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アプリで知り合ったイケおじが×××する話
38 気まずい食卓
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「おやつ用意してるから早く着替えて手洗って来なさい。」
家に帰るなり母さんにそう言われた。
着替えて手洗って来いとか……小学生じゃないんだからさ、と内心苦笑いするけど母さんにとって高校生になっても冷たくあしらわれても可愛い『ゆうちゃん』だからしょうがない。
昨日の態度を反省し、手を洗って制服を着替えているとキッチンから甘い匂いが漂ってくる。
用意するって言ってたし、なんか作ってんのかなと思いながらリビングへ行くと、テーブルに紅茶と分厚くてハチミツがいっぱいかかってるフレンチトーストが用意されていた。
貴族のティータイムかってツッコミたくなる。
「わー、めっちゃ美味そう。母さん作ったの?」
ソファに座り尋ねると母さんがはっきりと「母さんがこんな上手に作れるわけないでしょー」と言って笑った。それもそうだなと納得して手を合わせる。
「いただきまーす。……あ、めっちゃうまい。これどこの?」
口の中に優しい甘みが広がり、パンがとろけていく。あまりの美味しさに手が止まらない。
「×××っていうパン屋さんなんだけど。ほら、佐藤さんからお土産でもらったことあるじゃない?昨日買って来たのよ」
佐藤さんとは母さんの仕事先の知り合いだ。
「あー。あそこのか!でも結構遠くない?昨日なんか用事あったの?」
「ないけど……裕治に食べさせたいと思って買って来たのよ」
「……そっか、ありがと」
俺が喜ぶと思ってわざわざ買って来たのだろう……。胸のつかえを流し込むように紅茶を飲む。
「あ、これも美味い。紅茶じゃない?」
予想していた紅茶と少し違った風味がある。
「ルイボスティーがベースで色んなハーブがブレンドされてるんだって」
「へー。なんか体に良さそう」
そんなことを話しながらあっという間に平らげてしまう。ただそれだけなのに母さんはなぜか上機嫌で、夕食もそうだった。
父さんは帰りが遅くなるから先に2人で済ませることになった。
母さんが用意したご飯と味噌汁と、お惣菜が数品テーブルに並んでいる。母さんはニコニコしながら「売り上げ1位だって言うから買ってきたの」「試食させてもらったんだけどこれが一番美味しかったの」と説明する。
まぁ、とにかく俺のために選んで買って来たってことだ。
さっきフレンチトーストを食べたからそんなに腹は減ってないけど、皿に装われた分はなんとか完食する。
「ごちそうさま」
「あら、もういいの?おかわりいらない?」
「腹いっぱいだよ」
「遠慮しなくていいのよ」
「してないって!これ以上食ったら父さんみたいな腹になるわ」
「ふふふ、そうね」
母さんは大きな目を細めて笑った後、急に真剣な眼差して俺を見据えた。
和やかだった雰囲気が少し変わる。色々問い詰められる予感がして、どうやって当たり障りなくこの場を切り抜けるかを考える。
「……ごめんね」
「えっ?なんで?」
全く心当たりない謝罪の言葉に変な声が出る。
「お母さんの料理がおいしくないから……不味いから食べたくなかったのよね……」
「え、ちょっと、なに急に?どうしたの?」
事態が理解できなくて説明を求めるが、すぐに失敗したと気づく。
ここは「どうしたの」じゃなくて「そんなことないよ」って言うべきだった。しかも不味いのを裏付けるように、買ってきたパンやお惣菜を美味い美味いと褒めて久しぶりに完食してしまった。
悩み事のせいでちょっと食欲がなかっただけなのに、母さんの目にそう映ったよか……。
確かに母さんの料理は不味いというか……ものすごく美味しいわけではない。でもそれが俺にとってのお袋の味だし、妙な料理を楽しんで作ってる母さんは好きだ。
それを傷つけないように言葉にするのは難しい。
咄嗟にいいことを言えないでいると、再び母さんが笑う。
「明日は駅前に新しくできたレストランのお弁当買ってみようと思ってるんだけど、知ってる?あそこいつも並んでるのよ」
「あ……あそこね……」
昨日秋雄さんと行ったところだ。また失態を思い出して胸が苦しくなるけど、これはもう終わったことだ。
「俺、母さんの料理、不味いとか思ってないよ。だから……」
「ふふふ、いいのよ~。あ、デザートにアイスあるけど食べる?」
「あ、明日食べる……」
