22 / 65
第22話
しおりを挟む
「これ、どうすりゃいいんだ……」
紙乃 巳奈子はそう呟いた。
ゲームや漫画などは割と嗜む方なのでとんでもない状況に対してもある程度は柔軟に対応できると自負しているが、魔導書の能力には溜息を吐かざるを得ない。
『40/72』
宝物を転送させる能力と銘打っているが、実際は取り寄せだ。
何か便利なものが手に入るのかと思っていたが、宝石のようなキラキラした石や肉のこびり付いた骨のような何か。 取りあえず五回ほどトライしたが、反応に困る物しか手に入らなかった。
宝石は持って帰れれば金になるかもしれないが、骨はどうすればいいのだろうか?
死骸から引っこ抜いたと言わんばかりのそれを拾うのは躊躇われた。
「うーん? もうちっと試すか?」
高校生ではあるが帰宅後にショッピングモールに来たので服装は私服だ。
フードコートに入ったら意識を失って訳の分からない場所へ連れて来られ、魔導書という訳の分からない代物を持たされて今に至る。 取りあえず色々と調べて悪魔――『40/72』の能力を試しているのだが、状況を打開できる代物は出てこない。
宝物を取り寄せるという事で期待が高かった事もあり、思った結果が出なかった事に対する失望は大きい。
「まだ、五回だし、ガチャか何かと思えば――それとも第三以上を試すか?」
代償は魂とか言う漠然としたものだったので、ほいほい使って良いのか迷っていたが第一では何故か百円玉などの小銭が出た。 第二位階で今の結果になっているので、位階を上げれば取り寄せる代物の質は上がるはずだ。 気持ちはソーシャルゲームの課金ボタンを押すか押さないかの葛藤に似ている。
果たしてこの決断は自分にとって良いものになるのかならないのか。
課金するからには何らかの成果が出るまで沼に潜り続けるだろう。
あまり自分の自制心に自信のない彼女は大丈夫なのだろうかと不安になる。
「……えぇい! 一回だけ、一回だけ試して駄目だったら他の手を考える!」
どちらにせよ何もしなければ状況は改善しない。
そう自分に言い聞かせて彼女は第三位階を使用する。
「何か使えそうなもの来い!」
祈るようにそう念じると何もない空間から何かが現れ――どさりと地面に落ちた。
「……うそ、いや、これヤバくない?」
それを見て呆然と呟くのも当然で彼女の前に現れたのは別の魔導書だった。
『49/72』触れるとページが自身の魔導書へと吸い込まれて一つになる。
どう見ても本物だった。 所持者と認識された事で能力の詳細も頭に入って来るので疑いようがない。
この結果をどう受け止めるべきかをだ。
『40/72』の能力の対象となる魔導書はどういう状態なのか?
他の参加者が死んでいる事を知らない彼女だったが、そこそこの時間が経過し、遠くで戦闘のものと思われる音が響いているので死者が出てもおかしくはないと思っていた。
何らかの事情で死んだ者の魔導書を取り寄せた。
それが一番彼女にとっては気楽な話だ。 死んだのは気の毒だとは思うが、死んでしまった以上は用事のない代物のはずなので、貰っても余り良心が咎めない。
ただ、確実にそうとは限らない。 何故なら魔導書は触れれば勝手に統合されるのだ。
仮に死亡した他の人の物であるなら殺した相手がいる。 この迷宮を徘徊する怪物であるならそれでいい。 しかし、魔導書の力はピンキリはあるだろうが、身を守る事は出来る。
そんな代物を持った人間が怪物に負けるだろうか?
紙乃はこんな状況でのセオリーを思い浮かべる。 魔導書に勝てるのは魔導書ではないのだろうか?
