上 下
382 / 386

第382話

しおりを挟む
 どんな物にも簡単にこなせてしまう天才という人種は存在する。 
 それはこのゲームでも例外ではなく、タヂカラオの認識ではラーガストなどがそれに該当すると思っていた。 Sランクプレイヤーは文字通り次元が違う。

 その為、タヂカラオには彼等の事は分からなかったが、感覚でやれてしまう者に共通する事があった。
 ムラがある事だ。 個々人によって振れ幅があるが、才能に頼っている者は何故、自分が上手くできるかを理解していないケースが多々ある。 そういった者はちょっとした事で調子を大きく崩すのだ。

 タヂカラオはその手のプレイヤーを何人も見てきた事もあって的は射ていると思っていた。
 だからこそ付け入る隙はあると思っていたが、逆に時間をかけて基礎から積んでいた者にはそれがないとは言わないが、彼等は自分が何故、それができるのかを深く理解しているので常に安定したパフォーマンスを発揮する。 彼がヨシナリを警戒し、傘下に収めたいと思った最も大きな理由だった。

 恐らくはタカミムスビも似たような事を考えているのだろう。
 こうして撃ち合えば撃ち合うだけ、あのイベント戦での敗北がまぐれではないと分かる。
 屈辱を感じているのは事実だが、それ以上にタヂカラオはヨシナリを高く評価していた。

 武器の差を理解して隙を作らない為に拳銃に切り替えた判断も上手い。
 それとリングを決して潜らない点からも慎重な性格である事が窺える。
 トガクシの唯一の武装にして推進装置「サンゼンボウ」の特性にも気が付いていると見ていい。

 手足に装着されている三つでワンセットの特殊リングだ。 それが四セット、十二個装備されている。
 超小型のジェネレーターを内蔵しており、動力の一つとして機能するだけでなく、エネルギーリングの発生装置でありながら重力制御装置でもある。 トガクシが飛行できている理由でもあった。

 三つのリングを用いる事で細かな出力調整を行えるので、見た目以上に攻撃範囲が広い。
 この攻撃の目玉はリングの内側にある。 エネルギーリングの内側には重力異常が発生しており、潜った機体は変化した重力によって飛行に悪影響を及ぼす。 何度か検証を行ったが、大抵の機体は真っ直ぐ飛べなくなるので、大きな隙を晒す事となるのだ。 

 潜らせる事に成功すれば勝ちは決まったようなものだが、ヨシナリは察しているのか上手く躱す。
 エネルギーリングは飛距離に応じて広がる仕様なので、距離を取ると自然と潜って躱すようになっているのだが近すぎず遠すぎずの距離を維持して潜らずに抜ける。

 最初は警戒していると疑っていたが、この様子だと完全に理解しているとみて間違いない。

 ――同時に自分がそろそろ詰むという事も、だ。

 タヂカラオはヨシナリの事を非常に高く評価したが、その上で勝てると確信した。
 確かにホロスコープはキマイラのプラスフレームに最高級のパーツを惜しみなくつぎ込み、性能を可能な限り向上させている。 スペックだけで見るならジェネシスフレームと戦えるレベルだろう。

 だが、それは勝負として成立するレベルであって、圧倒できる程ではない。
 これまでの攻防でホロスコープの推進力、ヨシナリの回避の癖は一通り見た。
 そしてヨシナリもタヂカラオの技量とトガクシの性能を見ているはずだ。

 ならば性能の差は歴然。 最終的には長期戦は不利と判断するはずだ。
 つまりそろそろ勝負に出る。 トガクシは腕に付いているリング――サンゼンボウにより攻守共に隙の無い機体だ。 それをどうにか突破しようとするはず。

 リングを潜らずに躱す関係で距離を取れない以上、選択肢は接近戦。
 可変して掻い潜る? それとも――リングの弱点を突くか?
 ヨシナリを料理する算段は整っている。 どちらを選択したとしてもなんの問題もない。
 
 エネルギーリングをばら撒くように連射。 同時に仕込みを行う。

 ――さぁ、餌は撒いたぞ。 喰らいつけ。

 タヂカラオはアバターの向こうで僅かに目を細める。
 ヨシナリは戦闘機形態へと変形し、直線加速とバレルロールの組み合わせでリングを躱しながら突っ込んで来た。 だが、そのやり方では全てを躱す事は不可能。
 
