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無題
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5年生の冬頃から、新しい男の人が家に来るようになった。
その人は毎回お土産を持ってきたり、休みの日には映画に連れて行ってくれた。今まで家に来る男の人はたくさんいたけど、僕に話しかけてくる人はいなかったから、すごく不思議な気分だった。
お母さんも変わった。
派手な化粧もしなくなって、スカートも履かなくなった。お気に入りのバッグも売ってしまった。
なんだか別人みたいだったけど、それが嫌じゃなかった。むしろ「あの人と結婚するのかな」と思うと少し安心した。
「パパって呼んでもいいんだぞ」って笑いながら言ってくるけど、恥ずかしくて呼べなかった。それでも怒らないで頭をガシガシ撫でてくれた。
2人が結婚して本当のお父さんになったら……その時は……。
そう思ってたけど、その日は来なかった。
6年生になって、みんなが修学旅行で北海道に行ってる間、僕は午前中だけ学校に行って勉強した。
北海道の歴史とか地理とかがわかるビデオを見せられて、感想文を書いた。
この家はビンボーだから修学旅行には行けないって、お母さんから何度も聞かされていたから、僕は気にしてない。
俊二くんと友梨ちゃんが「お土産買ってきてあげるね」って約束してくれて嬉しかった。
家に帰ると、お母さんだけではなくおじさんもいた。
「秋雄、お前、修学旅行じゃないのか?なんでいるんだ??」
おじさんが相手でも、お金がなくて行けないとは言えなかった。
「え……?なんでって……僕、修学旅行、行かないよ?行かなくてもいいもん。だから今日は午前授業で……」
急におじさんの顔が急に怖くなった。
「何?!」
怒ってるのがすぐにわかった。
お母さんは急に青ざめて目を泳がせる。
「……何よ!何も問題ないでしょ!この子が行かないって言ったのよ?!」
「問題ないだと?!毎月いくら渡したと思ってんだ?!一体何に使ったんだよ!言え!」
おじさんは怒鳴りながらお母さんの肩をつかんで揺さぶった。お母さんは必死に抵抗する。
「何すんのよ!警察呼ぶわよ!やめて!子どもの前で!」
「呼べよ!呼べばいいだろ!逮捕されるのはお前だ!この泥棒め!こんなときだけ母親ヅラしやがって!」
「やめてっ!痛い!」
「黙れ!おかしいとは思ってたけど、まさかっ……!」
2人がもみ合いになって、どうすることもできず部屋の隅に逃げた。
「何に使ったんだ!男か?別の男か?!」
「離してってば!」
「言え!」
おじさんも何度も問い詰めたけど、お母さんは絶対に答えなかった。
修学旅行のお金として渡されてたはずのそのお金が、何に使われたのか、僕にはわからなかった。服やバッグももう買ってないみたいだったから、余計に謎だった。
おじさんはお母さんを突き飛ばしてため息をついた。そして、部屋の隅で縮こまってる僕のほうを見て笑った。いつも通りの優しい顔してた。
「秋雄、おじさんの子どもになるか?俺はお前のことが心配だよ……」
その時、なんて答えたのか覚えていない。
でも「うん」って言わなかったから、おじさんは1人で帰ったんだと思う。
お母さんは修学旅行のことも、今日が午前授業のことも忘れてた。
修学旅行のことが書いてるプリントも渡したし、午前授業のことも言ったのに、なにも見てないし聞いてなかったみたいだ。
お母さんは僕を責めた。泣いて、起こって、殴られた。
おじさんがいなくなったのは僕のせいだって言う。
「お前のせいでこうなった。なんで私の人生の邪魔するの」って……。
……それは違うよ。
お母さんがおじさんのお金を他のことに使ったからいけないんだ。
なのになんで僕を殴るの?なんで?すごく痛いし、怖いよ。
『泥棒め!』
言葉が頭から離れない。
あんなに優しかったおじさんが怒ってるのはお母さんが泥棒したから……。
お母さんはいつも僕に悪いことをするなと怒るのに……。
悪いのはどっちだよ。
初めてそんなこと思った。
