86 / 153
6巻
6-1
しおりを挟む第一章 初花の乙女と優しく見守る者
「痛たたっ……ヴィオ、ちょっとキツイです。意地悪しないでください」
――ある晴れた日の昼下がり、私のウエスト周りを測っていたヴィオに非難の声を上げたところ、残念そうな視線を向けられました。
なんですか、その憐れみを含んだ視線は!?
「リリアナ……もしかして太った?」
「嘘!? 私はてっきり、ヴィオがふざけてきつめに測っているのかと……違うんですか!?」
お願いです。嘘だと言ってください。
けれど……
「仕事中にふざけるわけないだろ。半年前に採寸したときより、明らかに太くなってるよ」
そんな!?
ショックを受けた私は、その場にヘナヘナとしゃがみ込んだ。
そんな私を、呆れたような顔で見下ろすヴィオ。彼女は、私が幼い頃からお世話になっているジル曾お祖父様の曾孫です。もっとも、私と曾お祖父様は血縁関係にないんですけどね。本人たっての希望で、そう呼ばせてもらっています。
ジル曾お祖父様は、リーシェリ商会という大きな組織を束ねるすごい人。ヴィオは、そんな曾お祖父様のもとで服飾関係の仕事をしている。
ヴィオの作る服はとても評判がよくて、いつも忙しくしているみたい。けれどその忙しい合間を縫って、この頃は私のために奔走してくれています。
そう、ヴィオは今、私のドレスを作ってくれているんです!
今日は、採寸を終えたあとにドレスのデザインを決める予定なのですが……
まさか、太っているとは思いませんでした。
いやいや、でも見間違いって可能性もありますよね?
私は勢いよく立ち上がって、ヴィオにお願いした。
「もう一度! もう一度測ってみてください!!」
ヴィオはため息をつきつつ、私のウエストを測り直して、布製のメジャーを指し示します。
こっ、これは、前世を含めても最高記録!?
「そっ、そんな……」
――そう、私には、前世の記憶がある。
前世の私は、橘ゆかりという名前の女子高生でした。けれど交通事故で命を落としてしまい、この世界に転生したみたい。今は、シェルフィールド王国の伯爵家の娘、リリアナ・ラ・オリヴィリアとして暮らしている。
もちろん、最初は戸惑いの連続だったよ。言葉が違うし、文化も違うし、この世界は日本に比べて生活水準も低い。
何より、魔法や精霊が存在する、ファンタジーな世界なんだから!!
……それはさておき、今考えなくちゃいけないのは、今までで一番太っちゃったってことだよね。どうしよう、年頃の乙女としてはあるまじき事態です。
(リリアナ、太ったの? ねぇ、太っちゃったの?)
打ちひしがれる私の頭上を、幼い女の子がくるくると飛びまわる。ウェーブのかかった金髪に、大きな金色の瞳を持つ女の子です。
彼女の名前はルーチェ。私を守護する光の精霊なんだけど、他の精霊に比べたらまだまだ子供。見た目も言動も幼いところがあります。
(ねえ、リリアナってば、太っちゃったの?)
うぅ……禁句を無邪気に連呼するなんて。私の心に、見えない刃がぐさぐさと刺さります。
(ルーチェ、「太った」っていうのは、女性には絶対言っちゃいけない言葉なんだよ。メッ!)
すると、ルーチェは不思議そうに首を傾げた。
(えぇー、なんで言っちゃいけないの? 太ったって、大きくなったってことでしょ? 私は、大きくなったら嬉しいのに!!)
