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第11話
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男はキイキイと音を立てて椅子を揺らしながら目の前に広がる大迷宮の様子を眺める。
脱落者は現在、十五名。 中々のペースだ。
潰し合う者、手を組む者、隠れる者、精神に異常をきたす者、状況に対して起こす挙動に違いはあるが、各々が生き残る為に最善を尽くしている事は共通していた。
男は地図上の動く光点の一部に注目する。
その先には『11/72』と『07/72』の二体が存在していた。
魔導書使用に対するリスクは早い段階で知れるが、戦闘能力が低かったので早々に脱落すると思っていたが、『07/72』を味方に付ける事で安全を確保した。
『07/72』は戦闘能力に特化している分、消耗が激しく、ペース配分が重要なのだが『11/72』と手を組む事で魔導書使用のリスクを知る事が出来たのは大きい。 視線を巡らせるとかなり離れた位置で動く点がある。
彼等とは別で面白い動きをしている者が居る。 『44/72』だ。
能力を使って自らの倫理観を消し去る事でこの環境に適応して見せた。
追い詰められての行動ではあるだろうが、躊躇いを捨て去った人間の合理から来る残虐性は侮れない。
『61/72』を手に入れた以上、戦闘能力という不安要素も解消され、選択肢が大きく広がった。
――後は……。
視線を更に動かすと複数の光点が固まっている。
その数、全部で十。 実に面白い。 この状況でこれだけの人数を集められるのは驚くべき事だ。
後は二、三人で固まっているグループが複数。 潰し合いになるか合流する事になるか。
どちらにせよ、頭数を揃えた所でこの迷宮から出る事は不可能だ。
固まるのも良いが余程上手く立ち回らないと行く着く先は殺し合い。 最終的には自分と対峙する事となるだろう。
未来を想像し、目を閉じてこの儀式へと至る道程を思い出す。
男はある事が切っ掛けでこの世界の理の外にある事象について知る事となった。
物理法則を超越した異能――超能力と呼称されるそれに彼は唐突に目覚めたのだ。
彼に宿ったのは周囲の空間を把握し立体的に近くする能力で、能力の有効範囲内であればどんなものでも即座に見つける事が可能となる。 物を隠しても即座に発見が可能だ。
当初はこの能力を活かして埋蔵金や石油でも探そうかと考えていたが、そんなある日に転機が訪れた。 彼等は「組織」を名乗り、男のような異能を持った者を集め、管理しているのだという。
拒否すると殺すと脅されたので逆らう事はできなかった。 組織に属したのが十代半ば、それから十代の残った時間全てを組織からの依頼に費やす事となる。
物品の捜索に彼の能力は非常に有用で需要は非常に高く、彼は長い期間を馬車馬のように働かされた。 最初は能力を磨き、この異能について学べると前向きに考えてはいたが、一年経ち、二年経ち、三年経ったところで限界を迎える。 不快だった、ストレスだった。
誰かに生殺与奪を握られ、顎でこき使われるのは彼の自尊心をゆっくりと破壊していった。
それに我慢ができなかった彼は組織に対しての反旗を翻す事を決意する。
思い立ちはしたが自由を得るのは難しい。 短くない期間、組織に身を置いている彼はその恐ろしさを熟知していたからだ。
組織の構成員は男のように物を探すだけが取り柄の人間ばかりではない。
手を触れずに人間を雑巾のように捻じる念動力や火を起こす発火能力者など、恐るべき者達が数多存在する。 組織はその者達を粛正部隊として存在を隠しもしない。
それが意味する事はたった一つ。 裏切ったらこいつらがお前を殺しに行くというメッセージだ。
裏切のリスクを明確に示す事で実行を躊躇させる。 男は素直に上手い手だと思った。
少なくとも男には効果があり、裏切りたいと思ってはいても実行できずにいたからだ。
そんな鬱屈した思いを抱えていたある日の出来事だった。
ほんの些細な出来事で、全くの偶然の出来事。 彼の異能があるものを発見した。
目に見えないがそこに存在する何か。 空間に発生した歪みのような何かだ。
よくよく調べるとそれはこの世界からズレた謎の空間へと繋がっていた。
