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4巻
4-3
しおりを挟む「うーん、だけど何に変身すればバレないかな」
まず図書室に入る方法を考えなくちゃ。
窓はあるものの鍵がしまっているし、外からは侵入できないでしょ。
そうなると、やっぱり扉を使うしかない。
だけど、堂々と入ったらジェレミーお師匠様に気づかれちゃうよね。
扉と床の隙間から侵入するとなると……うん、蟻くらいのミニミニ小人サイズになれば、きっと通れそう。
無事、図書室に入った後は、またサイズを変えなきゃ。
だってミニミニ小人サイズのままじゃ、目的の日記がある棚に行くまで時間がかかる。何より力が足りなくて、日記を回収できないものね。
よし、小動物くらいの小人サイズになろう。
日記を回収したら、急いでまた扉の下から……ううん、ダメだ。
日記は厚みがあるし、たぶん通れない。
となると、窓の鍵を開けて外に日記を落とすとか? そして鳥になれば、日記を回収して飛んで逃げられるよね。
いや、でも窓を開けるとき、小人サイズのままじゃ難しい。もっと大きくならなくちゃ。
その場合、ジェレミーお師匠様に気づかれてしまう可能性が高いんだよね。何せ、あんなに勘が鋭いんだもの。
うぅ、幻影の仮面で変身すれば楽勝だと思ったのに……
図書室からの日記奪還ミッションは、思いのほか難易度が高いかもしれない。
どうにかして、普通に侵入できればいいんだけど……
――あっ、そっか。違う人に変身すればいいんだね!
私は幻影の仮面を手に、ある人の姿を思い描く。
すると、炎に包まれたような熱さが全身を襲った。だがそれも一瞬のことで、すぐさま熱は過ぎ去っていく。
よし、変身完了。
どれどれ、上手く変身できたかな?
私は、ドキドキしながら姿見の前に立つ。
そこに映し出されたのは、鴉の濡れ羽色の髪に、深海のような藍色の瞳を持つ男性。表情からは、どこか冷たい印象を受ける。
「やった! ちゃんとシリウス先生の姿になってる! 成功ですね!!」
嬉しさのあまり満面の笑みを浮かべると、姿見にもにっこり笑ったシリウス先生が映る。
「うわぁ、先生がにこにこすると、こんな表情になるんだ。大発見」
本物じゃないけれど、シリウス先生の満面の笑みが見られるなんて……すごく貴重ですよね。
だけど、いつもの私みたいにへらへら笑っていては、ジェレミーお師匠様に怪しまれるだけ。
何せシリウス先生は、無表情が標準装備ですからね。気をつけなくっちゃ。
無表情、無表情、無表情――
呪文のように心の中で繰り返すと、鏡の中のシリウス先生は、やがて表情をなくしていった。
「よし、作戦決行です!」
私は部屋を出て、図書室に向かう。
なるべく足音を立てないようにしながら歩き、やがて目的地に辿りついた。
緊張しつつ、鍵穴にそっと鍵を差しこむ。ゆっくり回したら、ガチャリと音が鳴った。
……結構、音が響くね。
たぶん、もう気づかれているんだろうな。
だけど、慌てても仕方ない。ここは正々堂々と、落ち着いて行動しなきゃね。
何せ、今の私はなりきりシリウス先生なんだから。
私はドアノブに手をかける。扉は、ギィーと音を立てながら開いた。
室内には先ほどのように、ゆらゆら揺れる光の球が浮いている。
その光の側には、案の定、胡坐をかきながら本を読んでいるジェレミーお師匠様の姿があった。
うん、お師匠様のいる位置からして、まだ私の日記がある棚まで進んでいないみたい。
「どうした、シリウス?」
お師匠様は、本から目を動かさずに尋ねてくる。
少しもこちらを見ないけど、きっとこの部屋に入ったときからシリウス先生の姿をとらえていたんだろうな。
私は気づかれないように小さく息を吐いた後、答えた。
「リリアナ様が、やはり先ほどの本を読みたいとおっしゃられたので、取りに来たのです。私のことは気にせず、そのまま書物をご覧ください」
私の名誉のため言わせていただきますが、本当は読まないよ。
だけどそうでもしないと、上手く誤魔化せないと思う。
シリウス先生が恋愛関連の本棚に用があるなんて、怪しすぎますからね。
ただ、これでお師匠様には完全に誤解されちゃったな。
うぅ、ミッションに多少の犠牲はつきものですよね。
「うむ、わかった」
どうやら、お師匠様はすんなり信じてくれたみたい。
ふぅ、第一関門クリア。不審に思われず良かったです。
私は喜びが表情に出ないよう気をつけながら、目的の棚の前に辿りつく。
さて、まずはこの本を取って――と。
……あれっ?
さっき本を置いたとき、私、こんなに綺麗に並べたっけ?
