えっ? 平凡ですよ??

月雪 はな

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1巻

1-3

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 神はなげいた。
 この世界で一人であることに。
 神の涙のしずくが一滴ほおつたい流れ落ちると、大地の女神と海の男神が誕生した。
 そのとき、神は『創造』を知った。願いに想いと力が重なるとそれは叶うのだと……
 その瞬間、神は一人ではなくなった。
 神は創造を続けた。
 世界に光を与える太陽の男神や、安らぎを与える夜と月の女神といった神々を。
 創造神たる神が寂しくないように、子である神々も子を生み、神は十二柱となった。
 創造神は、大地に動物や草花なども生み出した。やがて、自らの姿に似せた人を創造する。
 しかし、人は一人で生きていくには弱くもろい存在。
 そんな弱き人へ、創造神は願いを叶える力を与えた。それが魔法だ。
 魔法の力を使い、人は繁栄はんえいした。
 人は創造神と神々を崇拝すうはいし、創造神はもちろん、神々も自らの子のように人を愛し、助けた。
 神の寵愛ちょうあいが深い者はより強い力を持ち、神のいとと呼ばれた。
 人は神の愛し子のもとへつどい、やがて国を作る。そうして、大陸には多くの国々が生まれた。
 神は自らの愛し子が建国せし地に、加護を与えた。
 しかし人は欲深く、さらなる大地と力を求め、神々を交えて争いを起こした。
 創造神は嘆く。
 自らの子同士が争い合うことを。
 創造神にとって、生み出した神や人は、等しく自らの子だったから。
 創造神は、神が地上へ降り、力を振るうことを禁じた。
 人が国境を越え、争うことを禁じた。
 おきてを破る者には制裁を。創造神は、力を取り上げたのだ。
 それは、魔法の力と加護の消失を意味する。
 願いは叶わず、加護は失われ、大地と人心は荒れていった。
 人は自らの行いをい、改めた。
 そして、人はまた願う。豊かな大地で、平和に暮らしていたあの日々を。
 願いは天に届き、創造神は慈悲じひを与えた。
 あやまちを繰り返すことなかれ。さすれば加護を約束しよう。
 しかし、繰り返すならば、再び大地に混沌こんとんが訪れる。
 神の名を呼ぶことなかれ。地に降り立てぬ神の心を揺り動かすことなかれ。
 人が呼んで良い名はただ一つ。
 我、セイルレーン創造神のみ。
 世界の名はセイルレーン。

『セイルレーン聖典――原初・不文律――』

 「こうして、神々の名はされました。この世界の各国にはそれぞれの神の加護があり、人は神の教えを守ることで、魔法を使うことができるのです」
 願いを叶える力なんて凄すぎます。やっぱり、魔法は必修だね。

「私達が住んでいるシェルフィールド王国は、美と愛と豊穣ほうじょうの女神に守護されている国です。それゆえに、この国には見目みめうるわしい者が多く、作物の収穫量も多いのです」

 美形が多いのはお国柄だったんですか、先生!
 どうりで美男美女が多いわけですよ。なぞが一つ解決しました。

「分かりやすい例を挙げましょう。例えば、学芸の女神が守護する国の人々は知能が高く、それ故に知略に優れていますが体力はありません。戦いの男神の加護は人々に力を与え、体力がある反面、知ではおとります。他にも様々な加護を受けている国があります。お嬢様、なにかご質問はございますか?」

 はい、先生。話の展開が速すぎます。
 私が本当の意味で八歳だったら、絶対に理解できていませんからね、先生。

「レオドール先生、地図はありませんか? 実際に見てみなければ、他国との位置関係が分かりません」
「それもそうですね」

 先生は教材などを入れていた箱の中からある物を取り出し、私の目の前に置いた。それを見て、私は少し驚いて言った。

「地球儀ですね。いや、ここはセイルレーンという名の世界だから、セイルレーン儀? でも、大地が球体であることは変わらないから、やっぱり地球儀でいいのかな?」

 球体の部分をよく見ると、やっぱり大陸の形が前世と違う。そして、その大陸は不自然なまでに大きい。おそらく、他にも大陸はあるけど認知されていなくて、この大陸だけがすべてと思っているからなんだろうな。
 そんなことを考えていると、レオドール先生がいきなり私の両肩をガシッ、とつかんだ。

