13 / 26
第13話 目的地までの話
しおりを挟む
応供が用事を済ませて戻る頃にはすっかり日が暮れかけており、薄暗くなっていた。
二人に服を渡し、着替えている間に火を起こす。 パンなどの食料はそこそこの量を買い込んだので数日は問題ないはずだ。
「お待たせしました」
応供が振り返ると二人は着替えを終えていた。
地味な色合いの服に同色の外套。 この世界の住民は髪色が随分とカラフルだが、このオートゥイユ王国の人間は全体的に赤っぽい印象を受ける。 実際、ミュリエルは燃えるような赤毛だ。
そんな中、朱里と応供の黒髪は多少ではあるが浮くのでフード付きの外套が隠しておく方が無難だと思ったので用意した。 一応、金銭の使用は必要最低限に抑えたつもりだが、少し軽くなった袋をミュリエルに返す。 ミュリエルは軽く中を確認すると謎の空間に袋を入れた。
「それ便利ですね」
「運が良ければレベルが上がると使えるようになりますよ」
三人が焚火を囲んだ所で応供は話を始めた。
「この後ですが、予定通り南東の邪神の領域へと向かいます。 残念ながら俺には土地勘がないのでミュリエルさんに全てを任せる事になりますので、説明を」
「……これから私達が向かうのはヴォイバルローマと呼ばれる場所です。 山脈の向こうなので山をいくつか越える必要がありますが……」
「それに関しては気にしなくても問題ありません。 俺が二人を抱えて飛びます」
「お願いします。 ただ、山脈内部は飛行が可能な魔獣がいるので、そのまま一息に辿り着くのは難しいでしょう」
「飛行可能な魔獣? ドラゴンでもいるんですか?」
「近いですね。 ワイバーンです」
応供がなるほどと腕を組んでいたが、朱里はあまりついていけなかったので小さく手を上げる。
「あのー、ワイバーンってなんですか? 話の流れからドラゴンと似たような生き物っているのは分かるんですけど……」
「俺の認識ではドラゴンの下位互換で形状は羽の生えた蜥蜴に近く、日本のフィクションではより実際の生物に近い形でデザインされている印象を受けます。 媒体によっては火を吐いたり吐かなかったりとはっきりしないぐらいですかね? ――合っていますか?」
「概ね正解です。 ワイバーンはドラゴンの下位種で知能も低く、基本的に獲物を見つければ襲ってくるといった習性を持っています。 ブレスに関しては高レベルの個体が適性のある属性のものを使用するという話ですが、私は見た事がないのでどの程度の物なのかは何とも言えません」
「個々の戦闘力としてはどうですか?」
「レベルは低くても15以上、高くても50以下なので単独であるならどうにか私でも倒せるぐらいですね」
「正直、数字を言われてもあまりピンとこないんですよ。 俺は今レベルが10ですが、あのアポストルとかいう奴を仕留めた時は1だったので、あまりステータスとレベルとやらの恩恵が感じられないと言いますか……」
「そんな事が言えるのはあなたぐらいです。 加護などが同条件であるならレベルの差が5あれば余程の技量差がなければまず勝てません。 それだけステータスの恩恵は凄まじいのです」
成長率などの要素もあるが、基本的にレベル差は絶対だ。
3の差で厳しく、5で諦め、10は逃げ出す事を推奨される。
それを覆すのが物量と技量だが、絶対的な強者は少々の差を物ともしない。
「お話は分かりました。 まずは実物を見てから判断するとしましょう」
応供の言葉でその場はお開きとなった。
交代で眠ると朱里が提案したのだが、応供は寝ないでも大丈夫だと言って二人に寝るように促した。
それに押される形でミュリエルは毛布を被り、その場で丸まって横になる。
朱里は中々寝付けずに何度も寝がえりを打っていたが一向に眠気が襲ってこない。
何かリラックスできる事を考えようとしても脳裏を占めるのは先が見えない状況に対する不安だ。
薄く目を開けるとミュリエルは小さく寝息を立てていた。
お姫様だったのにバイタリティ凄いなと思いながら今度は視線を応供へと移動させる。
応供は焚火をぼんやりと眺めていた。
時折、木の枝を折って放り込んでいたがそれ以外は何もしていない。
しばらくの間、じっと見ていると「眠れませんか?」と声をかけられた。
一瞬、惚けようかと思ったが諦めて身を起こす。
「うん。 何だか眼が冴えちゃって……」
「不安なのはなんとなく分かりますよ」
「言っても仕方ないんだけど、これからどうなるんだろうとか、どうするんだとか、そんな事ばっかり言いそうで……」
「誰だって手探りで歩くのは怖いものです。 だから人は目標や目的を持って行動します。 目的地があれば到着、目標があれば達成というゴールがある。 誰しも何かしら自身の目標を持って生きています。 あるとしたらどこまで明確なのかというぐらいでしょうか」
明らかに高校生ぐらいなのに随分と悟った事を言うなと思ったが、言葉の響きに彼の経験とも呼べる重さが乗っていた。
この子はどれだけ濃い人生を送ってきたのだろうか? 凡人であると自負する朱里には想像もできなかった。 だからだろうか? 彼の事が少しだけ気になった。
