悪魔の頁

kawa.kei

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第22話

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 「これ、どうすりゃいいんだ……」

 紙乃かみの 巳奈子みなこはそう呟いた。
 ゲームや漫画などは割と嗜む方なのでとんでもない状況に対してもある程度は柔軟に対応できると自負しているが、魔導書の能力には溜息を吐かざるを得ない。

 『40/72ラウム
 宝物を転送させる能力と銘打っているが、実際は取り寄せだ。
 何か便利なものが手に入るのかと思っていたが、宝石のようなキラキラした石や肉のこびり付いた骨のような何か。 取りあえず五回ほどトライしたが、反応に困る物しか手に入らなかった。

 宝石は持って帰れれば金になるかもしれないが、骨はどうすればいいのだろうか?
 死骸から引っこ抜いたと言わんばかりのそれを拾うのは躊躇われた。
 
 「うーん? もうちっと試すか?」

 高校生ではあるが帰宅後にショッピングモールに来たので服装は私服だ。
 フードコートに入ったら意識を失って訳の分からない場所へ連れて来られ、魔導書という訳の分からない代物を持たされて今に至る。 取りあえず色々と調べて悪魔――『40/72ラウム』の能力を試しているのだが、状況を打開できる代物は出てこない。

 宝物を取り寄せるという事で期待が高かった事もあり、思った結果が出なかった事に対する失望は大きい。 
 
 「まだ、五回だし、ガチャか何かと思えば――それとも第三以上を試すか?」
 
 代償は魂とか言う漠然としたものだったので、ほいほい使って良いのか迷っていたが第一では何故か百円玉などの小銭が出た。 第二位階で今の結果になっているので、位階を上げれば取り寄せる代物の質は上がるはずだ。 気持ちはソーシャルゲームの課金ボタンを押すか押さないかの葛藤に似ている。

 果たしてこの決断は自分にとって良いものになるのかならないのか。
 課金するからには何らかの成果が出るまで沼に潜り続けるだろう。
 あまり自分の自制心に自信のない彼女は大丈夫なのだろうかと不安になる。

 「……えぇい! 一回だけ、一回だけ試して駄目だったら他の手を考える!」

 どちらにせよ何もしなければ状況は改善しない。 
 そう自分に言い聞かせて彼女は第三位階を使用する。
 
 「何か使えそうなもの来い!」

 祈るようにそう念じると何もない空間から何かが現れ――どさりと地面に落ちた。
 
 「……うそ、いや、これヤバくない?」

 それを見て呆然と呟くのも当然で彼女の前に現れたのは別の魔導書だった。
 『49/72クロケル』触れるとページが自身の魔導書へと吸い込まれて一つになる。
 どう見ても本物だった。 所持者と認識された事で能力の詳細も頭に入って来るので疑いようがない。

 この結果をどう受け止めるべきかをだ。
 『40/72ラウム』の能力の対象となる魔導書はどういう状態なのか?
 他の参加者が死んでいる事を知らない彼女だったが、そこそこの時間が経過し、遠くで戦闘のものと思われる音が響いているので死者が出てもおかしくはないと思っていた。

 何らかの事情で死んだ者の魔導書を取り寄せた。
 それが一番彼女にとっては気楽な話だ。 死んだのは気の毒だとは思うが、死んでしまった以上は用事のない代物のはずなので、貰っても余り良心が咎めない。

 ただ、確実にそうとは限らない。 何故なら魔導書は触れれば勝手に統合されるのだ。
 仮に死亡した他の人の物であるなら殺した相手がいる。 この迷宮を徘徊する怪物であるならそれでいい。 しかし、魔導書の力はピンキリはあるだろうが、身を守る事は出来る。

 そんな代物を持った人間が怪物に負けるだろうか?
 紙乃はこんな状況でのセオリーを思い浮かべる。 魔導書に勝てるのは魔導書ではないのだろうか?
 だとするなら所持者の居ない魔導書があっさりと手に入るのはおかしい。

 その為、彼女は死んだ人間のものではなく、生きている者から盗んだのではないかと思っていた。
 
 「確か一冊にすれば終わりって言ってたっけか……」

 この状況で魔導書を失う事は死ぬ事と同義ではないかと言った疑問はあったが、この状況から自分が助かる事を念頭に置けばあまり心を痛めずに行える。
 何せ取られた相手がどうなるのかはここからでは分からないからだ。

 「よし、速攻で集めればいい。 あたしは悪くない。 恨むならこの状況を作ったクソッタレな奴を恨めよな」

 彼女は魔導書の能力を更に行使する。 出現率はランダムなのかさっき出た宝石だったが、もう一度やるとまた魔導書が出た。 名称に『/72』と入っているので七十二冊集めれば終わりだ。
 今ので三冊。 あと六十九冊だ。 

 「余裕、余裕、ガチャを回すようなものでしょ」

 紙乃は出し惜しみをせずにガチャを回し始めた。
 外れ、外れ、魔導書、外れ、外れ――無心に能力を行使し続ける。
 無心に彼女は能力を使い続けた。 結構な確率で外すが、魔導書はしっかりと引ける。

 行けると彼女は確信を抱き、更に引き当てるといった執着は過熱していく。

 ――どれだけの時間が経過しただろうか
 
 「これで百回!」

 切りのいい数字になった所で彼女は一息ついた。
 骨や宝石が小さな山になっているが、それを脇に置いて集まった魔導書を見ればそれなりに成果があったと言える。

 集まった魔導書は十三冊。  
 彼女自身の保有する『40/72ラウム』を含めれば十四冊となる。

 『03/72ウァサゴ』、『06/72ウァレフォル』、『16/72ゼパル
 『19/72サレオス』、『26/72ブネ』、『34/72フュルフュール
 『39/72マルファス』、『43/72サブナック』、『49/72クロケル
 『53/72カイム』、『55/72オロバス』、『67/72アムドゥスキアス』、『69/72デカラビア
 
 ――以上が彼女の手に入れた魔導書だった。

 「ふぅ、流石にちょっと疲れたな。 百回やってこれだったら全部集めたかったらもう四、五百回はいるかぁ……」

 疲労を感じた彼女は悪魔との同化を解いて分厚くなった魔導書を満足気に見る。
 時間はかかったが成果としては上々だ。 疲労感を感じる所を見ると魂イコール疲労と認識し、休んで体調が整えばまたやればいい。 そう考えていた。

 だが、彼女は二つ、致命的な思い違いをしている。 
 第一に『40/72ラウム』の能力で手に入る魔導書は彼女が最初に思い浮かんだ何らかの理由で所有者が死んだ物だけで、所持者のいる魔導書は手に入らない。 魔導書と使い手は契約によって結ばれているので当人の合意なしに所有権を奪えないからだ。

 そしてもう一点、魔導書使用の代償である魂は寿命。
 『40/72ラウム』の能力を連続で行使した結果、彼女の寿命はもうほとんど残っていない。
 このまま使用を続ければ、手元にある魔導書のかつての持ち主と同じ末路を辿る。

 「よし、あとちょっとだ。 頑張ろう」
 
 明るい未来に思いを馳せて彼女はそう呟く。
 だが、彼女は気がついていない。 
 手に入れた持ち主の居ない魔導書が彼女自身の未来を暗示している事を。
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