(精霊はそうかもしれないけど、人間は「太った」って言われたら嬉しくないの。だから、ダメよ)
(ふぅん。人間って変なの)
私とルーチェがそんなやりとりをしている間も、メジャーを手にきびきびと採寸を進めていたヴィオ。紙に採寸結果を書きとめると、満足したように頷きました。
「よし、これで全部測り終わったな。あとはドレスの図案を……ってリリアナ、どうした?」
つまらなそうな表情で、部屋を出ていったルーチェ。その後ろ姿に思わず険しい目を向けていたので、ヴィオは不思議に思ったのでしょう。
ヴィオには、ルーチェの姿が見えません。それに、私とルーチェは心の中での会話――心話によってやりとりをしているから、声も聞こえないんだよね。
「ごめん、ヴィオ。……辛い現実を受け止められずに、ぼんやりしちゃったみたい」
「あぁ、それわかる。やっぱり体型は気になるよな」
「ヴィオは細いからいいじゃないですか」
私がそう言うと、ヴィオは自分の姿を見下ろして苦笑した。
彼女が着ているのは、男物の服。この世界で男装する女性はすごく珍しいんだけど、すらりとした体型のヴィオにはよく似合っています。巷では、男装の麗人って言われているみたい。
私と二人きりのときはぶっきらぼうな口調だけど、普段はすごく丁寧なしゃべり方だしね。お客さんの中には、ヴィオファンの女性も多いんだって。ヴィオの猫かぶりには脱帽です。
「服を綺麗に着こなすためには、体型の維持が必須だろ。普段から気をつけてるんだよ。それでも太った……なんてこともあるし、一度太ると元に戻すのは難しい」
「そうですよね……。私も、初花の儀までにはなんとかしなくちゃ……」
初花の儀というのは、前世で言うところの成人式です。もっとも、参加するのは貴族の子息令嬢のみですが。
この世界では、十六歳で成人となります。そして貴族の子息令嬢達は、王宮で開催される初花の儀に必ず参加しなくてはなりません。いわゆる社交界デビューってやつですね。
ヴィオが作ってくれるドレスは、そのときに着るためのもの。
私の晴れ舞台に向けて尽力してくれているのに、一方の私は自分史上もっとも太い体型でそのドレスを着るなんて……絶対に嫌!
私がダイエットを決意していると、ヴィオは困り顔で言います。
「痩せすぎたら、今度はドレスにゆとりができて、みっともないぞ。まぁ、とりあえず半年前の寸法に合わせてドレスを準備しておくか。もっとも、痩せなかったら直しが入ることになるけど……」
つまり、痩せられなかったら、ヴィオやお針子さん達に迷惑をかけてしまうことになるんですね……
「ヴィオ、私、なんとしても痩せてみせます!」
「わかった。リリアナがきちんと痩せるって信じてるからな」
「ありがとう、ヴィオ。私、頑張るよ!」
初花の儀まで、あと一月あまり。
ヴィオとお針子さん達のためにも、自分のためにも、明日からダイエットしなくっちゃ!
私はヴィオに断りを入れて、顔を洗うために部屋を出ました。そして、慣れ親しんだオリヴィリア領館とは間取りの違う廊下をゆっくり進んでいきます。
ここは、王都にあるオリヴィリア伯爵家の別邸。以前、王都を訪れたときにも滞在した、小さなお屋敷です。普段は、お父様が王都でお仕事をするときに使っているみたい。
初花の儀を間近に控えた私は、家族と一緒にオリヴィリア領を離れ、しばらくの間は王都ローレリアに滞在することになりました。
社交界デビューのためにそこまでするなんて大げさにも思えますが、初花の儀にはもう一つの側面があるんです。それは、「婚約者選びの場」でもあるということ。
こちらの世界の女性の結婚適齢期は、十六歳から二十歳。
私も貴族として生まれたからには、政略結婚をしなくてはいけません。結婚なんてまだまだ先のことだと思っていたのに、そうも言っていられなくなりました。
「ずっとオリヴィリア領にいたら、未来の旦那様との出会いもないでしょう?」というお母様の言葉により、私達一家は、私の婚約がととのうまで王都に滞在する予定。
オリヴィリア領主として毎日忙しくしているお父様は、なんだか不満そうな顔をしていました。うぅ、本当に申し訳ないです。
この頃は補佐官のアレスさんと連携を取り、領地と王都を行き来してお仕事をこなしているみたいだけど、やっぱり大変だよね。
こうなったら、お父様のためにも早めに結婚相手を探さなくては!
となると、ますますダイエットが必須ですね。
私は意気込みながら顔を洗い、再び廊下を歩いて部屋に戻った。そしてヴィオと一緒に隣室へ移動する。
そこには、難しい顔をしたお母様とジル曾お祖父様の姿。
二人の眼差しは、机の上にぎっしり並べられた紙に注がれていた。それは、ヴィオが描いたドレスの図案。私のために、ヴィオがこんなにたくさんの図案を考えてくれたなんて、感激です。ヴィオの作ったドレスを着るのが楽しみだよ。私も女子ですからね。ヒラヒラしたドレスは大好物ですよ。
ただし、並べられた図案はどれも可愛らしいものばかり。シックなエレガント系のドレスがないのはなぜだろう? 私には似合わないってこと?
