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3.α様には敵わない?
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背が高くて顔が小さくて……薄暗いところで見ても相当イケメンだった。つい「カッコいい」と呟いてしまいそうなほどに。
ブランドモノではなさそうなTシャツにジーンズというラフな格好でも圧倒的な存在感を放っている。
あぁ、いかにもαってカンジ……。
それが第一印象だった。
α様がΩなんかに話しかけるなんて、なんのご用件でございましょう。ってか何?ナンパ?ホモかよ。
聞こえないフリして無視してやったところで、俺じゃなくて隣の女に話しかけたんじゃ?と気づき恥ずかしくなる。
そうだよ、コイツが俺なんかをナンパするわけねぇじゃん……。後ろで女2人が「うわ、やば」「あの人カッコよくない?」と中身のないヒソヒソ話をしている。
カーッと顔が熱くなり、ラムコークを飲み干すと「いい飲みっぷりだね」と再び声をかけられた。
恐る恐る顔を上げるとバッチリ目が合ってしまう。このままCMに使えそうなくらいキレイで優しげな微笑みを浮かべていた。
「……お前、俺に話しかけてんの?」
「うん、そうだよ。隣座っていい?
俺、あづさって言うんだ。ひらがなで『す』じゃなくて『つ』に点のあづさ。21歳の大学生。よろしく」
あづさは俺が返事をする前に、勝手にベラベラと自己紹介し始め、ドカッとソファに座った。しかも微妙に密着してきやがる……コイツ……こんな顔して気が強いと見た。
舐められないよう堂々としなきゃいけないのに、困惑のあまり情けない声が出る。
「な、なんで」
「いっつも1人じゃん?君と仲良くなりたいなーって思っててさ……ずっと見てた」
ねぇ、教えてよ。誰かと一緒?話しかけたら迷惑?」
「……1人」
「そっか。俺も今日は1人。普段は友達と一緒なんだけどね~、用事できたってドタキャンされちゃった」
「なんだよそういうことか。ヒマだから遊び相手がほしいのか?ずっと見てたなんてキモいこと言いやがって……」
暇つぶしに使われたってワケね。話しかけられた原因がわかって内心ほっとする。
適当にあしらって、ひと仕事したらとっとと帰ろう……再びスマホに目をやった時だった。
「違うよ」
騒音の中でもはっきりと澄んで聞こえる美しい声を無視することができなかった。
せめてもの抵抗に顔を伏せたまま睨み上げるとあづさは相変わらずニッコリ微笑んでいてた。
「友達の前でマジになるのって恥ずかしいじゃん?今日がチャンスだと思って勇気出して声かけたんだよ」
「ふーん……お前、ホモなの?」
「うん」
嫌味っぽく聞いたのにあっさりと頷かれ、負けた気分になる。
「いまどき珍しくないっしょ」
「……まぁ、な」
「ここのクラブ、男同士の出会い求めてる人も結構いるみたいだよ」
「へぇ……知らなかった」
「男から声かけられるの初めて?」
「あぁ。女からはあるけどー……」
ありがちなナンパなのかもしれない。
ホモじゃない俺は、こんなイケメンに口説かれたって特に何も思わない。
だけど思い描いた通りの都会的でキラキラしたαに好意を抱かれている事実は俺を高揚させた。
Ωは人をたぶらかすいやらしい生き物だと言われるが、αの方がよっぽど恐ろしいと思う。
「さっ、次は君の番だよ。名前と歳くらい教えてよ」
「……コトブキって書いてヒサシ」
「おっ、3ポイントシューターの三井寿と同じだ。いい名前」
「最近よく言われるよ。21歳で美容系の専門学校通ってる。美容師目指してるんだ」
「へぇーすごいね!」
嘘に塗れたプロフィールだが、予想通りの反応に口元が緩む。
俺は寿衣(じゅえ)という名前が大嫌いだった。まず何て読むか聞かれるし、教えてやっても絶対聞き返される。
子供は宝。つまりジュエリー。これが由来と聞かされた時はババアを殺してやろうかと思った。マジで、ホント、死んでくれよ。なぁ。
一文字なくして一般的な読み方の寿(ひさし)という名前だったらどんなに良かったことか……小学校の時からの願いだ。偽名を使ったってどうせバレないだろう。
美容系の専門学校に通ってると言ったのは少しでもキラキラしたヤツに見られたかったから。美容師目指してるって洒落てる感じがするだろ?
