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第1話
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薄暗い場所で一人の男が笑う。 長い道のりを踏破した事による歓喜の笑い声だ。
ようやくだ。 ようやくここまでこぎ着けた。
この場所を見つけ、その特性を理解し、完全ではないが使いこなせるようになるまで五年の月日を要した。
常人にはない才能を持っていた男をしても成就までかなりの苦労があったのだ。
だが、それも今は過去。 舞台は整った。 後は最後に必要なピースを集めるだけ。
男はこれから起こる素晴らしい出来事に、その余興として自分が用意した舞台でどのようなドラマが展開されるのかを夢想して更に笑みを深くした。
――あぁ……何か面白い事ねぇかな……。
潟来 祐坪は内心でぼんやりとそう呟いた。
高校を卒業して専門学校に入り、資格を取る為の勉強中というのは建前で就職という一生ついて回る面倒事からの逃避期間を彼はいかに有意義に使う事を考えていおり、勉強の二文字は二の次、三の次だ。
高校と違って専門学生という身分は割と自由が効いたので、バイトを増やしてそこそこの金銭を稼ぎ出しはしたがどうにも持て余していた。 金銭もそうだが、何よりもこの時間を、だ。
折角、自由になる数年の時間があるのに浪費してもいいのだろうか?
そんな漠然とした焦りを抱えて祐平は自室のベッドでごろりと横になって、スマートフォンでニュースサイトをぼんやりと眺める。
些細なものは動物園で珍しい動物の赤ちゃんが生まれた。
どうでもいい物はどっかの倉庫で職員が同僚をノートパソコンで殴り殺した。
面白い物は少し前に修学旅行中のバスが丸ごと行方不明なった事件の続報――要は事件を風化させない為に定期的に家族のインタビュー記事などを投稿して一縷の望みに賭けているのだ。
祐平は最初のニュースは適当に読み飛ばし、二つ目のニュースは軽く調べて犯人が本物のサイコか理由がある犯行なのかを軽く調べて好奇心を満たす。
そして最後のニュースには内心で首を傾げる。 消えたのが険しい山道とはいえ、これだけの期間があって影も形も見当たらないなんてあるのだろうかと言った疑問だ。
実際、この一件はこの国だけでなく、世界中で話題となった。
三十人以上の人間が丸ごと消えるなんて事件は考察好きからしたら格好の玩具だろう。
祐平もその一人で掲示板などで未だに飛び交っている憶測を定期的に眺めている。
宇宙人の仕業、あの地方に伝わる妖怪伝説、この世界と位相がずれた異なる世界に落ちたなどだ。
祐平はもしも自分がそんな状況に陥ったらどうなるんだろうかと少しだけ妄想する。
アニメや漫画の主人公のように格好良く切り抜けられるのだろうか?
少しだけ考えて鼻で笑う。
思春期特有の病は完治したかと思ったが、ふとした拍子にこうして症状が現れるので厄介だ。
ちらりと窓を見ると締め切ったカーテンの隙間から日光が差し込んでいる。
スマートフォンに表示されている時刻は昼を少し回った所だ。
バイトも休みなので本格的にやる事がない。 友人も用事があるのか誰も捕まらなかった。
「……出かけるか」
家事をしている母親に一言断って外へ。
祐平が済んでいるのはマンションの比較的、上層階だ。
階段を使うのは面倒なのでエレベーターで降りて外へ。 マンションから出ると強い日差しが体を焼く。 まだ、夏になる前だが、長時間この晒され続けると汗が出そうだ。
……どこに行こう?
