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アプリで知り合ったイケおじをオナ電でチク射させる話

24 失いたくないから、俺が…

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家に帰ると母さんが化粧をしていて、床には服やスカートが散らばっている。

「あら、おかえりゆうくん。ママこれから遊びに行ってくるから~」
「あ、そう。誰とよ?」
「大学の時の友達よ、ふふふ。気になる?」
「あんまりほっつき歩いてっと父さんが悲しむぞ」
「そんな人じゃないわよ」

鏡を見て口紅を塗りながら鼻歌まじりに言う。父さんはそういう人じゃないし、自由奔放な母さんが可愛くてしょうがないのだ。散らばった服を適当に片付けて「夜は冷蔵庫に入ってるのチンして食べて」と言い残して家を出る。
冷蔵庫を開けるとデパートのお惣菜のハンバーグとグラタンがあるのを確認してリビングのソファにドサッと顔から倒れ込む。

ここ最近気づいたことがある。元気なふりをするのは大変だってこと。

制服がシワになってしまうと思いつつ立ち上がれない。今日のこと忘れて全部なかったことにできないかな、昨日のオナ電してた時に戻らないかな……と現実逃避するが、こうしてる間に秋雄さんが既読ついてるのに返事が来ないのを不安がってたらどうしようって思って、LINEを開き、なんて返信しようって考える。
秋雄さん相手に駆け引きとか気遣いとかしないから基本即返信している。

寝返りをうって仰向けになり、スマホを顔の前に掲げた体勢で固まる。
「あんなの見ちゃダメだよ!」って言いたいけど……言ったら傷つくかな。俺が教えろって言ったんだし、オカズに口出しするもんじゃないってわかってるけど……でも……でも……内容が酷すぎるんだよなぁ。
何度も体を重ね、心を通わせてきたのに、俺のトラウマと秋雄さんの性的嗜好が同じだったとは思いたくない。今までの思い出が黒く汚されていくようで、生理的に受け付けないとはまさにこのことだ。

ただ痛めつけて、苦しめて……あんなことしたら死んじゃうよ。死なないように加減してるんだろうけどさ、傷跡は一生残りそうだ。

……秋雄さんは、あぁいう風にされたいのかな?妄想して楽しんでるならいいけど、実際にやりたいとなるともっと話がこじれる。セフレとして俺が……やるべきなのかな……?

快感も与えず身動き取れない秋雄さんを殴ったり脅したりする自分を想像して鳥肌が立つ。
盛り上がって叩いたり噛んだりしたけどそれはお遊びの範囲だ。秋雄さんだって感じて甘い鳴き声を上げていたし……。
ぐるぐると考えを巡らせていると力が抜けて顔面にスマホを落としそうになる。慌てて持ち直すと親指が通話ボタンに触れていて、そのまま呼び出し中の画面が出てくる。

「うわ、やば!」

驚きでガバッと起き上がり、急いでキャンセルのボタンを押そうとするが、これも運命だと腹を括って秋雄さんが出るまで待つことにする。仕事中ですぐに出ないかもと思ったが、数回目のコールで電話に出てくれた。

「ごめん、急に電話しちゃって。今大丈夫?」
「うん。車止めてるから大丈夫ですよ。どうしたの?」
「あの、さ。送ってくれた動画、見たよ」
「…………あぁ、見てくれました?」

少し沈黙があったのでドキリとする。膝の上で手をギュッと握り締め、言いたいことを整理しつつ喋る。

「すごいハードなヤツだね。ちょっとびっくりしちゃった」
「ふふふ、引きましたか?」
「え、そんな。引いてはないよ!ただ、こーゆーの見てるんだなぁ、って……あはは」
「そうですか、良かったぁ」

