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異形手紙
月見蛍火の場合
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結構、自分ではそれなりに、
上手に生きていると思う。
初めて引き算を習った時、クラスでも
5番目くらいに解けたし、
赤点とは無縁の中高を過ごした。
しかし赤点と無縁だっただけで、
高得点をたたき出すハイランカーだった
わけではなく、中の中の上くらい。
しかしこの位置というのは
親からも、教師からも
叱られず、期待も重くない。
普段は興味関心の向くことに矢印を向け
テスト前に少し頑張る。
これでいいのだ。
そんなこんなで中高を過ごし、
この春から大学生になった。
1人暮らしをするに当たって料理を始めた。
今日の夜ご飯は一昨日作ったカレー。
ご飯を炊いて、
野菜がゴロゴロ、
鶏もも肉が入ったルーを温める。
「今日も美味しそうなカレーだな~」
適当な鼻歌を歌いながらカレーをよそっていた。
順風満帆だった。
「蛍火、どこ?、助けて」
その1文を見た時に順風満帆の文字は
私の中から消えた。消された。
結衣からのメッセージ。
親友の結衣。
小学校からずっと一緒の結衣。
強くて、優しい結衣。
「落ち着け、待って、何で」
急いで結衣に電話をかけたが、
繋がらない。
「まさか。」
悪い予感が氷柱のように身体を貫き、
キッチンから動けなくなった。
「ピンポーン」
インターホンが鳴り、我に返った。
それどころじゃない、けど、誰?
「ピンポーン」
それどころではないのだ、でも出ないと帰らないか、警察?結衣の事で誰かが私に尋ねてきたかもしれない、どうしよう、どうしたらいい、わからない。
「ピンポーン」
3度も鳴らすくらいだ、
よっぽどの用があるはずだ。
玄関へ向かった。
「はぁ、う、」
返事をしようとしてすぐに口を噤んだ。
待て、待て、
私も殺される?
あの噂が本当なら?
今玄関の前に居るのは?
人間?
結衣からメッセージが来たって事は。
そういう事じゃないのか?
もうあれが、アレが、
扉を挟んだ向こう側にいるなら?
「何で、わたしが」
順風満帆だった。だったのだ。
扉の前で蹲り、泣いた。
久しぶりに泣いた、死にたくなかった。
「ガチャ、ガチャ、コンコン」
もうどうなってしまってもいいか。
ドアを開けた、何で開けたのかも、
もうわからない。
「美味しそうな匂いだね、今夜はカレーかな?」
飄々とした声、でも凛とした、
はっきりした声だった。
声の主は少し小さな女の子だった。
だけど声の感じからすると同年代くらいかもしれない。
「?」
アレではなかった。
良かった、生きてる。
でも、
「泣いてる理由は凡そわかっているよ」
なんでわかるんだ?テレパシー?
驚きと混乱で声が出せずにいたが、
「誰なんですか?何がわかるんですか?」
振り絞った声で聞いた。
「まあ、とりあえずカレーを頂いてもいいかな?」
静かなアパートだからか、
少女の空腹の音がやけに大きく聴こえた。
上手に生きていると思う。
初めて引き算を習った時、クラスでも
5番目くらいに解けたし、
赤点とは無縁の中高を過ごした。
しかし赤点と無縁だっただけで、
高得点をたたき出すハイランカーだった
わけではなく、中の中の上くらい。
しかしこの位置というのは
親からも、教師からも
叱られず、期待も重くない。
普段は興味関心の向くことに矢印を向け
テスト前に少し頑張る。
これでいいのだ。
そんなこんなで中高を過ごし、
この春から大学生になった。
1人暮らしをするに当たって料理を始めた。
今日の夜ご飯は一昨日作ったカレー。
ご飯を炊いて、
野菜がゴロゴロ、
鶏もも肉が入ったルーを温める。
「今日も美味しそうなカレーだな~」
適当な鼻歌を歌いながらカレーをよそっていた。
順風満帆だった。
「蛍火、どこ?、助けて」
その1文を見た時に順風満帆の文字は
私の中から消えた。消された。
結衣からのメッセージ。
親友の結衣。
小学校からずっと一緒の結衣。
強くて、優しい結衣。
「落ち着け、待って、何で」
急いで結衣に電話をかけたが、
繋がらない。
「まさか。」
悪い予感が氷柱のように身体を貫き、
キッチンから動けなくなった。
「ピンポーン」
インターホンが鳴り、我に返った。
それどころじゃない、けど、誰?
「ピンポーン」
それどころではないのだ、でも出ないと帰らないか、警察?結衣の事で誰かが私に尋ねてきたかもしれない、どうしよう、どうしたらいい、わからない。
「ピンポーン」
3度も鳴らすくらいだ、
よっぽどの用があるはずだ。
玄関へ向かった。
「はぁ、う、」
返事をしようとしてすぐに口を噤んだ。
待て、待て、
私も殺される?
あの噂が本当なら?
今玄関の前に居るのは?
人間?
結衣からメッセージが来たって事は。
そういう事じゃないのか?
もうあれが、アレが、
扉を挟んだ向こう側にいるなら?
「何で、わたしが」
順風満帆だった。だったのだ。
扉の前で蹲り、泣いた。
久しぶりに泣いた、死にたくなかった。
「ガチャ、ガチャ、コンコン」
もうどうなってしまってもいいか。
ドアを開けた、何で開けたのかも、
もうわからない。
「美味しそうな匂いだね、今夜はカレーかな?」
飄々とした声、でも凛とした、
はっきりした声だった。
声の主は少し小さな女の子だった。
だけど声の感じからすると同年代くらいかもしれない。
「?」
アレではなかった。
良かった、生きてる。
でも、
「泣いてる理由は凡そわかっているよ」
なんでわかるんだ?テレパシー?
驚きと混乱で声が出せずにいたが、
「誰なんですか?何がわかるんですか?」
振り絞った声で聞いた。
「まあ、とりあえずカレーを頂いてもいいかな?」
静かなアパートだからか、
少女の空腹の音がやけに大きく聴こえた。
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