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第17話
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迷宮の一角を進む一団がある。
進むのは異形の者達。 悪魔ではなく、この迷宮を徘徊する怪物達だ。
それらは群れを成してはいるが、よく見ればおかしい事が明らかだった。
皮膚が乖離して肉が剥き出しになり、眼窩は空洞と化し、臓物が零れ落ちている。
明らかに全ての個体が死んでいるのだ。 ――にもかかわらずその全てが動いている。
その理由は集団の中心にいる少年にあった。
帆士丘 熊耳は巨大な馬のような怪物に跨って迷宮を進んでいる。
彼の持つ魔導書に内包されている悪魔は『04/72』。
能力は死者を使役する所謂、死霊魔術と呼称される物だ。
それを用いてこの迷宮で死んだ怪物の死骸を操っている。
『04/72』の能力は死体の使役で、位階が上になるとより複雑な操作が可能となるので強敵との戦闘になると必要になるかもしれない。
――が、この悪魔最大の強みは使役する数に上限が存在しない事にある。
つまり、歩き回って死骸を蘇生させればそのまま戦力として操る事ができるのだ。
反面、維持に最低でも第一位階が必要なので魔導書を停止させる事ができないといった欠点はあるが、死者の軍勢は非常に強大な戦力と言える。
「あ、また出た」
彼と彼の率いる軍勢の前に怪物が現れる。
また、怪物かと内心で小さく溜息を吐いた。 熊耳はつまらなさそうにやれと呟くと死体の群れは目の前の怪物を仲間に変えるべく襲いかかる。
自我もなく、損傷の大きな死体、そして低位階での使役なので、生前に比べると驚く程の弱さだが、物量と言う分かり易い力は個の戦力差など容易く覆す。
前方で戦闘の音が響く、具体的には肉が弾け骨が砕けるような生々しいそれはしばらくの間続き、やがて静かになった。 ややあって何かが起き上がる。
仕留めた怪物が味方になったのだ。 熊耳はこの戦い楽勝だと考えていた。
他の悪魔は間違いなく強いだろう。 だが、それがどうした。
数はこちらが圧倒しており、今も膨れ上がり続けている軍勢の前には無力だ。
「魔導書ガチャ大当たりだな」
小さく鼻を鳴らして得意げにそう呟く。
最初は不安で仕方がなかったが、魔導書の力を得た事で気持ちが大きくなっていた。
その為、他の参加者と遭遇しても問答無用で殺しに行くつもりだ。
熊耳はこの状況にちょっとした快感を覚えていた。 味方の軍勢を増やしていき、魔導書をコンプリートする。 それを目的に彼はこの迷宮を進む。
不明瞭な事は多いが、そんな事が気にならなくなるほど魔導書は収拾欲を刺激する。
単なる現実逃避とも取れるが、彼はこの非現実的な状況をゲーム感覚で乗り切ろうとしていた。
それこそが自身の正気を守る為の彼なりの自衛手段なのかもしれない。
魔導書を全て揃え、最強になった自分の姿を想像して進んでいると――
「――ん? なんだこれ?」
通路に異物を発見した。 近寄った後、小さな呻き声を上げて目を逸らした。
怪物の死骸ではなく人間の死体、それも自分よりも小さな子供だ。
見なければよかったと思い、そのまま素通りしようと思たっが思い直して魔導書を用いて使役する。
子供の死体はギクシャクとした動きで立ち上がった。 その姿を務めて見ないようにしながら、これは使えると自分の冴えに笑みを浮かべる。 彼は死体を見つけた事も自分の運の内だと頷き、死者の群れを率いて先へと進み続けた。 間違いなく、彼は幸運ではあるだろう。
――だが、傍から見れば正気であるのかは怪しかった。
「――だからよぉ。 こいつを使えばやりたい放題できるって訳だべ?」
「ヤッベ、ヤッベ。 俄然やる気が出て来たな!」
卯敷 俊夫はこの迷宮で知り合った伊奈波 養助にある事を熱く語っていた。
二人とも学校は違うが、高校生で年齢も近かった事もあって比較的、すぐに仲良くなった。
卯敷が語っているのは自身の魔導書に宿る悪魔の能力だ。
『48/72』。能力は錬金術に関する知識を与え、金属を黄金に変えたりも出来る。
「こいつを使えばその辺の石ころがマジもんの黄金に変わるって寸法よ! 金ががっつり手に入るべ? 現ナマに換えるだろ? 俺達金持ちじゃん?」
