14 / 25
第14話 麻雀はリセマラ+三巡目総評①
しおりを挟む
翌朝。 早めに横になった事もあって午前中に起床した二人は早速、新しいゲームに挑む事となった。
『麻將』マージャンのゲームで麻雀と書くのが一般的だが意味は同じだ。
「お兄ちゃんって麻雀やった事あるの?」
「ない。 だから事前にルールだけ調べておいた」
牌と呼ばれるもの十四枚を組み合わせて役を作って点数を競うゲームと継征は認識していた。
始める前にトロフィーの獲得条件も確認しておいたが、はっきり言ってかなり面倒そうで、継征はこの時点で長引きそうな予感を感じていたのだ。
基本的にこのゲームには明確なエンディングやストーリーはない。
難易度を設定して勝負するだけの代物だ。 ならトロフィーの獲得も容易ではないか?
そう思うかもしれないが、こういったシンプルなゲーム程獲得が難しいというのは彼自身が前回の十柱戯で嫌というほどに認識していた。 その証拠に獲得条件は一定以上の難易度で特定の役を出して上がり、勝利する。 そう上がるだけではだめなのだ。
その役を揃えた上での勝利。 麻雀はルール上、一度勝てば終わりではなく、半荘と呼ばれるゲーム単位で勝負を行い何試合も繰り返す。 初心者の継征には非常にハードルの高い話だった。
だからと言って逃げる気はないのでやるしかない。
「……やるか」
そう呟き、継征の長い戦いが始まった。
後ろで逸子が小さく欠伸をする。
それもそのはずだ。 淡々とマージャンをしているだけで、ルールを全く知らない彼女からすれば退屈な時間だろう。 継征も徐々にだが慣れてきはしたが、トロフィーの獲得の為に特定の役を狙う必要があったので難易度が跳ね上がっているのだ。
彼は麻雀というゲームのルールを知ってはいたが、楽しさを理解する前にこの苦行のような作業に身を投じてしまったので運の占める割合が一定以上存在するこのゲームに対しては作業感と苦痛を感じていた。 十柱戯は操作のシビアさに辟易していたが、運が絡む分、性質の悪さはこちらの方が上だと思っており、三時間ほどのプレイでもう辞めたいと思いつつあった。
「……ねぇ、お兄ちゃん。 面白い?」
「ぶっちゃけるともう飽きてきた。 やりたいなら喜んで代わるぞ」
「あ、ごめん。 遠慮しとく」
しばらくの無言。
流石に会話すらない状況は継征としてもあまり好ましくなかったので話題を探し――
「そういえばそろそろ期末考査か」
「うわ、嫌な事を思い出させないでよ」
「お前の所と時期が被るから月曜からは控えるぞ」
「……はぁ、そうだね。 流石にテストの点が露骨に落ちるとお母さんが怒るだろうし、真面目に勉強するよ」
「勉強の方はどうだ? 点ヤバいとかだったらゲームからテスト勉強に切り替えるが?」
半分以上、本音だった。 いや、目の前の苦行よりは成果の出る見込みのあるテスト勉強の方がマシだと思っていた事もあって現実逃避を兼ねた真剣な提案だ。
「……あ、クソ、また揃わねぇ……。 何だよトリプル役満ってこんなもんナチュラルに揃えられる奴いるのかよ……」
とにかく初手が良くなるまでリセットを繰り返し、よさげな手牌が来たらスタート。
後は運を天に任せるだけだ。 試行を繰り返すやり方だけあって時間はかかっているが、一つまた一つとトロフィーは獲得できていっている。
――そして――
「よし、よし、揃った勝った! ――ふぅ、あと三種類か」
困難を乗り越えた先には更なる困難が待ち受けている。
継征は人生の理不尽さをひしひしと感じながらひたすらに麻雀という名のリセットマラソンを続けた。
逸子と雑談しながら時間は流れ気が付けば深夜。 げっそりと萎れた継征だったが、その目は異様な輝きを帯びていた。 何故なら残りのトロフィーがあと一つだったからだ。
「よし、初手は悪くない。 今度こそ行ける。 勝つ、俺が勝つ。 そして麻雀を卒業するんだ」
彼の祈り――というよりは執念が天に届いたのか最後のトロフィーはあっさりと手に入った。
継征は無言で拳を握ると天に向かって突き上げる。 深夜のテンションの所為か逸子にはそれが妙に神々しく見えた。
「お疲れ様! やったねお兄ちゃん!」
「疲れた。 ただただ疲れた。 明日は学校だし、もう寝る」
「お風呂は?」
「朝になったら入るから今は寝かせてくれ」
継征はそれだけ言うとベッドに倒れ込んで寝息を立て始める。
逸子は軽く後片付けをすると力尽きて眠る継征に布団をかけると小さくお休みと言って部屋を後にした。
月曜日。 シャワーを浴びてすっきりした継征は小さく欠伸をしながら登校していた。
歩いていると後ろから声を掛けられる。 振り返ると藤副だった。
「おはよー。 今日は早いじゃん」
「まぁ、色々あってな」
