7 / 26
第7話 破門
しおりを挟む
少女の体が爆散し、残骸が光の粒子となって消えていく。
荒癇はふうと小さく息を吐く。
「大した力でしたが兵器としては二流もいい所ですね。 まだ、結社の連中が繰り出してきた魔導書使いの方が手強かった」
そう呟いていたが、朱里は目の前で起こった出来事に呆然とするしかなかった。
明らかにあの少女は人間に太刀打ちできる存在ではなかったが、荒癇はそれをあっさりと殺して見せたのだ。
――人間じゃない。
朱里がそう結論付けて震えている間に荒癇は腰が抜けたのか座り込んでいるミュリエルの方へと歩き出す。
「そ、そんな……。 力神プーバー様の加護を直接受けたアポストルが――」
「さて、何か言う事があるんじゃないですか?」
「ひっ!? も、もう充分でしょう、これ以上どうしようというのですかぁ」
ミュリエルはあまりの恐怖に泣き出してしまったが、荒癇は全く表情を変ない。
「何か、言う事があるのでは?」
荒癇の威圧するような視線にミュリエルの視線はぎょろぎょろと彷徨う。
恐らくはこの状況から脱する、もしくは荒癇が何を求めているのかを必死に考えているのだろう。
やがてはっと思い至る。 彼等には知る由もなかったが、それはミュリエル達にとって大きな、大きすぎる意味を持っていた事を。
「だ、駄目。 それは、それだけは言えないのです。 それをしてしまうと私、私は……」
「何か、言う事が、あるのでは?」
究極の二択。 恐らくミュリエルの脳裏にはそんな単語が浮かんでいただろう。
ミュリエルは凄まじい葛藤を表情に刻み――やがて何かを悟ったかのように無表情になった。
「……申し訳ありませんでした」
「聞こえませんね。 もっと大きな声で」
「申し訳ありませんでした! 星と運命の女神を侮辱してしまい申し訳ありませんでした! 全て我々が間違っていました!」
やけくそ気味にそう叫ぶとミュリエルの体から光が抜けていく。
「あ、あぁ……。 は、はは、あーぁ、私、わたしはもう……」
半笑いのような表情でミュリエルは涙と鼻水を垂れ流して笑いとも嘆きとも取れる声を漏らす。
満足したのか荒癇は踵を返そうとしたがその足にミュリエルがしがみつく。
荒癇は首を傾げた。
「まだ何か? 謝罪は頂けたのでこれまでの事はお互いに水に流しましょう。 俺もこれ以上、あなたに危害を加える事は――」
「……責任……」
「はい?」
「責任を取りなさい! あなたの所為で私は力神プーバー様の加護を――」
荒癇は何を言っているんだと首を傾げたがややあって納得したようにあぁと声を漏らす。
「加護を失ったのですか? 確かに気配が消えていますね。 他の神に阿るような事を口走ったからですか? その程度の事で破門とは随分と狭量な神ですね」
「加護を失った以上、私はもうこの国に居られません。 だから、私をここから連れ出してください」
「……まぁ、この世界に付いて詳しい話も聞きたい所なので連れて行くのはやぶさかではありませんが、困った事に行く当てがありません」
「この騒ぎを聞きつけて衛兵が来ます。 一先ずここを離れて下さい」
「了解しました。 誘導はお任せします」
そう言って荒癇はミュリエルを脇に抱え、ふと何かを思い出したかのように止まると朱里の方へと振り返った。
「ところであなたはどうします? もしよろしければ一緒に行きませんか?」
「是非、お願いします!」
即答だった。 こんな所に置き去りにされたら確実に死ぬ。
なら、強い荒癇に守って貰った方が生存率は跳ね上がる。
「分かりました。 では少し失礼を」
荒癇は朱里を空いた手でしっかりと抱きしめると壁に開いた穴から飛び出した。
建物から飛び出すと見慣れない街並みが広がっており、その先には日本では見た事もない山や平原が何処までも広がっている。
「まずは何処へ行けば?」
「王都から出て北側にある山脈へ向かってください。 そこならそう簡単に見つかりません」
荒癇は分かりましたと頷くと空中を蹴って加速し、王都と呼ばれる街の空を矢のような速度で縦断した。 全身に当たる暴力的な風を感じながら朱里はこれからどうなるんだろうと不安を抱きつつ、もうこの流れに乗るしかないと諦めて考える事を止めた。
「さて、取り敢えずですが、街から離れました。 次の行動をと言いたい所ですが、俺達はこの世界に付いて知らない事が多すぎる。 えーっと、ミュリエルさんでしたか? 加護に付いてなどを詳しく教えて頂けますか?」
場所は変わって山脈内の洞窟。