「ヤッペ、トッシー天才じゃね? つか俺にも金くれんのかよ! マジで優しー!」
「ったり前だろ!? よっちゃん! 俺達、同じ苦労分かつアミーゴじゃん。 もうブラザーだべ?」
「ひゅう! トッシー神かよ。 俺、マジで頑張るから一緒に生きてここから出ようぜ!」
二人はうえーいと肩を組んで笑い合う。
あまり知性の感じられない会話ではあったが、この二人に限ってはそれ故にこの状況に呑み込まれる事なく比較的ではあるが気楽にこの迷宮を進んでいた。
「何言ってんだよ。 よっちゃんがいないと化け物が襲って来たときとかヤベーから、マジで頼りにしてるべ?」
「任せとけって。 俺の悪魔なら大抵の奴はどうにかなるし、いざとなったら逃げる時間ぐらいは稼げっからよ!」
陽気な会話を続けている二人だったが不意に両者とも口を噤む。
何故なら目の前に誰かが居たからだ。
「どちらさん?」
卯敷がそう尋ね、伊奈波が自然な動作で魔導書を持ち上げる。
闇の向こうから現れたのは二十代ぐらいの女性だった。
女はやや不安そうな表情を張り付け、警戒した様子で二人を窺っている。
「あ、あの君達もここに連れて来られた人?」
そう尋ねられ、二人は顔を見合わせる。
「そっすよ。 俺らもこれ配られてここに放り込まれたクチっす」
「いやぁ、ヤベーっすね」
ややあってからそう応えると女はほっとした表情を浮かべる。
「わ、私もそうなの。 君達だけ? 他には誰かいないの?」
「俺らだけっすね。 そっちは一人な感じっすか?」
卯敷が代表して話す事になっているのか伊奈波は口を挟まない。
「えぇ、怪物もいるしで、逃げ回って不安だったの。 良かったら私も仲間に入れてくれないかしら?」
女は卯敷の基準で見ても美人に入る顔立で普段なら一も二もなく頷くが、この普通ではない状況で彼が浮かべたのは白けたような表情だった。
「あー? まぁ、生きて出る為には協力した方がいいとは思うっす。 ところでおねーさんにちょっと聞きたいんすけど、ここって結構広いっすよね?」
「え、えぇ。 それがどうかしたの?」
「数十メートルはあるんすけど、あんたなんでこのクッソ広い通路で俺らが歩いている正面に都合よく現れたんすか?」
女から表情が消える。 怯えの仮面が剥がれ、無表情に。
進むのは異形の者達。 悪魔ではなく、この迷宮を徘徊する怪物達だ。
それらは群れを成してはいるが、よく見ればおかしい事が明らかだった。
皮膚が乖離して肉が剥き出しになり、眼窩は空洞と化し、臓物が零れ落ちている。
明らかに全ての個体が死んでいるのだ。 ――にもかかわらずその全てが動いている。
その理由は集団の中心にいる少年にあった。
帆士丘 熊耳は巨大な馬のような怪物に跨って迷宮を進んでいる。
彼の持つ魔導書に内包されている悪魔は『04/72』。
能力は死者を使役する所謂、死霊魔術と呼称される物だ。
それを用いてこの迷宮で死んだ怪物の死骸を操っている。
『04/72』の能力は死体の使役で、位階が上になるとより複雑な操作が可能となるので強敵との戦闘になると必要になるかもしれない。
――が、この悪魔最大の強みは使役する数に上限が存在しない事にある。
つまり、歩き回って死骸を蘇生させればそのまま戦力として操る事ができるのだ。
反面、維持に最低でも第一位階が必要なので魔導書を停止させる事ができないといった欠点はあるが、死者の軍勢は非常に強大な戦力と言える。
「あ、また出た」
彼と彼の率いる軍勢の前に怪物が現れる。
また、怪物かと内心で小さく溜息を吐いた。 熊耳はつまらなさそうにやれと呟くと死体の群れは目の前の怪物を仲間に変えるべく襲いかかる。
自我もなく、損傷の大きな死体、そして低位階での使役なので、生前に比べると驚く程の弱さだが、物量と言う分かり易い力は個の戦力差など容易く覆す。
前方で戦闘の音が響く、具体的には肉が弾け骨が砕けるような生々しいそれはしばらくの間続き、やがて静かになった。 ややあって何かが起き上がる。
仕留めた怪物が味方になったのだ。 熊耳はこの戦い楽勝だと考えていた。
他の悪魔は間違いなく強いだろう。 だが、それがどうした。
数はこちらが圧倒しており、今も膨れ上がり続けている軍勢の前には無力だ。
「魔導書ガチャ大当たりだな」
小さく鼻を鳴らして得意げにそう呟く。
