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第48話
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「トッシー、俺にはよく分からなかったけどそんなにだったのか?」
伊奈波はどうしたものかと悩んで卯敷の背中をさすりながら尋ねる。
彼の目から見て藤副と名乗った少女には不審な点は見当たらなかったので、卯敷がここまで怯える事を理解できなかったのだ。
「あぁ、あいつ俺らを認識した後、真っ先に魔導書を見やがった。 どの程度も持っているかを見て、楽そうだったら話をする前に殺しに来たと思う」
咄嗟に魔導書を隠さなければ間違いなく殺されていた可能性が高い。
こちらの戦力を計らせない事で警戒させる事に成功したのが明暗を分けた。
隠すのが遅れれば今頃は生きていない。 それ程までにあの女の挙動は恐ろしく、その思考は常軌を逸していた。
卯敷の人生で見て来た女の中で最高に危険な女と理性ではなく本能が逃げろと叫んだのだ。
「マジでやばい。 逃げたからたぶん次に出くわしたら速攻で殺しに来ると思う」
「取りあえずあの女は敵って事は分かったけど、二人でかかればやれるんじゃないか?」
「……かもしれないけどあの女、あんな調子で殺しまくってるだろうし、相当数の魔導書を持っていると思う」
間違いなく一冊や二冊ではない。 欠片の躊躇もなく逃げる卯敷達へ攻撃を仕掛けた点から見ても今回が初めてではなく、既に四、五人は殺してると思っていた。
殺した相手が複数冊持っている可能性も考慮すれば、手持ちは十冊――いや、下手をすれば二十近く持っていてもおかしくない。 一冊ずつしか持っていない自分達では分が悪かった。
「ヤバいのは分かったけどどうする? 逃げたのはいいけど最後にはどうにかしなきゃならないんじゃねーの?」
伊奈波の言う通りだった。 出るにしても最終的にはあの女をどうにかする必要がある。
かと言って正面から戦って勝てる気がしない。 いや、もしかしたら勝てるかもしれないが、可能性は非常に低いと卯敷は思っていた。
「……それなぁ。 ぶっちゃけ、普通にやったらマジで殺されるから対策としては単純に戦力を強化する事なんだが、どうすっかなぁ……」
「雑魚そうな奴から魔導書をかき集めるとか?」
「それか仲間を増やすかのどっちかになるかぁ……」
どちらにしても大きなリスクが付いて回る。
前者は強奪という前提がある以上、戦闘は不可避だ。 あの女を見れば他にも殺し合って魔導書を溜めこんでいる者が居るだろう。 寧ろ戦闘を避けて来た卯敷達は保有数ではかなり遅れを取っていると見ていい。
魔導書の保有数はそのまま攻撃手段の数に直結する。 そんな相手に命のやり取りは出来ればしたくはない。 卯敷は死にたくないし、殺人も可能な限りやりたくはないので本音を言えば乗り気でなかった。 ならば仲間を増やすかと考えるが、そちらも同様にリスクが高い。
伊奈波は信用できるが、他にも彼のような仲間にであるのかと聞かれれば難しいと判断せざるを得ない。 そもそも伊奈波と出会た事自体が奇跡なのだ。
何度も幸運を期待するのは間違っている。 これが命のかからないゲームか何かならノリで行けと思考を放棄するが、それをやってしまうとここでは死に直結するので迂闊な事はできないのだ。
「つってもこのままじゃあの女に殺されるし何とかしねぇとな。 よっちゃんはどう思うよ?」
判断が付かないので卯敷は相棒に意見を求める事にした。
伊奈波はうーんと首を捻り、ややあって――
「仲間を増やそう!」
――そう結論を出した。
「ちなみに何でその結論?」
「トッシー。 俺はバカだけど今この瞬間にビビッと来たね。 凄まじい閃き的な何かがな!」
「……おぉ、是非聞かせてくれ!」
自信満々の伊奈波態度に興味を惹かれた卯敷はそのまま続けるように促す。
「トッシーがその辺の石ころを金に換えるだろ? それを出会った奴にくれてやるだろ? 協力してここから出たら塊をくれてやるって言うんだ! そうすると喜んで仲間になるじゃん? 金が嫌いな奴なんてこの世にいねーし絶対に頷くぜ!」
「金をチラつかせて仲間にするで草」
