ぶたにんげん【完結】

市井安希

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かわいそうだって?笑

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 あれから1か月後……俺は相変わらず汚ないアパートでゴミに埋もれて暮らしていた。
 青年とはLINEを交換したが(『無免ライダー(偽)』という名前だった)連絡はない。
 彼はYouTuberか何かで、俺のようなバカで醜い最下層の人間を嘲笑うために近づいて来たのだろう……そう思っていた時だった。
 インターホンが鳴り、配達員が薄く小さな段ボールを置いていった。
送り主は『ザ☆ジャスティスヒーローカンパニー』……ヒーローを自称していた青年の顔が思い浮かぶ。段ボールを開けると中にあったのはラベルがない1枚のDVD。
 いったい何が映っているのだろう。
「ドッキリ大成功~!本気にした?バッカじゃねえの?ギャハハ」と青年が爆笑している映像は容易に想像がつく。このままDVDを粉々にして捨ててしまおうと、あの日ポケットに忍ばせたハサミを手にする。
 しかし心の端ではでも、もし、本当に復讐の様子が収められていたら……と期待している自分がいた。

 あの悪魔を、鈴木を、こらしめてやりたい。天罰を与えたい。でも、だけど……。
 
「ありえないって……」と落胆する準備をしつつ、一抹の期待を抱いてDVDを再生すると壮大な音楽が流れ、黒い背景に『スカッと!ヒーロー伝説season3 プレゼンツバイ ザ☆ジャスティスヒーローカンパニー』のテロップが浮びあがる。
 真ん中からズレていていかにも素人臭いシロモノだった。

 画面は徐々に明るくなり、住宅街の映像が流れ、ある人物のアップになった。

「あ?なんだテメー」

 カメラを睨みつける男は……鈴木だった。歳を重ねてもあの醜悪な目付きは変わっていない。首にはタトゥーが入っていて、どう見ても『普通の人』ではない。
 心臓がどくんと跳ね上がる。

「君が小学校から執拗に同級生を『豚人間』と呼んでいじめてたのは事実かな?」
「はぁ?いじめ?知らねぇよ?てか誰だテメェ」
「高校のときに彼女を妊娠させて流産させようとしたのは?」
「リカコの知り合いか?今さらなんだよ?」
「じゃあじゃあクラブで知り合った女の子達を……」
「チッ、邪魔なんだよ。殺すぞクソガキ」
「うわっ、いた~い!!」

 画面が大きくぶれる。
 鈴木は声の主兼撮影者突き飛ばし去っていった。鈴木の背中がどんどん小さくなっていく。

「う~んこれはクロですねぇ……正義執行しちゃいますかっ!」

 また画面は変わり、今度はむき出しの壁の殺風景な部屋が写し出される。
床に縛られ転がっているのは……やはり鈴木。

「てめぇ、さっきの?!なんなんだよ?!」
「僕はただのヒーロー、正義の味方で~す」

 姿は見えないがこの声の主兼撮影者はあの青年だろう。 

「わけわかんねぇこと言ってんじゃねぇよ!!」 

 鈴木は敵意むき出しで叫ぶがそれも一瞬のこと。どこからともなくゾロゾロ出てきた覆面の男たちに囲まれて、悪態をつきながら不安げに目を泳がせた。

「こ、こんなことしてタダで済むと思ってんのか?!俺を誰か知ってんのかよ?!」
「うんうん、元気がいいね!ということで、はいっ!じゃあみんな、好きにやっちゃって~☆」

 その一言で男たちは一斉に鈴木に襲い掛かった。

「うーっす」
「はーい」

 男たちは一斉にズボンを下ろし、性器を露出させた。いかにも洗ってなさそうな、恥垢だらけでぬめっとした汚ならしい肉棒。鈴木は無数の性器に取り囲まれAVでよく見るような状態になった。