「応供君の目標は何?」
「それは今? それともここに来る前の話ですか?」
「どっちも」
「……その様子だと眠くなる話の方がよさそうですね。 では、日本での話をしましょう」
応供は空を見上げる。 もうすっかり日が落ちて星が瞬いていた。
「ズヴィオーズ様の話はしましたね?」
「うん。 会って力を貰ったって」
「えぇ、お陰で物の見方がすっかり変わってしまいましたよ。 俺が感じた感動を世に広める事、それがズヴィオーズ様からお力を賜った俺にできる事だと今でも信じています。 だから、星運教を立ち上げ、目標も目的もなく苦しんでいる者達に力を与え、居場所を与えて共に行こうと声を掛けました」
応供は少しだけ嬉しそうに笑う。
「打算塗れの者も多かったですが、中には俺の理想を理解して一緒に来てくれる仲間が出来ました。 元々の俺は何の目的も目標もなく影のように生きているだけの存在で、学校のクラスでもいても居なくても変わらない地味な奴。 それが俺の正体です。 ですが、そんなどうしようもない俺にあの方は力を授けてくれたのです。 俺にとってはそれだけで充分で、一生分の幸福を頂きました。 だから、俺の全てはあの方の為だけに使おうと決めています。 それは今も変わりません」
二人に服を渡し、着替えている間に火を起こす。 パンなどの食料はそこそこの量を買い込んだので数日は問題ないはずだ。
「お待たせしました」
応供が振り返ると二人は着替えを終えていた。
地味な色合いの服に同色の外套。 この世界の住民は髪色が随分とカラフルだが、このオートゥイユ王国の人間は全体的に赤っぽい印象を受ける。 実際、ミュリエルは燃えるような赤毛だ。
そんな中、朱里と応供の黒髪は多少ではあるが浮くのでフード付きの外套が隠しておく方が無難だと思ったので用意した。 一応、金銭の使用は必要最低限に抑えたつもりだが、少し軽くなった袋をミュリエルに返す。 ミュリエルは軽く中を確認すると謎の空間に袋を入れた。
「それ便利ですね」
「運が良ければレベルが上がると使えるようになりますよ」
三人が焚火を囲んだ所で応供は話を始めた。
「この後ですが、予定通り南東の邪神の領域へと向かいます。 残念ながら俺には土地勘がないのでミュリエルさんに全てを任せる事になりますので、説明を」
「……これから私達が向かうのはヴォイバルローマと呼ばれる場所です。 山脈の向こうなので山をいくつか越える必要がありますが……」
「それに関しては気にしなくても問題ありません。 俺が二人を抱えて飛びます」
「お願いします。 ただ、山脈内部は飛行が可能な魔獣がいるので、そのまま一息に辿り着くのは難しいでしょう」
「飛行可能な魔獣? ドラゴンでもいるんですか?」
「近いですね。 ワイバーンです」
応供がなるほどと腕を組んでいたが、朱里はあまりついていけなかったので小さく手を上げる。
「あのー、ワイバーンってなんですか? 話の流れからドラゴンと似たような生き物っているのは分かるんですけど……」
「俺の認識ではドラゴンの下位互換で形状は羽の生えた蜥蜴に近く、日本のフィクションではより実際の生物に近い形でデザインされている印象を受けます。 媒体によっては火を吐いたり吐かなかったりとはっきりしないぐらいですかね? ――合っていますか?」
「概ね正解です。 ワイバーンはドラゴンの下位種で知能も低く、基本的に獲物を見つければ襲ってくるといった習性を持っています。 ブレスに関しては高レベルの個体が適性のある属性のものを使用するという話ですが、私は見た事がないのでどの程度の物なのかは何とも言えません」
「個々の戦闘力としてはどうですか?」
「レベルは低くても15以上、高くても50以下なので単独であるならどうにか私でも倒せるぐらいですね」
「正直、数字を言われてもあまりピンとこないんですよ。 俺は今レベルが10ですが、あのアポストルとかいう奴を仕留めた時は1だったので、あまりステータスとレベルとやらの恩恵が感じられないと言いますか……」
「そんな事が言えるのはあなたぐらいです。 加護などが同条件であるならレベルの差が5あれば余程の技量差がなければまず勝てません。 それだけステータスの恩恵は凄まじいのです」
成長率などの要素もあるが、基本的にレベル差は絶対だ。
3の差で厳しく、5で諦め、10は逃げ出す事を推奨される。
それを覆すのが物量と技量だが、絶対的な強者は少々の差を物ともしない。
「お話は分かりました。 まずは実物を見てから判断するとしましょう」
応供の言葉でその場はお開きとなった。
交代で眠ると朱里が提案したのだが、応供は寝ないでも大丈夫だと言って二人に寝るように促した。
それに押される形でミュリエルは毛布を被り、その場で丸まって横になる。
朱里は中々寝付けずに何度も寝がえりを打っていたが一向に眠気が襲ってこない。
何かリラックスできる事を考えようとしても脳裏を占めるのは先が見えない状況に対する不安だ。
薄く目を開けるとミュリエルは小さく寝息を立てていた。
