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第41話
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藤副 笑実は目の前の転がった死体から魔導書を奪い取り、自らのものへと統合し、手に入れた事で能力を確認し、どう使っていくのかを合理的に計算する。
もはや彼女にはこの状況に放り込まれる前の快活さは完全に消え失せ、目的を達成する事しか考えられない機械と化していた。 ここに来るまでも何名か仕留める事に成功しており、もはや搦め手を使わずに力押しで捻じ伏せられる程度に戦力が揃っている。
元々、複数所有していた者もいた事もあってそれなりの数が集まった。
自分は無敵だと自惚れるつもりはないが、戦力的が揃った事に対する余裕はある。
後はこの調子で他の魔導書を集めつつ、祐平を見つけなければならない。
――あれ? 私は何で祐平を探さなければならないんだろう?
ふっとそんな疑問が浮かぶ。 特に何か思う所があった訳ではない。
祐平が嫌いになったとか、いつまで経っても見つからない事に業を煮やした訳でもない。
ただ、祐平を探す行為は余計な寄り道で不毛な行為ではないのだろうかと思っただけだ。
合理的に考えればこの段階で生き残っているのであれば何らかの能力で上手く立ち回ったか、強力な悪魔を引き当ててこの迷宮を徘徊しているかのどちらかだ。
なら、わざわざ探す必要があるのだろうか? 何故なら祐平は自分の助けを必要としていない可能性が高いからだ。 もしも、助けが必要な状況に陥っていた場合は既に死んでいるだろう。
死人は助けようがないので探す意味がない。 仮に死体を見つけたとしてもこの状況では持ち出す事も不可能だ。 遺品を回収する? 別れる前の祐平の持ち物を想像するが精々、スマホか財布程度だ。
形見などと大仰に扱うような代物でもない。 笑実は内心で更に首を傾げた。
――やはり祐平を探す必要はないのではないか?
いくら考えてもその結論に落ち着いてしまう。
ならばと考え方を変える。 自分は何故、祐平を探していたのかを思い出す。
自身の事なので答えはあっさりと出てくる。 不安と恐怖から救ってもらう為だ。
それを克服してしまった以上、やはり探す必要はない。
彼女は魔導書によって感情を失い、倫理観を失った。
結果、合理の化身と化したが、自分でも気が付いていない事がある。
それは祐平を探す事を考える事、その思考そのものが彼女の在り方と矛盾しているのだ。
完全な合理を追求するなら余計な思考が脳裏に浮かぶ余地がない。
まるで祐平を探す言い訳を必死に探しているかのようだったが、彼女はそれに思い至れず空転する思考を他人事のように俯瞰しつつ続ける。
――まるで失ったものを探し求めるかのように。
慈照は黙々と歩き続けていた。
人を救い、屑を消し去る為と目的を定めた彼の足取りに迷いは一切ない。
心は晴れやかで一切の迷いの入り込む余地がなかった。 気持ちも落ち着いており――いや、爽快感に近いものを覚えているのでやや高揚している。
魔導書を得て自分は救われた。 皮肉な話だと考える。
今までの自分は自覚のないまま苦しんでいたのだ。 この現実と自身の思い描く正義との狭間で。
人を殺す事は良くない事だ。
――たとえそれが悪人であろうとも。
いつの事だったか、両親はそう言っていた。
ニュースか何かで殺人犯が捕まった話を聞いた時だっただろうか?
特に何かがあった訳ではなかったが、妙に印象に残っていた。
両親の言葉に自分は何と返しただろう?
