悪魔の頁

kawa.kei

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第50話

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 水堂の質問に二人の少年は顔を見合わせる。
 祐平の見立てでは笑実と同じぐらいの年齢、どちらも余り頭が良さそうに見えないが、口を常に半開きにしている方が頭が悪そうだなと失礼な事を考えていた。

 すると頭が悪そうな方がポケットから何かを取り出すと水堂に差し出す。
 水堂はやや訝しみながら少年の手を見ると――
 
 「金?」

 確かに金だった。 金色の石かもしれないが、とにかく金色の鉱物だ。
 祐平は何が目的だと思いながら魔導書を用いて二人の魔導書の能力を調べると答えはすぐに出た。
 『58/72アミー』と『48/72ハーゲンティ』前者は炎を操る悪魔で水堂の『07/72アモン』と能力の傾向が似ている。 後者は液体を水やワインに変えたり鉱物を金に変えたりする物質の変換能力だ。

 各々一冊ずつ。 つまりこの二人はまだ誰も殺していない。
 これで二人とも複数持っているのなら警戒した方がいいが、一冊なら多少は話し合いのハードルは下がる。
 差し出したのは恐らくその辺の石ころを金に変えた物だと言う事は分かったが、それを見せる意味が分からなかった。

 「これが何だ?」

 水堂も意味がよく分からなかったのでそう尋ねると少年は大きく頷く。

 「これはマジの金だ」
 「そうか、そりゃ凄いな。 これだけのデカさだと結構いい値段するだろう。 で?」
 「これをやる!」
 
 ――??

 水堂とほぼ同時に祐平は首を傾げた。 何を言っているんだこいつは? 
 まさかとは思うが金をやるから言う事を聞けと要求しているのだろうか?
 
 「もしかしてお前らあれか? 金をやるから手下になれとかそんな感じの話か?」

 水堂も同じ結論に至って疑問をぶつけると少年は何の躊躇もなく頷いた。
 これには祐平だけでなく後ろで見ていた櫻居と御簾納も絶句する。
 場の空気が凍り付くが、もう一人の少年が前に出て相棒と肩を組む。

 「な、なぁんて冗談っすよ。 俺は卯敷、こっちは伊奈波っていいます。 取りあえず俺らはそっちから仕掛けないんなら戦う気はないっす」
 「……まぁいい。 こっちには気付いてたんだろ? どういうつもりで前に出て来たんだ?」
 「できるんなら手を組みたいって思ってるんすよ」
 
 卯敷と名乗った少年はチラリと後ろを振り返る。
 祐平はその視線を追うが特に何かがある訳ではなさそうだった。

 「理由は? 今までお前ら二人でやってきたんだろ? ってか後ろにいる櫻居とも一悶着あったって聞いてるぞ」
 「それに関しては正当防衛っすよ。 あの女、俺達に何かしようとしやがったから攻撃したんで」
 「――だろうな。 俺らもこいつに洗脳されそうになったから気持ちは分かるぜ」
 
 状況から彼等との問題は櫻居が悪いと結論が出ているので、それで卯敷達に悪印象を持つ事はない。

 「あ、そうなんっすね。 いやぁ、やっぱり何かしようとしていやがったのかとんでもねぇ女っすね」
 「まったくだ。 ってか、何されるか気が付いたから攻撃したんじゃなかったのか?」
 「いえ、その女、助けを求めて来る癖になんか露骨に見下すような目を向けて来るのでヤバいと思いました」
 「マジかよ。 すげえいい勘してんな。 逃げなかったらこいつの言う事をほいほい聞くイエスマンに洗脳されてたぞ」
 「ちょっと! 私を弄ってないで話を進めなさいよ!」 
 「はいはい、うるせぇ女だな。 取りあえず話を戻すぞ。 これまでの話でお前等が警戒心が強い事は分かった。 そんなお前等がこの状況で仲間を探す理由は何だ?」

 仲間が欲しいならもっと早い段階で集める為に動いているはずだ。
 特に櫻居に対する対応から他人に対しての警戒心は強い。 そんな彼等がわざわざ仲間を探す理由がよく分からなかった。 卯敷は再度小さく後ろを振り返る。

 「さっきから随分と後ろを気にしてるみたいだが、何かあるのか?」
 
 水堂がそう尋ねると卯敷の表情に僅かな怯えが浮かぶ。

 「実を言うとちょっと前にヤバい女と出くわしたんすよ。 多分、次に見つかったら殺されるんで、生き残る為に戦力が欲しいんすよ」
 「ヤバい女? 何だそりゃ?」
 「マジでヤバいんすよ。 出くわした瞬間、息をするように俺達の事を殺そうとしやがった。 マジでヤバい。 多分ですけど魔導書は十人分以上持ってる。 とにかくヤバいんすよ。 あんな調子だと、下手をするとマジで俺達全員、皆殺しにされる」

 卯敷は少ない語彙力でヤバいヤバいと必死に恐ろしい相手が存在すると主張する。
 水堂と祐平は思わず顔を見合わせた。 祐平は卯敷の言葉に嘘はないと考えており、もう少し詳しく聞いてもいいのではないか――つまり信用してもいいのではないかと思っている。

 根拠は明らかに互いしか信用していない二人組が、他に縋る理由としてもそのヤバい女から逃れる為と筋も通っていた。 そして何より、彼の顔に浮かぶ怯えは演技にはとても見えなかったからだ。
 
 「水堂さん。 取りあえずですが、信用してもいいと思います。 少し戻った所にあった広場まで戻りましょう」
 「分かった。 聞いてたな? お前等もそれで構わないか?」
 「はい、俺らが来た方に向かわないなら何でもいいです」
 「……まぁいい。 俺は水堂、こっちは潟来、後ろの二人は櫻居と御簾納さんだ」

 水堂が雑に紹介してから歩き出す。 それに続くように全員が動きだした。

 
 「なるほど。 取りあえず話は分かった。 そりゃここまで生き残ってるんだ。 隠れているか他を殺して生き残っているに決まってるか」

 二人のここまでの経緯は祐平にとって共感できる内容だった。
 互いに出会い、意気投合してこの訳の分からない場所で力を合わせて生き残る。
 自分と水堂が似たような経緯で一緒になったので尚更だった。

 最初は隠れてやり過ごす事も考えていたようだが、例の女もそうだが大人数が派手に殺し合っている姿を見た事も要因の一つだったようだ。 

 「……というか大人数で殺し合いってまさか……」
 
 祐平は思わず御簾納の方を見ると彼も察したのか僅かに俯く。

 「そう、か。 彼等は殺し合う事を選んだのか」
 「えぇっと? 俺、何か不味い事でも言っちまいましたか?」
 「いや、その集めた面子がそのおっさんの連れだったってだけの話だ。 まぁ、話を聞く限り人頼みの連中だったので自棄になって暴れたって所だろ」
 
 御簾納の経緯を聞くと卯敷は納得したのかあぁと頷いた。

 「それで人数が集まってたんっすね。 どうりで出くわしたにしちゃ数が多いと思った」
 「御簾納のおっさんの連れがトチ狂ったのは分かったが、問題はその後に出くわしたっつー女か。 特徴とか詳しく教えてくれ」
 
 水堂がそう尋ねると卯敷は思い出しながらなのかゆっくりと話し始めた。
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