「そういえばこの間、買った奴はどこまで進んだ?」
「終わったよ。 テストあるから手を付けるのは先になると思うけど逸子の奴が欲しかるから仕入れにはいくと思う」
「いや、前から思ってたけど消化ペース早くない?」
「空いた時間の全てを費やしてるからな」
隣に並ぶ藤副に継征は肩を竦めて見せる。
「で? どうだった? 感想を聞かせてよ」
「あぁ……」
継征はぼんやりと激闘の記憶を思い出す。 まずは逸子のプレイしたゲームだ。
ギュードゥルン。 ピンク多めの表紙にややいかがわしい雰囲気を漂わせていたが、ストーリー内容は現代社会ならではのストレスに苦しむ者達を形はどうあれ開放するといった事とヒロインであるギュードゥルンとの関係性の二つに軸を置いており、並行して進める事でプレイヤーの興味を途切れさせない工夫がされていた。
アクションパートに関しても極端な難易度にはしておらず、ストーリーをスムーズに進めさせたいといった意図が見える。 ストーリーがどの程度刺さるかにもよるが、気に入ったのなら充分に良作と言っていい完成度だった。 少なくとも継征にとっては素直に面白いといえる名作だ。
ただ、マルチエンディングの弊害かフラグの管理が複雑なのでエンディング回収作業がやや面倒だったといった欠点こそあるがトロフィーコンプを狙わない限りはそこまで気にならない。
バッドエンドやノーマルエンドは簡素な内容なので見なくても作品への理解はそこまで深まらない事もその一因だった。
総評としては丁寧に作られた良作。
他にもゲームを出しているので機会があれば触ってみたいと思える出来だった。
『麻將』マージャンのゲームで麻雀と書くのが一般的だが意味は同じだ。
「お兄ちゃんって麻雀やった事あるの?」
「ない。 だから事前にルールだけ調べておいた」
牌と呼ばれるもの十四枚を組み合わせて役を作って点数を競うゲームと継征は認識していた。
始める前にトロフィーの獲得条件も確認しておいたが、はっきり言ってかなり面倒そうで、継征はこの時点で長引きそうな予感を感じていたのだ。
基本的にこのゲームには明確なエンディングやストーリーはない。
難易度を設定して勝負するだけの代物だ。 ならトロフィーの獲得も容易ではないか?
そう思うかもしれないが、こういったシンプルなゲーム程獲得が難しいというのは彼自身が前回の十柱戯で嫌というほどに認識していた。 その証拠に獲得条件は一定以上の難易度で特定の役を出して上がり、勝利する。 そう上がるだけではだめなのだ。
その役を揃えた上での勝利。 麻雀はルール上、一度勝てば終わりではなく、半荘と呼ばれるゲーム単位で勝負を行い何試合も繰り返す。 初心者の継征には非常にハードルの高い話だった。
だからと言って逃げる気はないのでやるしかない。
「……やるか」
そう呟き、継征の長い戦いが始まった。
後ろで逸子が小さく欠伸をする。
それもそのはずだ。 淡々とマージャンをしているだけで、ルールを全く知らない彼女からすれば退屈な時間だろう。 継征も徐々にだが慣れてきはしたが、トロフィーの獲得の為に特定の役を狙う必要があったので難易度が跳ね上がっているのだ。
彼は麻雀というゲームのルールを知ってはいたが、楽しさを理解する前にこの苦行のような作業に身を投じてしまったので運の占める割合が一定以上存在するこのゲームに対しては作業感と苦痛を感じていた。 十柱戯は操作のシビアさに辟易していたが、運が絡む分、性質の悪さはこちらの方が上だと思っており、三時間ほどのプレイでもう辞めたいと思いつつあった。
「……ねぇ、お兄ちゃん。 面白い?」
「ぶっちゃけるともう飽きてきた。 やりたいなら喜んで代わるぞ」
「あ、ごめん。 遠慮しとく」
しばらくの無言。
流石に会話すらない状況は継征としてもあまり好ましくなかったので話題を探し――
「そういえばそろそろ期末考査か」
「うわ、嫌な事を思い出させないでよ」
「お前の所と時期が被るから月曜からは控えるぞ」
「……はぁ、そうだね。 流石にテストの点が露骨に落ちるとお母さんが怒るだろうし、真面目に勉強するよ」
「勉強の方はどうだ? 点ヤバいとかだったらゲームからテスト勉強に切り替えるが?」
半分以上、本音だった。 いや、目の前の苦行よりは成果の出る見込みのあるテスト勉強の方がマシだと思っていた事もあって現実逃避を兼ねた真剣な提案だ。
「……あ、クソ、また揃わねぇ……。 何だよトリプル役満ってこんなもんナチュラルに揃えられる奴いるのかよ……」
とにかく初手が良くなるまでリセットを繰り返し、よさげな手牌が来たらスタート。
後は運を天に任せるだけだ。 試行を繰り返すやり方だけあって時間はかかっているが、一つまた一つとトロフィーは獲得できていっている。
――そして――
