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お前以外ハッピーエンド笑笑笑大爆笑
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それから俺はなるべく早く借金を返済するため必死に働いた。稼げそうな肉体労働や工場の夜勤など色々やったがやはり長続きせず、またニートに逆戻りで、腰を悪くして日常生活に支障をきたしていた。返済は滞り借金は膨らむばかりでいわゆる闇バイトに手を染めた。結局、反社会勢力と繋がりを持ってしまったのだ……。
しかし今日するのは真っ当なバイトだ。とあるパーティーの警備員として高級ホテルに来ている。
俺には縁のない世界だ。セレブや大物政治家が来るらしく、外部に情報を漏らすなと何枚もの契約書を書かされ失礼な態度を取るなと念を押された。
給仕をするわけじゃないし、マナーや礼儀は必要ない。黙って入り口に立っていればいい。
そう思っていたが……。
「いぃいいいー!」
「うわ、おおう、うっうっうーっ」
「んおっおっ」
優雅なパーティーに似つかわない奇声がそこらじゅうで響いているが、気にする者はいない。
セレブや政治家は胸に小型犬を抱いて立ち話するかのように、奇声を発して手か足、または両方がない人を乗せた車イスを揺らし談笑している。
「いっ、おっ、おっ!」
「こら、落ち着きなさい!すみませんねぇ、うちの子まだパーティーに慣れてなくて」
「あらまぁ、そうですの。元気があるのはいいことですわ。ねぇシェリルちゃん」
「んきぃいいいぃぃい」
「ふふふ、ヨダレまで垂らしちゃって」
テレビで何度も見た有名な女社長は、愛おしそうに『シェリルちゃん』の口許をハンカチで吹いた。シェリルちゃんはいわゆる芋虫状態で、口は開きっぱなし、うねうねと暴れるからかベルトでがっちりと固定されている。
女社長と会話している青年もきっとセレブか著名人なのだろう。太ももから下がない同じくらいの年齢の青年をつれていた。
家族が障害を持つ著名人たちのの交流会……と言ったところか。
失礼な態度を取るなと念を押された理由がよくわかる。
俺はどんな姿かたちでも愛してくれる人がいてうらやましいとしか思わなかったが……。
パーティーは終始騒がしくも和やかな囲気だった。時折、車イスの人がグラスを倒して辺りを汚したり、アクセサリーや髪を引っ張ったり……とちょっとしたハプニングが起きたが誰も咎めない。
いい仕事を見つけた、とひっそり安堵のため息をついた時だった。
初老の男が入ってきた。彼もまた車イスを押していた。
「あっ、西宮社長!ご無沙汰しております!『奥さま』も!どうもどうも」
「あら、遅かったじゃないの」
「いやぁ、出かける直前に『家内』がグズりまして」
「そうだったの。こんにちわぁ、よーくん。お久しぶりでちゅね~、ほらシェリルちゃんも挨拶しなさい?」
男が『家内』として紹介した人物は、どこからどう見ても男で両手両足がなく、『鼻もない』。切り落とされたように、真っ平らで鼻穴が上向きに露出している。……まるで豚だった。こんなの、人間じゃない。
俺が子供の頃に流行ったアニメのTシャツをワンピースように着て、首は包帯でぐるぐる巻きにされていた。
「いぎっ、ぉおおっ!おっ!ふごごっ」
『よーくん』はまわりに人が集まって嬉しいのか短い腕で拍手のジェスチャーをする。子供のように屈託のない幸せそうな笑顔を浮かべて。
なぁ、お前。そんなヤツじゃないだろ。
お前は『よーくん』じゃないだろ。
『鈴木煌羅』だろ……?
そう。
初老の男と共に現れたのは鈴木だった。あの細く蛇のような目は、鈴木だ。見間違えるわけがない。包帯はあのヤンキーくさいダサいタトゥーを隠しているのか?
何人もの男に強姦され、焼き印を入れられた後、やはり手足を切断されたのだろう。その様子をDVDにされ売られたというのに、なんで、なんで、幸せそうなんだ。なんで?なんで?
俺は借金まみれで、体も壊して、もう、なにも残ってないのに。
お前に人生壊されたのに。なんで?なぁ、おかしいだろ。
「うわぁああぁあーーーッ!!」
気がつけば鈴木に掴みかかっていた。
背中にあるはずの豚人間の焼き印を晒して嘲って、殺してやろう。思いつく限り一番残酷な方法で。
「ぎゃあっ!なにするのよアンタ!」
「だっ、だれか、取り押さえてください!」
「な、なんだね君はいきなり!妻になんてことをする!」
パーティーは悲鳴に包まれたのも一瞬の出来事。
駆けつけた他の警備員によって俺は容易く取り押さえられ、床に叩きつけられた。
鈴木はフゴーッフゴーッと豚のような鳴き声をあげて男の胸に額を擦り付けて震えながら泣いていた。
「そ、そ、そいつは、俺を、いじめた……!小学校から、高校まで……ずっと!なのに、なんでお前が幸せになって、なって、るんだよぉおおっ」
力の限り叫ぶと、男は震える鈴木を撫でながら顔をしかめた。
「よーくん、こいつ知り合いなのかい?いじめてたって本当かい?」
「フゴッフゴッ!」
「し、知らないって言ってるぞ!」
「てめぇ!殺してやる!殺す!死ね、死ねよ!!」
「そもそも本当だとしても、そんなに昔のこと根に持つなんて……頭おかしいんじゃないか?
