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アプリで知り合ったイケおじが×××する話

39 誕生日プレゼントと抑えられないイライラ

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母さんには悪いけど、母さんのことを考える余裕がない。
……でもそれじゃいけないってわかってる。
母さんのなんとも言えない表情が頭から離れず、罪悪感が襲ってくる。

いつも……ずっと秋雄さんのことばかり考えてて……。
本心を打ち明けて、がっかりされたり、ショックを与えるんじゃないかって想像すると不安で仕方なかった。自分を見失うくらいに。
この間にも秋雄さんはもっと強い不安や深い絶望を抱いてる方が恐ろしい。

……最初はこんなんじゃなかった。

何度も会って、デートして……素直な自分で、恋人のように過ごしてた。幸せで、楽しかった。
もう二度とあの時に戻れないのかな……?
そんな期待をしたり、きっかけを作ろうとするのは愚かなのだろうか。

カッコつけたり、背伸びしないで、秋雄さんと誠実に向き合いたい。
ちゃんと好きだと伝えたい。

説教臭いから、本人が喜んでるからって本心を誤魔化すのは誠実じゃないし、傷ついたできごとを洗いざらい打ち明けるのが誠実さじゃない。

俺が……俺だけが秋雄さんにしてあげられることがあるんじゃないかな……。
そしたら秋雄さんだってわかってくれるはず。

そう、だよね?


言葉がまとならないまま数日が過ぎたが、ある日の夜、寝る前に思い切って秋雄さんに短いLINEを送った。

「秋雄さんの誕生日、お祝いしたいな」
「一緒に過ごしたい」


もうすぐ9月が終る。秋雄さんの誕生日は10月2日の金曜日だ。体だけの関係を求めるなら断るだろう。

祈るようスマホを胸に抱いているとすぐに返信が来た。

「わ、なになに……?」

慌ててスマホを開く。

『いいんですか?嬉しいです。』

相変わらず絵文字もスタンプもないそっけない短い文章。
でも……嘘はついてない。と思う。ドキドキしながらすぐさま返事を打つ。

「いつにしよっか?次の休みは?」
『来週の土曜日です。でも用事があって、夕方までかかりそうです。』
「うん!わかった!」

1日遅れの誕生日会。その日、両親は出張で帰ってこない。……これはチャンスだな。

「秋雄さんの家に泊まりたい!」
「両親いないから!」

初めて泊まりの誘いをしてみる。
タイミングが合わなくて朝帰りできなかったから。

『はい。』
『楽しみです。』

こっちもあっさりと承諾されて拍子抜けする。楽しみだって……えへへ、なんかかわいいな。
希望が見えてつい笑みが溢れる。

万歳するスタンプを連打するとまたすぐにメッセージが来た。

『ケーキ買ってきますから。』

おお……やる気満々じゃん。自分から宣言するってことは、食べたいものが決まってるのだろうか?
お金に気を使って先に言っといたパターンもあるけどさ。
秋雄さんがなにかを決断する記憶がないから、それすらちょっと嬉しい。

「たのしみー」
「プレゼント、なんかリクエストある?」
『祝ってもらえるだけで十分だから、大丈夫ですよ』

ここで堂々と欲しいものを要求しないのが秋雄さんだ。
ちなみにトモナガさんにはチンコで良いよと言われた。もらって一番嬉しいのは若者のチンコらしい。トモナガさんレベルだともう欲しいものもないんだろうな……となんとも言えない気持ちになったのを覚えている。

秋雄さんにはそーゆーわけにはいかないから、トモナガさんに相談のLINEを送った。

『とりあえず高価なものはやめておいた方がいいかもな』

「高価なもの……か……」

安すぎるものはダメってわかるけど、高価なものっていくらなんだろう?
丁度いい値段だろうと思った財布のスクショを送ると『お坊ちゃんだなぁ』と言われてしまった。

トモナガさんにたまにそう呼ばれるが、別に俺はお坊ちゃんじゃない。お坊ちゃんってのは田邊みたいな人のことだ。父親が会社やってて、タワマンに住んでて、お手伝いさん来てて……。

田邊の父親と普通のおっさんの父さんを比べてつい苦笑いする。

『消えものでいいんじゃないかな』
「食べ物ってこと?」
『あと洗剤とか入浴剤とか、消耗品』
「あー、なるほど」

俺としては形に残るようなものをあげたいけど……秋雄さんは食べ物が一番喜びそうな気がする。喜ぶっていうか、気兼ねなく受け取れるって感じ?