ふと浮かんだ疑問を頭の隅に追いやり、私は難しい顔をした二人に声をかけた。
「お母様、ジル曾お祖父様、採寸が終わりました。私に似合いそうなドレスはありましたか?」
すると、二人はそれぞれ口を開く。
「どれも素敵な図案ね。さすがはヴィオ」
「うむ。さすがはわしの曾孫じゃ。しかし、どの図案のドレスもリリアナお嬢様に似合いそうでな。奥方様とも話し合ったのじゃが、なかなか決まらん」
そのとき、背後から「フッフッフッ」という地を這うような低い笑い声が聞こえてきました。その声の主は、ヴィオです。
「リリアナお嬢様に似合う図案がなければ、今王都で話題のあの人にドレスを作らせるぞ……そう言って私を脅したのは、どこの誰でした? ねぇ、大祖父様?」
「お前こそ、近頃、客が減ったと落ち込んでおったじゃろう? お前を焚きつけるためにわざと言ったのであって、本心ではない」
王都で話題の、あの人? 一体、誰のことを言っているんだろう。
それに、ヴィオの服はあんなに人気だったのにお客さんが減ってしまっただなんて……どうして?
私が首を傾げていると、ジル曾お祖父様が口を開いた。
「今、王都には人気の図案師がいてな。アナという女性で、彼女が作り出したドレスは流行の最先端を行くと言われておる……最近は、ヴィオの店よりも人気なんじゃ」
ドレスの図案師。つまりは、デザイナーさんですね。
オリヴィリア領は辺境の地ですし、私達一家が王都に来たのはつい先日。まったく知りませんでした。
「アナは、ここ一年ほどで数々の美しいドレスを生み出した人物。その才能は服飾にとどまらず、様々な方面で活躍しているという。実際、わしの商売にも影響が出はじめておってな……」
「へぇ、そんなすごい人がいるんですか。きっと、素敵な女性なんでしょうね」
「いや、それが彼女の姿を見たという者はほとんどおらず、素性の知れない人物なんじゃ」
ジル曾お祖父様の言葉に、私は目を丸くする。
それだけ活躍しているのに、ほとんど誰も彼女を見たことがないなんて。そんなことが可能なんでしょうか? よほど、姿を見せたくない事情があって隠れているとか? もしくは恥ずかしがり屋さん?
私が考えを巡らせていると、今まで黙っていたヴィオが口を開く。
「アナは、かつてのリリアナ様みたいな人物ですよね。まるで、リリアナ様と同じことを考えているような……」
「えっ?」
ヴィオの言葉に、私の顔が強張る。
「以前、リリアナ様が衣装の新たな縫製方法を伝えたことで、服飾の流行は大きく変わりました。それだけではありません。リリアナ様は、今まで誰も見たことのないようなドレスの図案を描いていましたね。それが人々の心を掴み、急速に広がっていき、今日の流行がある。なのに、ここ数年のリリアナ様は図案を描かなくなった……。なぜですか?」
ヴィオの鋭い視線に、私は俯きました。
幼い頃、確かに私はたくさんの図案を描いた。けれどそれは、服飾の流行を変えようと思ってしたことじゃない。お姫様や貴族のお嬢様と言ったら、ひらひらフリフリのドレスでしょ! と前世の感覚のままに図案を描いてしまったんです。
この世界の貴族女性が着る一般的なドレスは、袖口がふわりと広がったブリオー。リボンもフリルもない、シンプルなドレス。
なのに、私が気軽に前世の知識を披露したことで、服飾の流行は変わってしまった。それがどれだけ危険なことか、今の私は知っている。
セイルレーンにはない文化や価値観、技術を伝えることによって、思いもよらない結果がもたらされるかもしれない。いい結果ならいいけれど、悪い結果だったとしたら――それも、私自身ではなく家族や大事な人まで巻き込んでしまったら――
