悪魔の頁

kawa.kei

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第42話

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 慈照は真っ直ぐ進む。 その際に足音が響くが、視線の先に居る少年は反応しない。
 そして互いが互いを認識きる距離で停止。 少年は何故か顔を手で覆うように隠している。
 奇妙なポーズで直立している事に若干、眉をひそめるが構わずに少年を観察。

 服装は制服。 手には魔導書、ページ数は予想通りかなり多い。
 複数冊分を保有している事は明らかだ。 

 「ふっ、中々に苛烈な死の匂いがする」

 少年は慈照の魔導書をちらりと一瞥してそう呟くように口にした。
 行動の端々に芝居がかったものがあったが、少年は本気でやっているのか恥じ入る様子はない。
 慈照は特に相手をせずに観察する。 第一印象は「痛々しい」だ。

 思春期特有の病にしても度が過ぎている。 いやと内心で否定、魔導書という分かり易い要素を得た結果、このような形で発露したのではないだろうか? 目を背けたくなる奇行だが、善悪の判断基準には関係のない要素だ。 それともう一点気になった事があった。

 少年の視線だ。 彼は慈照を見てはいるが視線の焦点が合っていない。
 つまり視線を向けているが、見てはいないのだ。 その割には精神の均衡を崩したようには見えない。
 もしかしたら崩れた結果が今の状態なのかもしれないが。

 「……取りあえず聞いときたいが、お前は積極的に殺しに行く手合いか?」
 「ふっ、愚問だな。 この空間は新たなる王を生む試しの場。 そして力を得た王は神へと至る」
 「何言ってるんだお前は?」

 慈照はこの状況を自分達をここに放り込んだ者の悪趣味な催しとしか認識していなかったので、試しの場などという上等な場所と捉えている思考が理解できなかった。
 
 「分からないと思うのも無理はない。 俺達は拉致されて放り込まれた。 お前はそう認識しているな?」
 
 それ以外の何だと言うんだ? 
 少年は相変わらず焦点の合っていない眼差しで慈照へ視線を向ける。
 視線を向ける角度にも謎のこだわりがあるのか、体が変な角度に曲がっていた。

 格好いいとも決まっているとも思えなかったので、見ていて痛々しさしか感じない。
 そろそろ会話になっていないやり取りに苦痛を感じ始めており、直接話を聞くのは難しいと判断し少年の周囲を蠢いている怨霊に目を凝らす。

 その間にも少年は得意げに話しを続けていた。

 「拉致された訳ではない。 俺達は選ばれたのだ」
 「……選ばれた?」

 思わず聞き返してしまった事を後悔したが、それに気を良くしたのか少年は更に訳の分からない話を続ける。
 
 「そう、この儀式は七十二の魔導書を携えた者達が互いに殺し合い、最後の一人を決める為の戦いだ。 全ての魔導書を統べる王は人知を超越した力を手に入れ、神へと至る。 つまりこの場にいる俺達は神に至る可能性を秘めた選ばれし者なのだ」
 「神だと?」
 「そう、超常の力を操り、世界を統べる神だ。 俺達をここに連れて来た男は自ら神になろうと目論んでいるようだが、そうはいかない。 奴は上手くやったと言えるが、たった一つ大きな失敗をした」

 少年の周囲にはいくつかの怨霊らしきものが纏わりついている。
 妄言を適当に聞き流しながら慈照はじっと目を凝らした。

 「――それはこの俺を引き込んでしまった事だ。 魔導書は持ち主に相応しい存在を引き寄せる。 奴がどう足掻いた所で俺と言う存在を引き当てただろうがな」

 一部は少年に憎悪を向けていなかったが、殺してやると怨嗟を向ける存在が見えた。
 感じからして返り討ちにしたのだろうか? 判断が付かない。
 
 「奴は俺達の持つ神へ至る可能性――輝きとも呼べる光を集めたのだ」
 「……ほぅ、集めたら神になれるのは分かったが、殺し合う意味はあるのか?」
 
 あまりにも突っ込み所が多いので聞き流していても疑問が自然と湧き上がる。

 「愚問だな。 さっきも言った通り、これは儀式なのだ。 適性があり、新たなる神たる器は他の器を犠牲にする事で誕生する。 つまりこの儀式は一人を残して他の全員が死亡しない限り終わらない」
 「なるほどつまりお前はやる気になっているって事か」
 「やる気? 違うな。 これは運命、俺達は生まれた時からこうなる事を定められたのだ」

 痛々しさもここまで貫けるなら立派なものだ。 
 慈照は少年にちょっとした尊敬に近い何かを感じたが、欠片も共感できないので最終的には痛い以外の感想は出てこなかった。 それと見極める為の材料が見つかった事もあってそろそろこの苦痛に満ちた会話を終わらせるべく、決定的な質問をぶつける。

 「取りあえずお前が神とやらになりたいのは分かったが、一つ聞いておきたい。 ――お前、ここに来るまで女の子を一人殺したな? その子はお前に何か害を及ぼしたのか?」
 「女の子? ここに居るのは神の器のみ。 そこに老若男女の区別はない」
 「つまり、何もしていないが神とやらになるのに邪魔だったから殺したって事でいいのか?」

 少年は視線を斜め上に向け遠い目をする。
 気付いていないが、怨霊に混ざって泣いている少女らしき存在が居た。
 恨みよりも家族に会えない悲しみを湛えているその子は明らかにこんな所で死んでいい存在ではない。

 ――少なくともこんな痛々しい設定を垂れ流し、現実と妄想の区別もつかない狂ったガキに殺されていい存在ではないはずだ。

 「ふっ、違うな。 彼女は死んだのではない。 新たな神格覚醒の礎となったのだ。 俺の中で永遠に生き続ける事となるだろう」
 
 決まりだった。 否定しない所から一方的に襲って殺したと判断。
 つまりこのクソガキは屑で決定だ。 

 「それだけ聞ければ充分だ。 ガキ、お前みたいな屑は社会に出る前に俺が間引いてやる」

 慈照は魔導書を構え、少年も応じるように魔導書を掲げる。

 「せっかちな男だ。 人生で最期の会話になると言うのにこんなにも早く切り上げてもいいのか? ――いや、これもまたお前の放つ光によるものか」

 少年はふっとわざとらしく気取った仕草で笑って見せ、一応名乗っておこうかと呟いた。

 「人は必ず輝く光を放つ。 俺はその光を消し去る為に選ばれし器。 そして全ての魔導書を束ねる未来の魔術王。 そして偽りから神に至る存在――疑神プセウドテイ。 新たな神格誕生の礎となれ!」

 少年はクネクネと傍から見れば謎のポーズを決める。

 「神の前には生と死は等価値。 お前の生も同価値の死へと置き換わる。 俺は未だ神への階段を駆け上がっている最中ではあるが、お前の取っての死神だ。 さぁ、魔導書を構えろ。 俺か、お前か、どちらかが神へと至る器かを計ろうじゃないか!」
 
 両者の魔導書が同時に力を開放した。
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