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第44話
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慈照は火球では効果がないと判断し、攻撃手段を切り替える。
全身を纏う炎の火力を引き上げ、周囲に放射するように放つ。
悪魔へと変化した彼の全身が凄まじい光を放ち、闇を打ち破らんと輝きを増す。
同時に彼の全身を貫いていた影の刃が燃え尽きて消滅。
余波で両者が召喚した悪魔も消え去った。
「――素晴らしい輝きだ。 やはり貴様と俺は戦う運命。 何故なら光と闇は相容れないからだ」
余裕からなのか少年が得意げに気取った台詞を垂れ流す。
慈照は言ってろと思いながら全身から放つ輝きを維持し、どうすれば敵を仕留められるのかを考える。
さっきまでとは一転し、状況は慈照にとってかなり不利だ。
『68/72』。
少年の操る悪魔の名称だ。 能力は闇を操る事。
正確には影を物質化して操作する能力となる。 自身の影を伸ばして刃としたり、覆い隠して気配を消したりと応用の幅は広い。 ただ、欠点としてはあくまで影の操作なので、影が発生が制限される日中の外であるなら脅威度は格段に落ちるが、この薄暗い迷宮内部であるなら話は別だ。
光源が限られており、闇が多くを占めるこの空間内でなら『68/72』はその能力を十二分に発揮できる。 第一から第三位階まででも充分に強力だが、その段階では今回のように闇の奥を見通す能力が相手だと最大の強みである影による隠形が機能しない。
その欠点を突かれる形となったが第四位階を用い、完全に悪魔と化した彼はもはや闇そのものとなる。
実体がないので物理的な攻撃はほとんど効果がない。
だからと言って慈照の炎は効かないのかと言われればそうでもなかった。
『68/72』の能力はこの迷宮内では最強に近いだろう。
この闇に包まれた空間全てが彼の味方となる。 第四位階を使用した今、彼は存在ではなく遍在しているのだ。 だからと言って無敵なのかと問われれば疑問符が付く。
それは慈照が未だに生きている点からも明らかだ。
彼の放つ炎に阻まれて攻めあぐねている事もあるが、もう一つ問題がある。
いや、弱点と言い換えてもいいそれは少年にとっては致命的なものだった。
確かに彼は闇と同化し、大半の攻撃を受け付けない存在ではある。
しかし、一見無敵に見える能力にも弱点があったのだ。
それは使い手である彼自身だ。 自らを闇と化し周囲に遍在させる事は自己の拡散に等しい。
するとどうなるのか? 水面で溶ける氷のように彼の意識は希薄化していく。
その果てに待っているのは自己の消滅だ。 溶けた氷は二度と同じ形には戻らない。
強力な力ではあったが、使役する人間という上限が存在する以上は「理屈の上」でしかないのだ。
それを理解しているこそ少年は完全に闇と同化せず、部分的に実体を残した状態で能力を行使している。 彼はその事実に歯がゆさを感じており、無敵の能力が自分の能力不足によって無敵ではなくなっている事に苛立っていた。
――やはり、今の俺ではここまでが限界か。
内心でそう呟く。 彼はさっきから色々と奇怪な言動を繰り返しており、慈照から見れば狂っていると
しか思えない状態ではあった。 しかし、彼自身は自らをこれ以上ない程の正気と思っており、これまでの発言、行動、その全てが本気だ。
彼は本気でこの状況を神へと至る存在を生み出す為の儀式と思っており、本気で自らは神へと至る存在であると信じている。 少年はまだ学園生活でしか他者との摩擦を経験しておらず、人生を語るには早い筈ではあるが彼は思春期特有の病を非常に重く患っていた。
それにより本人曰く、真理に至ったらしい。
世界は欺瞞に満ちており、その裏には陰謀と目に見えない強大な何かや力が蠢いている。
同時にその裏側に身を置く者達も存在し、自分も将来的にはそちら側に落ちる運命なのだと心の底から信じていた。 現状を踏まえるとあながち妄想とも言い切れない所ではあったが、とにかく彼はそう思って今まで生きて来たのだ。
周囲にいる同級生を「何も分かっていない連中」と見下し、両親に対してすら「知らない事は幸せな事だ」と若干ではあるが上から目線で接していた。
そんな調子でいるものだから友人もおらず、寧ろいじめのターゲットになったぐらいだ。
