「この世界の未完成は」

7.ある愛の詩①

　でも俺は金で雇われてるだけ。
　カツヤから渡された『給料』がそう物語っている。
　あづさの目が覚めて、カツヤとケイに見放されたらこの関係は終わりだ。
　稼げるだけ稼いでおこうと自分に言い聞かせ、気がつけば半年が過ぎた。
　週末の夜は3人で飲む……そんな感じ。
　まだあづさの『思い出作り』は終わらないのだろうか。
　カツヤとケイから「次も頼む」と数万円を貰って、あづさとは何とも言えない関係が続いていた。
　本当に俺のことを好きなのか？
　実はとっくの昔に冷めてるけど、別れ方を知らないだけなんじゃないか？
　その証拠に未だに2人で会ったことがないし、誘われたこともない。
　カツヤとケイがいないと会話は弾まないし、よそよそしい雰囲気すらあった。
　ただ金を貰ってるだけ……申し訳なさを感じるくらい2人はいいヤツだった。
　今度誘われたら断ろう。
　そう決意した時だった。 
　カツヤとケイに用事ができたから2人で遊ぼうとあづさから連絡が来た。
　きっとつまらない時間になるはず……別れを決心するきっかけになるとOKした。

　想像通り、クラブで飲んでもお互いいつもより静かだった。きっとこのまま解散すると思ってたら「俺の家で映画でも観ない？」と誘われは本当に驚いた。
　
　夜に家に招くってことは……『ヤる気』なんだろう。
　恋愛映画でも観て、なんとなくそんな雰囲気になって……映画に影響されたつまんないセックスをする。いいじゃないか、それで。
　
　逆に清々しい気分になる。

　タクシーであづさの家に行く。予想通り高級マンションの最上階で、中はホテルのようだった。

　大きなテレビと立派なスピーカー、棚にはDVDがぎっしりある。ソファーもデカくてフカフカで体が沈みそうになった。

「すご、映画館みてぇ」
「ははは、そう？えーと、コーヒーと炭酸水しかないや……どっちがいい？」
「どっちでもいい」
「じゃあコーヒーにしよう」

　俺がソファーでダラダラしてる間、あづさはテキパキと2人分のコーヒーと菓子を用意した。至れり尽くせりって感じ。
　沈黙が怖くて動いてなきゃ落ち着かないのだろう。俺なんかに気ィ遣ってバカみたい……ちょっと冷めた目で見てしまう。

「んー、じゃあ、何を見ようかな……なんか見たいのある？」
「なんでもいい」
「んん……よーし、じゃあコレにしよう」

　ちょっと悩んで手に取ったのは『ある愛の詩』という映画だった。
　昔の外国の映画でやっぱり恋愛モノ。話の内容はよくわからなかったけど……感動系？っぽい。
　エンディングが流れ出すと、あづさは俺の顔を覗き込んだ。

「……つまんなかった？」
「…………普通」
「そうか。よかった。」

　あづさはちょっと笑ってタクシーを呼び、俺を帰した。