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19.とある青年のモノローグ/あなたとのダイアローグ 完結
しおりを挟む夕陽から送られてきた『おー』『うまくいくといいなー』という短いメッセージに親指を立てたスタンプを返し、やりとりを終わらせスマホをバッグにしまう。
俺は今、実家の福島に帰るべく新幹線に乗っている。
大学に進学してから一度も帰省していないから3年ぶりに父親と会うことになる。当然電話やLINEもしていない。お互い存在しない人と扱ってた。
なぜこんな状態になったのか……理由はたった1つ。俺がホモだから。それだけ。
高2の夏、当時付き合ってた彼氏と手を繋いで歩いているのを見られて、色々言われたりあんなことやこんなことがあって……。あーっ!思い出したくないっ!
そもそも見られたって言い方もおかしいんだよなぁ。
物心ついた時から男が好きで、わざわざ親に恋愛話をしなかっただけで、ホモなのを隠してたワケじゃないし、ノンケを装ったこともない。父が勝手に異性愛者だと決めつけていただけだ。
詰め寄られて正直に答えたのは「自分に嘘はつきたくない!」みたいな信念があったんじゃなくて、どんな俺でも受け入れてくれると信じていたから。
いつなにがあっても支え合って生きていくのが家族だろう?でもこれは、甘えとか馬鹿げた夢だったのかな……。
昔は仲良かったんだけどねぇ。よく一緒にプロレスの試合を見に行ったりした。実際は強制連行されたんだけど。
プロレス自体全く好きになれなかったが、少年のように選手に声援を送る父の横顔が好きだった。興味ない俺に一生懸命説明してくれる所が好きだった……。
母さんとは普通に仲が良いし、心配してくれる。今年の春も会ったしね。長期休暇のたび、何かと理由をつけてこっちにやって来る。
直接ホモだって話したことはないし、父がどう伝えたのかはわからないが、ただ一言「好きなように生きなさい」とだけ言ってくれた。本当は言いたいことは山ほどあるはずなのに……。
……いつの日か、家庭を壊してしまったことについて謝りたいと思っていた。できれば父とも和解したかった。
だけど性的指向を変えるつもりはないし、父は縁を切りたがってるかもしれない。「今さら」とか「どうせ」なんて言葉が過って、あまり深く考えず逃げ続けていた。
しかしあのバイトを経験してから俺の世界は一変した。「深く考えなくてもよくね?」という余裕が生まれたのだ。
大病や事故で生死をさまよった人は価値観や人生観が変わると言うが、それに似ているかもしれない。
俺は場の勢いだけで人前で裸になってバカで下品で汚い芸を披露するようなヤツなんだ。
悩むたびにアナル綱引きする自分を思い出し笑ってしまう。
だから深く考えず、とりあえず父に会ってみたくなったのだ。
もし、またいざこざがあったとしても仕送りの礼だけは言おう。母さんは専業主婦だから、父の稼ぎで大学に行って一人暮らししている。
そんな状況から脱出したくてコンビニでバイトしてたけど、本当に金に困ってたワケではないからブチ切れて辞めてしまったのだ。
父に会うのを夕陽も応援してくれた。彼氏に騙されたショックで病んでたのに、俺のことまで考えてくれて感謝しかない。
彼氏とおじさんはとある飲み会で知り合い、エロ雑誌のライターでネタと金に困ってると夕陽を紹介されたのだ。紹介料目当てで売られたと思いきや、そういったものは払っていないという。
断れないとタカを括り、理由つけてバイト代をむしり取るつもりだったのだろう。本当に酷い話だ。
おじさんは巻き込んだお詫びとして、トラブルなく別れられる色々と「用意」してくれたと夕陽は語る。いい人そうに見えても風俗業界というアンダーグラウンドの住人だ。もうおじさんと……あの温泉と関わることはないだろう。
長時間同じ体勢だから腰が痛くなってくる。姿勢を正して椅子に座り直してボーッと窓の外の景色を眺める。
さっきまで曇っていたのに気が付けば雲ひとつない澄んだ青空が広がっている。なんとなく、いいことが続く気がした。
その予感は的中し、なんやかんやで父と和解したり、夕陽に新しい恋人ができたり、初めて買ったスクラッチの宝くじで5万円当選したりした。
あ、あと新しいバイト先で、あの24番のおっさん(体の落書きとケツからココア出すのをリクエストしたアイツだ)と出会い、ちょっとイイ感じになって来週映画を観に行く約束をした。
いやー、びっくりしたね!世の中何があるかわからないよなぁ。
どういう経緯か詳しく説明するのはまた今度にしよう。
本作は素人男子大学生が宴会芸をする下品極まりないBL小説で、感動家族小説、ピュアなラブストーリー、年下攻めおじさん受けの作品ではない。
こんな話を最後まで読んでくれた読者諸君にも何かいいことが起こりますように。元気で行こう。絶望するな。それじゃ、さよなら。
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