からかわれているような雰囲気が嫌で、むしろ乱雑にしまった気がするのに。……いやいや、気のせいだよね。
綺麗に並べられた本に手をかけたとき、お師匠様が声を上げた。
「なぁ、シリウス。あの話、どう思った?」
「あの話、ですか?」
それ、なんのことですかーー!?
もっとヒントをください!!
「手紙に書いただろ」
手紙って……本物のシリウス先生が読んでいたアレのことですか!?
私は偽者で、手紙を読んでいないからまったくわかんないよ。
うぅ、進退窮まったかも……
冷や汗をかいていると、お師匠様が口を開いた。
「シリウスが王都にいられなくなったのは、神話を根底から覆すような旋回説を説いたからだ。あのまま王都にとどまれば、異端審問にかけられて、下手をしたら命はなかっただろう。しかし、今はもうあの時とは違う。それにお前、半年ほど前に王都へ出向いたそうじゃないか。ここへ来る前に王都に立ち寄ったが、知り合いがお前を見たと言っていたぞ」
半年ほど前といえば――幻影の仮面を手に入れるため、王都ローレリアに行ったときのことだ。
確かに、シリウス先生にも同行してもらったよね。
「お前のことだ、自ら危険に飛びこむ真似はすまい。王都に行ったのは、確かめたかったからだろう。あれから五年――自分の存在が教会の標的になったままなのかどうか。確認するには、ちょうどいい頃合いだった。だからこそ、ルイス様も止めなかったのだろう」
そういえば、シリウス先生は王都でたびたび留守にしていました。
私は呑気に、昔のお友達に会いに行っているのかと思ってたけど――
かつて先生が王都を追われたこと、すっかり失念していたよ。
もしあのとき、シリウス先生の身がセイルレーン教会に渡っていたら……
私はできるだけ無表情でいようとしたが、身体が小さく震えてしまう。
私、自分のことだけじゃなくて、もっと人のことまで気遣える人間にならなきゃ。
「無事、確認はできたようだな。お前が王都にいても、教会は動かなかった。これが答えだよ。……同じ頃、王都の教会上層部で何やら揉め事があったらしいから、それどころではなかっただけかもしれないがな。加えて、聖域にはいわくつきの精霊巫女様がいる。俗世のことにあれこれ口出しされて、教会は手を焼いているようだ。きっと、シリウスにかまっている暇などないだろう」
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それにしても、いわくつきの精霊巫女様ってどういう意味だろう?
聞いてみたいけど、もしそれがこの世界の常識だったら不審に思われちゃうよね。我慢、我慢。
今の私は、なりきりシリウス先生なんだから!
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「シリウス。私の知っている五年前のお前とは、少し変わったようだな。リリアナお嬢様の傍は、よほど心地よかったのだろう。だが、お前は探究心が強い。オリヴィリア領が以前より発展したとはいえ、学問の中心地はやはり王都だ。それに、多くの情報だって集まる。お前ほどの人間を、ここで燻らせておくのはもったいない。私は、お前がここで終わるような人物ではないと確信しているんだ」
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……本当は行ってほしくありません。
でもシリウス先生は、いつまでもこんな田舎にいていい人じゃない。
それは、痛いほどよくわかっています。
私も大人にならなくてはいけませんよね……
「……わかりました」
私は重々しく、了承の言葉を吐き出した。
先生なら、間違いなくそう言うに違いないから……
すると、暗闇から安堵のため息が聞こえてくる。
「そうか。わかってくれたようで何よりだ」
私は一刻も早くここから逃げ出したくて、棚の空いたスペースに手を突っこむ。
指先に触れた本を掴んで引っ張り出すと、表紙には『リリアナの日記』とセイルレーンの文字で書かれている。
よし、目標物発見。
私は日記が見つからないように、恋愛に関する本と本の間に挟んだ。
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走り出したい気持ちをおさえ、私は足早に図書室を後にした。
自室に戻る際、私が歩いた廊下には涙のしずくが点々と落ちていた。
一睡もできなかった私は、翌朝、涙で赤く腫れてしまった目元をぐいぐいこする。
「まぁ、リリアナちゃん。一体どうしたの? 目の調子が悪いの?」
朝から目元を冷やしてみましたが、腫れは全然引きませんでした。
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いつもの自分をイメージして幻影の仮面を被っているから、皆には腫れのない淡紅色の瞳に見えているはず。
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「そう、ならいいのだけれど……」
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うぅ、ごめんねラディ、レティ。
嘘つきなお姉ちゃんを許して。
人間、ときには嘘をつかなくてはいけないこともあるんだよ。
「でも……シリウス先生……。うーん、姉さまがそう言うってことは、見間違えたのかも」
どこか釈然としない表情のラディに、レティが声をかける。
「うん、きっと見間違えちゃったんだよ。だって姉さまは嘘をついたことがないもん」
二人の先ほどの言葉が真実なだけに、ズバズバと胸を刺しますね。ごめん、お姉ちゃんはたった今、嘘をついたよ。
「うぅ……」
私は痛む胸を手で押さえた。
「うふふ。良かったわね、ルイス。今日という日が危うく血塗られた惨劇の一日となるところだったわ」
お母様は、ころころ笑いながら恐ろしい言葉を口にする。
「すまなかった、シリウス君。私の勘違いだったようだ。……ただもし同じようなことがあれば、何かしらの対処をしなくてはいけないので覚悟しておきたまえ」
謝罪しつつも、牽制の言葉を吐くお父様。
シリウス先生の命……いえ、名誉のためにも、今後は変身するときに気をつけなくてはいけませんね。まぁ、先生に変身することはそうそうないと思いますが。
乾いた笑いが響く中、食堂の扉が勢いよくバタンと開かれた。
扉の前には、筋骨隆々なお爺さん、ジェレミーお師匠様の姿があった。
「ジェレミーお師匠様!?」
図書室すべての本を読み終わるまで出てこないと宣言していたお師匠様が出てきたということは……まさか!?