「よし、よし、揃った勝った! ――ふぅ、あと三種類か」
困難を乗り越えた先には更なる困難が待ち受けている。
継征は人生の理不尽さをひしひしと感じながらひたすらに麻雀という名のリセットマラソンを続けた。
逸子と雑談しながら時間は流れ気が付けば深夜。 げっそりと萎れた継征だったが、その目は異様な輝きを帯びていた。 何故なら残りのトロフィーがあと一つだったからだ。
「よし、初手は悪くない。 今度こそ行ける。 勝つ、俺が勝つ。 そして麻雀を卒業するんだ」
彼の祈り――というよりは執念が天に届いたのか最後のトロフィーはあっさりと手に入った。
継征は無言で拳を握ると天に向かって突き上げる。 深夜のテンションの所為か逸子にはそれが妙に神々しく見えた。
「お疲れ様! やったねお兄ちゃん!」
「疲れた。 ただただ疲れた。 明日は学校だし、もう寝る」
「お風呂は?」
「朝になったら入るから今は寝かせてくれ」
継征はそれだけ言うとベッドに倒れ込んで寝息を立て始める。
逸子は軽く後片付けをすると力尽きて眠る継征に布団をかけると小さくお休みと言って部屋を後にした。
月曜日。 シャワーを浴びてすっきりした継征は小さく欠伸をしながら登校していた。
歩いていると後ろから声を掛けられる。 振り返ると藤副だった。
「おはよー。 今日は早いじゃん」
「まぁ、色々あってな」
「そういえばこの間、買った奴はどこまで進んだ?」
「終わったよ。 テストあるから手を付けるのは先になると思うけど逸子の奴が欲しかるから仕入れにはいくと思う」
「いや、前から思ってたけど消化ペース早くない?」
「空いた時間の全てを費やしてるからな」
隣に並ぶ藤副に継征は肩を竦めて見せる。
「で? どうだった? 感想を聞かせてよ」
「あぁ……」
継征はぼんやりと激闘の記憶を思い出す。 まずは逸子のプレイしたゲームだ。
ギュードゥルン。 ピンク多めの表紙にややいかがわしい雰囲気を漂わせていたが、ストーリー内容は現代社会ならではのストレスに苦しむ者達を形はどうあれ開放するといった事とヒロインであるギュードゥルンとの関係性の二つに軸を置いており、並行して進める事でプレイヤーの興味を途切れさせない工夫がされていた。
アクションパートに関しても極端な難易度にはしておらず、ストーリーをスムーズに進めさせたいといった意図が見える。 ストーリーがどの程度刺さるかにもよるが、気に入ったのなら充分に良作と言っていい完成度だった。 少なくとも継征にとっては素直に面白いといえる名作だ。
ただ、マルチエンディングの弊害かフラグの管理が複雑なのでエンディング回収作業がやや面倒だったといった欠点こそあるがトロフィーコンプを狙わない限りはそこまで気にならない。
バッドエンドやノーマルエンドは簡素な内容なので見なくても作品への理解はそこまで深まらない事もその一因だった。
総評としては丁寧に作られた良作。
他にもゲームを出しているので機会があれば触ってみたいと思える出来だった。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

「南風の頃に」~ノダケンとその仲間達~
kitamitio
青春
合格するはずのなかった札幌の超難関高に入学してしまった野球少年の野田賢治は、野球部員たちの執拗な勧誘を逃れ陸上部に入部する。北海道の海沿いの田舎町で育った彼は仲間たちの優秀さに引け目を感じる生活を送っていたが、長年続けて来た野球との違いに戸惑いながらも陸上競技にのめりこんでいく。「自主自律」を校訓とする私服の学校に敢えて詰襟の学生服を着ていくことで自分自身の存在を主張しようとしていた野田賢治。それでも新しい仲間が広がっていく中で少しずつ変わっていくものがあった。そして、隠していた野田賢治自身の過去について少しずつ知らされていく……。
【Vtuberさん向け】1人用フリー台本置き場《ネタ系/5分以内》
小熊井つん
大衆娯楽
Vtuberさん向けフリー台本置き場です
◆使用報告等不要ですのでどなたでもご自由にどうぞ
◆コメントで利用報告していただけた場合は聞きに行きます!
◆クレジット表記は任意です
※クレジット表記しない場合はフリー台本であることを明記してください
【ご利用にあたっての注意事項】
⭕️OK
・収益化済みのチャンネルまたは配信での使用
※ファンボックスや有料会員限定配信等『金銭の支払いをしないと視聴できないコンテンツ』での使用は不可
✖️禁止事項
・二次配布
・自作発言
・大幅なセリフ改変
・こちらの台本を使用したボイスデータの販売
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる