魔王がやって来たので

もち雪

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僕の日常にやって来た魔王 (本編はここからです)

魔王とともに電車に乗って

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 電車が、住宅街の中を進んでいる。
 ガタンゴトンと言う音と心地良いリズムと振動の中、ぼくと魔王は並んで座っている。

 
「ヤーグさんが、電車の切符用のICカードを持っているとは思いませんでしたよ」
 外で呼び捨て気まずいので、名前にさんをつける。
 
「ああ……いろいろあってな……」
 
 いろいろの部分がとても気になる。
 しかしそれを聞いてしまうと僕自身も決まずい、思いするような予感がするのであえて言及は避けた。


 僕は魔王の方を見る。魔王は、濃い紺色の着流しの着物を着ている。
 
「その着物もいろいろあった結果で、着てるのですか?」

「ああ……まぁそうだ。私の姿だとアレだ……。この国の兵士がよく私の声をかけて、身分証明書なるものを出せと言うのだが……この格好でカメラを持っていれば、その回数も減るのだ」


 そう言って魔王は少し遠い目をした。きっといろいろあったのだろう……深く聞かないのが僕の情けであった。


 その時、電車の扉が開き人々が往来する。
 
「ヤーグさん、次の駅で降ります」
 
「うむ、わかった」
 
 ――しかし本当に、魔王とともに大学へ行く事になるとは……。
 はぁ……あっちの世界の人類と共存ために、必要な事だとか言われたら断れないよな――。

                  ◇◆◇◆◇

 電車に乗る前の僕たちはーー。
 僕が机の上のコップを片付けながら……、魔王の事を見ずに話しかけていた。

「ヤーグさん……、貴方にとって魔界や向こうの人類の関係が大切な様に、ぼくにとっても大学生と言う立場は大切なのです。これでも一生懸命勉強して入った大学なので……もし貴方の住む異世界へ行っても、いや向こうへ行くからこそ大切にしたいのです」

 幼い子供が秘密を打ち明けるように、静かに話す僕に……。

「わかっておる」
 魔王は、そう言って微かに髪に触れる程度に、ぼくの頭を撫でる。
 
 その時、僕は少しだけ……魔王と戦う未来について少し考えた。

                   ◆◇◆◇◆
 
 そんな感じで、断る為の口実こうじつを魔王は受け入れて、僕を労わる感じまである。僕は毎回、魔王にほだされすべてを受け入れている気がする……。
 
(どうしてこうなった!?)




 そんな僕の気持ちなどお構いなしに、電車は目的地に着き大勢の人々が下りる、僕たちはそれに続いた。僕は魔王の前を歩くと、エスカレーターの前に来た。

「こっちだ」
 
 魔王は、僕の肘を引きエスカレーターの方から、階段の方へと誘導する。その様にほぼ無言の中で二人は歩いていたが、時折セルフレジーの駅なかの店などについて、魔王が尋ねたりしていた。人々が吸い込まれる大学の前の道から、少し離れた人の通らない場所まで来ると――。

「ヤーグさん、大学にはどれ位いるつもりですか?」

「もし先に帰るようだったら、あそこに見える電話ボックスから僕の携帯に電話をしたら少しまてば、話した内容が記録出来る仕組みが出来ているのですが、連絡手段はそれで大丈夫ですか?」

「それより携帯をだしなさい」

「はい?……」
 僕は言われるまま携帯を出すと、魔王はさっさと番号登録のページを開き、」ぼくに登録するようにうながした。魔界に、携帯ショップでもあるのだうか……?しかもこちらの携帯と互換性のある携帯が……。

 それとも人間界で? 契約会社はどこなんだろう……。

 個人的な意見だが、魔王には少し機械音痴くらいであって欲しかった。こんな感じでは今流行りのゲームなども、スイスイクリアしてしまいそうである。
 ……もしかして、実際はゲーム機位あるのでは? 魔王のイメージをそこないそうで聞けない……。
 

「うちの大学は、図書館と食堂と購買が解放されて出入り自由です。携帯もすぐに見られる環境ではないので、いざとなれば草薙ハヤトで呼びだして貰って大丈夫です」
 
「後……」

「わかった!わかった!」と、魔王は僕の言葉を遮る様に言うと――。

「遅刻しないように早く行きなさい」
 そう言って、魔王は手をヒラヒラさせ早く行く様に促す、魔王なりの気の使い方なんだろう。
 
「あっそうですね、行ってきます!」

 そう言ってぼくは魔王を後にして、学校の校舎へかけていった。

 つづく
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