なりたい自分に生まれ変わったような気分になって、すっかり気が大きくなっていた。
「ねぇ、せっかくだしゆっくり落ち着いて飲もうよ。VIP席行く?それとも上のバーとか……」
「ヤだよ。お前、うるせーし根掘り葉掘り聞いてくるし、帰る」
「あっ……」
誘いの言葉を冷たく遮って立ち上がる。
キレイな顔を真っ赤にして激怒するに違いない。さぞ面白い光景だろう!と期待していたら予想は外れ、あづさはただ悲しそうな顔をして口を閉ざした。
なんだよこっちが悪いみてぇじゃねぇか……。ナンパ断られたくらいでンなツラしてんじゃねぇよ……。
さっきまで気が大きくなっていたが、急に罪悪感に襲われる。
クラブを出ても悲しげな顔が焼き付いて頭から離れない。
これもαの魅力のせいなのか?やっぱりΩはα様に敵わないってことか……。
ブランドモノではなさそうなTシャツにジーンズというラフな格好でも圧倒的な存在感を放っている。
あぁ、いかにもαってカンジ……。
それが第一印象だった。
α様がΩなんかに話しかけるなんて、なんのご用件でございましょう。ってか何?ナンパ?ホモかよ。
聞こえないフリして無視してやったところで、俺じゃなくて隣の女に話しかけたんじゃ?と気づき恥ずかしくなる。
そうだよ、コイツが俺なんかをナンパするわけねぇじゃん……。後ろで女2人が「うわ、やば」「あの人カッコよくない?」と中身のないヒソヒソ話をしている。
カーッと顔が熱くなり、ラムコークを飲み干すと「いい飲みっぷりだね」と再び声をかけられた。
恐る恐る顔を上げるとバッチリ目が合ってしまう。このままCMに使えそうなくらいキレイで優しげな微笑みを浮かべていた。
「……お前、俺に話しかけてんの?」
「うん、そうだよ。隣座っていい?
俺、あづさって言うんだ。ひらがなで『す』じゃなくて『つ』に点のあづさ。21歳の大学生。よろしく」
あづさは俺が返事をする前に、勝手にベラベラと自己紹介し始め、ドカッとソファに座った。しかも微妙に密着してきやがる……コイツ……こんな顔して気が強いと見た。
舐められないよう堂々としなきゃいけないのに、困惑のあまり情けない声が出る。
「な、なんで」
「いっつも1人じゃん?君と仲良くなりたいなーって思っててさ……ずっと見てた」
ねぇ、教えてよ。誰かと一緒?話しかけたら迷惑?」
「……1人」
「そっか。俺も今日は1人。普段は友達と一緒なんだけどね~、用事できたってドタキャンされちゃった」
「なんだよそういうことか。ヒマだから遊び相手がほしいのか?ずっと見てたなんてキモいこと言いやがって……」
暇つぶしに使われたってワケね。話しかけられた原因がわかって内心ほっとする。
適当にあしらって、ひと仕事したらとっとと帰ろう……再びスマホに目をやった時だった。
「違うよ」
騒音の中でもはっきりと澄んで聞こえる美しい声を無視することができなかった。
せめてもの抵抗に顔を伏せたまま睨み上げるとあづさは相変わらずニッコリ微笑んでいてた。
「友達の前でマジになるのって恥ずかしいじゃん?今日がチャンスだと思って勇気出して声かけたんだよ」
「ふーん……お前、ホモなの?」
「うん」
嫌味っぽく聞いたのにあっさりと頷かれ、負けた気分になる。
「いまどき珍しくないっしょ」
「……まぁ、な」
「ここのクラブ、男同士の出会い求めてる人も結構いるみたいだよ」
「へぇ……知らなかった」
「男から声かけられるの初めて?」
「あぁ。女からはあるけどー……」
ありがちなナンパなのかもしれない。
ホモじゃない俺は、こんなイケメンに口説かれたって特に何も思わない。
だけど思い描いた通りの都会的でキラキラしたαに好意を抱かれている事実は俺を高揚させた。
Ωは人をたぶらかすいやらしい生き物だと言われるが、αの方がよっぽど恐ろしいと思う。
「さっ、次は君の番だよ。名前と歳くらい教えてよ」
「……コトブキって書いてヒサシ」
「おっ、3ポイントシューターの三井寿と同じだ。いい名前」
「最近よく言われるよ。21歳で美容系の専門学校通ってる。美容師目指してるんだ」
「へぇーすごいね!」
嘘に塗れたプロフィールだが、予想通りの反応に口元が緩む。
俺は寿衣(じゅえ)という名前が大嫌いだった。まず何て読むか聞かれるし、教えてやっても絶対聞き返される。
子供は宝。つまりジュエリー。これが由来と聞かされた時はババアを殺してやろうかと思った。マジで、ホント、死んでくれよ。なぁ。
一文字なくして一般的な読み方の寿(ひさし)という名前だったらどんなに良かったことか……小学校の時からの願いだ。偽名を使ったってどうせバレないだろう。
美容系の専門学校に通ってると言ったのは少しでもキラキラしたヤツに見られたかったから。美容師目指してるって洒落てる感じがするだろ?
なりたい自分に生まれ変わったような気分になって、すっかり気が大きくなっていた。
「ねぇ、せっかくだしゆっくり落ち着いて飲もうよ。VIP席行く?それとも上のバーとか……」
「ヤだよ。お前、うるせーし根掘り葉掘り聞いてくるし、帰る」
「あっ……」
誘いの言葉を冷たく遮って立ち上がる。
キレイな顔を真っ赤にして激怒するに違いない。さぞ面白い光景だろう!と期待していたら予想は外れ、あづさはただ悲しそうな顔をして口を閉ざした。
なんだよこっちが悪いみてぇじゃねぇか……。ナンパ断られたくらいでンなツラしてんじゃねぇよ……。
さっきまで気が大きくなっていたが、急に罪悪感に襲われる。
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