私は、家族のもとで穏やかに暮らしていきたい。大事な人達を傷つけたくない。
ヴィオの鋭い視線を感じながら、私はおずおずと顔を上げた。
「……あれは、落書きのようなものです。幼い頃に着たかった夢のドレス――でも、あの頃描いたドレスが私の思いつく限りだったんです。なので、もう図案は描けなくなりました」
そして、誤魔化すようににっこりと笑う。
「……リリアナ様は描けなくなったのではなく、描かなくなったのではありませんか? ここ数年、リリアナ様はその才能をひた隠しにしています。本当にもったいない。喉から手が出るほど、才能を欲している人だっているのに……」
「ヴィオ……」
私が呟くと、ヴィオはハッとした表情を浮かべ、申し訳なさそうに眉を下げる。
「申し訳ありません。リリアナ様も色々あったのに……。アナの件もあり、つい弱音を吐いてしまいました。これでは、商人失格ですね……」
いつも強気なヴィオが、しょんぼりと肩を落として落ち込んでいる。こんなヴィオの姿、はじめて見ました。
「そんなことありません! ヴィオの作るドレスは、どれも素敵じゃないですか! だから、商人失格だなんて言わないでください!! ヴィオには才能があります。私はいつもヴィオを応援しているし、私にできることがあればなんでも協力したいと思っているんですよ!」
思わず熱く語ると、それまで物憂げな表情を浮かべていたヴィオは、ニヤリと笑った。
「リリアナ様にそう言っていただけるなんて、嬉しい限りです。私としても、ぜひリリアナ様のお力をお借りしたいと思っていたのです。何せリリアナお嬢様は、我が国の服飾史のはじまりを築いたとも言える人物。そんなリリアナ様と私が手を組めば、アナのドレスに勝るものを作れるでしょう!」
「なっ、何を言っているんですか、ヴィオ!」
服飾史のはじまりって……大袈裟にもほどがありますよ。それに、さっきまでのしょんぼりした態度は? あれっ? もしかして私、ヴィオにはめられた?
私が慌てていると、ヴィオは少し意地悪そうな表情でこう続けました。
「できることがあればなんでも協力したい、という先ほどの言葉は嘘だったのですか?」
「そっ、それは……」
――言質を取られてしまったので、どうしようもありません。いつの間にか、今さら断れない状況ができあがっていました。
さすがはヴィオ。付き合いが長いだけあって、私の性格をよくわかっていますね。
私は、おとなしく白旗を掲げることにした。
「わかりました。私にできることは、なんでもお手伝いします。でも、過度の期待はしないでくださいね」
釘を刺すようにそう言うと、ヴィオは満面の笑みを浮かべた。
「ありがとうございます、リリアナ様! ではさっそくなんですが……リリアナ様が初花の儀でお召しになるドレスの制作を手伝っていただきたいんです! リリアナ様が手を加えたドレスとなれば、それだけで価値のあるものになるでしょう!!」
興奮した様子でまくしたてるヴィオに、お母様が相槌を打つ。
「あら、それは楽しそう。うんと華やかな衣装にして、儀式に参加しているお嬢さん達にもヴィオのドレスを宣伝したいところね」
「ぜひ、お願いします! リリアナ様は、美と愛と豊穣の女神様の加護を目一杯受けていることがわかる外見ですし、ドレスを身にまとったら、さぞお美しくなることでしょう! それで注目を浴びれば、有力貴族……いえ、王太子殿下ともご婚約できるかもしれませんね」
なんですか、その最悪の結末は! 冗談にしたって、タチが悪くて笑えませんよ!!
結婚相手を見つけなくちゃいけないのはわかっています。だけど、高位貴族、ましてや王族に嫁ぐ気なんて、さらさらありませんから!