荒癇が軽く見て回って安全を確認したので少しの間であるなら安全との事らしい。
僅かな時間で別人のように憔悴したミュリエルは乾いた笑みを浮かべている。
「答えますがもう少し具体的にお願いします」
「……そうですね。 ならもっと根本的な所からお聞きしましょうか。 ではこのステータスという存在に付いて詳しく」
「私も教わったただけの話なのでそれを念頭に置いて聞いてください」
ステータス。 個々人の能力を数値化し、優劣を可視化する事ができるシステム。
単純に数字が大きければ優れているのでこれ以上に分かり易い評価基準はないだろう。
「このステータスという仕組みはこの世界を創造した神々の手によって齎された物です」
この世界は五柱の神によって生まれたとされている。
その神が人に自らの可能性を切り開く道具として与えたのがステータス。
「つまりその五柱がこの仕組みを生み出したと?」
「少なくとも私はそう聞かされて育ちました」
力神プーバー。 硬神ジュー。 賢神テリジョン。
芸神ティスノー。 速神ヴィテー。
以上、五つの神がこの世界における信仰の対象となる。
そしてこのオートゥイユ王国は力神プーバーの信仰国だ。
朱里はそこまで聞いてふと気になった事があった。 信仰される神は五。
なのにこのオートゥイユ王国では力神プーバー以外の名前を聞いていない。
「あのー、この国では他の四つの神の扱いはどんな感じなのでしょうか?」
「全ての神は平等に尊ばれる存在ではありますが、信仰できる神は一柱と定められているのでオートゥイユ王国では力神プーバー様のみを信仰しております」
「理由は加護の存在ですね」
何故と聞きかけたが荒癇はそれだけで察したのか答えを口にする。
「恐らくは信仰する事により加護という名のリターンがあるのでしょう。 ですが、複数の神からは加護を受けられない。 つまり一柱からしか加護が貰えないのではないですか?」
「……はい」
「だったら他所との関係性も見えてくる。 つまりは他の四柱を信仰している国は敵国です。 違いますか?」
荒癇はふうと小さく息を吐く。
「大した力でしたが兵器としては二流もいい所ですね。 まだ、結社の連中が繰り出してきた魔導書使いの方が手強かった」
そう呟いていたが、朱里は目の前で起こった出来事に呆然とするしかなかった。
明らかにあの少女は人間に太刀打ちできる存在ではなかったが、荒癇はそれをあっさりと殺して見せたのだ。
――人間じゃない。
朱里がそう結論付けて震えている間に荒癇は腰が抜けたのか座り込んでいるミュリエルの方へと歩き出す。
「そ、そんな……。 力神プーバー様の加護を直接受けたアポストルが――」
「さて、何か言う事があるんじゃないですか?」
「ひっ!? も、もう充分でしょう、これ以上どうしようというのですかぁ」
ミュリエルはあまりの恐怖に泣き出してしまったが、荒癇は全く表情を変ない。
「何か、言う事があるのでは?」
荒癇の威圧するような視線にミュリエルの視線はぎょろぎょろと彷徨う。
恐らくはこの状況から脱する、もしくは荒癇が何を求めているのかを必死に考えているのだろう。
やがてはっと思い至る。 彼等には知る由もなかったが、それはミュリエル達にとって大きな、大きすぎる意味を持っていた事を。
「だ、駄目。 それは、それだけは言えないのです。 それをしてしまうと私、私は……」
「何か、言う事が、あるのでは?」
究極の二択。 恐らくミュリエルの脳裏にはそんな単語が浮かんでいただろう。
ミュリエルは凄まじい葛藤を表情に刻み――やがて何かを悟ったかのように無表情になった。
「……申し訳ありませんでした」
「聞こえませんね。 もっと大きな声で」
「申し訳ありませんでした! 星と運命の女神を侮辱してしまい申し訳ありませんでした! 全て我々が間違っていました!」
やけくそ気味にそう叫ぶとミュリエルの体から光が抜けていく。
「あ、あぁ……。 は、はは、あーぁ、私、わたしはもう……」
半笑いのような表情でミュリエルは涙と鼻水を垂れ流して笑いとも嘆きとも取れる声を漏らす。
満足したのか荒癇は踵を返そうとしたがその足にミュリエルがしがみつく。
荒癇は首を傾げた。
「まだ何か? 謝罪は頂けたのでこれまでの事はお互いに水に流しましょう。 俺もこれ以上、あなたに危害を加える事は――」
「……責任……」
「はい?」
「責任を取りなさい! あなたの所為で私は力神プーバー様の加護を――」
荒癇は何を言っているんだと首を傾げたがややあって納得したようにあぁと声を漏らす。