「オリヴィリア家の皆様、おはようございます」
「ジェレミーお師匠様、もしかして図書室すべての本を読みつくしたのですか?」
おそるおそる尋ねると、お師匠様は事もなげに頷く。
「ええ」
そんな!
図書室にはかなりの書物があります。すでに読んだことのある本を別にしたとして、早すぎませんか!?
「だから言ったではありませんか。師の知識への欲求は、常人に理解しがたいものなのです」
シリウス先生はブラックコーヒーを飲みながら、さらりと言う。
いやいや、シリウス先生。それまったくフォローになってないですから。
「すごい! 筋肉のお爺さまだ!!」
「うわぁ! 筋肉モリモリー!!」
はじめてジェレミーお師匠様と会ったラディとレティは、感嘆の声を上げて走り寄る。
お父様は、優しい表情で二人を紹介した。
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「はじめまして、ラディウスです。ラディと呼んでください」
「はじめまして、レティシアです。レティと呼んでください」
可愛らしい二人の挨拶に、お師匠様も微笑ましそうだ。
「はじめまして。私はお二人のお父様の家庭教師をしていたジェレミー・アストリアと言います。ぜひ好きなように呼んでください」
「「じゃあ、筋肉お爺ちゃん!」」
「ラディ、レティ、それはいくらなんでも失礼ですよ」
直接的すぎる表現を窘めた私だったけれど、お師匠様は左右に首を振る。
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お師匠様の言葉に、ラディとレティはそれぞれ左右の腕に掴まる。すると、お師匠様は軽々と腕を持ち上げた。
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お母様はにっこり笑うけれど、その目は笑っていません。
「……これは失礼いたしました。最後にお会いしたのはご結婚前でしたので、そのときの癖が……お許しいただけますか、アリス様?」
「ええ、許して差し上げますわ、ジェレミー師」
お師匠様の謝罪に、お母様は茶目っ気たっぷりの表情で笑った。
「ねぇ、ねぇ、筋肉のお爺ちゃん。お外で一緒に遊ぼうよ!」
「そうだよ! レティ達と一緒に遊ぼう!!」
腕から下ろされたラディとレティは、お師匠様の両手を握ってぐいぐいと引っ張る。
「こらっ、ラディにレティ、ジェレミーお師匠様を困らせてはいけません。お師匠様はひどくお疲れなのですから、寝台でぐっすり休んでいただかなきゃ」
おそらく、図書室の蔵書をすべて読むために一睡もしていないに違いありません。
お年を召しているのだから、徹夜はさすがに辛いはず。
私だって眠気には勝てないから、徹夜をしようとは思えないもん。
可愛い小悪魔達からお師匠様を救い出すべく、フォローの言葉を口にした私だったけれど……
「リリアナお嬢様、お気遣いありがとうございます。ラディ様にレティ様、遊ぶのではなく、このオリヴィリア領にあるという学校に案内してくれませんか?」
「「学校案内?」」
ラディとレティはそろって小首を傾げた。やがて意味を理解すると、ぱぁっと表情を明るくする。
お師匠様、完徹したのに、休むことなく出かける体力まであるのですか!
その筋肉、伊達じゃないようですね。
「シェルフィールド王国には貴族の子弟が通う学校しかなかったので、商家出身の私は学問を許されなかった。そこで、聖賢の国ノルディスの学校で学んだのです。しかし今、オリヴィリア領には誰もが学べる学校があると聞きました。ぜひとも見てみたい。リリアナお嬢様とシリウスも同行していただけると嬉しいのですが……」
確かに、オリヴィリア領には誰もが学べる学校があります。
学ぶ権利は、皆平等に持っているのだから。
ジェレミーお師匠様のような方に興味を持っていただけて、とても嬉しいです。
お師匠様がオリヴィリア領を去るのは明日。そのとき、きっとシリウス先生もついていくことになるよね。
そうなると、最後の思い出を作れるのは今日だけ……
了承を求めてお父様を見上げると、にっこり笑って頷いてくれた。
「わかりました! では、ジェレミーお師匠様とシリウス先生、ラディ、レティ、私の五人で学校見学をしましょう!!」
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