洗剤はちょっとお歳暮とかお中元っぽいし、入浴剤も悪くはないけど女の子向け?
秋雄さんの欲しいものもわからなくて頭を掻く。脳裏に秋雄さんを思い浮かべ、何かヒントはないかと考えを巡らすと、1つ浮かび上がるものがある。

「秋雄さんいっつも唇ガサガサしてるんだよね。リップってどうかな」
『いいんじゃないかな』
「ん~でもな~ 使わなそうかも」
『キスする前に塗ってあげればいいんだよ』

……こんなこと普通に言えちゃうのがすごい。
冗談半分、本気半分で「それ、誰かに言ったことあるの?」と尋ねる。

『口紅渡されてキスして唇に返してくれって言われたことはあるよ』

そ、そう来たか……。モテる男は違うな。ってか男に口紅あげるってどういうこと??
疑問が生じるがとりあえずプレゼントは決定した。……俺はフツーに渡すけど。

「それでちゃんと返してあげたの?」
『タイプじゃない人からのプレゼントは受け取らないよ』

面倒になりそうだからプレゼントは受け取らないってのは俺と同じだ。
冷めてるとか酷いって泣かれたこともあったけど……泣きたいのはこっちだった。てかプレゼントだけ受け取ってフる方が酷いだろ。

それからどんなブランドがいいかなとか何したら喜んでくれるかなってずーっと相談してた。
セフレがセフレにあげる誕生日プレゼントの相談ってクッソどうでもいいのに。
トモナガさんはちゃんと俺の話を聞いてくれるって信じてるからなんでも相談してしまう。

こんなに優しいのに……どうして俺を置いてちゃったのかなぁ。

言えない問いを残したままLINEは終わった。
悲しい疑問が大きくなってしまう。

自分でもまたカリカリしてきたって自覚してるから態度に出さないようにしなきゃと意識していたけど……些細なことで意識の糸は切れた。

その日は日直だった。
日直と言っても日付と天気、欠席者や今日のクラスの様子を一言日誌に書くだけで、めんどくさがって書くのを後回しにしてたら放課後になってしまった。
机の中にしまっていた日誌を見つけ顔をしかめる。

「うわ。めんどくさ、日誌書くの忘れてたわー」
「あはは、ドンマイ。ちゃっちゃと書いちゃいなよ」

光太郎と大河に肩を叩かれる。別に大した作業じゃないんだけど、それだけあって忘れてた自分にガッカリしてしまう。
さっさと終わらせようとペンを握った時だった。

バンッ!と乱暴に扉が開き、教室に残っていた生徒みんなの視線がそこに集まる。

「おいっすー、ん?なにしてんの?」

やって来たのは田邊だった。後ろに佐々木と篠原もいる。
田邊は注目されてるのに平気な顔をしていて……いや、やけにヘラヘラしてて後ろの2人はちょっと苦笑いしていた。

……最近田邊の機嫌がかなり悪い。父親の再婚が原因で、俺は前から聞かされていたが、他の人はつい昨日知らされたばかりだ。父親のせいで荒れてるってみんな気づいてたけど、原因が原因だから注意しづらい。

田邊はズカズカ近づいてきて手をつけようとした日誌を取り上げた。

「あっ、おい!」
「んー、日誌かよ。いいじゃんこんなん書かなくて。それよりさーダーツしに行かね?最近連れて行ってもらってハマっちゃってさぁ、そんで」
「うーん、ダーツね。行くから。日誌さっさと書いて行くから。返してよ」

適当に相槌を打ってやり過ごそうとするけど、田邊は全く言うことを聞かず、手にしていた日誌を俺の隣の席の男子にバチンッと投げつけた。

「あはは、こいつにやらせればよくね?な。いおりん用事あるわけだし、いいよね?」

ざわめいていた教室が一瞬で静まり返る。目に余る行為だった。
リュックに教科書をつめ帰り支度をしていた隣の席の男子は「い、いいよ……」と引きつった笑みを浮かべていた。

「うざいよ、お前」

思っていた言葉が口から出た。

大河が「ちょっと」とそっとたしなめたのより早くはっきりと。

「は?なに?」
「うざいんだよ、家の事情を人に八つ当たりしてんじゃねぇよ。ガキすぎ」
「……へぇ?」

ヘラヘラしていた顔が一瞬で固まり、見る見るうちに眉が吊り上がっていく。

「裕治!そういう言い方しなくても」
「んだよ、みんなもそう思ってるくせに」
「……」
「黙るってことは、そういうことでしょ」
「そんな話してないだろ、言い方が良くないってだけで……」

大河たちが慌てて仲裁に入ったがそれすらうっとおしい。暗黙の了解みたいに気を使うなんて馬鹿馬鹿しくてしょうがない。
オロオロしてる大河たちを挟んで俺と田邊は黙って睨み合っていた。
『田邊の家庭は複雑だけど……悩みを抱えてる人はたくさんいる。友達だからそこ注意しなきゃ』なんて思っちゃいない。ただ俺もイライラしていて、何かに怒りをぶつけたかった。
今、丁度良く田邊が荒れてたからやり返しただけ。

……つまり俺と田邊は同じくらい子供なのだ。

「てかさ、あんたも嫌なことはちゃんと嫌って言えば。シャキッとしろよ」

ついでに隣の男子に一言吐き捨ててから、奪うように日誌を取り、殴り書きする。
その間、光太郎が一生懸命何か言っていたけど、聞こえないフリして教卓に日誌を置き、田邊を押し退け教室を出た。

ズカズカ廊下を歩いていると大河と光太郎が走って追いかけてきた。

「おい、あれはないだろ。言いたいことはわかるけど」
「そんな怒んなくてもさ」
「ゆうもさ、ちょっと冷静になった方がいいっていうか……」
「なんかあるんじゃないの、大丈夫?おかしいって」

何かと思えばこれだったから2人の顔も見ないで歩みを止めず玄関に向かう。

そんな態度だから気がつけば2人はいなくなっていた。
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