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第46話
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「が、はぁ、はぁ、み、見事だ。 後少し何かが違ったのなら勝者は貴様だっただろう」
元の姿に戻った少年は消耗による精神的疲労と極度の緊張に喘ぐように息をしながら絞り出すようにそう呟いた。 慈照は何かを言おうとしたのかもしれないがそれは言葉にならず二つになって崩れ落ち、その姿は溶けるように消滅。
これが迷宮内部でなければ、もっと光源の存在する場所であるなら結果は真逆になっていただろう。
それ程までに際どい勝負だった。 負けなかったのは運が良かっただけだ。
少年はそれを痛い程に理解していた。 だからこそ勝利の喜びは強く、敵に対して敬意に近い感情を抱いたのだ。
同時に自身の力と未来に対する確信を深める。
やはり、自分こそが神に選ばれし器にして神へと至る者。
自分の得た悪魔が『68/72』と言う名と知った時から分かっていた。
その名は様々な文献に記され、様々な姿として語り継がれている。
天使であり悪魔。 王であり、大天使よりも尊き、不正の器と呼ばれる強大な存在だ。
少年はこの悪魔に運命を感じていた。 この悪魔は自身を神の座に到達させる為に神が遣わした天使なのだ。
天使なのか悪魔なのかはっきりしないが、彼の中で『68/72』は自分を導く為に神が遣わした悪魔の皮を被った天使と言う事になっている。
「ふっ、俺を登らせる為とはいえ、神も回りくどい事をする」
意味もなくそう呟き、落ちている魔導書を拾い上げた。
慈照の持っていた魔導書と統合されページが一気に増える。
厚みを増した魔導書を手に少年は小さく笑みを浮かべた。 苦労に見合った成果を得た事による笑みだ。
恐らく最大の強敵を屠ったのだ。 後は消化試合に近いだろう。
このまま残りの参加者を倒し、このまま勝利を――
――パンと何かが破裂する音が響き、少年の頭が果物か何かのように弾け飛んだ。
ベチャベチャと生々しい音を響かせ、彼の頭部だったものの残骸が地面に散らばる。
力を失った胴体は当人の困惑を示すかのようにふらりと一歩だけ歩き、そのまま崩れ落ちた。
闇の奥からひたひたと微かな足音が響き、闇から滲み出るように一人の少女が現れる。
笑実だ。 彼女は不釣り合いな程に大きな旧式のライフル――マスケットを構え、足音を立てない為に靴を脱いでいた。 硝煙を微かに立ち昇らせる銃を構えたまま油断なく、頭部を失った少年の死体に銃を向けている。 長い銃身で少年の死体を軽く突き、完全に死んだ事を確認した彼女は魔導書の力で生みだした銃を消し、少年の傍らに落ちている魔導書を拾い上げ、自身の物へと統合。
大きく厚みを増した魔導書を片手に彼女は小さく息を吐く。
近くに居たので少年と慈照の戦いには早い段階で気が付いており、見かけた瞬間に漁夫の利を得る事を決めていた。 気配を消し、戦いの推移を見守り、決着が着いた瞬間に残った方を仕留める。
幸いにも彼女は奇襲に有用な魔導書を手に入れていた。
『08/72』狩りを得意とする悪魔で、第三位階で呼び出すと狩猟に必要な道具とそれを扱う技能を与えてくれる。 それによりマスケットを呼び出して少年を射殺した。
一撃で仕留められなければ痛烈な反撃が飛んでくる非常にリスキーな一撃だったが、魔導書によって感情が停止した彼女は一切の動揺もなく機械のように正確かつ冷徹な射撃を繰り出す。
下手に動揺しなければ魔導書の悪魔は正確な射撃を実現する。 いや、させた。
結構な厚さになった魔導書を一瞥して笑実は新たに手に入れた能力を精査しながら歩き出した。
「トッシーどうしようか?」
「これ、どうすっかなぁ……」
伊奈波の質問に卯敷はうーんと悩んで首を捻る。
二人は何を悩んでいるのかと言うと少し先で繰り広げられている戦いだ。
怪物同士の殺し合いではなく、魔導書を持った悪魔同士の激しいぶつかり合い。
要は殺し合いだ。 問題は一対一ではなく結構な人数が互いを罵りながら殺し合っている点だった。
二人は歩いているとこの場面に遭遇し、幸か不幸か向こうには気付かれていないがどう対処するか判断に困る状況ではある。
