魔王がやって来たので

もち雪

文字の大きさ
上 下
5 / 164
前日譚 

ある青年の思い出 伍

しおりを挟む
 魔界の天候は、それぞれの土地によってさまざまに違う。

 白銀家しろがねけのある、この土地では月に近いためと言う理由で、春夏秋冬の季節があり人々はそれを楽しむ事が出来た。梅雨ももう終わりかけのその日、朝から雨は横なぐりの状態で続いている。
 
 そんな天気の中で、フィーナの両親は町の会合に出掛けていたが、夜中になっても二人は帰って来ることはなかった。そんな中でもフィーナは、決して取り乱す事はしなかったが、逆にそんなフィーナの事を思い本家に勤めていた者の何人かは……そのまま、その日は本家に泊る。私も、そして両親に泊まる事を止められた向日葵も、無理を言ってその日は泊っていた。




 時間は丑三つ時を過ぎた頃、隣の大広間かから聞こえてきた彼女の声に気付いて、私は目を覚ました。
 
「幸子、お父様とお母様は大丈夫なのですか?」

「残念だが……桂月けいげつ桔梗ききょうも朝まで生きていられないだろう……」

「そしてあの場所はとても危険な場所で、今のお前を連れていく事もできない」

「では、幸子だけでも、父のもとに戻ってもいいのですよ?」

「それも出来ない願いだ……あの子の最後の願いは、『自分の死が確定したその瞬間からあの子お前を守って欲しい』だった、あの子の願いをないがしろには出来ない」

「さぁー私が月から落ちてきた時からの、いにしえの約束をしましょうさぁ……貴方も入って来て」

 彼女がそう言うと、私の目の前の大広間の障子が開いた。


 巫女姿の儚い感じのする女性。つややかな白銀色の髪が、腰まである狐ではない女性それが、『幸子』だった。
 月から落ちてきた彼女は、代々の当主をこよなく愛し、彼らに力を与える。白銀の家の誰もが知っているが、誰でもが姿を知ることは出来ない存在……。

「さぁ……ふたりに桔梗の花をあげるわ」

 フィーナは黙って受け取り、私は「でも……」(花は一人にしか譲渡出来ないのでは……)と言う前に、「いいのよ!いくら私が貴方たちを愛しても、貴方たちは勝手に私よりかけがえのない者をみつけるのだから、この際かわいそうな私は何人に花をあげてもいいと思うわ」と言い切り私に桔梗の花を手渡した。

 伝説の彼女はとても押しの強い人らしい……。信じられない思いで、フィーナはを見るとフィーナは静かに泣いていた。信じられないものを見た、ぼくの目からも一筋の涙がこぼれた。
 
「可哀そうにふたりともこんなにまだ幼いのに大人達が望む様に、大人のふりをして生きてきたのね……でも、大丈夫」
 
「今日は私の魔法のせいで二人とも泣いているのよ。だから……せめて今日位……貴方達が泣くのを、貴方達は許してあげてね……」

 幸子様の魔法かそれとも、梅雨の最後の大雨と雷が、僕たちを隠してくれたのかはわらない……。

 僕たち二人は朝、大人たちが起きてくるまで、幸子様の腕の中で泣いていたのであった。

 つづく
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

処理中です...