「なぜ、世界が球体であることを知っている?」
「えっ?」

 世界が球体であることを知っていて、おかしいということは……
 おそらくまだ、このセイルレーンでは世界が丸いと立証されていないんですね。
 立証されていなければ、人々が世界を半球か平たい形だと思っていても不思議じゃない。
 そういえば、先生の口調が変わったけれど、これが素なのかな。

「レオドール先生は、どうして世界が球体だと思ったのですか?」
「船で沖から陸に近づくと、遠くに見える山のいただきが先に見え、裾野すそのは陸地に近づかないと見えない。それに、月の神隠しでは球体の影が現れる。だから、世界は半球などではなく、球体だと確信している」
「月の神隠し?」

 神隠しって、突然行方不明になることだよね。

「年に一、二回ほど起こる、月が黒い影に隠れていく現象だ。月がすべて隠れるときもあれば、部分的なこともある」
「あぁ、月食ですね」
「月食?」
「月の神隠しのことです。世界は太陽を中心にしてまわっていますが、太陽とセイルレーン、月が一直線に並ぶとき、セイルレーンの影が月にかかって、月が欠けて見える現象のことですよ」

 宇宙から世界を見たら丸いと証明できるけど、この時代に宇宙船なんかあるわけないもんね。でも先生の言った現象からも、世界は球体だということが導き出せる。簡単そうで意外と難しい証明なのに、先生って凄い。
 先生は、私の両肩から手を離した。

旋回せんかい説か。それこそが、私が王都にいられなくなった原因だ」

 旋回説……地球でいうところの地動説のことなんだろうな。

「その旋回説を説いただけで、どうしてレオドール先生が王都にいられなくなるのですか?」
「神話によると、世界のすべてはセイルレーンを中心にまわっている。そうでなければ、世界が根底からくつがえってしまうそうだ。私は神への反逆者らしい」

 そうか、先生は――

「レオドール先生は先駆者せんくしゃなのですね」

 先駆者の多くは、初めは世の中に認めてもらえず、人々から笑われた。だけど、先生は決して笑われるような人じゃない。先生は、正しいことを説いただけなのだから。

「レオドール先生。人は、数歩先のことは受け入れることができます。けれど、それ以上先のことは分からず、受け入れられないものです。ですが、時代が進み、技術が進歩すれば、先生が正しいことはいずれ証明されます。世の中の流れに逆らう先駆者こそ新たな流れを作り出すのです」

 私が前世でいた地球でもそうだった。だから、私は世界が球体であることも、太陽を中心に惑星わくせい軌道きどうを描いていることも知っているのだ。

「私、レオドール先生に教師として来ていただけて良かった。先生のような貴重な方を独り占めして、これからたくさんのことを教えていただけるのかと思うとうれしいです。先生の価値を分かっていない王都の人達など、ざまあみろです」

 後世の人達が惜しい人物を手放した、と悔しがる様子が脳裏のうりに浮かび、私は思わずクスクスと笑ってしまう。
 すると、先生はおなかをおさえ、身体をくの字に曲げていきなり大笑いし始めた。
 それは、初めて見せてくれた表情。