「はっ?!なんだよホモ野郎かよ!気色ワリィんだよっ!」
「あっ、ヘイトスピーチだぞ!本当に救えねぇヤツだな……」
「死ねっ、しね、うぐっ?!うわぁああああ?!」

 男たちが鈴木の顔に向かって放尿し始めた。

「おえぇ、やめろっ!おぶっ、うげぇっ……!」

 涙と鼻水も垂れ流しで酷いありさまだ。えずくと口が開いて、嫌でも口の中に入ってしまう。

「うわ、きったな」
「おい大丈夫か?」
「ひどい顔だな」
「やべぇ、草」

 男たちはゲラゲラ笑いながら尿をひっかけ続ける。

「みなさん、どうかこいつを人間便器として活用してやってくださいね~」
「了解でーす!」
「はーい」
「床にこぼした分はちゃんと口でキレイにするように~って聞いてるか鈴木~!」
「あがっ、おごごご、おぇっ」
「あっすんません、ションベンしてたらうんこもしたくなってきました!いいっすか?」
「あはは、いいタイミングだね~。じゃあみんなで手足押さえて、開口器つけさせて~」
「や゛めろぉおおおお゛っ」

 そこから画面は徐々に暗くなっていき、音声だけになる。

「はーい、じゃあいきまーす」
「あがっ、おごご、おぇええ゛っ」
「あー出る出る」
「うげぇえ゛っ」
「うわくっさ」
「どんだけ出すんだよ」
「最近便秘ぎみでさ~」
「あがぁっ、おえぇえっあがががが……」

 再び画面が明るくなると鈴木の顔や全身は茶色い「何か」にまみれ、泣きながら膝を抱えて震えていた。

「じゃ、人間卒業おめでとう~!みんな拍手~!」
「おめでとう!」
「感動した!」
「若い人元ネタ知らねぇだろw」
「吐いたらまた食わせてやるから安心しろ!」
「うぅ、おえっ……おぇえっ……」

鈴木は拍手に包まれながらえずく。
「どう?美味しかった?」

「お、お、おいしかったですぅううううっ………」
「それはよかった☆でも昼ごはん食べてないからまだお腹いっぱいじゃないよね?みんなに鈴木くんのお昼ごはん持ってきて貰ったんだ~イェーイ」
「あガ、あがが」
「じゃっ、右から順番に発表しようーどうぞ!」
「ひぃ、ひぃーっ」

 正気を失った鈴木をよそに、発表が始まる。男たちはゴソゴソと袋から持参したものを取り出した。

「僕が持ってきたのはタバスコとマスタードとわさびでーす!10本ずつあります」
「おー、豪華だねぇ」
「俺はとりあえず生ゴミ持ってきました。エコかなぁって」
「偉い!SDGsってやつだね!」
「あっ、俺は燃えないゴミです」
「1か月前から溜めておいた精液でーす」

 タバスコがマシだと思えるラインナップだった。

 そして最後の男が茶色い紙袋から取り出したのは……。

「昨日ペットショップに行ってハムスター買ってきました!5匹!」
「おぉー!斬新なアイディア!」

 拳の中でチーッチーッと悲鳴をあげもがく茶色いハムスター。
 感嘆の声が上がったところでまた画面が変わり、鈴木が土下座している。

「もう無理です、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」
「あのさぁ、謝るのやめな?お前は謝られていじめやめたの?暴力振るうのやめたの?」
「それは、あうっ、うう、うぇええっ」
「ま~じでお前カスだな。みんなが持ってきてくれたごはんも残すし……。
お詫びとしてレイプされてね?
みんなーこんなカスで申し訳ないけど穴使ってあげて?処女らしいよ?」
「うーっす」
「あ、あな?なに?!いやだ!やだやだやだ!!!」

 男たちの無数の手が鈴木の肉体に伸びた。
 いわゆるちんぐり返しの状態で固定され、性器も肛門も無防備に晒された。
 鈴木の固く閉ざされた黒い肛門にローションもなしに指が突き刺さる。