 ならばどうするか? 
 ヨシナリは戦闘機形態の状態で背面に積んだ大型の複合銃でエネルギー弾を発射。
 リングに当てて一部を欠けさせ、そのまま輪の中へ飛び込む。

 ――やはり気が付いていたか。

 エネルギーリングには弱点がある。 
 リング内に潜った機体の周囲に重力異常を起こさせる力場を発生させるのだが、欠けると維持できなくなるのでリングの形状を崩せば無傷ですり抜けられるのだ。

 ギリギリまで回避し、直撃するリングだけを正確に撃ち抜く技量は流石だった。
 そのまま一気に肉薄。 直線加速に限るのならキマイラ+はジェネシスフレームと同等以上の性能を発揮する。 機体が通れるギリギリの大きさを見極め、弾幕を突き抜けた。

 そのまま攻撃に入る為に変形。 
 合わせてタヂカラオはリングを回転させエネルギーによって円錐状の槍を形成し刺突を繰り出す。
 ヨシナリは紙一重で回避。 反対側の腕にも同様に槍を形成してもう一突き。

 今度は機体を横に傾けて躱しながら、推力偏向ノズルを噴かして蹴りによるカウンター。
 上手い。 回避と攻撃を同時に行っている。
 
 ――だが、想定内だ。

 ヨシナリは気付いているだろうか? トガクシのリングが減っている事に。
 左右の腕に一つずつ。 さて、それは何処に行ったのだろうか?
 答えはヨシナリの真下だ。 サンゼンボウは武装と推進装置を兼ねた武装。

 推進装置である以上、単独で自立飛行が可能。 そして遠隔で操作できる機能も内蔵している。
 つまり、攻撃ドローンとして扱う事が可能なのだ。 蹴りを繰り出した事により、回避はまず不可能。 恐らくヨシナリは気付いているが、リングの攻撃範囲から殴り合いの距離なら撃ち難いとでも思ったのだろう。 

 だが、ここでリングしか使っていなかった事が活きる。
 全体を発光させる事でリング状のエネルギー弾だが、一部のみを機能させる事で精密な射撃も可能なのだ。 これで終わり――不意にリングが撃ち抜かれて砕け散る。

 ――は??

 何故だと地上に意識を向けると一機のトルーパーが大型の狙撃銃をこちらに向けていた。
 撃ち落とした? 二基のリングだけを? 正確に?
 それにより僅かに思考に空白ができるが、タヂカラオはAランカー。

 Sを除けばこのゲームの最高峰。 立て直すのも早かった。
 ヨシナリの蹴りを迎撃する為に彼も蹴りを放ち、両者の足が交差し――
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

入れ替われるイメクラ

廣瀬純一
SF
男女の体が入れ替わるイメクラの話

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

空色のサイエンスウィッチ

コーヒー微糖派
SF
『科学の魔女は、空色の髪をなびかせて宙を舞う』 高校を卒業後、亡くなった両親の後を継いで工場長となったニ十歳の女性――空鳥 隼《そらとり じゅん》 彼女は両親との思い出が詰まった工場を守るため、単身で経営を続けてはいたものの、その運営状況は火の車。残された借金さえも返せない。 それでも持ち前の知識で独自の商品開発を進め、なんとかこの状況からの脱出を図っていた。 そんなある日、隼は自身の開発物の影響で、スーパーパワーに目覚めてしまう。 その力は、隼にさらなる可能性を見出させ、その運命さえも大きく変えていく。 持ち前の科学知識を応用することで、世に魔法を再現することをも可能とした力。 その力をもってして、隼は日々空を駆け巡り、世のため人のためのヒーロー活動を始めることにした。 そしていつしか、彼女はこう呼ばれるようになる。 魔法の杖に腰かけて、大空を鳥のように舞う【空色の魔女】と。 ※この作品の科学知識云々はフィクションです。参考にしないでください。 ※ノベルアッププラス様での連載分を後追いで公開いたします。 ※2022/10/25 完結まで投稿しました。

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた! あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。 さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。 この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。 さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

【VRMMO】イースターエッグ・オンライン【RPG】

一樹
SF
ちょっと色々あって、オンラインゲームを始めることとなった主人公。 しかし、オンラインゲームのことなんてほとんど知らない主人公は、スレ立てをしてオススメのオンラインゲームを、スレ民に聞くのだった。 ゲーム初心者の活字中毒高校生が、オンラインゲームをする話です。 以前投稿した短編 【緩募】ゲーム初心者にもオススメのオンラインゲーム教えて の連載版です。 連載するにあたり、短編は削除しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...