「お嬢様、口が悪いですよ。それにしても、こんなに笑ったのは初めてだ」

 私はっぺたを丸くして、先生をにらみつける。

「そんなに笑わなくてもいいじゃないですか。私は、思ったことを正直に言っただけです」

 笑いがようやくおさまった先生は、何食なにくわぬ顔で姿勢を正し、私を見つめた。

「口が悪いお嬢様には教育が必要ですね。私はしばらく王都に戻ることができないので、これから長い付き合いになりそうです。ですから、やはりレオドールではなく、シリウスとお呼びください」
「シリウス先生ですね。では、私のこともお嬢様ではなく、リリアナと呼んでください」
「リリアナ様、と呼ばせていただきます」

 私はにっこりと笑って、先生に右手を差し出した。

「シリウス先生、これからよろしくお願いいたします」

 差し出した手は、力強く握り返される。

「リリアナ様、こちらこそよろしくお願いいたします。そして、ありがとうございます」

 そう言って笑った先生の笑顔は、とても穏やかだった。


    ◇ ◆ ◇


 私の名は、シリウス・レオドール。
 世の中は、馬鹿ばかりだ。
 私は、シェルフィールド王国の活気ある港町で、船乗りの息子として誕生した。
 物心がついてからというもの、私はこの世のなぞに夢中だった。
 なぜ、昼と夜があるのか? 海は波打つのか? 夜空で星が輝くのか?
 大人に質問しても、太陽の男神がお休みしている間は夜と月の女神が安らぎを与えてくれるんだよ、などと曖昧あいまいなことを言い、到底満足の得られる答えはくれなかった。
 私は書物を読むのが好きだった。そこには知識があふれていたからだ。周囲の大人達が口にするような子供だましの答えは書物にはない。私の知的欲求は、歳を重ねるごとに高まった。
 しかし、父親は船乗りで、しがない庶民。そんな父のもと、しかも五男として生まれた私が受けられる教育などたかが知れている。私は自らの未来を考え、子供ながらに絶望した。
 私の知りたい答えは、永遠に得られそうにないことに……
 しかし、私が十三歳のときに好機は訪れた。
 港町に高名な学者が滞在することになったのだ。私はさっそく学者のもとを訪ね、問いかけた。

「私が貴方あなたに教えをうたら、貴方は私になにをさずけてくれますか?」
「私は君が求める答えを持っていない。しかし、答えを知る機会を与えよう。小さな探究者よ」

 その日から、私は学者の弟子となった。師は、私に彼の知りうる知識をすべて授けてくれた。
 しかし、私の知的欲求はおさまることなく、さらなる高みを目指した。
 私は再び、世界の謎に取り組んだ。


 私は二十五歳になったとき、王都の学会で、ある説をいた。
 それは、太陽を中心にセイルレーンや月がまわっているという旋回せんかい説だ。
 しかしその説は、大陸全土で信仰されているセイルレーン教関係者の反感を買った。彼らは、説を撤回てっかいせず、弁解もしなかった私を宗教裁判にかけるべきだと訴え、神を愚弄ぐろうする反逆者だとほざいているらしい。本当にこの世は、馬鹿ばかりで理解に苦しむ。だが、低脳な奴らに理解を求めようとした私もおろかだったのだ。
 師は、今のうちに王都を離れなさい、と私の兄弟子にあたる人物を紹介してくれた。
 以前に一度だけ、王都でお会いしたことがある方だった。
 あの方は決して馬鹿ではない。私にとって稀少きしょうな存在だ。
 どうやら、ご息女の家庭教師を私に頼みたいらしい。
 ガキのおりか。ガキは嫌いだ。あの馬鹿どもに輪をかけて頭が悪く、うるさく、わずらわしい。
 しかし、他に道もないので話を受けることにした。
 それが、私にとって最良の選択だったとも知らず。