「う゛あ゛っ、痛いっ!やめてぇ!」
「ヤメテェ!だって!キモ」
「裂ける!裂ける!!」
「あ゛っ、うぐっ」
「お~、初モノはやっぱキツいな~」
「壊し甲斐あるよな~」
「あぎぎぎっぐげっ」

 肛門に抜き差しされる指には血が付着していた。

「天然のローションだ!」
「よし、ハメるか!」

 信じられないことに男たちは当たり前ようにメリメリと挿入し始めた。

「痛い!!痛いぃーーー!!痛いっ!!!」
「裂けちゃう~って?大丈夫だよ、もう裂けてるし。よーし、んじゃいきまーす!」
「う゛あ゛っあがぁ!いだい!!」

 絶叫むなしく男はバコバコと乱暴に腰を振り、乳首を捻りあげていた。

「ちく、び!取れる!痛い!!」
「取れてもいいんだよ。あとで切除して視聴者プレゼントするしさ」
「な゛っ?!、ひぎぃいいいいっ」
「処女喪失記念に写真撮っておこうぜ~」
「た、たすけ、」

 男たちは興奮しきった様子でスマホを向け撮影している。
 青年も笑いながら結合部をアップにした。

「うわっエグ!ケツめくれてる!痛そ~」
「鈴木くんの処女ケツマンコ、いかがですか?」
「まぁ、そこそこなんじゃないっすか?」
「何点?」
「55点!黒いし毛生えてるしうんこついてそうだから!」
「ひでーよなぁー」
「あはははは、なんでこうなったんだっけ?」
「ぜーんぶこいつのせいだろ?」
「その通り~w」
「う゛っ、あがぁ、おえっ…………」

 鈴木は揺さぶられながらついに嘔吐して気を失ったが、青年は許さなかった。

「あーあ。だらしねぇな。おら起きろ!」

 どこから持ってきたのやら。大きなホチキスを180度開いてガチャン!と胸に針を刺す。それを2回、3回……。

「ひぎゃっ?!あががっ」
「あ、起きた」
「うーっす。じゃあ続きしまーす」
「ひぎっ!いだい゛ですっ!!やめでぇ!!」

 鈴木の悲鳴は男たちをさらに興奮させたようで、行為はどんどんエスカレートしていく。

「あがぁっ!おごぉ!ぎゃあぁああぁっ!」
「あー出る出る……」
「なか、出さないでくだは、ぁあああぁ……」
「あ~、中出し気持ちいい~」

 男はブルッと身を震わせて性器を引き抜いた。すぼまった穴から精液と血が滴る。男たちによって尻たぶを左右に引っ張られあらわにされた肛門はズタズタに切れていた。

「じゃっ、みんなでおむつ必須のガバマンになるまでマワしてあげましょー!1人3回は出してねー」
「ひぃいいい……いぎぎぎぎあぎきぎに」

 悲鳴とともに鈴木が輪姦される様子が、いや、肉体を破壊される様子ががダイジェストで流れる。最早レイプではなく拷問だった。

「あがっ、おごぉ、も、もうやめでぇ……」
「うーっす」
「あ゛~また出る~」
「俺も!」
「あがぁっ!ひぎぃい!!」

 鈴木は精液まみれの顔で泣き叫んだ。しかし男たちは容赦しない。さらに次の男がやってくる。肛門だけではなく口、鼻、目、手も欲望を受け止める器官として扱われた。
 途中、馬の性器ほどある電動ディルドや床に無数に転がるBB弾らしきものが出てきた。そしてまた画面が変わる。

「や゛め゛でーーーー!あ゛あ゛あ゛、怖いっ怖い!!!!」

 背中を向けハリツケにされた鈴木は痛みと恐怖のあまり失禁したのか足元に水溜まりが出来ていた。
 何をどうしたらそうなるのか、お尻は赤黒く腫れ、針が大量に刺さっている。
 腐って皮がブヨブヨになったプルーンに針を刺してウニのように見立てる……そんな表現が思い浮かんだ。