彼はそんな苦しい仕打ちを受けても気にしなかった。
何故なら力を手に入れた自分はこんな連中とは違う次元で生きるのだ。
わざわざ低次元の連中に合わせて自らの魂の格を落とすような真似をするべきではない。
彼の中では自身には凄まじい才能が眠っており、今の自分は蛹のようにその覚醒を待っている状態だ。
少年は毎日、自身がどんな能力に覚醒するのか? そしてどのような戦いが待ち受けているのだろうか? 飽きもせずに同じ事を考えていた。
最初は授業中に襲って来たテロリストに始まり、妖怪などの異形の存在や、サイボーグ的な何か、怪しげな組織、徐々に敵の規模が増していき、最後には概念的な存在と戦えるようになるらしい。
――俺は無限だ。
彼の妄想の中では彼は無限に成長し続ける可能性の塊。
そしてそれを形容する存在は何か? 結論を出すには少し時間がかかったが、出てしまえばシンプルだ。
神。 そう神格だ。
彼はその結論に至った時、雷に打たれたかのような衝撃を味わった。
その時の瞬間を昨日の事のように覚えており、少年は震えるようにこう思考した。
――そうか、俺は神だったのか……。
自らの核心を得た少年は日々を過ごしていたが、現実は彼が神である事を許容しない。
周囲の人間は彼の薄気味悪さに虐める価値すらない――正確には触りたくないと離れて行き、それ以外の者はそもそも近寄っておらず、両親ですら度が過ぎていると思っており心配していた。
そんなある日の事だ。 期末考査という非常につまらなく、無駄だと思っているイベントをやり過ごした彼はショッピングモールを訪れていた。 そして今に至る。
訳の分からない状況に困惑する者達の中、彼は一人興奮していた。
ついにこの時が来たのだと。 やはり自分は間違っていなかった。
やはり俺は神に至る存在で、これはその為の試しの場――つまりは羽化する為の儀式だ。
少年は「神としての自分のスタンス」を明確にしており、それに従って出会う者全てを平等に殺す事を決めていた。
何故なら神は平等だからだ。
平等に裁き、平等に殺す。 そこに慈悲はない。
だからこそ善悪、老若男女の区別は一切付けない事を決めている。
彼は自らに課したスタンスを曲げない点だけは一貫していた。
全身を纏う炎の火力を引き上げ、周囲に放射するように放つ。
悪魔へと変化した彼の全身が凄まじい光を放ち、闇を打ち破らんと輝きを増す。
同時に彼の全身を貫いていた影の刃が燃え尽きて消滅。
余波で両者が召喚した悪魔も消え去った。
「――素晴らしい輝きだ。 やはり貴様と俺は戦う運命。 何故なら光と闇は相容れないからだ」
余裕からなのか少年が得意げに気取った台詞を垂れ流す。
慈照は言ってろと思いながら全身から放つ輝きを維持し、どうすれば敵を仕留められるのかを考える。
さっきまでとは一転し、状況は慈照にとってかなり不利だ。
『68/72』。
少年の操る悪魔の名称だ。 能力は闇を操る事。
正確には影を物質化して操作する能力となる。 自身の影を伸ばして刃としたり、覆い隠して気配を消したりと応用の幅は広い。 ただ、欠点としてはあくまで影の操作なので、影が発生が制限される日中の外であるなら脅威度は格段に落ちるが、この薄暗い迷宮内部であるなら話は別だ。
光源が限られており、闇が多くを占めるこの空間内でなら『68/72』はその能力を十二分に発揮できる。 第一から第三位階まででも充分に強力だが、その段階では今回のように闇の奥を見通す能力が相手だと最大の強みである影による隠形が機能しない。
その欠点を突かれる形となったが第四位階を用い、完全に悪魔と化した彼はもはや闇そのものとなる。
実体がないので物理的な攻撃はほとんど効果がない。
だからと言って慈照の炎は効かないのかと言われればそうでもなかった。
『68/72』の能力はこの迷宮内では最強に近いだろう。
この闇に包まれた空間全てが彼の味方となる。 第四位階を使用した今、彼は存在ではなく遍在しているのだ。 だからと言って無敵なのかと問われれば疑問符が付く。
それは慈照が未だに生きている点からも明らかだ。
彼の放つ炎に阻まれて攻めあぐねている事もあるが、もう一つ問題がある。
いや、弱点と言い換えてもいいそれは少年にとっては致命的なものだった。
確かに彼は闇と同化し、大半の攻撃を受け付けない存在ではある。