最初は不安で仕方がなかったが、魔導書の力を得た事で気持ちが大きくなっていた。
その為、他の参加者と遭遇しても問答無用で殺しに行くつもりだ。
熊耳はこの状況にちょっとした快感を覚えていた。 味方の軍勢を増やしていき、魔導書をコンプリートする。 それを目的に彼はこの迷宮を進む。
不明瞭な事は多いが、そんな事が気にならなくなるほど魔導書は収拾欲を刺激する。
単なる現実逃避とも取れるが、彼はこの非現実的な状況をゲーム感覚で乗り切ろうとしていた。
それこそが自身の正気を守る為の彼なりの自衛手段なのかもしれない。
魔導書を全て揃え、最強になった自分の姿を想像して進んでいると――
「――ん? なんだこれ?」
通路に異物を発見した。 近寄った後、小さな呻き声を上げて目を逸らした。
怪物の死骸ではなく人間の死体、それも自分よりも小さな子供だ。
見なければよかったと思い、そのまま素通りしようと思たっが思い直して魔導書を用いて使役する。
子供の死体はギクシャクとした動きで立ち上がった。 その姿を務めて見ないようにしながら、これは使えると自分の冴えに笑みを浮かべる。 彼は死体を見つけた事も自分の運の内だと頷き、死者の群れを率いて先へと進み続けた。 間違いなく、彼は幸運ではあるだろう。
――だが、傍から見れば正気であるのかは怪しかった。
「――だからよぉ。 こいつを使えばやりたい放題できるって訳だべ?」
「ヤッベ、ヤッベ。 俄然やる気が出て来たな!」
卯敷 俊夫はこの迷宮で知り合った伊奈波 養助にある事を熱く語っていた。
二人とも学校は違うが、高校生で年齢も近かった事もあって比較的、すぐに仲良くなった。
卯敷が語っているのは自身の魔導書に宿る悪魔の能力だ。
『48/72』。能力は錬金術に関する知識を与え、金属を黄金に変えたりも出来る。
「こいつを使えばその辺の石ころがマジもんの黄金に変わるって寸法よ! 金ががっつり手に入るべ? 現ナマに換えるだろ? 俺達金持ちじゃん?」
「ヤッペ、トッシー天才じゃね? つか俺にも金くれんのかよ! マジで優しー!」
「ったり前だろ!? よっちゃん! 俺達、同じ苦労分かつアミーゴじゃん。 もうブラザーだべ?」
「ひゅう! トッシー神かよ。 俺、マジで頑張るから一緒に生きてここから出ようぜ!」
二人はうえーいと肩を組んで笑い合う。
あまり知性の感じられない会話ではあったが、この二人に限ってはそれ故にこの状況に呑み込まれる事なく比較的ではあるが気楽にこの迷宮を進んでいた。
「何言ってんだよ。 よっちゃんがいないと化け物が襲って来たときとかヤベーから、マジで頼りにしてるべ?」
「任せとけって。 俺の悪魔なら大抵の奴はどうにかなるし、いざとなったら逃げる時間ぐらいは稼げっからよ!」
陽気な会話を続けている二人だったが不意に両者とも口を噤む。
何故なら目の前に誰かが居たからだ。
「どちらさん?」
卯敷がそう尋ね、伊奈波が自然な動作で魔導書を持ち上げる。
闇の向こうから現れたのは二十代ぐらいの女性だった。
女はやや不安そうな表情を張り付け、警戒した様子で二人を窺っている。
「あ、あの君達もここに連れて来られた人?」
そう尋ねられ、二人は顔を見合わせる。
「そっすよ。 俺らもこれ配られてここに放り込まれたクチっす」
「いやぁ、ヤベーっすね」
ややあってからそう応えると女はほっとした表情を浮かべる。
「わ、私もそうなの。 君達だけ? 他には誰かいないの?」
「俺らだけっすね。 そっちは一人な感じっすか?」
卯敷が代表して話す事になっているのか伊奈波は口を挟まない。
「えぇ、怪物もいるしで、逃げ回って不安だったの。 良かったら私も仲間に入れてくれないかしら?」
女は卯敷の基準で見ても美人に入る顔立で普段なら一も二もなく頷くが、この普通ではない状況で彼が浮かべたのは白けたような表情だった。
「あー? まぁ、生きて出る為には協力した方がいいとは思うっす。 ところでおねーさんにちょっと聞きたいんすけど、ここって結構広いっすよね?」
「え、えぇ。 それがどうかしたの?」
「数十メートルはあるんすけど、あんたなんでこのクッソ広い通路で俺らが歩いている正面に都合よく現れたんすか?」
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