「加護を失ったのですか? 確かに気配が消えていますね。 他の神に阿るような事を口走ったからですか? その程度の事で破門とは随分と狭量な神ですね」
「加護を失った以上、私はもうこの国に居られません。 だから、私をここから連れ出してください」
「……まぁ、この世界に付いて詳しい話も聞きたい所なので連れて行くのはやぶさかではありませんが、困った事に行く当てがありません」
「この騒ぎを聞きつけて衛兵が来ます。 一先ずここを離れて下さい」
「了解しました。 誘導はお任せします」
そう言って荒癇はミュリエルを脇に抱え、ふと何かを思い出したかのように止まると朱里の方へと振り返った。
「ところであなたはどうします? もしよろしければ一緒に行きませんか?」
「是非、お願いします!」
即答だった。 こんな所に置き去りにされたら確実に死ぬ。
なら、強い荒癇に守って貰った方が生存率は跳ね上がる。
「分かりました。 では少し失礼を」
荒癇は朱里を空いた手でしっかりと抱きしめると壁に開いた穴から飛び出した。
建物から飛び出すと見慣れない街並みが広がっており、その先には日本では見た事もない山や平原が何処までも広がっている。
「まずは何処へ行けば?」
「王都から出て北側にある山脈へ向かってください。 そこならそう簡単に見つかりません」
荒癇は分かりましたと頷くと空中を蹴って加速し、王都と呼ばれる街の空を矢のような速度で縦断した。 全身に当たる暴力的な風を感じながら朱里はこれからどうなるんだろうと不安を抱きつつ、もうこの流れに乗るしかないと諦めて考える事を止めた。
「さて、取り敢えずですが、街から離れました。 次の行動をと言いたい所ですが、俺達はこの世界に付いて知らない事が多すぎる。 えーっと、ミュリエルさんでしたか? 加護に付いてなどを詳しく教えて頂けますか?」
場所は変わって山脈内の洞窟。
荒癇が軽く見て回って安全を確認したので少しの間であるなら安全との事らしい。
僅かな時間で別人のように憔悴したミュリエルは乾いた笑みを浮かべている。
「答えますがもう少し具体的にお願いします」
「……そうですね。 ならもっと根本的な所からお聞きしましょうか。 ではこのステータスという存在に付いて詳しく」
「私も教わったただけの話なのでそれを念頭に置いて聞いてください」
ステータス。 個々人の能力を数値化し、優劣を可視化する事ができるシステム。
単純に数字が大きければ優れているのでこれ以上に分かり易い評価基準はないだろう。
「このステータスという仕組みはこの世界を創造した神々の手によって齎された物です」
この世界は五柱の神によって生まれたとされている。
その神が人に自らの可能性を切り開く道具として与えたのがステータス。
「つまりその五柱がこの仕組みを生み出したと?」
「少なくとも私はそう聞かされて育ちました」
力神プーバー。 硬神ジュー。 賢神テリジョン。
芸神ティスノー。 速神ヴィテー。
以上、五つの神がこの世界における信仰の対象となる。
そしてこのオートゥイユ王国は力神プーバーの信仰国だ。
朱里はそこまで聞いてふと気になった事があった。 信仰される神は五。
なのにこのオートゥイユ王国では力神プーバー以外の名前を聞いていない。
「あのー、この国では他の四つの神の扱いはどんな感じなのでしょうか?」
「全ての神は平等に尊ばれる存在ではありますが、信仰できる神は一柱と定められているのでオートゥイユ王国では力神プーバー様のみを信仰しております」
「理由は加護の存在ですね」
何故と聞きかけたが荒癇はそれだけで察したのか答えを口にする。
「恐らくは信仰する事により加護という名のリターンがあるのでしょう。 ですが、複数の神からは加護を受けられない。 つまり一柱からしか加護が貰えないのではないですか?」
「……はい」
「だったら他所との関係性も見えてくる。 つまりは他の四柱を信仰している国は敵国です。 違いますか?」
1
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた
黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。
その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。
曖昧なのには理由があった。
