悪魔の頁

kawa.kei

文字の大きさ
上 下
39 / 65

第39話

しおりを挟む
 御簾納と名乗った男は肉体的な疲労もあっただろうが、精神的にもかなり消耗しているようで表情には憔悴が張り付いていた。
 抵抗する気力もないのか地面に蹲って、祐平の質問に淡々と答える。

 「――なるほど。 人を集めたのは良いけど、抱えきれなくなって放り出したと」
 「無責任って言いたい所だが、状況が状況だし仕方がないだろ」

 そう言って肩を竦める水堂の反応に祐平も内心で同意した。
 元々、彼等自身も仲間を集めるつもりだったので、結果はどうあれある程度は成功させた御簾納を非難する理由はなかったからだ。

 「それで? どうするのよ。 下手に人数を集めても逆効果になるじゃない。 先に言っておくけど私はこの人と一緒にいたって面子と合流するのは嫌よ」

 櫻井は何をされるか分からないしと付け加える。
 特に身を守る術を持たない彼女からすれば信用できない相手と行動を共にするのには強い抵抗があった。
 
 「ま、このおっさんが放り出した連中に関しては今は棚上げでいいだろ。 ――にしても協力と依存は別だって理解できないものかねぇ?」
 「誰も彼も水堂さんみたいにメンタル強い訳じゃないですから、この状況で参ってしまってるんでしょうね。 そんな状況で未来予知なんてお手軽な手段が目の前にぶら下がってたら縋りつきたくもなりますよ。 ただ、代償を知った上で強要していたってんならそいつらは残らずカスだと思いますけど」
 
 魔導書使用の代償は寿命だ。 彼等は知らなかったとはいえ、文字通り命を削る事を御簾納に強要していた事になる。 

 「だ、代償? 君達は魂を消費する事の意味を知っているのか?」
 「はい、俺の悪魔がその辺を教えてくれる能力だったので」
 「お、教えてくれ。 前の持ち主は第五位階を使用して死んでしまった。 一体、何故あんな事に……」
 
 御簾納は祐平に縋りつくように尋ねる。
 自分はこの怪しげな本を動かす為に何を支払っていたのか?
 分からない事は不安だった。 もしかしたら使ったが最後、取り返しのつかない事になっているのではないか? そう考えると不安でたまらなかった。

 彼の疑問に祐平は――

 「先に結論から言ってしまうと寿命ですね」

 ――あっさりと答えをくれた。

 「じ、寿命?」
 「はい、御簾納さんの話が本当なら前の持ち主は第五位階の使用で寿命を使い果たして死んだ事になります。 第五なんて使うと寿命が年単位で吹っ飛ぶので、年配の方だと一分も保たない場合もあり得ます」
 「そ、それは本当なのか!? 使うと寿命が減る? なら私の寿命も減っているのか!?」
 
 祐平に掴みかかろうとする御簾納の襟首を水堂が掴んで引き離す。
 
 「まぁ、落ち着けよおっさん」
 「いや、知らずに寿命支払わされてたんだから割と順当な反応じゃない?」
 「二人ともドライですね……。 ――とにかく、寿命に関しては残念ですが事実です。 御簾納さんがここに来るまでにどれだけ使って来たのかは分かりませんが、今後は使用を控える事をお勧めします」
 「……だ、だが、ここを出るにはどうすれば……」
 
