悪魔の頁

kawa.kei

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第64話

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 巨大な悪魔へと変貌し、凄まじい力を漲らせた黒幕の男だったが突如苦しみだし――

 ――霧散するように消えた。

 その光景を祐平は呆けた表情で見つめる。 完全に消え去った所でやや困惑を浮かべながら振り返ると他の面子も死を覚悟して硬直していたが何も起こらない事に祐平と同じく戸惑いを浮かべてキョロキョロと周囲を見回す。

 「……これは、助かって事でいいのか?」
 「そう……何でしょうか?」

 恐る恐ると言った様子で呟いた水堂の言葉に祐平も自信なさげに返す。
 卯敷と伊奈波は頭を抱えて蹲っており、助かった事が信じられずに怯えた様子でしきりにあちこちを見回している。 櫻居は腰が抜けたのか、その場でへたり込んで動かない。

 どれだけ目を凝らしても黒幕の男の姿は見えない。 
 そして立っていたであろう場所に魔導書が落ちている。 祐平は水堂と顔を見合わせた。

 「どうする?」
 「水堂さんまともに動けないでしょ? 俺が行きますよ」

 祐平は警戒しながらも落ちている魔導書を拾い上げる。
 持ち主が既にいる状態であれば扱えないはずだが、祐平が意識を向けると問題なく起動した。
 扱えるのは黒幕の男が死亡した事を意味する。 男が死んだ理由は不明だが、ここから出るには魔導書の力が必要だ。 嫌な予感を感じながらも魔導書を起動する。

 使うのは『01/72バエル』の能力だ。
 『11/72グシオン』の上位互換であるこの悪魔であるならここから出る為の知識を持っているはず。 祈るような気持ちで使用すると答えはあっさりと出た。

 「どうだ?」
 「出られそうです。 ただ、ここで使うと俺達が消えたフードコートに出るみたいなんで何度か転移してから出ましょう。 取りあえず全員、集まってください」

 祐平は全員を集めて空間転移を数度行い、迷宮の内部を少し移動した後――

 ――彼等はあっけなく元の世界へと帰り着いた。


 転移した先はショッピングモールから少し離れた林の中で、周囲に人気はない。
 空を見上げると星が瞬いている。 祐平がスマートフォンを確認すると時刻は深夜で日付が変わって少し経過したぐらいだろう。

 「な、なぁトッシー。 助かったのか? 助かったんだよな?」
 「あ、あぁ、そうだと思う」

 卯敷と伊奈波は安心したのかその場に座り込んだ。

 「あぁ、本当になんて一日。 というか一日以上経ってるから仕事も無断欠勤になっちゃってるし、ほんとこれどうすればいいのよ……」」
 「俺も面接丸ごとバックレた形になっちまったか。 まぁ、命あっての物種だ。 取り返しは利くだろ」
 
 水堂はまだ助かった事を信じ切れていないのか窺うように周囲を警戒している。

 「祐平、助かったって事でいいんだよな?」
 「はい、恐らくですが大丈夫だと思います」

 少なくとも魔導書は問題なく扱えるが、ついさっきの男の死に様が目に浮かぶ。 
 果たしてこれを持っていて自分は大丈夫なんだろうか?
 本音を言えば処分したいが、何が起こるのかも分からないので手放す事も躊躇われる。

 ――結局、持って帰る以外の選択肢はなかった。

 「……取りあえず今日の所は解散しますか。 俺も家に帰って家族に色々と説明しないと……」

 この先の事を考えると気が重かった。
 居なくなった期間何をしていたのかを説明する事もそうだが、笑実の家族になんといえばいいのか。
 彼女の死に際を思い返すと気持ちが重たくなる。

 「そうだな。 その前にここにいる全員で口裏を合わせておいた方がいいんじゃないか?」 
 「それもいいけど先々の面倒を躱す意味でも警察に行くとかどう?」
 「行くのは構わねぇが、どう説明すんだよ。 訳の分からない男に拉致られて、魔導書とかいう意味不明な本配られて殺し合いをさせられましたって言うのか?」
 「馬鹿ね。 そこまで説明する必要はないわ。 よく考えなさいな。 私達が消えた事は知られている可能性があるの。 あそこは外じゃなくて建物の中よ。 監視カメラぐらいはあるでしょ? それに私は確認してないけどフードコートの客は居ても店員は居なかったわ」

 そこまで言われて水堂はあぁと納得したように頷いた。

 「なるほど。 店員も俺達が消えたのを見てたって事か」
 「そう。 だから、私達は被害者ですってアピールする意味でも警察に保護を求めるのは選択肢としてアリだと思わない?」
 
 水堂は説明が難しいので適当に誤魔化すべきだと考え、櫻居は荒唐無稽と思われるような発言は避け、警察に保護を求めて大々的に被害者だと主張するべきだといった考えだ。
 卯敷と伊奈波は疲れもあり、余計な事を考えたくないといった気持ちもあって黙って見守る。

 「祐平はどう思うよ?」
 「俺としては説明が難しいので水堂さんの意見よりですねと言いたい所ですが、櫻居さんの意見も一理あると思います。 誤魔化せたとしても後でバレた場合、何故隠してたのかと突っ込まれかねないので先々の事を考えるとここで喋っておいた方がいいってのも面倒を躱せるかもしれません。 ですが、ちょっと気になる事もあります」
 「気になる事?」
 「はい。 俺達を攫ったあのクソ野郎ですが、しがらみがどうのとか気になる事を言っていたのが引っかかって……」
 
 単に力が欲しかっただけでも納得できるのだが、あそこで嘘を吐く理由も見当たらなかった。
 
 「あの野郎も何かから逃げる為に力を欲しがったって事か?」
 「はい、漫画とかのセオリーですけど、もしかしたらそう言った裏の組織的な連中に追われていたとかありそうじゃないですか?」
 「つまり君が言いたいのは警察に駆け込むとそいつらに見つかって下手をすればまた拉致されるかもって事?」
 「はい、もしかしたら俺の妄想かもしれませんが、本当にいた場合は間違いなくこいつを欲しがるでしょうね」

 祐平は魔導書を持ち上げて見せた。
 警察に駆け込むにしてもしないにしても小さくないリスクが存在する。
 問題はどちらを選ぶ方が安全かを考えて決める事が必要となるのだ。

 「……どっちにしてもリスクはあるって事か」
 「なるほど。 だったら駆け込むにしても目を付けられないように一工夫が必要って訳ね」
 
 二人は納得するように頷くが、結局の所どうするべきなのかが決まらない。
 櫻居はお手上げとばかりに沈黙し、水堂は悩むように僅かに瞑目。

 「祐平、お前はどう思ってる? 魔導書を持ってるのはお前だ。 お前が決めろ」

 ややあって決断を祐平へと委ねる。
 祐平は少しの間悩み――答えを口にした。
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