この世界の未完成は【完結】

市井安希

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8.ある愛の詩②

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 服とゴミで足の踏み場がないボロアパートは当然ながら静かだった。
 あづさの家で感じた静けさとは違う。
 俺は確かに無言でいることに心地のよさを感じていた。
 俺に気を遣うなんてバカって思ったけど、本当は嬉しかった。

 酒を飲ませなかった。
 俺好みの甘いコーヒーを作ってくれた。
 指一本触れてこなかった。

 たったそれだけのこと。

 認めたくないけど、俺は、あづさが好きだ。

 今……すごく寂しい。

『好き』も『寂しい』も生まれて初めての感情だった。

 今すぐあづさに会いたい。理由がなくてもあづさが隣にいてくれたらいいのに。

 強く思った瞬間、腹の奥がカァーッと熱くなった。

「っ…………!」

 腹を押さえてうずくまる。たった一瞬で身体中から汗が吹き出し、全力疾走したみたいに息が荒くなる。

 熱い。熱い。熱い!
 アタマとカラダを支配する熱を放出したい……それしか考えられない。

「はぁっ、ま、まさか………」 

 発情期……かなり早いが、この感覚は間違いない。
 抑制剤は前の発情期で飲み切ってしまった。近くなったら買えばいいと思っていた自分を殴りたい。

「クソ……!うぅ……んっ……」

 ケツのナカがうねってしてトロトロ熱いモノが分泌されていくのがわかる。
 触れてもいないのにチンコもガチガチに勃起してる。前も後ろもパンツがビショビショになる不快感に耐えかねてズボンごとパンツをずり下げる。

「んあっ……!ん、ん、あっ……」

 窮屈さから解放されたチンコは腹につくほど反り返り、空気に触れただけでどうしようもなく感じてしまう。

「ちくしょ、あ、ん、んぅっ!はぁっ、はぁっ、ううー……!クソッ、死ね死ねっ……」

 とめどなく溢れるカウパーをローション代わりにしてグチャグチャと乱暴にしごく。
 自己嫌悪とは裏腹にチンコを握る手に力が入り速さも増す。

「んひぃっ、イク、イク、チンコ、イクっ……あぁぁあっ……!!」

 涙とよだれを流し、背中をのけ反らせてイッた。べっとりと手についた精子に吐き気がする。

 ゼェゼェと肩で息をしながらティッシュで拭い、なるべく刺激しないように後ろの方も拭く。

「んっ……あっ、もう、なんで……止まんない……止まれよ、うぅ……」

 気をつけていたのに感じてしまい、さらにこぷ、こぷ、と分泌された体液が太ももまで伝ってくる。

「なんで、なんで」と繰り返しながらもケツは指を、いや、それ以上のモノを受け入れようとしている。

 なぜ早く発情期が来たのか、薄々感づいている。 

 あづさという絵に描いたようなαが近くにいることでホルモンバランスが崩れたのだろう。

 現実逃避するよう再びチンコをしごく。

 いくら射精したところで、ケツでイかないとこの苦しみが終わらないのを知っている。
 ホモじゃない俺にとって耐え難い屈辱で、それすら上回る性欲は恐怖でしかなかった。

 イキたい。イキたい。早くイキたい。

 あづさにモノのように犯されヨガる自分を想像してケツ穴をまた濡らす。

 恋人たちがするであろう『普通のセックス』を想像することすらできない。

 ケツの奥の気持ちいい所を、ぶっとくて長いチンコでゴリゴリされて、熱い精子を注がれたい……それが一番の幸せ。そのためにΩは生まれてきた……はぁ?

 セックスするために生まれてたって動物みたいだ。哀れ。惨め。気持ち悪い……。

 結局のところ、Ωは差別されてもしょうがない生き物だ。

 俺が言うんだから間違いない。

 俺は今『寿』でもなく『上遠野寿衣』でもない、ただの『Ω』だ。卑しい本能が俺の人格を塗りつぶしていく。

「いやだ、いやだ……こんなのもういやだ……!く、薬…」

 抗うように抑制剤を求める。
 こうなったら市販の抑制剤は効かないし(まず買いに行けない)病院から配達してもらうのは手続きが面倒だ。
 セフレのΩの女から譲ってもらおうと手当たり次第電話を掛けることにした。
 
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