母さんは笑っていたけど、悲しみが隠せていない。
だからと言って弁明する気力もなく、結局気まずい夕食になってしまった。
家に帰るなり母さんにそう言われた。
着替えて手洗って来いとか……小学生じゃないんだからさ、と内心苦笑いするけど母さんにとって高校生になっても冷たくあしらわれても可愛い『ゆうちゃん』だからしょうがない。
昨日の態度を反省し、手を洗って制服を着替えているとキッチンから甘い匂いが漂ってくる。
用意するって言ってたし、なんか作ってんのかなと思いながらリビングへ行くと、テーブルに紅茶と分厚くてハチミツがいっぱいかかってるフレンチトーストが用意されていた。
貴族のティータイムかってツッコミたくなる。
「わー、めっちゃ美味そう。母さん作ったの?」
ソファに座り尋ねると母さんがはっきりと「母さんがこんな上手に作れるわけないでしょー」と言って笑った。それもそうだなと納得して手を合わせる。
「いただきまーす。……あ、めっちゃうまい。これどこの?」
口の中に優しい甘みが広がり、パンがとろけていく。あまりの美味しさに手が止まらない。
「×××っていうパン屋さんなんだけど。ほら、佐藤さんからお土産でもらったことあるじゃない?昨日買って来たのよ」
佐藤さんとは母さんの仕事先の知り合いだ。
「あー。あそこのか!でも結構遠くない?昨日なんか用事あったの?」
「ないけど……裕治に食べさせたいと思って買って来たのよ」
「……そっか、ありがと」
俺が喜ぶと思ってわざわざ買って来たのだろう……。胸のつかえを流し込むように紅茶を飲む。
「あ、これも美味い。紅茶じゃない?」
予想していた紅茶と少し違った風味がある。
「ルイボスティーがベースで色んなハーブがブレンドされてるんだって」
「へー。なんか体に良さそう」
そんなことを話しながらあっという間に平らげてしまう。ただそれだけなのに母さんはなぜか上機嫌で、夕食もそうだった。
父さんは帰りが遅くなるから先に2人で済ませることになった。
母さんが用意したご飯と味噌汁と、お惣菜が数品テーブルに並んでいる。母さんはニコニコしながら「売り上げ1位だって言うから買ってきたの」「試食させてもらったんだけどこれが一番美味しかったの」と説明する。
まぁ、とにかく俺のために選んで買って来たってことだ。
さっきフレンチトーストを食べたからそんなに腹は減ってないけど、皿に装われた分はなんとか完食する。
「ごちそうさま」
「あら、もういいの?おかわりいらない?」
「腹いっぱいだよ」
「遠慮しなくていいのよ」
「してないって!これ以上食ったら父さんみたいな腹になるわ」
「ふふふ、そうね」
母さんは大きな目を細めて笑った後、急に真剣な眼差して俺を見据えた。
和やかだった雰囲気が少し変わる。色々問い詰められる予感がして、どうやって当たり障りなくこの場を切り抜けるかを考える。
「……ごめんね」
「えっ?なんで?」
全く心当たりない謝罪の言葉に変な声が出る。
「お母さんの料理がおいしくないから……不味いから食べたくなかったのよね……」
「え、ちょっと、なに急に?どうしたの?」
事態が理解できなくて説明を求めるが、すぐに失敗したと気づく。
ここは「どうしたの」じゃなくて「そんなことないよ」って言うべきだった。しかも不味いのを裏付けるように、買ってきたパンやお惣菜を美味い美味いと褒めて久しぶりに完食してしまった。
悩み事のせいでちょっと食欲がなかっただけなのに、母さんの目にそう映ったよか……。
確かに母さんの料理は不味いというか……ものすごく美味しいわけではない。でもそれが俺にとってのお袋の味だし、妙な料理を楽しんで作ってる母さんは好きだ。
それを傷つけないように言葉にするのは難しい。
咄嗟にいいことを言えないでいると、再び母さんが笑う。
「明日は駅前に新しくできたレストランのお弁当買ってみようと思ってるんだけど、知ってる?あそこいつも並んでるのよ」
「あ……あそこね……」
昨日秋雄さんと行ったところだ。また失態を思い出して胸が苦しくなるけど、これはもう終わったことだ。
「俺、母さんの料理、不味いとか思ってないよ。だから……」
「ふふふ、いいのよ~。あ、デザートにアイスあるけど食べる?」
「あ、明日食べる……」
母さんは笑っていたけど、悲しみが隠せていない。
だからと言って弁明する気力もなく、結局気まずい夕食になってしまった。
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