そんなことになったら、気苦労が絶えず十円ハゲができそうです……
「ヴィオ、お願いがあります。できる限りのお手伝いはしますが、あくまでもヴィオの描いた図案をもとに制作を進めてください。その際、私の名前を大々的に謳って宣伝するのは、やめてくださいね」
きっぱりした口調でそう頼むと、ヴィオはしぶしぶ頷きます。
「かしこまりました」
そんな私達を見て、お母様とジル曾お祖父様はにこにこ笑う。
「リリアナちゃんとヴィオの合作ドレス、楽しみね」
お母様の言葉に、ヴィオはハッとした表情を浮かべる。
「そういえば、こうしてリリアナ様と一緒に服を作るのははじめてですね」
「確かに……。ヴィオ、なんだかすごく楽しみになってきました」
これまで服飾対決をしたことはありましたが、一緒に服を作ったことはありませんでした。はじめての共同作業ですね! うん、楽しみです。
話がうまくまとまってホッとしていると、扉からノックの音が聞こえた。
「奥方様、リリアナお嬢様、お飲みものをお持ちいたしました」
「あらっ、エレンね。どうぞ、入りなさい」
「失礼いたします」という声とともに、扉が開かれる。そこには、使用人のエレンが立っていた。
私がまだ小さかった頃に巻き込まれた、誘拐事件。それを機に知り合い、仲良くなったのがエレンです。今では、使用人として我が家に勤めてくれています。
エレンは、机の上に置かれた図案を避けるように、器とお皿を配膳していく。
「ありがとう、エレン。コーヒーとクッキーですね。美味しそう」
私の言葉に、にっこりと微笑み返すエレン。いつもなら、そのまま部屋の隅に移動して静かに控えているんだけど、今日は机の近くに立ったまま。じっとドレスの図案を見つめています。
「あらっ、エレンもリリアナちゃんのドレスが気になるのかしら?」
エレンの様子に気づいたお母様が、嬉しそうに声をかけました。
「はい。奥方様、リリアナお嬢様、私もドレス選びに参加させていただけないでしょうか? 出過ぎたことを申し上げて恐縮なのですが……ミーナより、リリアナお嬢様のドレスを世界で一番素晴らしいものにしてね、と鬼気迫る筆致の手紙をもらっておりまして」
ミーナちゃんというのは、私の親友の名前です。治療師の卵で、今は医術を学ぶためにエルフィリア王国に留学中。
この間もらった手紙には、初花の儀のドレスを見られなくて残念だと書かれていました。社交界デビューにふさわしい豪華なドレスを着てね、ともありましたが……念押しするように、エレンにまで手紙を書いていたとは。
「……わかりました。よければ、エレンも参加してください」
私が頷くと、エレンは目を輝かせながら、机に並んだ図案に目を走らせる。
「さすがはヴィオ様ですね。リリアナお嬢様を引き立たせるようなドレスばかり。もう候補は決まったのですか?」
エレンの問いかけに、私は首を振りました。
「どれも素敵で、まだ何も決まっていないの。ただ、できれば踊りやすいドレスにしてほしいです。だって、初花の儀では踊らなくちゃいけないでしょう?」
そう、初花の儀ではダンスを披露しなくちゃいけないんです。
社交界デビューを迎える貴族の子息令嬢達は、皆が集う大広間で、一人ずつ王族にご挨拶します。それが終わったら、お次はダンスの時間。このとき踊るのは、成人したばかりの男女のみ。
この二つが終わると、ようやく他の人達もまじえての舞踏会がはじまります。それまでは、会場の皆さんの視線がこちらにびしばし突き刺さること間違いなし。うぅ、苦行です。考えただけで胃のあたりが痛くなりますね……
挨拶だけならまだしも、皆の前で注目されながら踊るなんて! もしここで失敗したら、どんな噂を立てられるか、わかったもんじゃありません。オリヴィリア伯爵家の名に泥を塗ってしまうかも……
お母様から淑女教育を受けたとはいえ、ダンスの腕は達人からは程遠い並レベル。
華美なドレスのせいで踊りにくくなってしまっては、危険極まりないです。
私の主張に、ヴィオは唸りながら机の図案を見つめた。
「踊りやすいドレスですか……。そうなると、重たいドレスはやめたほうがいいですね」
ヴィオはそう言って、該当する図案をはじいていく。すると、残された図案は随分少なくなった。
「うーん。残ったドレスは、比較的落ち着いたものばかりですね。軽いドレスとなると、どうしても装飾が少なめになってしまいますし……。ちなみに、この図案の中ではこれが一番軽そうですね。ただし、地味すぎる気もしますが」
ヴィオは、私に一枚の図案を手渡す。
それはプリンセスラインのドレスで、胸からウエストにかけて花の刺繍が施されており、スカート部分には可愛らしい花びら模様がたくさん散っていました。
うん、これだったら踊りやすそうです。
0
お気に入りに追加
2,393
あなたにおすすめの小説
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話
ラララキヲ
恋愛
長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。
しかし寝室に居た妻は……
希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──
一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……──
<【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました>
◇テンプレ浮気クソ男女。
◇軽い触れ合い表現があるのでR15に
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾は察して下さい…
◇なろうにも上げてます。
※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
実家から絶縁されたので好きに生きたいと思います
榎夜
ファンタジー
婚約者が妹に奪われた挙句、家から絶縁されました。
なので、これからは自分自身の為に生きてもいいですよね?