だとするなら所持者の居ない魔導書があっさりと手に入るのはおかしい。
その為、彼女は死んだ人間のものではなく、生きている者から盗んだのではないかと思っていた。
「確か一冊にすれば終わりって言ってたっけか……」
この状況で魔導書を失う事は死ぬ事と同義ではないかと言った疑問はあったが、この状況から自分が助かる事を念頭に置けばあまり心を痛めずに行える。
何せ取られた相手がどうなるのかはここからでは分からないからだ。
「よし、速攻で集めればいい。 あたしは悪くない。 恨むならこの状況を作ったクソッタレな奴を恨めよな」
彼女は魔導書の能力を更に行使する。 出現率はランダムなのかさっき出た宝石だったが、もう一度やるとまた魔導書が出た。 名称に『/72』と入っているので七十二冊集めれば終わりだ。
今ので三冊。 あと六十九冊だ。
「余裕、余裕、ガチャを回すようなものでしょ」
紙乃は出し惜しみをせずにガチャを回し始めた。
外れ、外れ、魔導書、外れ、外れ――無心に能力を行使し続ける。
無心に彼女は能力を使い続けた。 結構な確率で外すが、魔導書はしっかりと引ける。
行けると彼女は確信を抱き、更に引き当てるといった執着は過熱していく。
――どれだけの時間が経過しただろうか
「これで百回!」
切りのいい数字になった所で彼女は一息ついた。
骨や宝石が小さな山になっているが、それを脇に置いて集まった魔導書を見ればそれなりに成果があったと言える。
集まった魔導書は十三冊。
彼女自身の保有する『40/72』を含めれば十四冊となる。
『03/72』、『06/72』、『16/72』
『19/72』、『26/72』、『34/72』
『39/72』、『43/72』、『49/72』
『53/72』、『55/72』、『67/72』、『69/72』
――以上が彼女の手に入れた魔導書だった。
「ふぅ、流石にちょっと疲れたな。 百回やってこれだったら全部集めたかったらもう四、五百回はいるかぁ……」
疲労を感じた彼女は悪魔との同化を解いて分厚くなった魔導書を満足気に見る。
時間はかかったが成果としては上々だ。 疲労感を感じる所を見ると魂イコール疲労と認識し、休んで体調が整えばまたやればいい。 そう考えていた。
だが、彼女は二つ、致命的な思い違いをしている。
第一に『40/72』の能力で手に入る魔導書は彼女が最初に思い浮かんだ何らかの理由で所有者が死んだ物だけで、所持者のいる魔導書は手に入らない。 魔導書と使い手は契約によって結ばれているので当人の合意なしに所有権を奪えないからだ。
そしてもう一点、魔導書使用の代償である魂は寿命。
『40/72』の能力を連続で行使した結果、彼女の寿命はもうほとんど残っていない。
このまま使用を続ければ、手元にある魔導書のかつての持ち主と同じ末路を辿る。
「よし、あとちょっとだ。 頑張ろう」
明るい未来に思いを馳せて彼女はそう呟く。
だが、彼女は気がついていない。
手に入れた持ち主の居ない魔導書が彼女自身の未来を暗示している事を。
紙乃 巳奈子はそう呟いた。
ゲームや漫画などは割と嗜む方なのでとんでもない状況に対してもある程度は柔軟に対応できると自負しているが、魔導書の能力には溜息を吐かざるを得ない。
『40/72』
宝物を転送させる能力と銘打っているが、実際は取り寄せだ。
何か便利なものが手に入るのかと思っていたが、宝石のようなキラキラした石や肉のこびり付いた骨のような何か。 取りあえず五回ほどトライしたが、反応に困る物しか手に入らなかった。
宝石は持って帰れれば金になるかもしれないが、骨はどうすればいいのだろうか?
死骸から引っこ抜いたと言わんばかりのそれを拾うのは躊躇われた。
「うーん? もうちっと試すか?」
高校生ではあるが帰宅後にショッピングモールに来たので服装は私服だ。
フードコートに入ったら意識を失って訳の分からない場所へ連れて来られ、魔導書という訳の分からない代物を持たされて今に至る。 取りあえず色々と調べて悪魔――『40/72』の能力を試しているのだが、状況を打開できる代物は出てこない。
宝物を取り寄せるという事で期待が高かった事もあり、思った結果が出なかった事に対する失望は大きい。
「まだ、五回だし、ガチャか何かと思えば――それとも第三以上を試すか?」
代償は魂とか言う漠然としたものだったので、ほいほい使って良いのか迷っていたが第一では何故か百円玉などの小銭が出た。 第二位階で今の結果になっているので、位階を上げれば取り寄せる代物の質は上がるはずだ。 気持ちはソーシャルゲームの課金ボタンを押すか押さないかの葛藤に似ている。
果たしてこの決断は自分にとって良いものになるのかならないのか。
課金するからには何らかの成果が出るまで沼に潜り続けるだろう。
あまり自分の自制心に自信のない彼女は大丈夫なのだろうかと不安になる。
「……えぇい! 一回だけ、一回だけ試して駄目だったら他の手を考える!」
どちらにせよ何もしなければ状況は改善しない。
そう自分に言い聞かせて彼女は第三位階を使用する。
「何か使えそうなもの来い!」
祈るようにそう念じると何もない空間から何かが現れ――どさりと地面に落ちた。
「……うそ、いや、これヤバくない?」
それを見て呆然と呟くのも当然で彼女の前に現れたのは別の魔導書だった。
『49/72』触れるとページが自身の魔導書へと吸い込まれて一つになる。
どう見ても本物だった。 所持者と認識された事で能力の詳細も頭に入って来るので疑いようがない。
この結果をどう受け止めるべきかをだ。
『40/72』の能力の対象となる魔導書はどういう状態なのか?
