はお前に昔話を聞かせている」
 
 僕は静かに魔王の昔話を飲み込む。それは重く、静かに、そこにあった。


   つづく
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

美しい姉と痩せこけた妹

サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

処理中です...