それによーくんにどんな過去があっても、僕たちの愛は不滅だ!あぁ醜い醜い!早くこの豚男を連れて行ってください!!」
「は、はい!」
首の裏にプスリと何かを刺されて意識が遠退いていく。
「怖かったねよーくん。もう大丈夫だよ。悪いやつは警備員さんがやっつけてくれたよ、よかったね。よかったね。安心して、よかったね……」
優しい声が遠くで聞こえた。
しかし今日するのは真っ当なバイトだ。とあるパーティーの警備員として高級ホテルに来ている。
俺には縁のない世界だ。セレブや大物政治家が来るらしく、外部に情報を漏らすなと何枚もの契約書を書かされ失礼な態度を取るなと念を押された。
給仕をするわけじゃないし、マナーや礼儀は必要ない。黙って入り口に立っていればいい。
そう思っていたが……。
「いぃいいいー!」
「うわ、おおう、うっうっうーっ」
「んおっおっ」
優雅なパーティーに似つかわない奇声がそこらじゅうで響いているが、気にする者はいない。
セレブや政治家は胸に小型犬を抱いて立ち話するかのように、奇声を発して手か足、または両方がない人を乗せた車イスを揺らし談笑している。
「いっ、おっ、おっ!」
「こら、落ち着きなさい!すみませんねぇ、うちの子まだパーティーに慣れてなくて」
「あらまぁ、そうですの。元気があるのはいいことですわ。ねぇシェリルちゃん」
「んきぃいいいぃぃい」
「ふふふ、ヨダレまで垂らしちゃって」
テレビで何度も見た有名な女社長は、愛おしそうに『シェリルちゃん』の口許をハンカチで吹いた。シェリルちゃんはいわゆる芋虫状態で、口は開きっぱなし、うねうねと暴れるからかベルトでがっちりと固定されている。
女社長と会話している青年もきっとセレブか著名人なのだろう。太ももから下がない同じくらいの年齢の青年をつれていた。
家族が障害を持つ著名人たちのの交流会……と言ったところか。
失礼な態度を取るなと念を押された理由がよくわかる。
俺はどんな姿かたちでも愛してくれる人がいてうらやましいとしか思わなかったが……。
パーティーは終始騒がしくも和やかな囲気だった。時折、車イスの人がグラスを倒して辺りを汚したり、アクセサリーや髪を引っ張ったり……とちょっとしたハプニングが起きたが誰も咎めない。
いい仕事を見つけた、とひっそり安堵のため息をついた時だった。
初老の男が入ってきた。彼もまた車イスを押していた。
「あっ、西宮社長!ご無沙汰しております!『奥さま』も!どうもどうも」
「あら、遅かったじゃないの」
「いやぁ、出かける直前に『家内』がグズりまして」
「そうだったの。こんにちわぁ、よーくん。お久しぶりでちゅね~、ほらシェリルちゃんも挨拶しなさい?」
男が『家内』として紹介した人物は、どこからどう見ても男で両手両足がなく、『鼻もない』。切り落とされたように、真っ平らで鼻穴が上向きに露出している。……まるで豚だった。こんなの、人間じゃない。
俺が子供の頃に流行ったアニメのTシャツをワンピースように着て、首は包帯でぐるぐる巻きにされていた。
「いぎっ、ぉおおっ!おっ!ふごごっ」
『よーくん』はまわりに人が集まって嬉しいのか短い腕で拍手のジェスチャーをする。子供のように屈託のない幸せそうな笑顔を浮かべて。
なぁ、お前。そんなヤツじゃないだろ。
お前は『よーくん』じゃないだろ。
『鈴木煌羅』だろ……?
そう。
初老の男と共に現れたのは鈴木だった。あの細く蛇のような目は、鈴木だ。見間違えるわけがない。包帯はあのヤンキーくさいダサいタトゥーを隠しているのか?
何人もの男に強姦され、焼き印を入れられた後、やはり手足を切断されたのだろう。その様子をDVDにされ売られたというのに、なんで、なんで、幸せそうなんだ。なんで?なんで?
俺は借金まみれで、体も壊して、もう、なにも残ってないのに。
お前に人生壊されたのに。なんで?なぁ、おかしいだろ。
「うわぁああぁあーーーッ!!」
気がつけば鈴木に掴みかかっていた。
背中にあるはずの豚人間の焼き印を晒して嘲って、殺してやろう。思いつく限り一番残酷な方法で。
「ぎゃあっ!なにするのよアンタ!」
「だっ、だれか、取り押さえてください!」
「な、なんだね君はいきなり!妻になんてことをする!」
パーティーは悲鳴に包まれたのも一瞬の出来事。
駆けつけた他の警備員によって俺は容易く取り押さえられ、床に叩きつけられた。
鈴木はフゴーッフゴーッと豚のような鳴き声をあげて男の胸に額を擦り付けて震えながら泣いていた。
「そ、そ、そいつは、俺を、いじめた……!小学校から、高校まで……ずっと!なのに、なんでお前が幸せになって、なって、るんだよぉおおっ」
力の限り叫ぶと、男は震える鈴木を撫でながら顔をしかめた。
「よーくん、こいつ知り合いなのかい?いじめてたって本当かい?」
「フゴッフゴッ!」
「し、知らないって言ってるぞ!」
「てめぇ!殺してやる!殺す!死ね、死ねよ!!」
「そもそも本当だとしても、そんなに昔のこと根に持つなんて……頭おかしいんじゃないか?
それによーくんにどんな過去があっても、僕たちの愛は不滅だ!あぁ醜い醜い!早くこの豚男を連れて行ってください!!」
「は、はい!」
首の裏にプスリと何かを刺されて意識が遠退いていく。
「怖かったねよーくん。もう大丈夫だよ。悪いやつは警備員さんがやっつけてくれたよ、よかったね。よかったね。安心して、よかったね……」
優しい声が遠くで聞こえた。
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