上手く思い出せなかったが、恐らく歯切れが悪く曖昧な言葉で同意したはずだ。
当時の彼はまだ幼かった事もあって、両親に取って都合のいい返答をするイエスマンだった。
だから、疑念を抱いたとしても表には出さず気付かない振りをしていたのだ。
自覚はなかったが今でも覚えていると言う事はもしかすると同意する事に強い抵抗を示していたのかもしれない。 こうして明確な答えが出た以上、押し殺していただけで納得はできていなかったと分かる。
この世界には確実に死んだ所で誰も悲しまない者が存在するのだ。
そいつらは人の皮を被った害獣でしかない。 人の皮を被っている以上、人か獣か、白か黒か、屑かそうでないかの見分けはつかないのだ。
何故なら全く同じ見た目をしているのだから。
いや、本当は皆、分かっているのだ。 行動に移さない――屑を間引かないのには理由がある。
間違う事が怖いのだ。 人を殺す事は紛れもなく悪、それは慈照にも分かっている。
屑を始末すれば正義だが、人を殺せば間違いなく悪だ。
世界中の人間は自らが悪になる事を恐れて行動に移せない。
だから、屑が図に乗って蔓延るのだ。 考えれば考えるほどに自分の考えが正しいと思ってしまう。
魔導書と言う世界を変えるとまではいかないだろうが、少しだけ綺麗にすることができる力を得たのだ。 ここを出たら手始めに目に付いた屑を残らず灰に変えてやろう。
これは誰にでもできる事ではない。 慈照はちらりと周囲を見回す。
誰もいないが、彼にだけ見えるものがあった。 不定形で煙のような何かで、目を凝らすと人の顔のようにも見える。 それが慈照に怨嗟の眼差しを向けていた。
これは彼が殺した屑共の怨霊のようなもので、彼が得た魔導書の能力で可視化できるようになっている。 中にはついさっき殺した屑らしきものも含まれており、こんなものに纏わりつかれて居たら並の者なら心を病んでしまうだろう。
だが、自分ならば問題ない。 何故なら彼は自分の正しさをしっかりと認識しているからだ。
くたばった屑共が何を言おうが何の意味もない。 怨嗟の声に晒されていても彼は自然に無視していた。 不意に慈照は足を止める。
目の前には闇しかないが彼の得た能力によって先が見えるのだ。
これは少し前に襲って来た者達から奪った魔導書によるものだ。
『45/72』『46/72』
これが襲って来たので返り討ちにした相手から奪った魔導書で、前者の能力である『千里眼』だ。
それにより闇の奥であろうと見通す事ができる。 彼の視線の先――闇の向こうには一人の少年が立っていた。
屑かそうでないかの判別はつかない。
ある程度近寄れば『54/72』の能力で怨霊が憑いているか否かの判断が付く。
憑いているのであれば他者から魔導書を奪っているので屑の可能性が高い。
屑から奪った可能性も充分にあるので見極める必要がある。
彼はゆっくりと少年へと近寄って行った。
もはや彼女にはこの状況に放り込まれる前の快活さは完全に消え失せ、目的を達成する事しか考えられない機械と化していた。 ここに来るまでも何名か仕留める事に成功しており、もはや搦め手を使わずに力押しで捻じ伏せられる程度に戦力が揃っている。
元々、複数所有していた者もいた事もあってそれなりの数が集まった。
自分は無敵だと自惚れるつもりはないが、戦力的が揃った事に対する余裕はある。
後はこの調子で他の魔導書を集めつつ、祐平を見つけなければならない。
――あれ? 私は何で祐平を探さなければならないんだろう?
ふっとそんな疑問が浮かぶ。 特に何か思う所があった訳ではない。
祐平が嫌いになったとか、いつまで経っても見つからない事に業を煮やした訳でもない。
ただ、祐平を探す行為は余計な寄り道で不毛な行為ではないのだろうかと思っただけだ。
合理的に考えればこの段階で生き残っているのであれば何らかの能力で上手く立ち回ったか、強力な悪魔を引き当ててこの迷宮を徘徊しているかのどちらかだ。
なら、わざわざ探す必要があるのだろうか? 何故なら祐平は自分の助けを必要としていない可能性が高いからだ。 もしも、助けが必要な状況に陥っていた場合は既に死んでいるだろう。
死人は助けようがないので探す意味がない。 仮に死体を見つけたとしてもこの状況では持ち出す事も不可能だ。 遺品を回収する? 別れる前の祐平の持ち物を想像するが精々、スマホか財布程度だ。
形見などと大仰に扱うような代物でもない。 笑実は内心で更に首を傾げた。
――やはり祐平を探す必要はないのではないか?