軽い口調だから俺と秋雄さんが見たのは別物なんじゃないかって疑ってしまう。なにも面白くはないが、俺も作り笑いをする。

「それで……どうかしましたか?」

秋雄さんが恐る恐るといった感じで尋ねてくるので、意を決して本題に入る。

「あ、ごめん。えっと、その、秋雄さんはあぁいうことしたいのかなって……思って……」

「まさかー!そこまでレベル高くないですよー!」なんて俺に都合のいい、俺が安心できる答えを期待していた。が、期待は期待でしかなくて簡単に打ち砕かれる。

「したいですけど……大丈夫ですよ。ゆうくんには迷惑かけませんから」
「え……?」

時が止まったかのように固まる。スマホを握っている手の感覚が消えていく。

「したいの……?すっごい痛そうだよ。し……死んじゃうかもしれないよ……?」
「え~……死なないように調整してると思いますよ?それに無理矢理出演させてるワケでもないし……。もし死んだとしても、しょうがないんじゃないですか?」
「しょうがないって……」

もう言葉が出ない。秋雄さんは平然と「死んでもしょうがない」と言い放った。
死んでもしょうがないなんてことあるかよ……!秋雄さんは死んでもしょうがないことをしたいっていうの……?

簡単に肯定された「死」というワードが俺の心を深く深く傷つけていく。

「ゆうくんには本当にお世話になりました。優しくしてもらえて嬉しかったです。ゆうくんの言った通りちゃんと新しい人、見つけようと思ってます」
「見つけるってどうやって?まさかSM専門の掲示板?あの女子大生みたいに?」

「殺されちゃうよ」と言いかけて踏みとどまる。
秋雄さんはきっとまた「しょうがない」と言うだろう。悲しいけどわかってしまう。

秋雄さんのスマホのホーム画面の写真、ニュースサイトの文字、聞かされた思い出と懺悔、精神科の薬の袋……。
色んな記憶が一気に蘇り、やっぱり秋雄さんは死にたくて殺されたいんだなって、自分のことのように実感してしまう。
上西秋雄という人と「死」の結びつきが強すぎて俺にはどうにもできなかった。

「どうやって探すかは考えてもいません。まだゆうくんのモノなんで、俺。ふふふ。
探すのは全部終わってから……かな?ゆうくんにこんな危ないことさせませんよ。もしなにか
あったら、俺はどうでもいいとして、ゆうくんに迷惑かかるってわかってます。
だから心配しないでくださいね。驚かせてすみませんでした」

秋雄さんは、俺が秋雄さんをケガさせてこの関係が明るみになるのを危ぶんでいると誤解している。

そんなワケあるかよ。
俺はただ秋雄さんを心配してるだけだ。どうしてそんな風に考えるんだろう?
そんなこともわからないくらい、俺と秋雄さんの心に距離があったなんて知りたくなかったし、秋雄さんにとって俺はその程度の人間だったんだ。
俺しかいないなんて言ったくせに、どうして残酷に突き放してくるんだろう?
秋雄さんの知らない面があるのは当然だけど、こうやって直面するとは思いもしなかった。
怒りとか虚しさとか悲しみで感情がグチャグチャになって涙がこぼれそうだった。

秋雄さんを死なせたくない。失いたくない。

「……丁度よかった。俺さ、学校でも家でも良い子でいるの疲れてたんだよ。
セックス以外にもっと良い気晴らしとかストレス発散方法ないかな~って思ってたんだ。
秋雄さんが本当にめちゃくちゃにされたいなら俺がしてあげる。あのAVみたいに酷いことしてやるよ」
「え……ほ、本当ですか?」
「うん。ホントホント。その確認したくて電話したんだ。大事なことだからちゃんと聞きたくてさ。ねぇ、俺のおもちゃになってよ。セフレなんて生ぬるい関係、飽きちゃった」
「……嬉しい……!ありがとうございます……!」

秋雄さんの声が喜びで上ずる。これが演技なら秋雄さんは天才役者だ。心の底から喜んで興奮していると伝わってくる。

秋雄さんには俺しかいない。いつか秋雄さんを救ってくれる人が現れるまで俺が秋雄さんを守ってあげなきゃ。秋雄さんが傷つけられないように俺が秋雄さんを傷つけよう。
そう決意した。

通話を終えた後、わけがわからなくなって大泣きした。
どれだけワンワン泣いても死にたいとか殺されたいって気にはなれなかった。秋雄さんは俺よりずっとずーっと辛いんだって自分に言い聞かせて涙を堪えた。
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