「久しぶりだね、シリウス君。十二年ぶりかな。随分と大きくなった」

 の人……オリヴィリア伯爵は、私を執務しつむ室に招き入れ、にこやかに出迎えてくれた。
 前にお会いしたときは、こんな風に笑う人ではなかった。

「オリヴィリア伯爵もご健勝けんしょうでなによりです。ご息女の家庭教師の件、どうぞお任せください」

 私は礼をし、伯爵と向き合う。

「シリウス君、私の娘は特別なんだよ」

 なにを突然言い出すのか……伯爵は、随分と子煩悩こぼんのうになったらしい。

「親の欲目だと思われるだろうが、そうではない。本当に特別なんだ。娘に会えば君も分かると思うよ」

 伯爵夫妻の子供であれば、平民の子供とは違うと言える。
 しかし、この方が言っている特別とは、そういう意味ではないだろう。
 この方の行動や発言で、無意味なものなどありはしない。おそらく、なにか別の意図があり、こう言ったのだと思うが……

「娘には、平凡で穏やかな人生を歩んでほしいと願っている。だからあの子には、あえてなにも教えてこなかった。ねだられるまで、館から出すこともしなかった。知らないことが幸せだと思ったのだよ。まるで鳥籠とりかごだね……」

 伯爵は悲しげにそう言うと、苦笑した。

「だけど、なにも知らないことに気づかれてしまったよ。師から君の話を聞いたとき、君なら娘のことを理解できると思った。娘をよろしく頼むよ」

 私は了承の意味を込めてうなずき、伯爵の執務室をあとにした。

「シリウス君、娘を孤独にしないでやってくれ」

 伯爵が、小さくつぶやいたような気がした。


「シリウス先生ならどうやって、他の方法で世界が丸いことを証明しますか?」

 目の前にいるのは、あの伯爵をして『特別』と言わしめたリリアナ様だ。
 あの二人の娘なだけあり、随分と見目みめうるわしい。伯爵の神秘的な紫水晶アメジストの瞳と、夫人のつややかな銀の髪を受け継いでいた。将来はさぞ、美女として名をとどろかせるだろう。
 リリアナ様は想像と違い、随分と変わった方だった。
 神への反逆者とまで言われた私の説を当然のように受け止め、しまいには私を先駆者せんくしゃと呼び、私に教わることができてうれしいと言う。
 彼女は果たして特別なのか?

「シリウス先生、聞いていますか?」

 腕を組みながら考えこんでいた私を、リリアナ様がのぞきこむ。

「ええ、船で世界を一周し、反対側から元の地点に戻ることができれば、世界は平面でも半球でもなく、球体であることが証明されますね」
「確かに。凄く単純ですね」

 それができれば、どんなに簡単か。私は言葉を続けた。

「しかし、大きな問題点が二つあります。一つは、世界の果てのへりから落ちてしまうと、船乗りが本気で考えている点です」

 リリアナ様は意味が分からなかったようで、キョトンとしている。

「セイルレーン教の神話の聖典です。要約すると、聖獣せいじゅうが柱のように世界を支えていて、大陸の先には誰も到達したことのない、世界の果てが広がっている。世界の果てでは、海水が滝のように流れ落ちている。この世界平面説が、広く信じられています。だから船乗りたちからは、一周することなど不可能だし、世界の果てにある滝に落ちたくないと言われるでしょうね」
「世界の果ての滝……そんな話を、すべての船乗り達が信じているんですか!?」

 リリアナ様は目を見開いて言う。

「私が冗談を言っているように見えますか?」

 本当に馬鹿げた話だが、彼らは本気でそう思っているのだ。
 だから、いっこうに世界の真実が明らかにされない。
 リリアナ様には私の思いが通じたのか、ありえないとでも言うように、首を左右に振っていた。