いくら考えてもその結論に落ち着いてしまう。
ならばと考え方を変える。 自分は何故、祐平を探していたのかを思い出す。
自身の事なので答えはあっさりと出てくる。 不安と恐怖から救ってもらう為だ。
それを克服してしまった以上、やはり探す必要はない。
彼女は魔導書によって感情を失い、倫理観を失った。
結果、合理の化身と化したが、自分でも気が付いていない事がある。
それは祐平を探す事を考える事、その思考そのものが彼女の在り方と矛盾しているのだ。
完全な合理を追求するなら余計な思考が脳裏に浮かぶ余地がない。
まるで祐平を探す言い訳を必死に探しているかのようだったが、彼女はそれに思い至れず空転する思考を他人事のように俯瞰しつつ続ける。
――まるで失ったものを探し求めるかのように。
慈照は黙々と歩き続けていた。
人を救い、屑を消し去る為と目的を定めた彼の足取りに迷いは一切ない。
心は晴れやかで一切の迷いの入り込む余地がなかった。 気持ちも落ち着いており――いや、爽快感に近いものを覚えているのでやや高揚している。
魔導書を得て自分は救われた。 皮肉な話だと考える。
今までの自分は自覚のないまま苦しんでいたのだ。 この現実と自身の思い描く正義との狭間で。
人を殺す事は良くない事だ。
――たとえそれが悪人であろうとも。
いつの事だったか、両親はそう言っていた。
ニュースか何かで殺人犯が捕まった話を聞いた時だっただろうか?
特に何かがあった訳ではなかったが、妙に印象に残っていた。
両親の言葉に自分は何と返しただろう?
上手く思い出せなかったが、恐らく歯切れが悪く曖昧な言葉で同意したはずだ。
当時の彼はまだ幼かった事もあって、両親に取って都合のいい返答をするイエスマンだった。
だから、疑念を抱いたとしても表には出さず気付かない振りをしていたのだ。
自覚はなかったが今でも覚えていると言う事はもしかすると同意する事に強い抵抗を示していたのかもしれない。 こうして明確な答えが出た以上、押し殺していただけで納得はできていなかったと分かる。
この世界には確実に死んだ所で誰も悲しまない者が存在するのだ。
そいつらは人の皮を被った害獣でしかない。 人の皮を被っている以上、人か獣か、白か黒か、屑かそうでないかの見分けはつかないのだ。
何故なら全く同じ見た目をしているのだから。
いや、本当は皆、分かっているのだ。 行動に移さない――屑を間引かないのには理由がある。
間違う事が怖いのだ。 人を殺す事は紛れもなく悪、それは慈照にも分かっている。
屑を始末すれば正義だが、人を殺せば間違いなく悪だ。
世界中の人間は自らが悪になる事を恐れて行動に移せない。
だから、屑が図に乗って蔓延るのだ。 考えれば考えるほどに自分の考えが正しいと思ってしまう。
魔導書と言う世界を変えるとまではいかないだろうが、少しだけ綺麗にすることができる力を得たのだ。 ここを出たら手始めに目に付いた屑を残らず灰に変えてやろう。
これは誰にでもできる事ではない。 慈照はちらりと周囲を見回す。
誰もいないが、彼にだけ見えるものがあった。 不定形で煙のような何かで、目を凝らすと人の顔のようにも見える。 それが慈照に怨嗟の眼差しを向けていた。
これは彼が殺した屑共の怨霊のようなもので、彼が得た魔導書の能力で可視化できるようになっている。 中にはついさっき殺した屑らしきものも含まれており、こんなものに纏わりつかれて居たら並の者なら心を病んでしまうだろう。
だが、自分ならば問題ない。 何故なら彼は自分の正しさをしっかりと認識しているからだ。
くたばった屑共が何を言おうが何の意味もない。 怨嗟の声に晒されていても彼は自然に無視していた。 不意に慈照は足を止める。
目の前には闇しかないが彼の得た能力によって先が見えるのだ。
これは少し前に襲って来た者達から奪った魔導書によるものだ。
『45/72』『46/72』
これが襲って来たので返り討ちにした相手から奪った魔導書で、前者の能力である『千里眼』だ。
それにより闇の奥であろうと見通す事ができる。 彼の視線の先――闇の向こうには一人の少年が立っていた。
屑かそうでないかの判別はつかない。
ある程度近寄れば『54/72』の能力で怨霊が憑いているか否かの判断が付く。
憑いているのであれば他者から魔導書を奪っているので屑の可能性が高い。
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