魔導書を集める必要があるので他の参加者は基本的には敵だ。
その為、逃げ回っているだけでは状況の打開には繋がらず、放置すると他が勝ち上がって大量の魔導書を抱えて襲って来る可能性が高い。
「……知らん顔はできねぇよなぁ……」
「どうする? 突っ込むのか?」
「いや、突っ込まねぇよ。 よっちゃん。 頼むから勝手に行かないでくれよ? 下手したらマジで死ぬからな」
今にも飛び込みそうな伊奈波の肩を掴んで絶対に行くなと念を押す。
「でも他の参加者潰さないと俺らって帰れないんじゃ……」
「無理に全員ぶっ倒す必要ねぇべ? 取りあえず最後に残った奴をボコせば楽だろ?」
「流石トッシー賢いな! 神かよ!」
賢いか賢くないのかは割とどうでもいいのだが、卯敷にとってはこの状況が不可解だったので安全を確認するまではあまり手を出したくなかったのだ。
この迷宮は非常に広い。 少なくとも卯敷はそう認識している
――にもかかわらず、これだけの人数が集まって殺し合っているのは不自然だ。
卯敷も同じ条件で移動していたはずなのに出会った人数は伊奈波を合わせても五人も行かない。
それがこんな所で一気に固まって潰し合っている? 明らかにおかしい。
戦っている様子は不明だが、聞こえる声の感じから五人以上は居る。
それだけの人数が集まって殺し合っている状況は偶然で片付けるには無理があった。
筋が通る考え方としては仲間だった連中が殺し合っているか、何らかの手段で呼び寄せられて戦わされているかのどちらかだ。
仮に前者であるなら考え方の違いで仲間割れに発展したと考えるとあり得なくはないが、誰も彼もが互いに罵り合っている状況は不自然だった。
こういう場合は旗を振る奴が必ずいて、そいつを中心に集団が割れて潰し合うのが自然だ。
状況に違和感が付きまとうので迂闊に首を突っ込むのは危険だと彼の直感が囁いていた。
そして後者であった場合は更に危険だ。 何故ならあそこに行けば自分達も同様に周囲を罵りながら手当たり次第に攻撃を仕掛けるようになるかもしれない。
理性を失わせる何かがあるのなら尚更近づくのは論外だった。
これが遭遇戦であるなら諦めも付いたが、まだ直接巻き込まれたわけではないので俯瞰して見られた事で考える余地が生まれていたのだ。
――どうしたものか……。
元の姿に戻った少年は消耗による精神的疲労と極度の緊張に喘ぐように息をしながら絞り出すようにそう呟いた。 慈照は何かを言おうとしたのかもしれないがそれは言葉にならず二つになって崩れ落ち、その姿は溶けるように消滅。
これが迷宮内部でなければ、もっと光源の存在する場所であるなら結果は真逆になっていただろう。
それ程までに際どい勝負だった。 負けなかったのは運が良かっただけだ。
少年はそれを痛い程に理解していた。 だからこそ勝利の喜びは強く、敵に対して敬意に近い感情を抱いたのだ。
同時に自身の力と未来に対する確信を深める。
やはり、自分こそが神に選ばれし器にして神へと至る者。
自分の得た悪魔が『68/72』と言う名と知った時から分かっていた。
その名は様々な文献に記され、様々な姿として語り継がれている。
天使であり悪魔。 王であり、大天使よりも尊き、不正の器と呼ばれる強大な存在だ。
少年はこの悪魔に運命を感じていた。 この悪魔は自身を神の座に到達させる為に神が遣わした天使なのだ。
天使なのか悪魔なのかはっきりしないが、彼の中で『68/72』は自分を導く為に神が遣わした悪魔の皮を被った天使と言う事になっている。
「ふっ、俺を登らせる為とはいえ、神も回りくどい事をする」
意味もなくそう呟き、落ちている魔導書を拾い上げた。
慈照の持っていた魔導書と統合されページが一気に増える。
厚みを増した魔導書を手に少年は小さく笑みを浮かべた。 苦労に見合った成果を得た事による笑みだ。
恐らく最大の強敵を屠ったのだ。 後は消化試合に近いだろう。
このまま残りの参加者を倒し、このまま勝利を――
――パンと何かが破裂する音が響き、少年の頭が果物か何かのように弾け飛んだ。
ベチャベチャと生々しい音を響かせ、彼の頭部だったものの残骸が地面に散らばる。
力を失った胴体は当人の困惑を示すかのようにふらりと一歩だけ歩き、そのまま崩れ落ちた。
闇の奥からひたひたと微かな足音が響き、闇から滲み出るように一人の少女が現れる。