つまりはこの空間だ。 彼の空間を知覚する異能は隠されたこの世界への出入りを可能とした。
それからは研究の日々だ。 異なる場所に落ちる現象は「神隠し」と古来より伝えられるものと酷似している。 それを知った時、彼の思考は飛躍を遂げた。
超能力、神隠しが存在するなら魔術的な外付けの異能力も存在するのではないかと。
以降、彼は魔術の研究に己の全てを費やした。
フィクションと断じられた知識を彼は貪欲に集め、己の異能と併せる事で遅い歩みだったが一歩、また一歩と研究は前進していく。 彼の異能は有効範囲内のあらゆる物体、力の流れすら知覚する。
それにより彼は正体不明の力――「魔力」の存在を知った。
魔力は超能力の発動時にも観測されるので、もしかすると超能力も元を辿れば魔術と似たようなものとも取れる。 いや、魔術こそ持たざる者が異能を手にする為の技術だったのかもしれない。
本来なら目に見えない魔力という知覚する事すら困難なエネルギーを操る方法などそう会得できるものではないが、彼は異能によってそれを克服した。
魔導書はその研究の成果だ。 かつて古の王が使役したとされる七十二の悪魔を召喚し、意のままに操る書物。 それにより、彼は世界すら支配する絶大な力を得る事となるだろう。
だが、この魔導書には大きな欠陥が存在した。 悪魔は使役者に代償を求める。
悪魔の力を振るうのであれば相応の対価が必要となるのだ。
それを克服する為に彼はこの舞台を作り上げ、多くの人間達をこの地に招き寄せた。
――これは見世物を兼ねているが、崇高な儀式だ。
男が自らを縛る枷を解き放ち、真なる自由を得る為の力を得る為の儀式。
それにより男の人生は本当の意味で始まるのだ。 準備に抜かりはない。
今の所は何の問題もなく進んでいる。 彼はこの儀式に巻き込まれた七十人の人間に対して何ら思う所はなかった。
何故なら彼等の犠牲は無駄ではなく、自身が世界の王となる為の礎となるのだ。
光栄だ喜べとまでは言わないが、収穫した野菜や狩猟によって得た肉のように感謝して頂こう。
男は今も殺し合っている巻き込まれた者達を感謝と愉悦を以って眺め続ける。
無意識に自らの魔導書を撫で、目の前で繰り広げられる舞台の幕が下りる時を待ちながら。
脱落者は現在、十五名。 中々のペースだ。
潰し合う者、手を組む者、隠れる者、精神に異常をきたす者、状況に対して起こす挙動に違いはあるが、各々が生き残る為に最善を尽くしている事は共通していた。
男は地図上の動く光点の一部に注目する。
その先には『11/72』と『07/72』の二体が存在していた。
魔導書使用に対するリスクは早い段階で知れるが、戦闘能力が低かったので早々に脱落すると思っていたが、『07/72』を味方に付ける事で安全を確保した。
『07/72』は戦闘能力に特化している分、消耗が激しく、ペース配分が重要なのだが『11/72』と手を組む事で魔導書使用のリスクを知る事が出来たのは大きい。 視線を巡らせるとかなり離れた位置で動く点がある。
彼等とは別で面白い動きをしている者が居る。 『44/72』だ。
能力を使って自らの倫理観を消し去る事でこの環境に適応して見せた。
追い詰められての行動ではあるだろうが、躊躇いを捨て去った人間の合理から来る残虐性は侮れない。
『61/72』を手に入れた以上、戦闘能力という不安要素も解消され、選択肢が大きく広がった。
――後は……。
視線を更に動かすと複数の光点が固まっている。
その数、全部で十。 実に面白い。 この状況でこれだけの人数を集められるのは驚くべき事だ。
後は二、三人で固まっているグループが複数。 潰し合いになるか合流する事になるか。
どちらにせよ、頭数を揃えた所でこの迷宮から出る事は不可能だ。
固まるのも良いが余程上手く立ち回らないと行く着く先は殺し合い。 最終的には自分と対峙する事となるだろう。
未来を想像し、目を閉じてこの儀式へと至る道程を思い出す。
男はある事が切っ掛けでこの世界の理の外にある事象について知る事となった。
物理法則を超越した異能――超能力と呼称されるそれに彼は唐突に目覚めたのだ。
彼に宿ったのは周囲の空間を把握し立体的に近くする能力で、能力の有効範囲内であればどんなものでも即座に見つける事が可能となる。 物を隠しても即座に発見が可能だ。