祐平は特に考えがあって外に出た訳ではなかったので行く当てなどなかった。
近くのショッピングモールでもぶらつくかと迷った時に真っ先に挙がる選択肢を選び、祐平は歩き出す。
彼の生き先のショッピングモールには図書館、映画館、ゲームセンターなど様々な設備が揃っているので時間を潰すには非常に優れた場所だった。
取りあえず本屋で適当に雑誌でも見て――
「あれ? 祐平?」
不意に声をかけられた祐平が振り返ると近所の高校の制服に身を包んだ少女がいた。
凄まじく美人という訳ではないが、祐平視点ではそこそこ可愛い娘だ。
肩までで綺麗に切り揃えられた髪を揺らしながら走り寄って来る。
藤副 笑実。
近所に住んでいる娘で高校の後輩でもある。
「あれ? 笑実じゃん。 ガッコはどうしたサボり?」
「一緒にしないでよ。 期末の期間中」
「……あぁ、もうそんな時期かぁ……」
「どこ行くの? ショッピングモール?」
「あぁ、暇なんで適当にぶらつくつもりだ」
「じゃあ一緒に行っていい?」
笑実はマンションに入らずに祐平の隣に並ぶ。
「お前、また俺にたかる気か?」
「いいじゃん。 テストで頭使ったから甘いものが欲しいんだよ~」
祐平はまぁいいかと歩き出す。
「で? 期末はどうよ? お前、大学進学だろ? 行けそうか?」
「ん~。 分かんない。 最低でも平均は越えると思う!」
「あぁ、そう」
「祐平はどうなの? おばさんがさっさと就職して安心させてほしいとか言ってたよ」
「言わせときゃいいんだよ。 俺はしばらくこの自由を満喫するって決めてんだ」
「ほ~、まぁ、頑張ってよ」
少し図々しい所もある娘だが、何だかんだと話が合うので一緒にいて楽しかった。
それに退屈だった事もあったので話し相手を雇ったとでも思って祐平は割り切る。
十数分ほど歩くと目的地が見えて来た。 笑実は祐平に何を奢らせようかと欲望を隠しもしない。
その様子に苦笑しながら中へ。 平日の昼間とはいえ、人の出入りは多い。
「取りあえずフードコートに行くか」
「私、アイス食べたいな?」
「はいはい」
行先は決まったので真っ直ぐにフードコートへ。
笑実はアイスが食えると上機嫌でニコニコと笑顔を浮かべている。
そこそこの席が埋まっているフードコートへ足を踏み入れ、祐平は笑実に席を取らせてと考え――瞬間、強烈な違和感に襲われた。 まるで地面だと思って踏みしめた場所に何もなかったかのような足が地面を突き抜けてバランスを崩す。
どこかへ落ちるような感覚。
唐突に起こった出来事に祐平は対応できず、気が付けば意識がぷっつりと途切れた。
――これで盤上の駒は全て揃った。
後は彼等がどのように踊るのか? 想定した結果を見せるのか?
それとも意図しない何かが起こるのか? だとしてもどうでもいい。
何故なら過程に差異は生まれても結果は変わらないのだから。
――う……。
気が付いた祐平は目を開けると薄暗い場所で倒れていた。
ぼんやりとした頭で何故自分はこんな所で寝ているんだと考えてガバリと身を起こした。
ようやくだ。 ようやくここまでこぎ着けた。
この場所を見つけ、その特性を理解し、完全ではないが使いこなせるようになるまで五年の月日を要した。
常人にはない才能を持っていた男をしても成就までかなりの苦労があったのだ。
だが、それも今は過去。 舞台は整った。 後は最後に必要なピースを集めるだけ。
男はこれから起こる素晴らしい出来事に、その余興として自分が用意した舞台でどのようなドラマが展開されるのかを夢想して更に笑みを深くした。
――あぁ……何か面白い事ねぇかな……。
潟来 祐坪は内心でぼんやりとそう呟いた。
高校を卒業して専門学校に入り、資格を取る為の勉強中というのは建前で就職という一生ついて回る面倒事からの逃避期間を彼はいかに有意義に使う事を考えていおり、勉強の二文字は二の次、三の次だ。
高校と違って専門学生という身分は割と自由が効いたので、バイトを増やしてそこそこの金銭を稼ぎ出しはしたがどうにも持て余していた。 金銭もそうだが、何よりもこの時間を、だ。
折角、自由になる数年の時間があるのに浪費してもいいのだろうか?
そんな漠然とした焦りを抱えて祐平は自室のベッドでごろりと横になって、スマートフォンでニュースサイトをぼんやりと眺める。
些細なものは動物園で珍しい動物の赤ちゃんが生まれた。
どうでもいい物はどっかの倉庫で職員が同僚をノートパソコンで殴り殺した。
面白い物は少し前に修学旅行中のバスが丸ごと行方不明なった事件の続報――要は事件を風化させない為に定期的に家族のインタビュー記事などを投稿して一縷の望みに賭けているのだ。
祐平は最初のニュースは適当に読み飛ばし、二つ目のニュースは軽く調べて犯人が本物のサイコか理由がある犯行なのかを軽く調べて好奇心を満たす。
そして最後のニュースには内心で首を傾げる。 消えたのが険しい山道とはいえ、これだけの期間があって影も形も見当たらないなんてあるのだろうかと言った疑問だ。
実際、この一件はこの国だけでなく、世界中で話題となった。
三十人以上の人間が丸ごと消えるなんて事件は考察好きからしたら格好の玩具だろう。
祐平もその一人で掲示板などで未だに飛び交っている憶測を定期的に眺めている。
宇宙人の仕業、あの地方に伝わる妖怪伝説、この世界と位相がずれた異なる世界に落ちたなどだ。
祐平はもしも自分がそんな状況に陥ったらどうなるんだろうかと少しだけ妄想する。
アニメや漫画の主人公のように格好良く切り抜けられるのだろうか?