 ぶつぶつと譫言のように帰りたい帰りたいと呟く御簾納を見て三人は顔を見合わせる。

 「どうする?」
 「知らないわよ。 というか、私に決定権ってあるの?」

 真っ先に口を開いたのは水堂だ。 それを見て櫻井は肩を竦める。
 祐平も流石に放置はできないと思っているのでなるべく刺激しないように優しく彼に身の振り方を尋ねる。

 「御簾納さん。 あなたにはいくつか選択肢があります。 落ち着いて聞いてください。 出来ますか?」
 
 御簾納がゆるゆると頷いたのを見て祐平は話を続ける。

 「まずは大きい選択で、俺達と来るか来ないかです。 来るなら仲間として扱いますが、最低限の協力はして貰います。 来ないっていうのなら俺達と会った事を吹聴して回るのは勘弁してほしいです。 ただ、笑実って女の子を見かけたなら俺が探していると伝えてくれるとありがたいです」
 「……その娘は君の知り合いなのかね?」
 「はい、一緒にここまで連れて来られたので何とか見つけて合流したいんです。 一応、聞きますが、それっぽい子を見かけませんでしたか?」
 「いや、私が出会ったのは一緒に行動していた者だけだ。 ――もっともそれも放り出してしまったがね」

 御簾納は自嘲気味に笑う。

 「大きい選択肢と君は言ったが、なら小さな選択肢とは何かね?」

 多少は気持ちが落ち着いたのか御簾納の表情は少しだけ持ち直していた。

 「俺達と一緒に来る場合ですが、その魔導書をどうするかですね。 使いたくないなら、所有権を放棄して俺か水堂さんに譲ってください。 まぁ、水堂さんには戦闘で頑張って貰うので、使うのは俺になりそうですが」
 「渡した後、私は用済みかね?」
 「いやいや、流石にそんな真似はしませんよ。 櫻井さんを見てください。 彼女は魔導書を譲り渡して貰った上で一緒に来て貰ってます」
 「無理矢理取り上げといてよく言うわ」
 「そりゃお前が魔導書で俺達を洗脳しようとしたからだろうが。 取り上げられて当然だ」
 「それしかできないんだから仕方がないでしょ!?」
 「……開き直んなよ……」

 後ろでやいやいと言い合う二人から目を逸らしながら祐平は話を続ける。

 「と、ともかく、魔導書を貰ったからと言って放り出すような真似はしません。 可能な限り守ろうとは思います。 ですが、状況が状況なので絶対に守り抜きますとは言えません。 仮に引き渡しを拒んだ上で一緒に来ると言うのなら最低限の協力は求めます」

 最後に祐平はよく考えてくださいと付け加えた。
 御簾納は落ち着きを取り戻した頭で考える。 この状況で最も重要な事は目の前の彼等は信用できるか否かだ。 魔導書の代償に関しても信用できる――消えた人間を見た以上、信用せざるを得ない。
 
 彼等の仲間になって魔導書を引き渡す事で今後、使用するに当たってのリスクは消える。
 問題は彼等が裏切らない保証がない事と、自衛の手段を失う事だ。
 魔導書を失った状態で放り出されると本当に死ぬしかなくなる。 
 
 彼等と行動を共にする事は早い段階で決めていた。
 単独行動が危険だと言う事は最初から理解していたからだ。 今回に関してはあの集団で行動する事が単独行動を行うリスクを上回ったからであって、一人で居たい訳ではない。

 だから彼の考える事は魔導書を渡すか否かだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

病弱が転生 ~やっぱり体力は無いけれど知識だけは豊富です~

於田縫紀
ファンタジー
 ここは魔法がある世界。ただし各人がそれぞれ遺伝で受け継いだ魔法や日常生活に使える魔法を持っている。商家の次男に生まれた俺が受け継いだのは鑑定魔法、商売で使うにはいいが今一つさえない魔法だ。  しかし流行風邪で寝込んだ俺は前世の記憶を思い出す。病弱で病院からほとんど出る事無く日々を送っていた頃の記憶と、動けないかわりにネットや読書で知識を詰め込んだ知識を。  そしてある日、白い花を見て鑑定した事で、俺は前世の知識を使ってお金を稼げそうな事に気付いた。ならば今のぱっとしない暮らしをもっと豊かにしよう。俺は親友のシンハ君と挑戦を開始した。  対人戦闘ほぼ無し、知識チート系学園ものです。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

処理中です...