「ですから、まず乗組員を集めることが難関なのです」

 おそらく乗組員は集まらず、航海に出ることはできないだろう。

「二つ目は資金ですね。これがないと船すら用意できません。ですから、未だかつて世界の果てに出た者はおりません」

 私の言葉に、リリアナ様は悲しげな表情をする。きっと、私と同じくもどかしさを感じているのだろう。

「世の中やはりおか……いえ、なんでもありません。だから、先生が見せてくれたセイルレーン儀にはこの大陸しか描かれていなかったのですね」

 そう、私が作ったこの道具には、一つの大陸しか描かれていない。

「シリウス先生、もし……もしもですよ。これから先の未来に世界の果てに船出し、そこで新たな大地を見つけたらどうなるのでしょうか?」

 リリアナ様は新大陸の可能性までとなえるか……面白い。

「新たな大地を発見したとなれば、人々はその地をくまなく調べるでしょうね」
「そうですよね。ただ、その大地には原住民がいるかもしれません。そこが、文明や社会の進んだ国であれば問題はないのです。ただ……」

 リリアナ様はなにかにおびえるように身体を震わせながらも、言葉をつなぐ。

「そうでなかった場合、原住民が迫害されてしまうこともあるのではないでしょうか……」

 これだけの会話で、そこまで先を想像できるとは……

「リリアナ様、この可能性は誰にも知られてはいけないのかもしれません。私はその悲しい未来を否定することができません」
「シリウス先生、これは二人だけの秘密にしましょう。……これから訪れる未来は誰にも分かりませんから」

 リリアナ様はそう言うと、祈るように天を仰ぐ。
 その横顔を見て、伯爵がリリアナ様を特別だと言った意味を理解した。そして同時に思う。
 彼女は特別ではない。異端なのだ。
 特別と異端。
 似て異なる言葉。他と違っていることを特別ととるか、異端ととるかは人それぞれだ。
 私は世間では神への反逆者と呼ばれ、異端な存在として認識されている。
 彼女もまた、私と一緒なのかもしれない。私達は似た者同士。
 ならば、私はリリアナお嬢様のかたわらにあろう。
 きっと私は、彼女の側でなら答えを見つけられるだろう。
 未来は未知数。
 彼女には一体どんな未来が見え、そして訪れるのであろう。
 ただ今は、悲しい未来が訪れないことを願おう。


    ◇ ◆ ◇


 さぁ、魔法の授業開始です。
 授業は私の部屋で行われます。お父様が用意してくれた勉強机に向かい、シリウス先生からまず魔法のしくみについて教わる。

「魔法とは奇跡の力です。人は、創造神より創造の力の一部をさずけられました。大切なのは願いを叶えようとする強い思い。つまりは欲求です」

 欲求って、直球ですね。

「その願いが叶えられるかどうかは本人の魔力の大きさも関係しています」

 そういえば、ミーナちゃんもそんなことを言ってたな。

「神と共にあった時代を神暦しんれきといい、神が隠れ、名をされたあとをセイルレーン暦といいます。神暦の時代、神の寵愛ちょうあいが深い者はより強い力を持ち、神のいとと呼ばれました。人々は力に引き寄せられるように神の愛し子のもとへつどい、やがて国を作り、大陸に多くの国々が生まれた、という神話を以前お話ししましたが、きちんと覚えていらっしゃいますか?」
「もちろんです、シリウス先生」

 神話を聞くのも初めてだった私は、大きな衝撃を受けた。特に、神の加護のくだりあたり。前世では、宗教を意識したことがなかったからね。

「その際、魔力の強い者は国作りに尽力し、称号を得ました。ですから、一般庶民と比べて上流階級である者、つまり貴族は総じて魔力が高いです。階級が高ければ高いほど、魔力が高くなります。貴族でなくとも強い魔力を持って生まれる者もおりますが、非常にまれです。魔力はほぼ遺伝すると考えていいでしょう」

 その理論でいけば、私も魔力が強いはずだよね。貧乏とはいえ、貴族だもの。

「そして、王族は愛し子だったゆえに高い魔力を持っています。リリアナ様、このシェルフィールド王国の王族は、他国の王族よりも魔力が強いといわれています。なぜだと思いますか?」

 この国の王族は、他国の王族より魔力が強いのか。神の愛し子だった王の魔力が強いのは分かる。
 だけど、他国でも、それは同じはずだ。
 時が流れれば、やがて婚姻によって血が薄まり、魔力は弱まっていくと思う。強い魔力を維持し続けるためには、どうすれば良いのか。

「近親婚ですか?」

 血が薄まるのを防ぐため、親族間で結婚を繰り返しているのだろうか。

「いいえ。半神半人だからです」

 はんしんはんじん?