笑実だ。 彼女は不釣り合いな程に大きな旧式のライフル――マスケットを構え、足音を立てない為に靴を脱いでいた。 硝煙を微かに立ち昇らせる銃を構えたまま油断なく、頭部を失った少年の死体に銃を向けている。 長い銃身で少年の死体を軽く突き、完全に死んだ事を確認した彼女は魔導書の力で生みだした銃を消し、少年の傍らに落ちている魔導書を拾い上げ、自身の物へと統合。
大きく厚みを増した魔導書を片手に彼女は小さく息を吐く。
近くに居たので少年と慈照の戦いには早い段階で気が付いており、見かけた瞬間に漁夫の利を得る事を決めていた。 気配を消し、戦いの推移を見守り、決着が着いた瞬間に残った方を仕留める。
幸いにも彼女は奇襲に有用な魔導書を手に入れていた。
『08/72』狩りを得意とする悪魔で、第三位階で呼び出すと狩猟に必要な道具とそれを扱う技能を与えてくれる。 それによりマスケットを呼び出して少年を射殺した。
一撃で仕留められなければ痛烈な反撃が飛んでくる非常にリスキーな一撃だったが、魔導書によって感情が停止した彼女は一切の動揺もなく機械のように正確かつ冷徹な射撃を繰り出す。
下手に動揺しなければ魔導書の悪魔は正確な射撃を実現する。 いや、させた。
結構な厚さになった魔導書を一瞥して笑実は新たに手に入れた能力を精査しながら歩き出した。
「トッシーどうしようか?」
「これ、どうすっかなぁ……」
伊奈波の質問に卯敷はうーんと悩んで首を捻る。
二人は何を悩んでいるのかと言うと少し先で繰り広げられている戦いだ。
怪物同士の殺し合いではなく、魔導書を持った悪魔同士の激しいぶつかり合い。
要は殺し合いだ。 問題は一対一ではなく結構な人数が互いを罵りながら殺し合っている点だった。
二人は歩いているとこの場面に遭遇し、幸か不幸か向こうには気付かれていないがどう対処するか判断に困る状況ではある。
魔導書を集める必要があるので他の参加者は基本的には敵だ。
その為、逃げ回っているだけでは状況の打開には繋がらず、放置すると他が勝ち上がって大量の魔導書を抱えて襲って来る可能性が高い。
「……知らん顔はできねぇよなぁ……」
「どうする? 突っ込むのか?」
「いや、突っ込まねぇよ。 よっちゃん。 頼むから勝手に行かないでくれよ? 下手したらマジで死ぬからな」
今にも飛び込みそうな伊奈波の肩を掴んで絶対に行くなと念を押す。
「でも他の参加者潰さないと俺らって帰れないんじゃ……」
「無理に全員ぶっ倒す必要ねぇべ? 取りあえず最後に残った奴をボコせば楽だろ?」
「流石トッシー賢いな! 神かよ!」
賢いか賢くないのかは割とどうでもいいのだが、卯敷にとってはこの状況が不可解だったので安全を確認するまではあまり手を出したくなかったのだ。
この迷宮は非常に広い。 少なくとも卯敷はそう認識している
――にもかかわらず、これだけの人数が集まって殺し合っているのは不自然だ。
卯敷も同じ条件で移動していたはずなのに出会った人数は伊奈波を合わせても五人も行かない。
それがこんな所で一気に固まって潰し合っている? 明らかにおかしい。
戦っている様子は不明だが、聞こえる声の感じから五人以上は居る。
それだけの人数が集まって殺し合っている状況は偶然で片付けるには無理があった。
筋が通る考え方としては仲間だった連中が殺し合っているか、何らかの手段で呼び寄せられて戦わされているかのどちらかだ。
仮に前者であるなら考え方の違いで仲間割れに発展したと考えるとあり得なくはないが、誰も彼もが互いに罵り合っている状況は不自然だった。
こういう場合は旗を振る奴が必ずいて、そいつを中心に集団が割れて潰し合うのが自然だ。
状況に違和感が付きまとうので迂闊に首を突っ込むのは危険だと彼の直感が囁いていた。
そして後者であった場合は更に危険だ。 何故ならあそこに行けば自分達も同様に周囲を罵りながら手当たり次第に攻撃を仕掛けるようになるかもしれない。
理性を失わせる何かがあるのなら尚更近づくのは論外だった。
これが遭遇戦であるなら諦めも付いたが、まだ直接巻き込まれたわけではないので俯瞰して見られた事で考える余地が生まれていたのだ。
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