でも、なにも言えない。
僕が謝ってしばらくしたら、いつも通りになると思うから。
その人は毎回お土産を持ってきたり、休みの日には映画に連れて行ってくれた。今まで家に来る男の人はたくさんいたけど、僕に話しかけてくる人はいなかったから、すごく不思議な気分だった。
お母さんも変わった。
派手な化粧もしなくなって、スカートも履かなくなった。お気に入りのバッグも売ってしまった。
なんだか別人みたいだったけど、それが嫌じゃなかった。むしろ「あの人と結婚するのかな」と思うと少し安心した。
「パパって呼んでもいいんだぞ」って笑いながら言ってくるけど、恥ずかしくて呼べなかった。それでも怒らないで頭をガシガシ撫でてくれた。
2人が結婚して本当のお父さんになったら……その時は……。
そう思ってたけど、その日は来なかった。
6年生になって、みんなが修学旅行で北海道に行ってる間、僕は午前中だけ学校に行って勉強した。
北海道の歴史とか地理とかがわかるビデオを見せられて、感想文を書いた。
この家はビンボーだから修学旅行には行けないって、お母さんから何度も聞かされていたから、僕は気にしてない。
俊二くんと友梨ちゃんが「お土産買ってきてあげるね」って約束してくれて嬉しかった。
家に帰ると、お母さんだけではなくおじさんもいた。
「秋雄、お前、修学旅行じゃないのか?なんでいるんだ??」
おじさんが相手でも、お金がなくて行けないとは言えなかった。
「え……?なんでって……僕、修学旅行、行かないよ?行かなくてもいいもん。だから今日は午前授業で……」
急におじさんの顔が急に怖くなった。
「何?!」
怒ってるのがすぐにわかった。
お母さんは急に青ざめて目を泳がせる。
「……何よ!何も問題ないでしょ!この子が行かないって言ったのよ?!」
「問題ないだと?!毎月いくら渡したと思ってんだ?!一体何に使ったんだよ!言え!」
おじさんは怒鳴りながらお母さんの肩をつかんで揺さぶった。お母さんは必死に抵抗する。
「何すんのよ!警察呼ぶわよ!やめて!子どもの前で!」
「呼べよ!呼べばいいだろ!逮捕されるのはお前だ!この泥棒め!こんなときだけ母親ヅラしやがって!」
「やめてっ!痛い!」
「黙れ!おかしいとは思ってたけど、まさかっ……!」
2人がもみ合いになって、どうすることもできず部屋の隅に逃げた。
「何に使ったんだ!男か?別の男か?!」
「離してってば!」
「言え!」
おじさんも何度も問い詰めたけど、お母さんは絶対に答えなかった。
修学旅行のお金として渡されてたはずのそのお金が、何に使われたのか、僕にはわからなかった。服やバッグももう買ってないみたいだったから、余計に謎だった。
おじさんはお母さんを突き飛ばしてため息をついた。そして、部屋の隅で縮こまってる僕のほうを見て笑った。いつも通りの優しい顔してた。
「秋雄、おじさんの子どもになるか?俺はお前のことが心配だよ……」
その時、なんて答えたのか覚えていない。
でも「うん」って言わなかったから、おじさんは1人で帰ったんだと思う。
お母さんは修学旅行のことも、今日が午前授業のことも忘れてた。
修学旅行のことが書いてるプリントも渡したし、午前授業のことも言ったのに、なにも見てないし聞いてなかったみたいだ。
お母さんは僕を責めた。泣いて、起こって、殴られた。
おじさんがいなくなったのは僕のせいだって言う。
「お前のせいでこうなった。なんで私の人生の邪魔するの」って……。
……それは違うよ。
お母さんがおじさんのお金を他のことに使ったからいけないんだ。
なのになんで僕を殴るの?なんで?すごく痛いし、怖いよ。
『泥棒め!』
言葉が頭から離れない。
あんなに優しかったおじさんが怒ってるのはお母さんが泥棒したから……。
お母さんはいつも僕に悪いことをするなと怒るのに……。
悪いのはどっちだよ。
初めてそんなこと思った。
でも、なにも言えない。
僕が謝ってしばらくしたら、いつも通りになると思うから。
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