「これから鈴木煌羅くんが『豚人間』として生きていけるようにプレゼントをあげちゃいまーす!」
「ぎゃあっ、ぎゃああああっ!」

 鈴木は首だけを使って後ろを見て、獣のように絶叫した。それから何か棒状のものを持っている覆面男が映された。

「うわーっ、すごい!こちら特製の焼きごてでーす☆今から鈴木煌羅くんの背中に、この焼きごてで『豚人間』の文字を入れますっ!やったね☆」
「ボス!俺も熱いんで早くやっちゃっていいっすか?」
「おいおい~ボスじゃなくてリーダーだろー」
「サーセンw」
「やめろ゛っやめろ゛ぉ゛っ!死ね!死ね死ね!ころしてやる!」
「はぁ、本性ダダ漏れ。やっぱ反省してねぇな。よしいっきまーす」

 そして、暗転。静寂。

 大きめのバッグのファスナーが一部開いていて、そこから血の気のない鈴木が顔を出して泡を吐き白目を剥いていた。
 成人男性の体が入るサイズのバッグとは思えなかった。

「はいー!こんなにコンパクトになりましたー!持ち運びに便利!軽い!いい感じです!先生に感謝ですね!
それなのに鈴木くんは、おっと『豚人間』くんは感謝もせず気絶しちゃって……ダメダメですね!罰として皮伸ばしと眼球焼きと鞭打ち100回と3日間ごはん抜きにしましょう。浮浪者の……じゃなくてお家がない方々が恵んでくれる排泄物だけは食べる許可を与えましょう。
せっかくの施しを拒否したら、生まれてきたことを後悔するような、早く殺してって懇願するようなもっとキツ~い罰を与えたいと思いまっす!
その様子もDVDにするのでみなさんお楽しみにー!まったねー!」

 意識のない鈴木とは正反対の楽しげな声のあと、また画面が徐々に黒くなり愉快なBGMが流れ始める。

 終わった……のだろうか。
あぁ、あぁ……なんだこれは……なんなんだ……?!

 目に写ったすべてが脳で処理できなくて、理解する前にトイレに駆け込んで嘔吐しているとスマホが鳴った。口をぬぐいながら電話に出る。

「やっほー、おじさん。アレ見た?」
「……み、みま、見ました」
「本当は30万するダイジェスト版なんだけどさ、依頼者には無料であげてるんだ。
本編は50万で、前編まとめ買いすると20%オフ!お得だろ?そんで、」
「ああ、あ、あの!お、おれ、俺は!」
「……なに?あそこまでやれって言ってましぇ~んって言うつもり?あ?」
「……」

 その通りだった。

 まさかあんなことになるなんて……。
 青年の声の冷たさに凍りついて声がでない。

「ふ~~~~ん?……じゃあなにを望んでたわけ?」
「は、は、反省して、つ、罪を償って、」
「反省するようなヤツじゃねぇってわかってるだろ。わかってっから一復讐したいって思ったんだろ?」
「あ、あう、うう、」
「それにアイツ、クラブで女の子たちに危ない薬飲ませてメチャクチャやってててさぁ、おじさんが女の子たちを救ったと思えばスッキリするだろ?ヒーローの仲間入りっ!」
「あ、や、その」
「なに?あいつにいじめられてたのに女の子たちのこと可哀想って思わないの?お前もクズなわけ?」
「お、おも、思ってます」
「え?」
「か、かわ、そ、可哀想って、思ってます!!」
「だよなー安心した。んじゃ契約完了だな。200万円きっちり払ってもらうから♪」

 金の振込先と期限を伝えられ、必死にメモする。払わないときっと俺も同じ目に遭う。いや、もっと酷い目に遭うに違いない。

 働き口を紹介されたが丁重に断った。もうこれ以上この青年と関わりたくなかった。

 ……俺に残ったのはDVDと借金。
再び吐き気が込み上げてきて、その場で嘔吐した。


 
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