しかし、一見無敵に見える能力にも弱点があったのだ。
それは使い手である彼自身だ。 自らを闇と化し周囲に遍在させる事は自己の拡散に等しい。
するとどうなるのか? 水面で溶ける氷のように彼の意識は希薄化していく。
その果てに待っているのは自己の消滅だ。 溶けた氷は二度と同じ形には戻らない。
強力な力ではあったが、使役する人間という上限が存在する以上は「理屈の上」でしかないのだ。
それを理解しているこそ少年は完全に闇と同化せず、部分的に実体を残した状態で能力を行使している。 彼はその事実に歯がゆさを感じており、無敵の能力が自分の能力不足によって無敵ではなくなっている事に苛立っていた。
――やはり、今の俺ではここまでが限界か。
内心でそう呟く。 彼はさっきから色々と奇怪な言動を繰り返しており、慈照から見れば狂っていると
しか思えない状態ではあった。 しかし、彼自身は自らをこれ以上ない程の正気と思っており、これまでの発言、行動、その全てが本気だ。
彼は本気でこの状況を神へと至る存在を生み出す為の儀式と思っており、本気で自らは神へと至る存在であると信じている。 少年はまだ学園生活でしか他者との摩擦を経験しておらず、人生を語るには早い筈ではあるが彼は思春期特有の病を非常に重く患っていた。
それにより本人曰く、真理に至ったらしい。
世界は欺瞞に満ちており、その裏には陰謀と目に見えない強大な何かや力が蠢いている。
同時にその裏側に身を置く者達も存在し、自分も将来的にはそちら側に落ちる運命なのだと心の底から信じていた。 現状を踏まえるとあながち妄想とも言い切れない所ではあったが、とにかく彼はそう思って今まで生きて来たのだ。
周囲にいる同級生を「何も分かっていない連中」と見下し、両親に対してすら「知らない事は幸せな事だ」と若干ではあるが上から目線で接していた。
そんな調子でいるものだから友人もおらず、寧ろいじめのターゲットになったぐらいだ。
彼はそんな苦しい仕打ちを受けても気にしなかった。
何故なら力を手に入れた自分はこんな連中とは違う次元で生きるのだ。
わざわざ低次元の連中に合わせて自らの魂の格を落とすような真似をするべきではない。
彼の中では自身には凄まじい才能が眠っており、今の自分は蛹のようにその覚醒を待っている状態だ。
少年は毎日、自身がどんな能力に覚醒するのか? そしてどのような戦いが待ち受けているのだろうか? 飽きもせずに同じ事を考えていた。
最初は授業中に襲って来たテロリストに始まり、妖怪などの異形の存在や、サイボーグ的な何か、怪しげな組織、徐々に敵の規模が増していき、最後には概念的な存在と戦えるようになるらしい。
――俺は無限だ。
彼の妄想の中では彼は無限に成長し続ける可能性の塊。
そしてそれを形容する存在は何か? 結論を出すには少し時間がかかったが、出てしまえばシンプルだ。
神。 そう神格だ。
彼はその結論に至った時、雷に打たれたかのような衝撃を味わった。
その時の瞬間を昨日の事のように覚えており、少年は震えるようにこう思考した。
――そうか、俺は神だったのか……。
自らの核心を得た少年は日々を過ごしていたが、現実は彼が神である事を許容しない。
周囲の人間は彼の薄気味悪さに虐める価値すらない――正確には触りたくないと離れて行き、それ以外の者はそもそも近寄っておらず、両親ですら度が過ぎていると思っており心配していた。
そんなある日の事だ。 期末考査という非常につまらなく、無駄だと思っているイベントをやり過ごした彼はショッピングモールを訪れていた。 そして今に至る。
訳の分からない状況に困惑する者達の中、彼は一人興奮していた。
ついにこの時が来たのだと。 やはり自分は間違っていなかった。
やはり俺は神に至る存在で、これはその為の試しの場――つまりは羽化する為の儀式だ。
少年は「神としての自分のスタンス」を明確にしており、それに従って出会う者全てを平等に殺す事を決めていた。
何故なら神は平等だからだ。
平等に裁き、平等に殺す。 そこに慈悲はない。
だからこそ善悪、老若男女の区別は一切付けない事を決めている。
彼は自らに課したスタンスを曲げない点だけは一貫していた。
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