お姫様だったのにバイタリティ凄いなと思いながら今度は視線を応供へと移動させる。
応供は焚火をぼんやりと眺めていた。
時折、木の枝を折って放り込んでいたがそれ以外は何もしていない。
しばらくの間、じっと見ていると「眠れませんか?」と声をかけられた。
一瞬、惚けようかと思ったが諦めて身を起こす。
「うん。 何だか眼が冴えちゃって……」
「不安なのはなんとなく分かりますよ」
「言っても仕方ないんだけど、これからどうなるんだろうとか、どうするんだとか、そんな事ばっかり言いそうで……」
「誰だって手探りで歩くのは怖いものです。 だから人は目標や目的を持って行動します。 目的地があれば到着、目標があれば達成というゴールがある。 誰しも何かしら自身の目標を持って生きています。 あるとしたらどこまで明確なのかというぐらいでしょうか」
明らかに高校生ぐらいなのに随分と悟った事を言うなと思ったが、言葉の響きに彼の経験とも呼べる重さが乗っていた。
この子はどれだけ濃い人生を送ってきたのだろうか? 凡人であると自負する朱里には想像もできなかった。 だからだろうか? 彼の事が少しだけ気になった。
「応供君の目標は何?」
「それは今? それともここに来る前の話ですか?」
「どっちも」
「……その様子だと眠くなる話の方がよさそうですね。 では、日本での話をしましょう」
応供は空を見上げる。 もうすっかり日が落ちて星が瞬いていた。
「ズヴィオーズ様の話はしましたね?」
「うん。 会って力を貰ったって」
「えぇ、お陰で物の見方がすっかり変わってしまいましたよ。 俺が感じた感動を世に広める事、それがズヴィオーズ様からお力を賜った俺にできる事だと今でも信じています。 だから、星運教を立ち上げ、目標も目的もなく苦しんでいる者達に力を与え、居場所を与えて共に行こうと声を掛けました」
応供は少しだけ嬉しそうに笑う。
「打算塗れの者も多かったですが、中には俺の理想を理解して一緒に来てくれる仲間が出来ました。 元々の俺は何の目的も目標もなく影のように生きているだけの存在で、学校のクラスでもいても居なくても変わらない地味な奴。 それが俺の正体です。 ですが、そんなどうしようもない俺にあの方は力を授けてくれたのです。 俺にとってはそれだけで充分で、一生分の幸福を頂きました。 だから、俺の全てはあの方の為だけに使おうと決めています。 それは今も変わりません」
1
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~
雪月 夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。
辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。
しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。
他作品の詳細はこちら:
『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』
【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】
『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】
『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』
【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】
【北の果てのキトゥルセン】 ~辺境の王子に転生したので、まったり暮らそうと思ったのに、どんどん国が大きくなっていく件について~
次元謄一
ファンタジー
タイトル変更しました→旧タイトル 「デッドエンドキングダム ~十五歳の魔剣使いは辺境から異世界統一を目指します~」
前世の記憶を持って生まれたオスカーは国王の落とし子だった。父の死によって十五歳で北の辺境王国の統治者になったオスカーは、炎を操る魔剣、現代日本の記憶、そしてなぜか生まれながらに持っていた【千里眼】の能力を駆使し、魔物の森や有翼人の国などを攻略していく。国内では水車を利用した温泉システム、再現可能な前世の料理、温室による農業、畜産業の発展、透視能力で地下鉱脈を探したりして文明改革を進めていく。
軍を使って周辺国を併合して、大臣たちと国内を豊かにし、夜はメイド達とムフフな毎日。
しかし、大陸中央では至る所で戦争が起こり、戦火は北までゆっくりと、確実に伸びてきていた。加えて感染するとグールになってしまう魔物も至る所で発生し……!?
雷を操るツンデレ娘魔人、氷を操るクール系女魔人、古代文明の殺戮機械人(女)など、可愛いけど危険な仲間と共に、戦乱の世を駆け抜ける!
登場人物が多いので結構サクサク進みます。気軽に読んで頂ければ幸いです。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる