この世界の未完成は【完結】

市井安希

文字の大きさ
上 下
4 / 13

4.虚しい憧れ

しおりを挟む
 絶対に変わらないこの世の真理を実感し、同時にひどく不愉快な気持ちになった。
 罪悪感と不愉快さに揺れる自分にも腹が立つ。
 あづさに会わないように、あのクラブに行かないことも考えたが、俺が避ける理由はない。
 あれだけ冷たくしたから、声はかけられないと思ったけど……。

「あっ、寿くーん久しぶりー」
「この前はコイツが迷惑かけたんだって~?」
「おぼっちゃまで世間知らずだから許してやってよ」

 なんとあづさは友達らしき男2人を引き連れヘラヘラ笑って現れた。コイツ……メンタル強すぎだろ。
 ア然としているとカップルが俺たちに近づいてきた。

「あ、あの『TUC』のカツヤさんですか?」
「いつも動画見てます!めっちゃファンです!あ、オンラインサロンも入ってて~」
「おーマジ?ありがとー」
「握手とか大丈夫ですか?」
「うん、全然大丈夫」

 友達の1人、 サングラスをかけ真っ赤な髪をしたヤツが笑顔で対応している。
 YouTuberかなんかか?そんな視線を向けているともう1人の友達が耳打ちした。

「あいつ『東京アングラクラブ』ってチャンネルやっててさー。そっちの界隈ではそこそこ有名らしいよ?」
「ふーん……聞いたこともねぇな」
「ははは、カツヤもまだまだだな」

 検索すると、登録者数65万人で都市伝説や陰謀論や裏社会の闇を扱っているチャンネルだと判明した。詳しいことはわからないが、目の前に有名人がいてテンションが上がってしまう。あぁ、いけない。YouTuberごときにキャーキャー言うなんてダサいって。自分に言い聞かせて平常心を保つ。

「で、お前は?」

 コイツはあづさとは違って可愛い系のイケメンって感じだ。目が大きくてクリクリしている。

「ただの一般人!強いて言えばたまーにサロモやってるけど……。
だってタダになるじゃん?それ目的。あ、ケイっていいま~す」
「サロモねぇ……」

 こっちはセルフカラーだってのに……ツラがいいだけでタダになるのか。ウザ。死ねばいいのに。舌打ちは大音量の音楽でかき消されたのか、ケイはニコニコと笑顔を浮かべていた。

「ところでこの人たちは……?」
「YouTuber仲間?あっ、俳優とか?」

 カップルが俺とほぼ同じ質問をすると、2人は慣れた様子で愛想笑いをして首を横に振った。

「コイツは俺の友達。フツーの人だよ」
「そうなんスねー。3人ともかっこいいからなんかやってんのかと思って……」
「そうそう」

 3人ともって……俺も入ってんの?思いがけない発言にちょっとだけドキッとしてしまう。
 だってかっこいいなんて言われたの初めてだったから……。
 あづさたちといっしょにいると俺も『そういう風』に見えたのだろうか?
 ……正直言ってかなり嬉しい。

 カツヤはファンサービスを終えると芝居掛かった動作でパンッと手を鳴らした。

「さっ、話を戻して!奢るから上のバーでゆっくり飲まねぇ?この前のお詫びってことでさ」

 気がつけば俺は頷いていた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

成り行き番の溺愛生活

アオ
BL
タイトルそのままです 成り行きで番になってしまったら溺愛生活が待っていたというありきたりな話です 始めて投稿するので変なところが多々あると思いますがそこは勘弁してください オメガバースで独自の設定があるかもです 27歳×16歳のカップルです この小説の世界では法律上大丈夫です  オメガバの世界だからね それでもよければ読んでくださるとうれしいです

どうも。チートαの運命の番、やらせてもらってます。

Q.➽
BL
アラフォーおっさんΩの一人語りで話が進みます。 典型的、屑には天誅話。 突発的な手慰みショートショート。

α嫌いのΩ、運命の番に出会う。

むむむめ
BL
目が合ったその瞬間から何かが変わっていく。 α嫌いのΩと、一目惚れしたαの話。 ほぼ初投稿です。

なぜか大好きな親友に告白されました

結城なぎ
BL
ずっと好きだった親友、祐也に告白された智佳。祐也はなにか勘違いしてるみたいで…。お互いにお互いを好きだった2人が結ばれるお話。 ムーンライトノベルズのほうで投稿した話を短編にまとめたものになります。初投稿です。ムーンライトノベルズのほうでは攻めsideを投稿中です。

僕の番

結城れい
BL
白石湊(しらいし みなと)は、大学生のΩだ。αの番がいて同棲までしている。最近湊は、番である森颯真(もり そうま)の衣服を集めることがやめられない。気づかれないように少しずつ集めていくが―― ※他サイトにも掲載

運命の人じゃないけど。

加地トモカズ
BL
 αの性を受けた鷹倫(たかみち)は若くして一流企業の取締役に就任し求婚も絶えない美青年で完璧人間。足りないものは人生の伴侶=運命の番であるΩのみ。  しかし鷹倫が惹かれた人は、運命どころかΩでもないβの電気工事士の苳也(とうや)だった。 ※こちらの作品は「男子高校生マツダくんと主夫のツワブキさん」内で腐女子ズが文化祭に出版した同人誌という設定です。

ふしだらオメガ王子の嫁入り

金剛@キット
BL
初恋の騎士の気を引くために、ふしだらなフリをして、嫁ぎ先が無くなったペルデルセ王子Ωは、10番目の側妃として、隣国へ嫁ぐコトが決まった。孤独が染みる冷たい後宮で、王子は何を思い生きるのか? お話に都合の良い、ユルユル設定のオメガバースです。

欠陥αは運命を追う

豆ちよこ
BL
「宗次さんから番の匂いがします」 従兄弟の番からそう言われたアルファの宝条宗次は、全く心当たりの無いその言葉に微かな期待を抱く。忘れ去られた記憶の中に、自分の求める運命の人がいるかもしれないーー。 けれどその匂いは日に日に薄れていく。早く探し出さないと二度と会えなくなってしまう。匂いが消える時…それは、番の命が尽きる時。 ※自己解釈・自己設定有り ※R指定はほぼ無し ※アルファ(攻め)視点

処理中です...