【ご報告】
書籍化のお話を頂きまして、31日で非公開とさせていただきますm(_ _)m
発売日等は現在調整中です。
三年目の離縁、「白い結婚」を申し立てます! 幼な妻のたった一度の反撃
紫月 由良
恋愛
【書籍化】5月30日発行されました。イラストは天城望先生です。
【本編】十三歳で政略のために婚姻を結んだエミリアは、夫に顧みられない日々を過ごす。夫の好みは肉感的で色香漂う大人の女性。子供のエミリアはお呼びではなかった。ある日、参加した夜会で、夫が愛人に対して、妻を襲わせた上でそれを浮気とし家から追い出すと、楽しそうに言ってるのを聞いてしまう。エミリアは孤児院への慰問や教会への寄付で培った人脈を味方に、婚姻無効を申し立て、夫の非を詳らかにする。従順(見かけだけ)妻の、夫への最初で最後の反撃に出る。
妹と旦那様に子供ができたので、離縁して隣国に嫁ぎます
冬月光輝
恋愛
私がベルモンド公爵家に嫁いで3年の間、夫婦に子供は出来ませんでした。
そんな中、夫のファルマンは裏切り行為を働きます。
しかも相手は妹のレナ。
最初は夫を叱っていた義両親でしたが、レナに子供が出来たと知ると私を責めだしました。
夫も婚約中から私からの愛は感じていないと口にしており、あの頃に婚約破棄していればと謝罪すらしません。
最後には、二人と子供の幸せを害する権利はないと言われて離縁させられてしまいます。
それからまもなくして、隣国の王子であるレオン殿下が我が家に現れました。
「約束どおり、私の妻になってもらうぞ」
確かにそんな約束をした覚えがあるような気がしますが、殿下はまだ5歳だったような……。
言われるがままに、隣国へ向かった私。
その頃になって、子供が出来ない理由は元旦那にあることが発覚して――。
ベルモンド公爵家ではひと悶着起こりそうらしいのですが、もう私には関係ありません。
※ざまぁパートは第16話〜です
地味薬師令嬢はもう契約更新いたしません。~ざまぁ? 没落? 私には関係ないことです~
鏑木 うりこ
恋愛
旧題:地味薬師令嬢はもう契約更新致しません。先に破ったのはそちらです、ざまぁ?没落?私には関係ない事です。
家族の中で一人だけはしばみ色の髪と緑の瞳の冴えない色合いで地味なマーガレッタは婚約者であったはずの王子に婚約破棄されてしまう。
「お前は地味な上に姉で聖女のロゼラインに嫌がらせばかりして、もう我慢ならん」
「もうこの国から出て行って!」
姉や兄、そして実の両親にまで冷たくあしらわれ、マーガレッタは泣く泣く国を離れることになる。しかし、マーガレッタと結んでいた契約が切れ、彼女を冷遇していた者達は思い出すのだった。
そしてマーガレッタは隣国で暮らし始める。
★隣国ヘーラクレール編
アーサーの兄であるイグリス王太子が体調を崩した。
「私が母上の大好物のシュー・ア・ラ・クレームを食べてしまったから……シューの呪いを受けている」
そんな訳の分からない妄言まで出るようになってしまい心配するマーガレッタとアーサー。しかしどうやらその理由は「みなさま」が知っているらしいーー。
ちょっぴり強くなったマーガレッタを見ていただけると嬉しいです!
幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。
秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚
13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。
歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。
そしてエリーゼは大人へと成長していく。
※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。
小説家になろう様にも掲載しています。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。