原典怪飢

食う福

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奇岩譲受

郡山結衣の場合

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蛍火と鳴味さんとの夜の高校での騒動から1週間が経ち、これまでと同じような日常を過ごしている。


蛍火とはあれから何度か大学でも、近所でも顔を合わせたり、一緒に遊びに行ったりしているけれど、
なんだか...

「蛍火くん!
 今日も事務所に来てくれないかい?
 実家から大量のキャベツが送られてきてね~」



鳴味さんがめっちゃ、蛍火に懐いている。
大学には流石に入ってこないが、
大学を出ると気づいたら出現している。


「それを私に料理しろってことですよね...
 この1週間でいったい何食作らされたと思ってるんですか..!?」


「いいじゃないか~私と君の仲だし~
 そ、れ、に」


ま、まさかこの人、先日の件を理由に蛍火に過重労働を強いてるんじゃ...

「蛍火くんの料理は美味しいんだから、
 そりゃあ、何食も食べたくなるよね~」


「そうですか、
 ま、まあそれならいいですが。
 私も食費が浮くので助かってます。
 結衣も一緒に食べてくよね?」


うーん悩ましい。
蛍火とは小さい頃からずっと一緒にいるが、なんだか私といるよりもこの無限腹減り少女(らしい)と一緒にいるほうが楽しそうだし、
水を差すのもなあ...

でもこの流れ、今週に入って4回目だし..


「今日は遠慮しておこうかな、
 流石に家の食材も使わなきゃだし」


「おお!結衣くんも料理をするのかい!」


しまった。


「シェフが身近に2人もいるなんて、
 私はなんて幸せ者なんだ...」


確かに私も多少料理はできるけど、蛍火ほどではない。
蛍火の料理はなんというか、舌が肥えてるのか、
カレーひとつ取っても出来が違う、
旨味とか、もっと繊細なレベルで。


「私はそんなに上手ではないですし、
 蛍火の料理のほうが美味しいですよ。
 なんだか繊細な味がしますよね。」


「ふふ、結衣くんにもわかるかい?
 蛍火くんの料理は何か違うよね。
 こう、ふわぁーというか、さふぁーというか」


「独特な擬音ですけど、
 確かにそうですね、そんな感じです。」

「もう、2人ともそんなに褒めても、
 これ以上美味しくはならないですからね!」


過重労働にガソリンを注いでしまったかもしれないと思いつつ、私は家に、2人は事務所に帰っていった。





蛍火の話によると、
鳴味さんはあの夜に出会った得体の知れないものとか、怪異とかを探しているらしい。

一度あの類のものに行き逢うと、染みみたいなものが付くらしく、私も引き続き気をつけたほうがいいみたい。


冷蔵庫の中にあった野菜とお肉で、炒めものと味噌汁を作り終わり、よそいながらぼんやりと考える。


あの日、どうして私は蛍火が高校にいると思ったのだろうか。

あれ異形の化物を見た時、
一瞬蛍火に見えたのはなぜだろうか。

わからないことは多いけど、
今度、鳴味さんに聞いてみようかな。


「やっぱり、蛍火のご飯のほうが美味しいなあ...」


作った野菜炒めを一口食べて、
事務所に行かなかったことを少し後悔した。


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