悪魔の頁

kawa.kei

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第13話

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 祐平達の前に現れたのはスーツ姿の男だ。
 服装だけなら水堂と似通っているが、金に染めた髪に耳にはピアス、ノーネクタイと全体的にだらしない印象を与える。 そして小脇には魔導書。

 祐平は真っ先に魔導書のページの厚みを確認する。 悪魔一体分のページ分量は見れば大体分かるので、目の前の男が何体分のページを持っているのかはすぐにわかる。
 
 ――一体か。

 男は祐平と水堂を見て露骨に失望した表情を浮かべる。

 「よぉ、もう面倒臭ぇからはっきり言うが、お前ら魔導書寄こして消えろ。 そしたら俺の舎弟にしてやるよ」
 「は、分かり易いチンピラだな。 はいそうですかって寄越すと思うか?」
 「あ? 何? やんの?」

 たったこれだけのやり取りで祐平はこの先に起こるであろう未来が正確に読み取れてしまった。
 あぁ、こいつらはやる気だと。 知らん顔をするつもりもないので、即座に第一位階を用いて相手の魔導書の正体について調べる。 明らかに話の通じる相手ではないので、さっさと魔導書を取り上げるなりなんなりして無力化しよう。 

 「だったらどうするよ?」
 
 水堂の返しが決め手となった。
 
 「ぶっ殺す!」
 「やってみろ」

 ――<第三レメゲトン:小鍵アルス・パウリナ 29/72アスタロト
 ――<第三レメゲトン:小鍵アルス・パウリナ 07/72アモン

 ほぼ同じタイミングで二人は魔導書の第三位階を使用。
 互いが互いを直接殴り倒してやろうと考えた結果だった。
 水堂の全身を纏わりつくように炎が現れ、対峙する男の肌が毒々しい紫色に染まる。
 
 「水堂さん! 気を付けてくれ、そいつは毒使いだ!」

 祐平が『11/72グシオン』によって齎された情報を叫んだと同時に水堂の拳が男の顔面に入り、その顔を焼くが接触面から嫌な色をした煙が上がる。 
 男は殴られながらも水堂の胸倉を掴んで殴り返そうと拳を振り上げたが、それよりも早く水堂が拳を振り抜いたので男が吹き飛び、両者は距離を取る形となった。

 男は顔面が焼け爛れ、一部は炭化していたが、悪魔の力を使っている影響なのかあまり痛がるそぶりは見せない。 水堂は殴った拳が毒々しい紫に染まっていたが、患部を焼く事で対処。 こちらも結構な負傷の筈だが、痛みを感じている様子はない。

 「ガキがぁ! 舐めてんじゃねぇぞこらぁ!!」
 「は、いい歳こいてイキる事しかできねぇ上に年齢でしかマウント取れないとか終わってんな」
 「っはー、キレたわ。 お前、マジで殺すからな?」
 「ごちゃごちゃ言ってねぇでさっさとやれよ。 やれるもんならなぁ」
 「上等だオラぁ! これ見てくたばれや!」

 ――<第四レメゲトン:アルス・アルマデル・サロモニス 29/72アスタロト
  
 男が魔導書を掲げ、更なる力を開放する。
 同時に男の姿がメキメキと軋みを上げ、服が弾け飛んで変化していく。
 顔こそそのままだが、右腕が蛇に変化し、下半身が徐々に巨大化。

 「うわ、冗談だろ……」

 祐平は思わず呟く。 男の変化は終わらず、巨大化した下半身が形状を変え、竜を思わせる巨体に変化。 首に当たる部分から上に男の上半身が生えている。
 そして下半身から鳥のような巨大な羽が現れて完了した。 男の姿はもはや上半身と顔以外は原形をとどめていない。 これこそが魔導書の第四位階。 使用するだけで寿命が数年持って行かれる力だ。

 代償が大きい分、それに見合った力を発揮するだろう。
 水堂は上等だと吼えて魔導書を使おうとして――
 
 「水堂さん!」

 ――祐平が叫ぶ。 水堂はそこで冷静になったのか祐平を小さく振り返り、小さく頷いた。
 
 水堂は魔導書を掲げたまま、力を行使する。 ただ、対抗する為の物ではなかった。
 
 ――<第二レメゲトン:小鍵テウルギア 28/72ベリト

 赤い馬に乗った騎士が現れ、祐平と水堂を抱えて走り出す。
 男に背を向ける形でだ。 流石に逃げるとは思わなかったのか、男の反応が遅れややあって怒りが頂点に達し怒号が響き渡る。

 祐平はベリトの前、水堂は後ろに乗って片手でしがみ付く。

 「悪いな。 ちょっと頭に血が登ってた」
 「いや、正気に戻ってくれてよかったですよ。 第四以上は本当にヤバいんで、使わないに越した事はないです。 向こうは知らないっぽいですから逃げて勝手に消耗して貰いましょう。 それに――」

 祐平が振り返ると男の怒鳴り声はまだ鳴りやまない。 明らかに追って来ている。
 だが、遅い。 第四位階を用いて悪魔と化した男の体は十数メートルまで巨大化しており、この巨大な通路でも動くのが難しい巨体だ。 加えて巨体故に動きは早くないので、走れば身軽な『28/72ベリト』に追いつける訳がない。 その為、追いつくには飛行する必要があるのだが……。

 闇の奥で壁に激突するような音が何度も響く。 

 「は、飛ぶのしくじってるんじゃないか?」
 「人間に羽はないっすからね。 飛び方を知っていてもあの図体でこの限られた空間を上手く飛べるわけがないんですよ」

 それでも男は執念を燃やして追って来ているようだ。
 ガリガリと床を擦るような音や、飛び過ぎたのか天井や壁にぶつかるような衝撃が響く。
 時折、何かを飛ばしいるようだが、随分と距離を取ったので届いていない。

 「あいつ何やってるんだ?」
 「多分、毒液か何か飛ばしてるんじゃないですか?」
 「汚い奴だな」
 「そっすね。 気化してもヤバい毒みたいなんで、蒸発させて防ぐのも難しいみたいです。 まぁ、近寄るだけでも危ないからあんなのは相手にせずに逃げるのが正解ですよ」
 「あぁ、そうだな。 ――お前が居てくれてよかったよ」
 「こっちこそ、話を聞いてくれて助かりました」
 「聞くに決まってるだろ。 お前は相棒だからな」
 
 水堂の様子から頭に血が登って祐平の話もを聞いてくれないのではないかと危惧していたが、杞憂だったようで内心でほっと胸を撫で下ろす。
 いくら知識や情報があってもそれを活かせないなのなら何の意味もない。
 
 男の発する怒号や音が徐々に遠くなる。 途中、怪物と遭遇したが、脇をすり抜けて強引に突破。
 少し間を空けて男と接触して戦闘になり、更に差が広がる。
 
 「こりゃ逃げきれそうだな」
 「あの状況で追いつきたいなら、悪魔との同化を解いて第三位階を使うか第二位位階で運んでもらうかのどっちかですね」
 「あいつ馬鹿そうだったから思いつかないだろ」
 「そっすね」

 話している内に完全に背後からの気配が消えた。 それでも油断せずにしばらくの間ベリトを走らせ、完全に撒いたと判断したところで停止し、魔導書を停止。
 二人は危機を乗り切った事で小さく息を吐いた。
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