正直、突っ込み所の多いプランだった。 少し考えれば卯敷を殺して魔導書を奪えば取引の必要のない話だし、そもそも現状は金の価値はそこまで高くない。 恐らく水や食料の方が喜ばれる。
何より金が嫌いな奴がこの世にいない点には同意だが、その理屈で言うとあの女も金で懐柔できるはずだ。 時間的にも精神的にも余裕の余りないこの状況、そんな能天気な事を言う伊奈波に普段の卯敷であったなら腹の一つも立てていたかもしれない。
――だが――
「はは、マジで草なんだが!?」
出て来たのは苛立ちではなく笑いだ。 バカなのは自分も同じ、それなのに小難しく考えてもまともな答えなど出る訳もない。 卯敷はその辺に落ちている大きめの石を拾い上げ、魔導書の能力を用いて金に変える。 それを数度繰り返し、手の平いっぱいの金塊を生み出す。
「ほい、半分受け取るべ。 取りあえず話ができそうな相手だったらこれチラつかせて説得してみっか」
「うぉぉぉ! 金、金だぁぁ! これ何円ぐらいになるんだ?」
「毎日株みたいに変動するって話は聞いた事あるから、グラム五千から一万ぐらいじゃね? 知らんけど」
「うぉぉぉ! これ百グラムぐらいあるっぽいし百万ぐらい!? すっげー! すっげー!! 百万ポンとくれるトッシー神! トッシー神!!」
「語彙力死んでて草。 ――取りあえず、話せそうな奴と会ったらこれで説得してみるか」
卯敷はそう言ってポケットに金を突っ込み、行くぞと伊奈波の肩を叩いて歩き出す。
金に興奮した伊奈波はやる気を漲らせ、トッシーは俺が守ると張り切っている。
単純な奴だと思ってはいたが、これぐらい分かり易い奴の方が付き合っていて気持ちよかった。
伊奈波は大仰な仕草でキョロキョロと周囲を見回し、唐突に地面に張り付いて音を聞き始める。
「よっちゃんマンガの見過ぎ。 そんなんで音とか聞こえる訳ねーべ」
伊奈波は笑って起き上がるかとも思ったが、そのまま動かない。
卯敷はその様子に若干の違和感を覚え、表情を消す。 よくよく見てみると伊奈波は集中しており、何かを必死に聞き取ろうとしていた。 その様子から導き出される結論は一つだ。
「……マジで?」
思わず卯敷はそう呟いてしまった。
「トッシー何か聞こえる。 足音っぽい」
彼の予想は正しく伊奈波は何かを聞き取ったようだった。
伊奈波はどうしたものかと悩んで卯敷の背中をさすりながら尋ねる。
彼の目から見て藤副と名乗った少女には不審な点は見当たらなかったので、卯敷がここまで怯える事を理解できなかったのだ。
「あぁ、あいつ俺らを認識した後、真っ先に魔導書を見やがった。 どの程度も持っているかを見て、楽そうだったら話をする前に殺しに来たと思う」
咄嗟に魔導書を隠さなければ間違いなく殺されていた可能性が高い。
こちらの戦力を計らせない事で警戒させる事に成功したのが明暗を分けた。
隠すのが遅れれば今頃は生きていない。 それ程までにあの女の挙動は恐ろしく、その思考は常軌を逸していた。
卯敷の人生で見て来た女の中で最高に危険な女と理性ではなく本能が逃げろと叫んだのだ。
「マジでやばい。 逃げたからたぶん次に出くわしたら速攻で殺しに来ると思う」
「取りあえずあの女は敵って事は分かったけど、二人でかかればやれるんじゃないか?」
「……かもしれないけどあの女、あんな調子で殺しまくってるだろうし、相当数の魔導書を持っていると思う」
間違いなく一冊や二冊ではない。 欠片の躊躇もなく逃げる卯敷達へ攻撃を仕掛けた点から見ても今回が初めてではなく、既に四、五人は殺してると思っていた。
殺した相手が複数冊持っている可能性も考慮すれば、手持ちは十冊――いや、下手をすれば二十近く持っていてもおかしくない。 一冊ずつしか持っていない自分達では分が悪かった。
「ヤバいのは分かったけどどうする? 逃げたのはいいけど最後にはどうにかしなきゃならないんじゃねーの?」
伊奈波の言う通りだった。 出るにしても最終的にはあの女をどうにかする必要がある。
かと言って正面から戦って勝てる気がしない。 いや、もしかしたら勝てるかもしれないが、可能性は非常に低いと卯敷は思っていた。
「……それなぁ。 ぶっちゃけ、普通にやったらマジで殺されるから対策としては単純に戦力を強化する事なんだが、どうすっかなぁ……」
「雑魚そうな奴から魔導書をかき集めるとか?」
