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第14話 元居た世界の裏側

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 応供は小さく笑って見せる。 その姿は歳相応だと朱里は思った。

 「へぇ、凄いのは分かったけど、応供君はその星運教でどんな事をしていたの?」
 「……そうですね。 カウンセリングのような物でしょうか? 話を聞き、相談者の道を模索するといった所ですね。 後は外敵の排除です」
 
 ――いきなり物騒になったな。

 応供の超能力を見ているので荒事に結構な頻度で巻き込まれてるんだろうなと察していたが、こうして言葉にされるとマジかよといった気持ちになる。

 「えーっと、その外敵についてって聞いてもいい?」
 「えぇ、構いませんよ。 ただ、日本に戻れた場合、忘れた方が良い話ですがそれでも聞きたいですか?」
 「……気になるから教えてくれると嬉しいな」

 応供はまぁ構わないでしょうと小さく呟き話し始めた。
 朱里の居た世界に存在する裏側を。 

 「元々、あの世界には超常の力を扱い、管理する様々な組織が存在します。 そんな連中からすれば俺が好き勝手するのは目障りだったのでしょうね。 存在を知るや否や下に付けと熱心に勧誘を受けました」
 「応供君の力を管理したいから?」 
 「表向きは世界の均衡を保つ為などとほざいていましたが、どいつもこいつも力を独占して私腹を肥やす事しか考えていない連中でした。 末端までそうとは言いませんが、俺の力を欲しがった組織に関しては薄汚い裏があった事は間違いありません。 俺の力は女神様から賜った物、あんな薄汚い悪意を垂れ流す連中の為に行使する気はなかったので丁重にお断りしました。 ――まぁ、それが気に障ったようで次から次へと襲ってきましたよ」

 その先の話は漫画か何かの話だと勘違いしたくなる内容だった。
 超能力者、呪いを扱う呪術師、祓魔師という悪魔祓いの専門家。
 体を機械化したサイボーグ、そして悪魔を召喚する書を操る魔導士。

 次から次へと現れる強敵を前に星運教は徐々に疲弊していった。 
 最初は応供が一人で対処していたのだが、ある時期を境に応供と共に戦う能力者達が現れたのだ。

 「女神様に賜った力には他者の眠っている力を刺激し、場合によっては呼び起こす事ができると知って志願者を募り適性のある者には覚醒して貰いました」

 それにより彼等は外敵を退ける事にどうにか成功していた。 
 だが、そんな急造の能力者相手に体系化した技術と強大な組織力を持った集団には届かない。
 応供の力は突出していたが個人の力には限界があったのだ。

 そしてある山奥で最後の戦いが起こった。 複数の組織による包囲網は固く突破は難しい。
 応供は敗北を悟り、仲間を逃がす為に一人最後まで戦い――

 「敵の大半を道連れにして自爆したのですが、気が付けばここに居ました」
 「服がボロボロだったのはそのせいだったのね」
 「正直、死んだと思ったので、こうして生きて朱里さんに出会えたのは女神様のお導きでしょう」
 「そ、そうだったんだ……」

 正直、反応に困る内容だった。 
 荒癇 応供の十歳から十五歳の軌跡はもはや少年漫画としか言いようがない濃さだ。
 嘘とも盛っているとも思わない。 彼の見せた力がそれを証明していたからだ。

 「うん、応供君が大変だった事はよくわかったよ。 そんな力を持っている君はここではどうするの? 私も同じ立場だし、君の助けがなければすぐに死んでしまうから言えた事じゃないと思うんだけどミュリエルさんと一緒に邪神の領域に行った後、首尾よく行ったならしばらくはそこで過ごせると思う。 でも、その先は?って考えちゃうんだ……」
 「不安なんですね。 お気持ちは分かります。 俺も朱里さんがいなければ不安で圧し潰されそうになっていたかもしれません」

 一瞬、本当かよと思ったが、目の前の少年が件の女神とやらに尋常ではない感情を向けているのはこれまでの会話で理解できていた事もあってそこは疑っていない。
 お陰で自分も助かるのだ。 そこに不安や不満を述べても仕方がないだろう。

 ――だが、彼が朱里を守るのは彼の都合。 そこに朱里である必要性は皆無だ。

 応供は女神の匂いがするのなら誰でもよかった。
 つまり朱里に応供を繋ぎ止める手段が何もないのだ。 だから、朱里もこの世界で自力で生きて行く為の何を身に付けなければならない。 幸か不幸かこの世界にはステータスというゲームのような分かり易いシステムが存在するので、それを最大限有効活用するべきだろう。

 「ありがとう。 迷惑かけると思うけどよろしくね」

 朱里は努めてにこやかにそう言いながら内心では応供の気が変わる事を酷く恐れていた。


 翌朝。 あの後、ようやく眠気が訪れた朱里は目を閉じて眠る事に成功し、異世界での朝を迎えた。
 できれば寝て起きれば自室のベッドであって欲しいといった願いはあったが、残念ながら異世界転移した事は動かしようのない現実だったようだ。
 
 本来なら山越えは結構な労力と装備が必要なのだが、応供にかかれば僅か数分だった。
 朱里とミュリエルを抱えて冗談のような高さの跳躍を行い、文字通り山を飛び越えたのだ。
 山を越えると森が広がっており、その先にはもう一つの山脈。 

 オートゥイユがヴォイバルローマへ侵攻に向かわない理由がこの森にある。
 この森は特殊な環境で一部の樹木が魔獣で足を踏み入れた人間の方向感覚を狂わせるスキルを持ってるのだ。 その上、高レベルの魔獣が多数生息しているので非常に危険な場所となっている。

 過去に三度、兵を送ったが生還率が四割を切った。 
 この結果にオートゥイユ王国は割に合わないと兵を送るのを諦めたのだ。
 
 ――そんな恐ろしい場所ではあるが、応供にかかれば僅か数分の距離だった。

 この世界で人間が空中を移動する事は非常に難しい。
 理屈の上では不可能ではなく、飛行魔法も存在するが消耗が非常に激しい上に空を縄張りとする魔物が数多く存在するからだ。 

 「空は魔物の領域です。 彼等は空を司る邪神の加護を得ているらしく、驚くべき速さと強さで人の空への進出を阻みます」
 「ワイバーンとやらもその一種ですか?」
 「広義で捉えるならそうです。 彼等は山脈などの特定の場所をテリトリーとする習性がありますが、本当の空の怪物達は常に飛行し続けていると聞きます」

 ミュリエルは詳しくは知らないがと付け加えたが、高度を取る事の危険性は良く分かった。
 応供も無理をして襲われては敵わないと考えたのか可能な限り低く飛び、森を越える。
 こうして邪神の領域まであと一歩のところまで辿り着いた。
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