魔王がやって来たので

もち雪

文字の大きさ
上 下
23 / 219
ふたたび動き出す世界

狐の嫁入り道中

しおりを挟む
 今、机の上には、コーヒーカップが、2つと魔王の湯飲みが1つ並んでいる。

「すまん、コーヒーは後で楽しむとして……やはりお茶を貰えるか?」と言った結果だ。

 そのお茶を少し飲み、ウンウンと頷く魔王。そしてそれを見ながら明日は、魔王用の500ml入りのコーラーのペットボトルを2本買って来ようと考える、僕。

「で、狐の嫁入り行列が始まったわけだが、雨の中、正直眠たいのを我慢しながらみていると」

「まず晴れ着を着た狐の子供が、横を走っているのに気づく」

「その子供は転ぶのだが、そのままクルっと空中を宙返りして青白い月になってそのまま空へ飛んでいくのだ。」

「それを引き車から小雨に、濡れながら顔を出して見ていると……」

「山の高台になっている少しみはらしのいいところに、巫女の妖艶な 白銀しろがねの長い髪の女が、空から落ちて来て衝撃で、地鳴りと土埃が起こしながら地面に落下するのだ!」
 そういう魔王の頬はいつもより血色がよく赤みをおび、子供の様だった。

「でも、普通そこまで詳しく見えるものなのですか?」

「狐のよく使うあれだ、幻術か、もしくは化かされていたのか、どちらかだろう」

「見てみたいものですね」

「貴様は、それ自分とフィーナとの結婚手筈てはずする側になりたいのだろ?」
 ニャリと笑う魔王の顔をみて、彼の真意に気付く。

「なります! 絶対に……規模は小さくなるかもしれませんが、絶対に」

「何を、小さい事を言っておる」
 ふふふんと鼻で笑う魔王に、僕は頭をかくしか今はなかった。

「土煙、土埃は、小さな花火となって消える、そこに狐の耳を付けた男たちが馬に乗り現れる。その中の先頭の男と落ちてきた女が……」

「まぁ……なんだ、そこで手に手を取って、ゴホッゴホッ」
 魔王は、言い及んでいるのか、咳をして誤魔化しているように見える。ここは、あえて言及げんきゅうは、避けよう……。

「まぁ……いろいろあって、祝言の様子」

「白銀狐の赤子を掲げる場面なのあって、最後に、今回の主役の花嫁、花婿の姿が画面に映し出されたところで、本家に着いたわけじゃ」

「傘を差した男が、やって来て初めて、気付いたのだが……他の狐達には水滴1つ付いていなかったのも奴らの能力かもしれん」

「そして本家に入る時、人込みひとごみのもっと後ろの方で少しお腹の大きくなっていた白雪とフィーナの叔父の樹木きづきが仲睦ましく立っていたよ……」
 
 遠い日思いをはせる魔王の声が静かに伸びた。

「我の視線に気づくと、頭を下げて我が家に入るまでその頭は上がらなかった」

「傘をさしていた男は、『本当に仲がよろしい事で、もうこの本家には去年から幸せ続きで本当に喜ばしい事で』と言っておった」

「まぁ――祝言の様子は、体験した方が早いだろうし省く」
 こちらを見る目に何故か圧迫を感じるのは……気のせいだろうか……。

「その空から落ちてきた女性は、こちらの世界の人間なのですよね? 」

「そう言われているが、奇妙な話も聞く。だから、我もそう言ったが詳しくは藪の中だな」

「それから何かとあやつらと関わる事もあったが、だいたい平和だった。フィーナの叔父が、病で亡くなるまでは……」

「我が聞いたのは後の方で、樹月の死が目に見えて白雪に影を落とした時……。本家の家業を手伝っていた白雪を助けると言う名目で、あの男が出入りするようになってからすべては壊れていった」

「白銀狐の血を残す本家側と、商業の未来を歌うあの男とで、本家は2つに割れ。最後には、フィーナの両親は事故で亡くなった、きっとあのふたりの子も暗く、深い、嵐の海の様な渦の中に落ちていくのだろうと思っていた……。事故が、偶然なのか故意なのかは、今もわからぬし、調べる気もない魔界とはそう言うところなのだから……」

「しかし狐の嫁入り道中で見た、あの白銀の髪の巫女姿の女が我の前に現れた時」

「そして『貴方の役目をはたして』そう……あの声が、目が、あの指先が我にそう告げた時、すべてが

「そして今、ここで我はお前に昔話を聞かせている」
 
 僕は静かに魔王の昔話を飲み込む。それは重く、静かに、そこにあった。


   つづく
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

【書籍化進行中、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

婚約破棄は結構ですけど

久保 倫
ファンタジー
「ロザリンド・メイア、お前との婚約を破棄する!」 私、ロザリンド・メイアは、クルス王太子に婚約破棄を宣告されました。 「商人の娘など、元々余の妃に相応しくないのだ!」 あーそうですね。 私だって王太子と婚約なんてしたくありませんわ。 本当は、お父様のように商売がしたいのです。 ですから婚約破棄は望むところですが、何故に婚約破棄できるのでしょう。 王太子から婚約破棄すれば、銀貨3万枚の支払いが発生します。 そんなお金、無いはずなのに。  

幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない… そんな中、夢の中の本を読むと、、、

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

処理中です...