『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。
どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。
※小説家になろうにも随時転載中。
レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。
それでも皆はレンが勇者だと思っていた。
突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。
はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。
ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。
王女、騎士と結婚させられイかされまくる
ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。
性描写激しめですが、甘々の溺愛です。
※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。
鑑定能力で恩を返す
KBT
ファンタジー
どこにでもいる普通のサラリーマンの蔵田悟。
彼ははある日、上司の悪態を吐きながら深酒をし、目が覚めると見知らぬ世界にいた。
そこは剣と魔法、人間、獣人、亜人、魔物が跋扈する異世界フォートルードだった。
この世界には稀に異世界から《迷い人》が転移しており、悟もその1人だった。
帰る方法もなく、途方に暮れていた悟だったが、通りすがりの商人ロンメルに命を救われる。
そして稀少な能力である鑑定能力が自身にある事がわかり、ブロディア王国の公都ハメルンの裏通りにあるロンメルの店で働かせてもらう事になった。
そして、ロンメルから店の番頭を任された悟は《サト》と名前を変え、命の恩人であるロンメルへの恩返しのため、商店を大きくしようと鑑定能力を駆使して、海千山千の商人達や荒くれ者の冒険者達を相手に日夜奮闘するのだった。
見習い動物看護師最強ビーストテイマーになる
盛平
ファンタジー
新米動物看護師の飯野あかりは、車にひかれそうになった猫を助けて死んでしまう。異世界に転生したあかりは、動物とお話ができる力を授かった。動物とお話ができる力で霊獣やドラゴンを助けてお友達になり、冒険の旅に出た。ハンサムだけど弱虫な勇者アスランと、カッコいいけどうさん臭い魔法使いグリフも仲間に加わり旅を続ける。小説家になろうさまにもあげています。
獣人の里の仕置き小屋
真木
恋愛
ある狼獣人の里には、仕置き小屋というところがある。
獣人は愛情深く、その執着ゆえに伴侶が逃げ出すとき、獣人の夫が伴侶に仕置きをするところだ。
今夜もまた一人、里から出ようとして仕置き小屋に連れられてきた少女がいた。
仕置き小屋にあるものを見て、彼女は……。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
平凡冒険者のスローライフ
上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。
平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。
果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか……
ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。
保健室の秘密...
とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。
吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。
吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。
僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。
そんな吉田さんには、ある噂があった。
「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」
それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる