この世界の未完成は【完結】

市井安希

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6.やさしい夜

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 なにか一言くらいメッセージを送った方がいいんだろうけど、指示されてないからやらない。
 あづさからも連絡はなかった。

 その日から、頻繁にカツヤとケイに夜遊びに誘われた。俺は行きたい時に行く、そんな感じ。

 最初はいつもクラブだった。飲んで、踊って、騒いで、ナンパをあしらって……。たまにあづさと他愛ない話をして……。

 予想以上に大変で楽な仕事ではなかった。

 自分を偽り続けるのは想像以上に疲れる。

 裕福な家のαで、有名大学に通っているみんなにコンプレックスを感じることが多々あった。
 大学の話題になると、コンプレックスを押し殺し、わけもわからず頷くしかない。そんな自分が恥ずかしくて、惨めで、死にたくなった。
 
 そんな夜が何度か続いていた。

 今度2人から誘いのLINEが来ても無視しよう……そう思った矢先、あづさから「今日はクラブじゃなくて、みんなでカラオケにいかない?」とLINEが来た。

 あづさから誘ってきたのは初めてで、珍しさからついOKしてしまった。

 みんなで歌って飲んで……とカラオケ自体は普通だったが、俺の心はいつもより軽かった。

「あ、そうだ、この前の課題のことなんだけど……」

 ケイがあづさに大学に関係する質問をした時だった。

「カラオケ中はその話禁止~、おらっ、さっさと曲入れろ!」
「ちょ、なにそのノリ!」
「ウケるー」

 あづさは話題をそらし、ケイに早く曲を入れるように促した。

 ……きっと俺がつまんない顔してるから。

 見抜かれた気恥ずかしさより、ストレスから解放された安堵が大きい。
 ちょっと気が緩んだせいで、食べようとした唐揚げを床に落としてしまう。

「おっと……」

 俺が拾うより早くあづさが拾い上げ、ティッシュにくるんで空の皿に載せた。
 新田不動産の息子様がこんなことするなんて……。

「あ、ありがと」

 一応礼を言うと、あづさは「どういたしまして」と笑った。
 あづさには金持ち特有の太々しさやお高くまとった雰囲気がない。気が利き腰が低い……総合して言うと『優しい人』だった。

 そして驚くほどに歌が上手かった。

「す、すげー……プロじゃん」
「ちょっと!言い過ぎ言い過ぎ!」
「そこらへんの歌手より上手いじゃん。あ、あの曲歌ってよ!昨日やってたドラマの主題歌!」
「えー、歌えるかなー」

 カツヤとケイも中々上手いが、あづさの歌声は何時間も聞いてたいと思うレベルだった。

 大学の話題がなかったおかげでカツヤとケイがノリがよくて面白いヤツって気づけた。

 あづさに優しくされた。

 初めて4人でいると楽しいと思えた夜だった。
 
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