当初はこの能力を活かして埋蔵金や石油でも探そうかと考えていたが、そんなある日に転機が訪れた。 彼等は「組織」を名乗り、男のような異能を持った者を集め、管理しているのだという。
拒否すると殺すと脅されたので逆らう事はできなかった。 組織に属したのが十代半ば、それから十代の残った時間全てを組織からの依頼に費やす事となる。
物品の捜索に彼の能力は非常に有用で需要は非常に高く、彼は長い期間を馬車馬のように働かされた。 最初は能力を磨き、この異能について学べると前向きに考えてはいたが、一年経ち、二年経ち、三年経ったところで限界を迎える。 不快だった、ストレスだった。
誰かに生殺与奪を握られ、顎でこき使われるのは彼の自尊心をゆっくりと破壊していった。
それに我慢ができなかった彼は組織に対しての反旗を翻す事を決意する。
思い立ちはしたが自由を得るのは難しい。 短くない期間、組織に身を置いている彼はその恐ろしさを熟知していたからだ。
組織の構成員は男のように物を探すだけが取り柄の人間ばかりではない。
手を触れずに人間を雑巾のように捻じる念動力や火を起こす発火能力者など、恐るべき者達が数多存在する。 組織はその者達を粛正部隊として存在を隠しもしない。
それが意味する事はたった一つ。 裏切ったらこいつらがお前を殺しに行くというメッセージだ。
裏切のリスクを明確に示す事で実行を躊躇させる。 男は素直に上手い手だと思った。
少なくとも男には効果があり、裏切りたいと思ってはいても実行できずにいたからだ。
そんな鬱屈した思いを抱えていたある日の出来事だった。
ほんの些細な出来事で、全くの偶然の出来事。 彼の異能があるものを発見した。
目に見えないがそこに存在する何か。 空間に発生した歪みのような何かだ。
よくよく調べるとそれはこの世界からズレた謎の空間へと繋がっていた。
つまりはこの空間だ。 彼の空間を知覚する異能は隠されたこの世界への出入りを可能とした。
それからは研究の日々だ。 異なる場所に落ちる現象は「神隠し」と古来より伝えられるものと酷似している。 それを知った時、彼の思考は飛躍を遂げた。
超能力、神隠しが存在するなら魔術的な外付けの異能力も存在するのではないかと。
以降、彼は魔術の研究に己の全てを費やした。
フィクションと断じられた知識を彼は貪欲に集め、己の異能と併せる事で遅い歩みだったが一歩、また一歩と研究は前進していく。 彼の異能は有効範囲内のあらゆる物体、力の流れすら知覚する。
それにより彼は正体不明の力――「魔力」の存在を知った。
魔力は超能力の発動時にも観測されるので、もしかすると超能力も元を辿れば魔術と似たようなものとも取れる。 いや、魔術こそ持たざる者が異能を手にする為の技術だったのかもしれない。
本来なら目に見えない魔力という知覚する事すら困難なエネルギーを操る方法などそう会得できるものではないが、彼は異能によってそれを克服した。
魔導書はその研究の成果だ。 かつて古の王が使役したとされる七十二の悪魔を召喚し、意のままに操る書物。 それにより、彼は世界すら支配する絶大な力を得る事となるだろう。
だが、この魔導書には大きな欠陥が存在した。 悪魔は使役者に代償を求める。
悪魔の力を振るうのであれば相応の対価が必要となるのだ。
それを克服する為に彼はこの舞台を作り上げ、多くの人間達をこの地に招き寄せた。
――これは見世物を兼ねているが、崇高な儀式だ。
男が自らを縛る枷を解き放ち、真なる自由を得る為の力を得る為の儀式。
それにより男の人生は本当の意味で始まるのだ。 準備に抜かりはない。
今の所は何の問題もなく進んでいる。 彼はこの儀式に巻き込まれた七十人の人間に対して何ら思う所はなかった。
何故なら彼等の犠牲は無駄ではなく、自身が世界の王となる為の礎となるのだ。
光栄だ喜べとまでは言わないが、収穫した野菜や狩猟によって得た肉のように感謝して頂こう。
男は今も殺し合っている巻き込まれた者達を感謝と愉悦を以って眺め続ける。
無意識に自らの魔導書を撫で、目の前で繰り広げられる舞台の幕が下りる時を待ちながら。
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