他の参加者が死んでいる事を知らない彼女だったが、そこそこの時間が経過し、遠くで戦闘のものと思われる音が響いているので死者が出てもおかしくはないと思っていた。
何らかの事情で死んだ者の魔導書を取り寄せた。
それが一番彼女にとっては気楽な話だ。 死んだのは気の毒だとは思うが、死んでしまった以上は用事のない代物のはずなので、貰っても余り良心が咎めない。
ただ、確実にそうとは限らない。 何故なら魔導書は触れれば勝手に統合されるのだ。
仮に死亡した他の人の物であるなら殺した相手がいる。 この迷宮を徘徊する怪物であるならそれでいい。 しかし、魔導書の力はピンキリはあるだろうが、身を守る事は出来る。
そんな代物を持った人間が怪物に負けるだろうか?
紙乃はこんな状況でのセオリーを思い浮かべる。 魔導書に勝てるのは魔導書ではないのだろうか?
だとするなら所持者の居ない魔導書があっさりと手に入るのはおかしい。
その為、彼女は死んだ人間のものではなく、生きている者から盗んだのではないかと思っていた。
「確か一冊にすれば終わりって言ってたっけか……」
この状況で魔導書を失う事は死ぬ事と同義ではないかと言った疑問はあったが、この状況から自分が助かる事を念頭に置けばあまり心を痛めずに行える。
何せ取られた相手がどうなるのかはここからでは分からないからだ。
「よし、速攻で集めればいい。 あたしは悪くない。 恨むならこの状況を作ったクソッタレな奴を恨めよな」
彼女は魔導書の能力を更に行使する。 出現率はランダムなのかさっき出た宝石だったが、もう一度やるとまた魔導書が出た。 名称に『/72』と入っているので七十二冊集めれば終わりだ。
今ので三冊。 あと六十九冊だ。
「余裕、余裕、ガチャを回すようなものでしょ」
紙乃は出し惜しみをせずにガチャを回し始めた。
外れ、外れ、魔導書、外れ、外れ――無心に能力を行使し続ける。
無心に彼女は能力を使い続けた。 結構な確率で外すが、魔導書はしっかりと引ける。
行けると彼女は確信を抱き、更に引き当てるといった執着は過熱していく。
――どれだけの時間が経過しただろうか
「これで百回!」
切りのいい数字になった所で彼女は一息ついた。
骨や宝石が小さな山になっているが、それを脇に置いて集まった魔導書を見ればそれなりに成果があったと言える。
集まった魔導書は十三冊。
彼女自身の保有する『40/72』を含めれば十四冊となる。
『03/72』、『06/72』、『16/72』
『19/72』、『26/72』、『34/72』
『39/72』、『43/72』、『49/72』
『53/72』、『55/72』、『67/72』、『69/72』
――以上が彼女の手に入れた魔導書だった。
「ふぅ、流石にちょっと疲れたな。 百回やってこれだったら全部集めたかったらもう四、五百回はいるかぁ……」
疲労を感じた彼女は悪魔との同化を解いて分厚くなった魔導書を満足気に見る。
時間はかかったが成果としては上々だ。 疲労感を感じる所を見ると魂イコール疲労と認識し、休んで体調が整えばまたやればいい。 そう考えていた。
だが、彼女は二つ、致命的な思い違いをしている。
第一に『40/72』の能力で手に入る魔導書は彼女が最初に思い浮かんだ何らかの理由で所有者が死んだ物だけで、所持者のいる魔導書は手に入らない。 魔導書と使い手は契約によって結ばれているので当人の合意なしに所有権を奪えないからだ。
そしてもう一点、魔導書使用の代償である魂は寿命。
『40/72』の能力を連続で行使した結果、彼女の寿命はもうほとんど残っていない。
このまま使用を続ければ、手元にある魔導書のかつての持ち主と同じ末路を辿る。
「よし、あとちょっとだ。 頑張ろう」
明るい未来に思いを馳せて彼女はそう呟く。
だが、彼女は気がついていない。
手に入れた持ち主の居ない魔導書が彼女自身の未来を暗示している事を。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
終焉の教室
シロタカズキ
ホラー
30人の高校生が突如として閉じ込められた教室。
そこに響く無機質なアナウンス――「生き残りをかけたデスゲームを開始します」。
提示された“課題”をクリアしなければ、容赦なく“退場”となる。
最初の課題は「クラスメイトの中から裏切り者を見つけ出せ」。
しかし、誰もが疑心暗鬼に陥る中、タイムリミットが突如として加速。
そして、一人目の犠牲者が決まった――。
果たして、このデスゲームの真の目的は?
誰が裏切り者で、誰が生き残るのか?
友情と疑念、策略と裏切りが交錯する極限の心理戦が今、幕を開ける。


会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語
六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。
アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。
両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。
両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。
テッドには、妹が3人いる。
両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。
このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。
そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。
その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。
両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。
両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…
両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが…
母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。
今日も依頼をこなして、家に帰るんだ!
この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。
お楽しみくださいね!
HOTランキング20位になりました。
皆さん、有り難う御座います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる