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1.男に媚びて生きたくなかったのに
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夜の公園は生ぬるい風が吹いていた。
汗でTシャツがくっついてうっとおしい。
俺はベンチに座って貧乏ゆすりしながらスマホをいじっていた。
この公園は男同士のパパ活や援交の待ち合わせ場所として有名スポットだった。
俺も出会い系の利用者の1人。隣のフェンスにもたれてあくびしてるヤツもそうだろう。あいつだって、そいつだって……。
俺は、俺だけは、あんなやつらとは違う。絶対に。
スマホの画面に映るのは出会い系アプリでの生々しいやり取り。
最初は男がシコってるのを見るだけだったのに……シコってるところ見せてくれたらプラス5千円とか、舐めてくれたら2万円とか、最終的にヤッたら5万くれるって。
『大人』の相場は5万らしいから……悪くない金額なんだろう。
エロいことして金もらうんだから、最後までしてより多くの金が手に入った方がいいんじゃないか?なぁ。そうだろう?別にさ、今どきみんなやってることだしさ、需要と供給が一致しただけだし……。
何も悪いことしてるわけじゃないのに自分に言い訳を重ねるのはあの女が頭によぎるから。
あいつは、俺の母親は、男に媚びて生きるΩだった。
学のないΩのシングルマザーができる仕事なんて水商売か風俗ぐらいしかないってわかってるけど、母親はあまりにも醜かった。ガキの俺を押し入れに押し込んで……芝居がかった媚びた喘ぎ声を思い出すだけで吐き気がする。
せめて隠す努力をしてくれたら少しは受け入れることができたのに……。
あの女は、世間が思い描く通りのΩだった。俺は絶対にあんな風にならない、俺はΩだからって自分を売らない。そう強く思っていたのに結局同じことをしようとしている……。
時計を見ると、あと数分で約束の時間だ。
深い深いため息をついた時、突然背後から声がした。
「ひ、寿……?」
寿(ひさし)……その偽名で俺を呼ぶ人は決まっている。
恐る恐る振り向くと、そこに立っていたのは恋人のあづさだった。困惑した顔だが、どんよりした雰囲気が漂う公園には場違いなほどキラキラしたオーラをまとっている。
「な、なんでここに……」
「あづさこそ……どうしてこんな場所に……
「カツヤが、あの、動画撮ろうって言って、それで……寿に似た人がいると思って……か、帰らせたよ!」
「……」
「……」
カツヤとは俺らのグループの一員で、アングラな芸風でそこそこ有名なYouTuberだ。
こういった場所に突撃すると言ってもおかしくはないヤツである。
あづさのストレートな問いにより長い沈黙は破られた。
「まさか、出会い系?とか、じゃないよね?」
「そ、れは……」
「ねぇ寿……なんか言ってよ……」
「……」
答えることができなかったけど、肯定したも同然だった。
まずい。このままじゃいけない。必死に言い訳を考えたけど言葉が出てこない。
「……帰ろう」
「あっ、痛い!痛いって!離せよ!」
あづさは今まで見たことのない能面のような顔をしていた。
ものすごい力で腕を引っ張られ、偶然通りかかったタクシーに押し込まれる。
もちろん抵抗したけど、体格が良く小学校の時から空手をしているあづさに敵うわけがなかった。
場所が場所だけにタクシーの運転手は慣れきった顔で「お客さん、どこまで?」と尋ね、あづさはぶっきらぼうにマンション名を告げた。いつも運転手や店員には物腰柔らかいのに……声だけで震えるほど怖くて顔を見ることができない。
俯いた先に見えたのは笑えるくらい震えてる自分の膝。
怖い。怖いよ。怒ってるあづさが怖いんじゃない。手に入れたものを失うのが怖いんだー……。
視線を窓の外の景色に移し、ぼんやりと過去のことを思い出す。
汗でTシャツがくっついてうっとおしい。
俺はベンチに座って貧乏ゆすりしながらスマホをいじっていた。
この公園は男同士のパパ活や援交の待ち合わせ場所として有名スポットだった。
俺も出会い系の利用者の1人。隣のフェンスにもたれてあくびしてるヤツもそうだろう。あいつだって、そいつだって……。
俺は、俺だけは、あんなやつらとは違う。絶対に。
スマホの画面に映るのは出会い系アプリでの生々しいやり取り。
最初は男がシコってるのを見るだけだったのに……シコってるところ見せてくれたらプラス5千円とか、舐めてくれたら2万円とか、最終的にヤッたら5万くれるって。
『大人』の相場は5万らしいから……悪くない金額なんだろう。
エロいことして金もらうんだから、最後までしてより多くの金が手に入った方がいいんじゃないか?なぁ。そうだろう?別にさ、今どきみんなやってることだしさ、需要と供給が一致しただけだし……。
何も悪いことしてるわけじゃないのに自分に言い訳を重ねるのはあの女が頭によぎるから。
あいつは、俺の母親は、男に媚びて生きるΩだった。
学のないΩのシングルマザーができる仕事なんて水商売か風俗ぐらいしかないってわかってるけど、母親はあまりにも醜かった。ガキの俺を押し入れに押し込んで……芝居がかった媚びた喘ぎ声を思い出すだけで吐き気がする。
せめて隠す努力をしてくれたら少しは受け入れることができたのに……。
あの女は、世間が思い描く通りのΩだった。俺は絶対にあんな風にならない、俺はΩだからって自分を売らない。そう強く思っていたのに結局同じことをしようとしている……。
時計を見ると、あと数分で約束の時間だ。
深い深いため息をついた時、突然背後から声がした。
「ひ、寿……?」
寿(ひさし)……その偽名で俺を呼ぶ人は決まっている。
恐る恐る振り向くと、そこに立っていたのは恋人のあづさだった。困惑した顔だが、どんよりした雰囲気が漂う公園には場違いなほどキラキラしたオーラをまとっている。
「な、なんでここに……」
「あづさこそ……どうしてこんな場所に……
「カツヤが、あの、動画撮ろうって言って、それで……寿に似た人がいると思って……か、帰らせたよ!」
「……」
「……」
カツヤとは俺らのグループの一員で、アングラな芸風でそこそこ有名なYouTuberだ。
こういった場所に突撃すると言ってもおかしくはないヤツである。
あづさのストレートな問いにより長い沈黙は破られた。
「まさか、出会い系?とか、じゃないよね?」
「そ、れは……」
「ねぇ寿……なんか言ってよ……」
「……」
答えることができなかったけど、肯定したも同然だった。
まずい。このままじゃいけない。必死に言い訳を考えたけど言葉が出てこない。
「……帰ろう」
「あっ、痛い!痛いって!離せよ!」
あづさは今まで見たことのない能面のような顔をしていた。
ものすごい力で腕を引っ張られ、偶然通りかかったタクシーに押し込まれる。
もちろん抵抗したけど、体格が良く小学校の時から空手をしているあづさに敵うわけがなかった。
場所が場所だけにタクシーの運転手は慣れきった顔で「お客さん、どこまで?」と尋ね、あづさはぶっきらぼうにマンション名を告げた。いつも運転手や店員には物腰柔らかいのに……声だけで震えるほど怖くて顔を見ることができない。
俯いた先に見えたのは笑えるくらい震えてる自分の膝。
怖い。怖いよ。怒ってるあづさが怖いんじゃない。手に入れたものを失うのが怖いんだー……。
視線を窓の外の景色に移し、ぼんやりと過去のことを思い出す。
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