少しだけ考えて鼻で笑う。
思春期特有の病は完治したかと思ったが、ふとした拍子にこうして症状が現れるので厄介だ。
ちらりと窓を見ると締め切ったカーテンの隙間から日光が差し込んでいる。
スマートフォンに表示されている時刻は昼を少し回った所だ。
バイトも休みなので本格的にやる事がない。 友人も用事があるのか誰も捕まらなかった。
「……出かけるか」
家事をしている母親に一言断って外へ。
祐平が済んでいるのはマンションの比較的、上層階だ。
階段を使うのは面倒なのでエレベーターで降りて外へ。 マンションから出ると強い日差しが体を焼く。 まだ、夏になる前だが、長時間この晒され続けると汗が出そうだ。
……どこに行こう?
祐平は特に考えがあって外に出た訳ではなかったので行く当てなどなかった。
近くのショッピングモールでもぶらつくかと迷った時に真っ先に挙がる選択肢を選び、祐平は歩き出す。
彼の生き先のショッピングモールには図書館、映画館、ゲームセンターなど様々な設備が揃っているので時間を潰すには非常に優れた場所だった。
取りあえず本屋で適当に雑誌でも見て――
「あれ? 祐平?」
不意に声をかけられた祐平が振り返ると近所の高校の制服に身を包んだ少女がいた。
凄まじく美人という訳ではないが、祐平視点ではそこそこ可愛い娘だ。
肩までで綺麗に切り揃えられた髪を揺らしながら走り寄って来る。
藤副 笑実。
近所に住んでいる娘で高校の後輩でもある。
「あれ? 笑実じゃん。 ガッコはどうしたサボり?」
「一緒にしないでよ。 期末の期間中」
「……あぁ、もうそんな時期かぁ……」
「どこ行くの? ショッピングモール?」
「あぁ、暇なんで適当にぶらつくつもりだ」
「じゃあ一緒に行っていい?」
笑実はマンションに入らずに祐平の隣に並ぶ。
「お前、また俺にたかる気か?」
「いいじゃん。 テストで頭使ったから甘いものが欲しいんだよ~」
祐平はまぁいいかと歩き出す。
「で? 期末はどうよ? お前、大学進学だろ? 行けそうか?」
「ん~。 分かんない。 最低でも平均は越えると思う!」
「あぁ、そう」
「祐平はどうなの? おばさんがさっさと就職して安心させてほしいとか言ってたよ」
「言わせときゃいいんだよ。 俺はしばらくこの自由を満喫するって決めてんだ」
「ほ~、まぁ、頑張ってよ」
少し図々しい所もある娘だが、何だかんだと話が合うので一緒にいて楽しかった。
それに退屈だった事もあったので話し相手を雇ったとでも思って祐平は割り切る。
十数分ほど歩くと目的地が見えて来た。 笑実は祐平に何を奢らせようかと欲望を隠しもしない。
その様子に苦笑しながら中へ。 平日の昼間とはいえ、人の出入りは多い。
「取りあえずフードコートに行くか」
「私、アイス食べたいな?」
「はいはい」
行先は決まったので真っ直ぐにフードコートへ。
笑実はアイスが食えると上機嫌でニコニコと笑顔を浮かべている。
そこそこの席が埋まっているフードコートへ足を踏み入れ、祐平は笑実に席を取らせてと考え――瞬間、強烈な違和感に襲われた。 まるで地面だと思って踏みしめた場所に何もなかったかのような足が地面を突き抜けてバランスを崩す。
どこかへ落ちるような感覚。
唐突に起こった出来事に祐平は対応できず、気が付けば意識がぷっつりと途切れた。
――これで盤上の駒は全て揃った。
後は彼等がどのように踊るのか? 想定した結果を見せるのか?
それとも意図しない何かが起こるのか? だとしてもどうでもいい。
何故なら過程に差異は生まれても結果は変わらないのだから。
――う……。
気が付いた祐平は目を開けると薄暗い場所で倒れていた。
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