「それか仲間を増やすかのどっちかになるかぁ……」
どちらにしても大きなリスクが付いて回る。
前者は強奪という前提がある以上、戦闘は不可避だ。 あの女を見れば他にも殺し合って魔導書を溜めこんでいる者が居るだろう。 寧ろ戦闘を避けて来た卯敷達は保有数ではかなり遅れを取っていると見ていい。
魔導書の保有数はそのまま攻撃手段の数に直結する。 そんな相手に命のやり取りは出来ればしたくはない。 卯敷は死にたくないし、殺人も可能な限りやりたくはないので本音を言えば乗り気でなかった。 ならば仲間を増やすかと考えるが、そちらも同様にリスクが高い。
伊奈波は信用できるが、他にも彼のような仲間にであるのかと聞かれれば難しいと判断せざるを得ない。 そもそも伊奈波と出会た事自体が奇跡なのだ。
何度も幸運を期待するのは間違っている。 これが命のかからないゲームか何かならノリで行けと思考を放棄するが、それをやってしまうとここでは死に直結するので迂闊な事はできないのだ。
「つってもこのままじゃあの女に殺されるし何とかしねぇとな。 よっちゃんはどう思うよ?」
判断が付かないので卯敷は相棒に意見を求める事にした。
伊奈波はうーんと首を捻り、ややあって――
「仲間を増やそう!」
――そう結論を出した。
「ちなみに何でその結論?」
「トッシー。 俺はバカだけど今この瞬間にビビッと来たね。 凄まじい閃き的な何かがな!」
「……おぉ、是非聞かせてくれ!」
自信満々の伊奈波態度に興味を惹かれた卯敷はそのまま続けるように促す。
「トッシーがその辺の石ころを金に換えるだろ? それを出会った奴にくれてやるだろ? 協力してここから出たら塊をくれてやるって言うんだ! そうすると喜んで仲間になるじゃん? 金が嫌いな奴なんてこの世にいねーし絶対に頷くぜ!」
「金をチラつかせて仲間にするで草」
正直、突っ込み所の多いプランだった。 少し考えれば卯敷を殺して魔導書を奪えば取引の必要のない話だし、そもそも現状は金の価値はそこまで高くない。 恐らく水や食料の方が喜ばれる。
何より金が嫌いな奴がこの世にいない点には同意だが、その理屈で言うとあの女も金で懐柔できるはずだ。 時間的にも精神的にも余裕の余りないこの状況、そんな能天気な事を言う伊奈波に普段の卯敷であったなら腹の一つも立てていたかもしれない。
――だが――
「はは、マジで草なんだが!?」
出て来たのは苛立ちではなく笑いだ。 バカなのは自分も同じ、それなのに小難しく考えてもまともな答えなど出る訳もない。 卯敷はその辺に落ちている大きめの石を拾い上げ、魔導書の能力を用いて金に変える。 それを数度繰り返し、手の平いっぱいの金塊を生み出す。
「ほい、半分受け取るべ。 取りあえず話ができそうな相手だったらこれチラつかせて説得してみっか」
「うぉぉぉ! 金、金だぁぁ! これ何円ぐらいになるんだ?」
「毎日株みたいに変動するって話は聞いた事あるから、グラム五千から一万ぐらいじゃね? 知らんけど」
「うぉぉぉ! これ百グラムぐらいあるっぽいし百万ぐらい!? すっげー! すっげー!! 百万ポンとくれるトッシー神! トッシー神!!」
「語彙力死んでて草。 ――取りあえず、話せそうな奴と会ったらこれで説得してみるか」
卯敷はそう言ってポケットに金を突っ込み、行くぞと伊奈波の肩を叩いて歩き出す。
金に興奮した伊奈波はやる気を漲らせ、トッシーは俺が守ると張り切っている。
単純な奴だと思ってはいたが、これぐらい分かり易い奴の方が付き合っていて気持ちよかった。
伊奈波は大仰な仕草でキョロキョロと周囲を見回し、唐突に地面に張り付いて音を聞き始める。
「よっちゃんマンガの見過ぎ。 そんなんで音とか聞こえる訳ねーべ」
伊奈波は笑って起き上がるかとも思ったが、そのまま動かない。
卯敷はその様子に若干の違和感を覚え、表情を消す。 よくよく見てみると伊奈波は集中しており、何かを必死に聞き取ろうとしていた。 その様子から導き出される結論は一つだ。
「……マジで?」
思わず卯敷はそう呟いてしまった。
「トッシー何か聞こえる。 足音っぽい」
彼の予想は正しく伊奈波は何かを聞き取ったようだった。
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