この世界の未完成は【完結】

市井安希

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2.あづさとの出会い

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 高2の時、万引きで退学になったのをきっかけに上京した。

 あの女のいいところなんて1つもないが、Ωの母子家庭だからと店長が警察沙汰にしなかったことだけは感謝してやってもいい。

 万引きをしてたのは上京の資金調達のため。1秒でも早く家を出たかったし、都会に行けば新しい人生が待ってると思ってたから丁度よかった。

 最初は食品を加工する工場で働いたけど、仕事は思ったより辛いし上司からことあるごとにΩだからと嫌味を言われたからすぐに辞めた。
 バイトも続かず、人間関係がない日雇いの肉体労働とパチンコで食い繋ぐ日々が4年も続いた。家に帰ったら寝るだけ、カップラーメンとコンビニの弁当ばかりの食生活、服はメルカリ……いつもギリギリの生活で思い描いていた都会の暮らしとは大違いだった。

 それでもキラキラした生活に憧れた俺は思い切って夜の街……クラブに行ってみることにした。
 今まで行かなかったのは、俺が田舎から来た貧乏人だって見抜かれてバカにされそうだったから。昔からバカにされるのが一番嫌いだった。

 でも一歩踏み出さなきゃ始まらないだろう?

 勇気を出した先には俺が想像した世界が待っていた。TikTokやインスタで見た通り豪華でキラキラしてて……。

 音楽に乗って踊れないし、酒の味もわからない。騒ぐ友達もいないけど、やっと憧れの世界の住人になれた。クラブにいた間は自分が貧乏なΩだってことを忘れて心の底から楽しめた。

 さらに思いがけない幸運が訪れた。

 トイレの手洗い場にいかにも高級そうな財布が置かれていた。中身を見ると8万3千円も入っていたから5万円抜き取った。カードや身分証明書は盗んでないし、クラブに来るようなチャラチャラした金持ちから少し施しを受けたって構わないだろう?

 ほら、あれだよ、ノ、ノ、ノドレス?オリーブ?違うなぁ、思い出せない。
 とにかく、そういうことだ。

 財布の持ち主が飛び込んで来ないかヒヤヒヤしたけど、何事もなく家に帰ることができた。

 こんなに楽しい思いをして一瞬で大金が手に入るなんて……!

 俺は一晩で夜の街の魅力に取り憑かれた。

 次の日に手に入れたのは女物のディオールのピアス。片方だけ。
 こんなんでもメルカリに出したら1万5千円で売れるんだからやめられない。ギャンブルに使えばあっという間に消える金額だが、これだけ稼ぐのにどれだけ嫌な目に遭わなきゃいけないことやら。
 ようやく回ってきた運を逃すわけには行かないと俺は色んなクラブに通いつめた。
 その結果一番収穫があったのは最初に訪れたクラブだった。大騒ぎになる事件を起こさないよう、スロットに夢中になってる女のポーチや中身の高級化粧品、テーブルに置きっぱなしのサングラスやアクセサリーを狙った。
 金や財布はイケると確信した時だけ手を出すって程度だ。昔からスリは苦手だから置き引きしかできない。

 クラブで得た軍資金で競馬に行ったら大当たり。おかげでバイトのシフトを減らされても問題ない。

 何もかもうまく行ってる……相変わらずうまく踊れないけど。

 ラムコークを飲みながらメルカリの売れ行きをチェックしてると「1人?いくつ?」と声をかけてきたのがあづさだった。
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