「どういうことですか?」
「言葉通りです。神暦の時代、美と愛と豊穣ほうじょうの女神は、一人の青年に加護をさずけました。その青年との間に、女神は双子をもうけます。その子供の名はシェルフィールド。この国の始祖であり、初代の国王です」

 神と人との間に生まれた子。なんですか、その斜め上の解答。そんなの、普通に考えて分かるわけないじゃないですか。
 神様の子だったら最強でしょう。他国よりも、強い力を持っていて当たり前です。
 しかも、今さらっと双子とおっしゃいませんでしたか、先生。

「シリウス先生、双子ということは……」
「始祖であるシェルフィールドには、双子の妹姫アルディーナがいました。彼女もまた、国作りに尽力した人物です」

 でも、神様と人の子ということは……

「シェルフィールド様やアルディーナ様は、神様ではないのですか?」

 だって、半分人間とはいえ、もう半分は神様の血筋なんだから人間じゃないよね。

「はい。セイルレーン創造神の子神こがみを第一神等、子神の生み出したる神を第二神等、さらにその子を第三神等と呼び、系譜けいふつながっていきます。我々は第二神等までを神と呼びますが、第三神等からは半神や精霊と呼び、神と区別します。大地の女神の娘が美と愛と豊穣ほうじょうの女神ですから、その子である我が国の始祖や妹姫は第三神等にあたります。だから、半神半人なのです」

 神様にもそんな違いがあるんですね。奥深いです。

「始祖が本当に半神半人だったのか、調べることができないので真実は分かりません。王権を確固たるものにすべく、半神半人と偽ったのかもしれません。しかし、間違いなくシェルフィールド王国の王族は、大陸で随一の魔力を持っています」

 なるほど。その話が本当だとすれば、魔力が強いのも納得だね。
 それよりも、精霊! 魔法あり、精霊ありだなんて、セイルレーン万歳ばんざいです。

「シリウス先生、セイルレーンには精霊がいるのですか?」
「精霊は世界中どこにでもいます。神々は名をされて神界にいますが、精霊は神ではないので、私達のいる人界にとどまることも可能です。神界、人界、精霊界と、すべての界の行き来を許された種族です」

 見たい。ぜひとも、精霊をこの目で見てみたいです。
 世界中って先生は言うけれど、私は今まで一回も精霊らしきものを見たことないよ?

「シリウス先生、精霊はどうすれば見れますか?」
「精霊は、地、水、火、風、闇、光などの属性を持ち、様々なところに存在しています。しかし、通常は見ることができません。精霊がえるのは、祝福を受けた者だけです。神が人に加護をさずけたように、精霊も人を守護し、魔法を使うときに手助けをして威力を強めたりしてくれます。これを祝福といいます」
「シリウス先生、私も精霊に祝福されたいです。どうしたら、祝福を受けられるのでしょうか?」

 私も祝福を受けて、精霊を視てみたい。どこにでも精霊がいるなんて、八百万やおよろずの神様みたい。

「どうすれば祝福を受けられるのか、定かではありません。ただ歴史をひも解くと、名を残している者の多くは、祝福を受けているようです。それは良くも、悪くもです。これは私の持論ですが、精霊は気まぐれな性質だと言われています。ですから精霊を飽きさせず、楽しませることができる力を持つ人物が精霊の祝福を受けるのではないかと思います」

 精霊を楽しませるだなんて、難しそうですね。
 しかも、歴史に名を残すとか難易度高すぎです。

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